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カイと偉人と日元国  作者: ベガ爺
第一章 幕末編
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006 船中九策

天照さまの「滅んだよ」という言葉を聞いた龍馬さんは、

うどんをすすろうとしたまま、しばらく固まってしまった。


「滅んだ?日元国が滅んだっちゅうがか?」


「いえ、僕が聞いた話では、伊勢市に巨大な爆弾が落ちただけで

まだ滅んだとは確定は・・」


「ふん、天皇家は廃止させられて、日元神道の聖地の一つである伊勢内宮、

外宮が消滅したのじゃぞ、日元国は滅んだも同然じゃよ」

天照さまの投げやりな答えに、龍馬さんは静かにつぶやきはじめた。


「そうか・・、滅んでしまったのか・・。

吉田松陰先生、高杉晋作、武市半平太、

その他多くの無名の志士たちが、幕府を倒し、

新しい日元国を創るために命を散らしたのは、

己の名声や私利私欲のためではない。


白人の有色人種への植民地支配を終わらせ、

肌の色に関係なく、それぞれの国が、共に発展して、

その国に住む国民たちも、幸せにしていきたい。

そのためにはまず、自らの住むこの日元の国を列強諸国から護り、

有色人種でも、白人国と対等に物言える国にしていきたい。


それには、身分制度を取っ払って、郷士や百姓でも、

その能力に応じて自由に働ける社会にせにゃならん。

みんな、そういう思で、行動してきたんじゃ、

ようやく新政府が出来るというのに、

そうか、日元国は滅んでしまうがか・・

いったい、儂らはなんのために・・」

龍馬の目から、涙が流れ落ちていく。


その様子を見て、もらい泣きをした開は、麻衣ちゃんの魂の救出の

ついでに、歴史を少し、変えるために動くのでは無く、

精一杯の事をしようと決意するのだった。


「龍馬さん、あきらめたら、そこで試合終了ですよ。(by安西先生)」


「お、おう」二人が固く手を握る姿を見て、


「これは、日元国の逆転劇が見られそうじゃのう楽しみじゃ」と

金髪の女子高生姿の天照さまが、微笑んだ。


「それで、開君は、日元国が滅んだ原因は何だと思う」開に勇気づけられた

龍馬は開を同志として認めたのか、年下なのに君づけで呼ぶようになった。


「うーんこれは、あくまでも僕の意見なんですけど、

日元国の滅亡の根本的な理由は、二つあると思うんです。


一つは、日元神道のみ正しく、それ以外の宗教は邪神だという、

狭い信仰心に陥った事。


もう一つは、マルクスという元ライン新聞の記者が書いた、

{貧しい労働者は団結して革命を起こし、豊かな資本家から

富みを奪い返して、労働者独裁の国家を作って、

私有財産を共有化したときに、ユートピア社会が生まれる}という、

共産主義宣言を信奉する、{マルクス教}の信者が

日元国中にかなり増えちゃった事だと思うんです。


つまり、天照大神さまを主宰神として八百万の神様が集まる、

懐の広い{日元神道}を信じる信仰国家から、

他の神々を認めない、狭い日元神道へ、そして最後は

個々の人間は、国家のイデオロギーを成すための道具にしか

過ぎないという{マルクス教}を信じる唯物論国家になって

しまったからだと思うんです」


「お、おう、それで、その一つ目の狭い信仰とは、どういうこっちゃ」


「ええとですね、龍馬さんたちは、幕藩体制を潰して、

天皇を中心とする王政復興政策を推し進めましたよね」


「お、おう、まあ、欧米に習って、中央集権国家にするため、

天照大神の末裔となる天皇を再び中心に置き、その元で、

議会を開いてまつりごとをするような国体にしたくてのう、

いろいろ調べたんじゃが、

結局、女王の基に首相が国の運営を担っている、英国の国体が

一番よさそうなんで、それを参考にした国体案を西郷どんに

提案してきた所なんじゃが、それがいかんかったのかのう?」


「いえ、それ自体は問題ないんですが、天照さまへの信仰を強化するため、

天皇を現人神あらびとがみとして崇め、その一方で、聖徳太子以降

推し進められてきた、神道と仏教の融合政策をやめて、

廃仏毀釈はいぶつきしゃく政策をとって、仏教など、他の宗教を

弾圧しちゃったでしょう、それがいけなかったんじゃないかと思うんです。


月本神道じゃなくて、こちらでは日元神道ですか、この宗教の良さは、

本地垂迹説にあったと思うんですよ」


本地垂迹説とは、平安時代に自然に出てきた思想で、簡単に言うなら、

宇宙に創造神がいるのなら、世界の各地に出ている宗教も、

その流れを引いているはず、だから、阿弥陀如来も天照大神も、

名前が違うだけで、みんな同じ根本神の使いであり、

元を正せば、一緒なのだという理論で、これによって月本国や日元国は、

1000年前にはすでに、ヨーロッパで繰り広げられたような

宗教戦争が無くなったのだ。


「僕の住む月本国では、さらにその本地垂迹説が進化して、

月読命の上におられる天御祖神あめのみおやがみや、

キリスト教のいう主なる神、イスラム教のアッラー、

ユダヤ教のエローヒム、孔子でいう天帝てんていが、

本来は一つの創造神だというふうに理解されて、

その理論を基に世界の宗教は、共存するようになっているんです。


人間、誰でも、自分の信じている神を否定されたら怒りますよ。


{俺の信じている神のみ正しくて、おまえの信じている神は邪神じゃ、

だから、その信仰を捨てて、俺の信じている神に帰依しろ}

なんて言われたら、戦争になるでしょう」


「確かにいくさになりそうじゃのう」


「でも、{おまえが信じている神様の親神様も、

俺の信じている神様の親神様も実は同一の創造神なんだよ、

だから仲良くやろうよ}って言ったらどうですか、

なんとか、まるく収まるでしょう」


「なるほど、そう言われればそうじゃな。

しかし、開君の世界はええのう、

白人たちの支配していた植民地が世界中から、全て無くなった上に、

互いの宗教も認め合っとるのか、たいしたもんぜよ」


「まあ、そこまでいくのには、多くの月本人が、

龍馬さんたちと同じように、

命をかけて行動してくれたおかげなんですけどね」


開は以前、海に話したように、明治維新から、月清戦争、月露戦争、

そしてアジア・アフリカの植民地解放を目指して、太平洋、大西洋、

インド洋で、白人連合国と月本国の戦いが繰り広げられ、

多くの命が失われた事を話した。


「なるほど、狭い信仰心というのは、なんとなく解ったが、

もう一つの{マルクス教}っていうのはなんじゃい、

なんでそんなもんが、人々の関心を生むんじゃ?」


「一言で言えば、嫉妬心を正当化できる教えだからですよ。

{君たち労働者が貧しいのは、君たちのせいじゃない、君たちがもらうはずの

お金を資本家たちが、ピンはねしているからだ。


だから、暴力を使ってでも、資本家たちを倒して財産を没収し、

政府が一元管理すれば、みんな平等になるよ}って言えば、

自分達の責任を他人に、なすりつけられるじゃないですか

その教えを元に、ロシアで共産主義革命が起ったんですけど、

実際は、労働者は貧しいままで、新しく出来た共産党政府の

幹部が、独裁的に富みと権力を握っただけなんですけどね。

そこの独裁者になったスターリンが、世界中を共産主義国家にしようと、

工作員を米国や英国、そして日元国にも大量に送り出したんです。


彼らは、米国では、大統領の側近に入り込み、

日元国でも総理大臣の有力情報提供者になって、

日元国と米国や英国など、資本主義国家同士を、戦わせて

国力を疲弊させ、世界を丸ごと共産主義国家にしようとしたんです。


実際に支那では、蒋介石が率いる国民党が疲弊して、毛沢東の共産党が

漁夫の利を得て社会主義国家が誕生しています」と、ほとんど

海が勾玉の中で話す内容を同時通訳のように伝えた。


「なんと、工作員を使って資本主義国家同士を戦わせたのか、

おお、二虎競食の計じゃな、やるなスターリン。たいしたもんじゃぜ」


「いやいや、感心している場合じゃないですよ。そのおかげで、

日元国は、アメリカやイギリスと戦うことになり、最終的には、

中国共産党の属国になってしまったんですからね」


「すまんすまんしかし、天皇を中心とした、王政復興が行きすぎて、

廃仏毀釈政策を取ったのが原因で信仰心が狭くなると同時に

新たに出てきた{マルクス教}の策にまんまとはまり、米英と戦い、

戦に負けて、無神論国家になった所で、共産国に占領されて滅ぶとは、

ちと、考えが浅かったのう。げにまっこと、世の中は複雑じゃのう。

ところで、天照大神様は、どう思われとりますか」龍馬の問いに

ぜんざいをたらふく食べて、満足したのか、

座椅子にもたれかかって、うつらうつらしていた天照さまは


「そうじゃのう、天皇を日元国の中心に戻し、その基で、総理大臣が

政を行う制度は、よかったと思うとるがのう、廃仏毀釈政策はちと

行きすぎじゃったかのう。

開はヨミヨミからも聞いているかも知れんが、仏陀さまもイエスさまも、

妾が通っていた主宰神養成学校の先輩なんじゃよ、

しかも仏陀さまもイエスさまも、なかなかのイケメンでのう

妾もヨミヨミも、密かに憧れとったのよ。

だから、インドから隋に仏陀さまの教えが伝わってきたと聞いて

すぐに、聖徳太子に啓示を降ろし、遣隋使を派遣させて、

日元国にも仏教を導入させたのじゃよ」


「そうだったんですか、はじめて聞きましたよ、

(イケメンだから憧れてたって、アイドルの追っかけかよ・・)

でもキリスト教の方はあまり日元国に入って来なかったみたいですね、

それに島原ではクリスチャンの弾圧もありましたけど」


「それは、イエスさまの教えが曲がってしまったからじゃよ」


「教えが曲がる?」


「ああ、そうじゃよ、悲しいことにイエスさまの教えは

正しく伝わらなかったんじゃ、元々、イエスさまは、

{隣人を愛せよ}と教えていたはずじゃ、そして自らの立場も、

主なる神を父とするなら、自分は神の子であると説いていたはずじゃ、

その言葉は、妾が説いている、{人間は、みな神の子である}という

教えとまったく一緒じゃったはずじゃ。


だから、その教えのままなら、イエスさまのキリスト教も

日元神道ともうまくやっていけるはずじゃったのじゃ。


しかし、ペテロが教会制度を立ち上げ、

その制度を維持強化するために、ペテロの仲間たちが、

イエスの霊的な教えに忠実だったマグダラのマリアさん達を排除し、

一般人には読めない、ラテン語で書かれた聖書をつくり、

イエスさまの教えを、教会に都合のいいように解説し、

その聖書を解説できる神父や、神父が所属する、この世的な

教会の方を、より敬うようにしていったのじゃよ。


そうして、この世的な権力を得た、その後の教会の神父たちの教えでは、

{白人以外の有色人種は、人間ではなくゴリラやサルの仲間だから、

その土地から駆逐するか、捕まえて、奴隷として拉致しても、

特に問題はない}とされたんじゃ、

そのため南米のインカ文明は滅ぼされ、アフリカやアジアも

どんどん植民地にされ、原住民は奴隷にされていったのじゃ。


もう一度いうが、イエスさまは、そんな教えは説いとらんぞ、

当時の教会が、当時の権力者と癒着して、出した見解じゃよ。


15世紀になって、航海術が発達してからは、日元国にも、

宣教師と奴隷商人がグルになって、やって来おっての、

多くの日元国の信者が奴隷として拉致されていったんじゃよ。


秀吉や、家康はその辺の情報を掴んでおったのでのう、

中には、純粋なクリスチャンもいただろうが、

大きな目で見れば、あの時のキリスト教を追い出したのは、

しかたなかったと思うておるよ」


「そうだったんですか、神様の教えを曲げずに伝えるって、

難しいことなんですね・・って、龍馬さん何やってるんですか」

龍馬は懐から携帯版の筆と硯と巻紙を取り出していた。


「いや、開君との会話で、150年後の日元国の滅亡の原因を

掴めたんでのう、早速、この前(後藤)象二郎に渡した、

船中八策に一策加えて、船中九策にしようと思うたんじゃ」

船中八策とは、新政府のために龍馬がしたためた方策で、

後藤象二郎から、新政府に示され、後に五箇条の御誓文として

明治政府の基本方針になった文である。


開は、その後、もう少し詳しく、日元国が共産党の工作員の暗躍で、

米国や支那の国民党と戦争になり、どういう戦いをして

どんな感じで負けたのかを龍馬に話した。

(ほとんど勾玉から聞こえる海の言葉を伝えただけだが)


それも参考にしたのか、龍馬は、筆を使ってサラサラと

{世界の宗教の、親神は、全て同一神なり、よって日元国民は

その同一神を信仰する全ての人々に兄弟姉妹のように接すること}と

書き記した。

「同一の親神を信じている人々のみに親切にするんですか」


「ああ、さっきの話じゃ、日元国を滅亡させた中華人民共和国とやらは、

孔子のいう天帝を信じていない、{マルクス教}の無神論国家なんじゃろ

そんな国にまで親切にしておったら、150年を待たずして

滅びるじゃろうからな」と言ってニヤリと笑った。


(さすが、龍馬さんだな、物事の本質をすぐに掴んでしまうんだから)


「それからのう、日元国が、燃える水の石油とやらや、その他の資源を

求めて、南方に手を出したのは、ある程度理解出来るんじゃ、

戦には、金も物資もえろうぎょうさん、かかるからのう。

儂が理解できんのは、月本国の方ぜよ、それだけの軍艦や飛行機とかいう、

空飛ぶ乗り物を揃えるとなると、ぎょうさん金がいったじゃろうに。


いったい、どこから、そんな、お金を回しちょったんじゃ、

儂が勝(海舟)先生の基で神戸海軍塾の塾頭をしちょるときも、

運営資金で頭を痛めたもんじゃぜ、あの時は、(松平)春嶽公が

5千両ほど貸してくれたからなんとかなったが、3大海で戦をするなら

その比じゃないだろうに、げにまっこと不思議ぜよ」


(うあ、龍馬さんするどすぎる)この時代英雄豪傑は沢山いるが、

お金を回すことで、経済が活性化し、国力が上がって行くことを

理解している人は少なかった。


「ええ、月本国は、植民地も持たずに(月清戦争、月露戦争の勝利で、

台湾や遼東半島、樺太の南半分を割譲されたが、インフラを整備し、

20年後には、台湾国、満州国、東ユダヤ国として独立させている)

自前で、兵器を揃えて、ユダヤ系以外の白人連合国と、大海戦を行いました。


それには、龍馬さんがおっしゃるように、莫大な費用がかかったと思います。

で、それを可能にしてくれたのが、コレとコレとコレとコレです」と

開は、じいちゃんに用意してもらった、魔力水晶銃の弾丸と魔力絹、

それに魔力木板と魔力電池を取り出した。


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