007 龍馬さんに月本国の水晶文明を語る
「いっておきますが、これらの材料は全て月本国産なんです。
なので、海外からの輸入が全くなくても、生産し続けることができるんです。
それと、これらは月本人にしか作れず、使えないシロモノなんですよ。
だから、世界では月本国の水晶文明と呼ばれているんですが、
僕らは、これらを使って白人達との戦争に打ち勝ち、
マルクス教の共産主義勢力に対抗したんですよ」
どれも、開が発明したものではないのだが、それでも得意げに取り出した、
弾丸、絹布、木板、電池?はキラキラと輝いていた。
「お、これは、ピストルの弾薬じゃろう、儂も高杉さんからもろうた
ピストルをもっちょるぜよ。ちゅうか、さっき見せたか、
おや、それにしては薬莢部分が付いて無いのう、
これは先に火薬を入れてから、弾を込めるミニエー弾のほうかのう、
それに、これは絹と木板かのう、それとこれは何じゃ水晶のお守りかい?」
「一つずつ説明しますね。
まずは、この弾丸ですかね。
僕たちの月本国では、火薬はほとんど使わないんですよ。
だから、この弾丸も魔力で飛ばすんです。
火薬だと、薬莢部分の発射薬の量によって、威力が決まってくるでしょう。
おそらく龍馬さんが高杉さんからもらった拳銃だと、弾丸の発射速度は
初速で250(m/秒)ぐらいだから、
射程距離も殺傷できる距離で考えると40mぐらいだと思うんです。
でも、この魔法弾は、込める魔法力によって初速が違ってくるんですよ。
標準的な拳銃タイプでも、音速340(m/秒)の3倍ぐらい、
機関銃などで音速の4倍、戦闘機の機銃なんかだと
音速の5倍なんていうのもありますよ。
それに反動もないんです。
火薬銃だと、拳銃でも45口径ぐらいになると
両手でしっかり構えないと、反動がすごいはずですけど、
これは弾丸を爆発魔法で飛ばすと同時に、
後部に反動をキャンセルする魔法が掛かっているので、
無反動で撃てるんです。
それに、見てください、弾丸がキラキラ光っているでしょう。
これは、表面に魔力水晶をコーティングしてあるからなんですけど、
この水晶のコーティングは空気抵抗を無力化すると同時に、
弾丸の硬度を上げて、貫通力も増す効力を発揮するんです。
銃身の方にも魔力水晶がコーティングされていて、
弾丸が旋回しながら飛ぶので、そうですね、
拳銃のような銃身の短い銃でも、1000m先まで真っ直ぐに飛んで、
10mmの鉄板を貫通する威力だと思いますよ」
月本国に鉄砲が伝わったのも、日元国と同じで、
1543年にポルトガル人が種子島に持ち込んだのが最初だと言われている。
そしてその後は、堺の鍛冶衆によって鉄砲がコピーされていくのだが、
魔力先進国だった月本国は、そこから鉄砲を魔改造してしまうのだ。
当時の鉄砲は、最初に銃口から火薬を入れ、次に鉛弾を入れ、
火縄に火を付けておいてから、火皿に口薬を注ぎ、火蓋を閉じて、
引き金を引くと、火挟みが倒れて、口薬に火がついて、
鉛弾を飛ばしていたのだが、これだと、雨の日は、火縄の火が消えて、
撃てなくなるし、一発撃つ度に先ほどの操作を繰り返すため、
次に撃つまでに、そうとうの時間がかったのだ。
そこで、魔力水晶に爆発魔力を込め、それを使って鉛弾丸を飛ばす、
魔力銃が創られたのだ。
もちろん当時は、人工水晶を創ることは出来なかったので、
あくまでも、天然水晶に魔力を込めて、その魔力爆発で、
鉛弾丸を飛ばすだけの魔力銃だったのだが、それでも雨の中でも撃てるし、
弾込めだけですぐに、次の弾が撃てることから、
ポルトガル人から手に入れた火薬銃よりも、数段すぐれた銃になっていた。
しかし、豊臣秀吉によって天下統一がなされ、
その後、大阪冬の陣、夏の陣で、豊臣家が滅び、
権力が徳川家康に移り、家康が幕府を開いて、戦国時代が終わると、
幕末までの250年間は、魔力銃の進歩は、ぴたりと止まり、
龍馬達の時代では、金属薬莢を備えた、火薬銃に
大きく遅れを取っていたのだ。
そんな魔力銃が、再び火薬銃を性能的に上回るのは、
陸軍少将の村田経芳が、1880(明治13)年に天然水晶を粉末化して、
銃身にコーティングし、らせん状の溝を掘らなくても
弾丸に回転が与えられるようになった「村田銃」を開発したことと、
さらに海軍技師の下瀬雅允が、1893年に安価な人工水晶を弾丸自体に
コーティングする技術を開発したことであった。
特に下瀬が開発した、弾丸への人工水晶のコーティング技術は画期的で、
それまでの弾丸は硬度を増すために、鉛をニッケルを含む銅合金で
包むなどの補強をしていたため、1発あたり、現在の価格で
400円ぐらいの費用がかかっていたものが、
下瀬弾丸の場合は、表面に水晶コーティングをするのだから、
中身はなんでもかまわないということになり、
最終的には近くの河原に落ちている石ころを、
ドングリ状に加工して使うことになったのだ。
その結果、下瀬弾丸は加工賃を含めても
1発1円で作れるようになったのだった。
さらに、火薬を使う弾丸のように、後ろにくっ付く金属薬莢や、
その中に詰める発射火薬がいらないために、火薬弾薬に比べ、
下瀬弾丸は大きさも重さも4分の1になっており、
兵士が携帯する弾丸数が、4倍になったことも大きかった。
「なんじゃと、この弾丸は石ころでできているのか、
もしかして、大砲の弾も石ころでつくれるのか」
「ええ、でも大砲の弾は、そのまま石を詰めるものだけでなく、
この小弾を千個ぐらい詰めて、空中で四散させたり、油脂を詰めて
着弾地点を火の海にする弾など、様々な種類があるので、
もう少しコストがかかりますけど」
「でも、基本的には、その辺に落ちてる石ころなんだろ」
「まあ、そうですけど・・それと、これも下瀬技師の発明なんですが、
上から砂を入れると、下から、その砂に水晶がコーティングされた
弾丸が10秒に1つ出てくる、トコロテン方式の
携帯弾丸製造器もあるんですよ。
その量産型初号機が月露戦争の奉天での会戦の時に
ギリギリで間合ったらしくて、
弾丸が尽きかけていた月本軍の窮地を救ったらしいですよ。
今では弾丸製造器も進歩して、1秒で、10発づつ弾丸が作れる装置や、
海水を凍らせて作る装置も開発されているので、
陸軍と海軍に関しては、弾丸不足はほぼ解消されていますね」
「な、石ころだけでなく、砂や海水からも弾丸が作れるのか
そりゃまっこと、兵の動かし方が変わってしまうぜよ」
河原に落ちている、石ころや砂を加工して、
人工水晶とやらを塗りつけて弾丸にしてしまうということは、
原料がほぼ無尽蔵にあるわけで、つまりはタダ同然で、
弾丸をいくらでも、作れてしまうのだ。
しかも、薬莢がいらない分、大きさも重さも4分の1にできるという。
それは、すなわち、少ない費用で、火力が4倍以上の兵力を維持できる
ということに気づいた龍馬は驚きの声を上げた。
「次は、この絹ですかね。実は、この絹布も魔力が込められているんですよ。
絹は、蚕という蛾の幼虫が、繭を作るためにはき出した糸を撚って作った
絹糸で織られた布だということはご存じだと思いますが、
この絹は、蚕のエサの桑の葉に水晶パウダーをふりかけたものを
食べさせた蚕が、はき出した糸で織られたものなんですよ。
なので当然、その絹糸には、魔力を込めることができるのです。
といっても、その絹糸で織られた絹布に込められる魔法は1枚につき
1種類だけですが・・・。(現在の月本国では、1本糸ごとに魔力が
込められるため、1枚の絹布に数種類の魔法が掛けられることを
開は知らなかった)
だから、衣類を作るときは、用途に応じて、何枚かの絹を重ねて作るんです。
例えば、戦闘服を例にとると、まず内布になる絹に温度調節魔法を込めて、
肌と布の間の空気温度を20度ぐらいに保たせるんですよ。
次に、中布になる絹には、衝撃防御魔法を込めます。
これは、至近距離での火薬銃型機関銃の衝撃にも耐えられる
性能を持った魔法です。
そして最後に外布用の絹ですが、この絹には水や熱を遮断する魔法を込めます。
この魔法も強力で、絶対零度の低温から、核爆発の百万度を超える高温にも
耐えられるんですよ。(といっても、服の隙間から熱風が入るので、一瞬で
肉体が消滅するので、魔法結界と併用しなければ意味がないのだが)
まあ、それ以外にも、形を記憶する魔法や、汚れを分解する魔法を込めた絹も
数枚重ねますが、最低限この3枚の絹布を重ねて作られるんです。
さらにこの戦闘服の下に、汗や皮膚垢などの老廃物や加齢臭などを
分解する魔法を込めた下着や靴下を着け、
外套にレーダーなどの探査波を上手にいなす魔法と、見た目も
周囲に溶け込む迷彩魔法を込めた物を着るようにするんです」
「うーん、絶対零度とか、核爆発とか言われてもようわからんが、
切られても、撃たれても大丈夫な着物やっちゅうことはわかったわ
ということは、こっちの木板も魔法を込められるのか」
「ええ、これも優れものなんですよ。
丸太を丸ごと蒸しながら、柿の皮をむくように丸太の皮をむいて、
その木の皮を平らにしてから、強度を増すために、木の繊維方向を
ずらしながら重ねて合板にしているんです。
そして、貼り合わせる時に使う松ヤニなどの接着剤に、
水晶の粉末を混ぜてあるんです。
後は、さっきの絹と同様に、その粉末水晶に、腐敗防止魔法や、
強化魔法、防炎魔法などを掛けてあるんですよ。
なのでこの合板、重さは鉄の10分の1なのに、
強度は鉄の10倍もあるんです。
さらに最近では研究が進み、木材のハニカム構造の細胞部分を
補強するように人工水晶をコーティングする技術が開発され、
鉄の50倍の強度を持つ、超木材や、鉄の100倍の強度を持つ、
神木材と呼ばれる木材も開発されているんです」
「鉄の100倍ってすごいな、じゃあこれで船や飛行機とやらも作るのか」
「ええ、まあ船はそうですが、飛行機なんかは、骨組みをこの合板で作って
先ほどの、絹布を張る場合もありますよ」
「たしかに、この魔法木材で作った船に魔法大砲を備え付ければ、
黒船にも対抗できる戦船ができるっちゅう訳か、しかし動力はどうするんじゃ
やつらは、蒸気機関という、石炭を燃やして、水を蒸気にして
それでシリンダーを動かす、風や人力に頼らない動力装置をもっちょるぞ」
「それに対抗するためのに開発されたのが水晶モーター(動力機)です。
その水晶モーターの核になる部品がこの魔力電池なんです」と、
開は先ほど龍馬が、水晶のお守りかと問うた品を持ち上げた。
それは、直径10mm、高さ50mmで、小指ほどの
六角錐の水晶結晶の六辺を、細い木切れで
補強してあり、補強された6隅の木片には、模様のように
米粒ほどの水晶が10個付いているのだ。
「これは、名前のとおり魔力を貯めておける道具で、
このサイズで、10万MPの魔力を貯められるんです。
さっきの魔力銃で考えると、1発撃つのに10MP必要ですから
この魔力電池1つで、1万発撃てる計算になります。
これは、小型の単3型で、200MPの単2型、1000MPの単1型などがあって
それで、動力源の話ですが、簡単に言うと、この魔力電池には
プラス極とマイナス極があって同じ極同士を近づけると反発し、
違う極同士なら引きつけ合う性質があるんですよ」
「男同士や女同士なら反発するが、男女なら
くっ付くっちゅうということか」
「ええ、そうです。だからイメージとしては、そうですね、
子供達が遊ぶ、コマ回しを思い浮かべてもらえばいいんですが、
あのコマに、この魔力電池を、プラス、マイナスを交互にして並べ、
その外側の周りにも同じように魔力電池を並べると、反発と引き寄せを
繰り返して、クルクルとコマが回るんです、その回転軸から
動力を得る、これが、水晶モーターの原理なんです」
「なるほどのう、いや、たいしたもんじゃ月本人は、
しかし、これほどの技術、なぜ白人達はマネせんかったんじゃ」
「実は、人工水晶を作りだす原理も、合板を作る方法も、
モーターの原理(欧米は電気モーターなので少し違う)も、
白人たちによって発明、発見されたんです。
なので、マネをしたのは、月本人の方なんです、そういった意味で、
負い目はありますけど、ただ、水晶に魔力を込める方法は、
聖徳太子の頃に発見されていましたし、それを人工水晶に応用し、
さらに高品質の人工水晶と高濃度の魔力を込められる
方法を開発したのは、月本人なんです」
「ふん、日元国は元々、ムー大陸が沈んだ時に、ムーの子孫が
大挙して渡って来たのが文明の始まりじゃ、{ホツマツタヱ}が
書かれた、1万年ぐらい前の頃には似たような文明を持ちょったから、
そう落ち込むこともあるまい」
「え、そうなんですか」天照さまの呟きに開が驚く
「ところで、白人達の方は、なぜ水晶技術を発展させなかったんじゃ、
火薬銃より、魔力銃の方が便利じゃろうに」今度は龍馬が疑問の声を上げる
「それが、水晶に魔力を込められる人間がほとんどいなかったそうですよ。
中世ぐらいまでは、まだ何人かいたらしいいんですが、
魔女狩りと称して、その人達を火あぶりの刑で殺してしまい
魔力自体、インチキだとされているそうです。
なので、100人に1人ぐらいは、(ほとんどがレベル1クラスの魔力で、
月本人の平均レベル3の魔力持ちは百万人に1人程)
魔力を持っている人がいるらしいのですが、誰も名乗り出ないのだそうです。
僕らの世界で100人に1人ですから、こちらの世界だと、
ほとんど0に近い人数でしょうね。日元国ですら数十人ですから」
「なるほど、それで月本国でしかつくれないのか。
なあ、開君、もし良ければじゃが、この技術を日元国にも
伝えてもらえんだろうか」
「ええと、それは、天照さまの許可が必要なのが大前提ですが、
それ以外にも、二つの問題があるんです」
「妾はかまわんよ、このままでは日元国が滅ぶのは、妾自身が
見てきた事じゃ、それを阻止するには、ヨミヨミのいう魔法の力を
取り入れるのは、やぶさかではないわ、少し悔しいがな。
開が心配しておるのは、魔力を使える者の人数が少ない事じゃろう、
妾の創った神仕組みの一つとして、魔力保持者は、危機の時代に
数十名しか、生まれて来ぬようにしてあるからのう。
いっその事、ヨミヨミの国を参考に、これから生まれる、日元人は
全員、魔力保持者にするかのう」
「それは、やめてください!」突然、開が大きな声で
否定したので、驚いた、天照と龍馬は、動きを止めた。