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カイと偉人と日元国  作者: ベガ爺
第一章 幕末編
51/55

052 遼陽・沙河そして奉天会戦へ

「太平洋艦隊と、ウラジオ艦隊が壊滅したそうです。

こちらにも日元軍が攻めてくるかも知れませんぞ、備えは大丈夫ですかな閣下」

遼陽に要塞を築こうとしている、クロパトキン総司令に、

ペテルブルグの宮廷から姑役として派遣されている

アレクセフ極東総監が質問してくる。


クロパトキンは苦々しく思ながらも、顔には出さずに

「それほど心配為されなくとも大丈夫ですよ、総監殿。

この地の要塞化を進めてもらっているアレクサンドロフ少将からは、

日元人がどれほど勇猛でも100日は持つと報告が上がっておりますし、

私も昨日、視察してきましたが、15カ所の砲台群はすでに、

400門もの砲が設置されておりました。

それでも心配でしたら、ペテルブルグまで一度お戻りになり、

援軍を手配されてきてはいかがですかな」


クロパトキンは、イヤミを交えて、アレクセフ総督に説明した。


実際、クロパトキンの下には、21万もの大野戦軍が、シベリア鉄道を通じて、

派遣されていたのだ。

それ対して、報告に上がってくる、旅順に上陸した日元軍は

10万人程{本当は8万人程}、要塞さえ完成すれば、負ける要素はなかった。


クロパトキンがそう言いながら、給仕が出して来た、ティーを飲んでいると、

連絡将兵が駆け込んできた。


「た、大変です。前線基地の鞍山站あんざんたんが日元軍の猛攻を

受けているもようです。援軍要請がひっきりなしに届いています」


「なんだと、サル共は5日前に旅順に上陸したと聞いているが、

もう鞍山站まで来たのか、旅順から鞍山まで、200kmはあるんだぞ、

空でも飛んで来たとでもいうのか」


クロパトキンが驚くのも無理はなかった。

前世では日元軍が鞍山に到達するのは、泥濘のなかを人力で砲車や弾薬車を

引きながら北上したために3ヶ月以上かかっているのだ。


「いえ、空ではなく、陸を走る船のようなモノに乗ってきているとの報告です」


「陸を走る船だと・・」



***



「どうだった」小部隊をいくつか偵察に出していた秋山好古の所に

後藤秀四郎中尉が戻って来た。


「やはり隊長の言うとおり、主陣地はここ{鞍山站}ではなく、首山でした。

ただ、これも隊長の予想通り、要塞化は、まだ半分もできていませんでした。

叩くのなら、今かと・・」


「よし、本隊{奥軍}の許可が取れ次第、すぐに出発じゃ」


前世と違い、魔力無線機で、すぐに連絡が取れ、秋山支隊の魔力竹船車600隻は

最高速{50km}に近い速度で、敵の主陣地、首山へ向かったのだった。


前世の観光用水陸両用バスに似た、魔力竹船車2万隻は1隻も欠けること無く

5日前に旅順に上陸し{といっても、旅順に上陸したのは、秋山支隊のみで、

奥軍は大連、乃木軍は塩大澳、黒木軍は大孤山等、分散して上陸している}

1日50kmのペースで北上してきたのだ。


「砲撃開始」


ドガン、ドガン、ドガン、ドガン、

首山を半円状に囲んだ秋山支隊の竹船車の2階から、一斉に魔力砲が放たれる。

180度違う場合はともかく、多少の誤差に関係なく、砲撃手がロックオンした標的に

ほぼ、100%の確率で命中していくのだ。


「な、早すぎる、サル共は先ほどまで、鞍山站を攻撃していたのではないのか、

なぜ、ここが砲撃されてるんだ。これでは、援軍が来るまでもたんぞ」

ロシアの首山の司令部は日元軍からの砲撃にパニックに陥っていた。


ベトンで固めた、要塞が完成していれば、少しは耐えられたかもしれないが、

半分もできていない首山の陣地では、とても耐えられるものではなく、

攻撃開始後、早々に命令系統が破壊され、20分もすると、

敵陣地からの組織的反撃は、ほとんど無くなったのだった。


「よし突撃じゃ」


続いて、歩兵の突撃である。

歩兵といっても、前世のように三十年式歩兵銃を掲げて走るのでは無く、

魔法将棋を基に組まれた11人の小隊単位で、

2つのバケツを逆さまにしたような魔力竹馬靴を履いて、

流線型の兜を被り、バズーカ砲のような魔力砲から、

魔法弾を打ち込みながら突撃するのだ。


凄い迫力で以前、訓練風景を見させてもらった開には、前の世界で見た

宇宙世紀もののアニメにしか見えなかった。


ものすごいスピードで、敵陣地に殺到した日元兵は、半日足らずで、

ロシア軍前線の主陣地である首山を占領したのだった。


勢いに乗る、日元軍は、翌日には、奥大将の第2軍だけで無く、

黒木大将の第1軍、野津大将の第4軍、そして乃木大将の第3軍

{前世と違い旅順攻略が無いため、乃木軍も参加している}が

そろって、遼陽に砲撃を開始、その後、好古の支隊の10倍の規模で、

一斉突撃が行われ、わずか3日で、クロパトキン率いる、

21万ものロシア陸軍を敗走させたのだった。


機甲師団化した、日元軍が大活躍している後方で、

開はひたすら、砲弾づくりにはげんでいた。


「開殿、食事を持って来ました」

給仕係の若い兵が、おにぎりを持ってきてくれた。


「うう、ありがとう。でもついに、おにぎりまで、砲弾に見えて来たよ・・」

2万隻の魔力竹船車には、2門ずつの魔力砲があり、

この3日間で、1門平均200発、合計160万発もの砲弾を使ったのだ。

兵士が担いでいる、バズーカのような、肩掛式の魔力砲や小銃の弾は、

各小隊で造ってもらっていたが、大型の魔力砲の弾は、魔力が足らず、

開が造り続けていたのだ。


作り方はいたって簡単で、ハワイで作っていた溶岩パイプを参考に、

その辺の岩石を工兵隊に集めてもらい、それを砲弾の型枠で

魔法でプレスしていくのだが、この型枠を魔力でプレスするときの、

魔力量が途方も無く大きく、普通の魔法使い

{明治元年生まれから全ての日元国は魔力保持者になっていた}では、

2~3回のプレスで魔力切れを起こしてしまうのだ。


そのため、今は砲弾のプレスは全て開が引き受け、

工兵たちはもっぱら、岩石集めに従事してもらっていたのだった。


(しかし、砲弾の数に関しては、盲点だったよな)


(うん、今調べてみたんだが、前世でも苦労していたみたいだな)


勾玉内の父親たちが冷静に議論していた。


(うう、そんな冷静に議論せずに手伝えよ)


(いや、だって俺、肉体ないし無理だね、頑張ってね)


(うぐぐ)次の麻衣ちゃんを見つけたときも、絶対に肉体を貸さないと

密かに誓う開だった。


前世では、幕末の戦争を参考に1砲門あたり、1ヶ月で50発ほどの

消費予想を立てていたのだそうだが、それは、近代戦では、1日で

消費する量だったのだ。

そのため、前世でも砲弾不足に陥り、遼陽から、沙河の会戦まで1ヶ月、

奉天会戦までは、4ヶ月間も砲弾の補充に費やしていたのだ。


「開くん、砲弾できたかい?黒木軍の分を取りに来たぜ」

70歳には見えない、竜馬さんが、輸送用の魔力竹船車を引き連れてやってきた。


「第一軍の分というか、全体分で今できてるのは、そちらにある10万発だけですよ。

というより、竜馬さんも手伝ってくださいよ・・・」


「いやいや、ワシにはこういうのは無理じゃきん、開くん頼むよ」

龍馬さんがしゃべっている間も、一緒に来た、輸送隊の兵たちが、

開がプレスした500mlペットボトルのような砲弾、

20発入りの箱をドンドン積み込んでいた。


「砲弾があれば、敵陣を徹底的に破壊してから突撃できるきに、

こちらの被害が少なくなるんじゃ、頼む」

{前世の遼陽会戦では、戦死者5557名、負傷者17976名を出していたが、

今世は、戦死者412名、負傷者1219名と10分の1に減っていた}


「はあ、わかりましたよ」


開はその後、魔力切れでぶっ倒れるまで、毎日20万発もの

砲弾を作り、前戦に送り続けたのだった。


その結果、1週間後の沙河の会戦や2週間後の黒溝台の戦いでも

開がひたすら砲弾を作り続けた結果、十分な砲弾が供給され、

日元軍の戦死者はそれぞれ、4099人が409人{沙河の会戦}

9300人が890人{黒溝台の戦い}に減り、3週間後に起こった、

日露戦争の陸軍での天王山であった奉天の会戦でも、前世では

16000人の戦死者が今世は1500人へと、

ほぼ10分の1に減らすことになったのだった。


また、奉天の会戦では、増援部隊が到着し、32万人に膨れあがっていた、

ロシア軍だったが、無尽蔵のように降り注ぐ砲撃で、戦死者10万人、

捕虜5万人という大打撃を受け、クロパトキンは罷免されるのだった。


この、32万人中、15万人を失う敗戦は、帝政ロシアに深い打撃を与え、

重税に耐えかねた民衆が首都サンクトペテルブルグで10万人に及ぶ

労働者の抗議行進に発展し、ロシア政府が民衆に発砲。


前世と同様に4000人もの死者を出し、血の日曜日事件

{前世より10ヶ月ほどズレているが}と呼ばれ、

やがてロシア革命に繫がっていくことになるのだった。


また、人種差別撤廃のために、いずれは差別的白人国家全てと戦わなくては

ならないかも知れないという情報を持つ、日元国政府も、

前世のように奉天会戦の勝利に浮かれること無く、

淡々と金子堅太郎に旧友のアメリカ大統領ルーズベルトを通して

ロシアとの講和の取り次ぎに動き出していたのだった。


(ふう、砲弾の数を読み違えて、1日目で弾が無くなった時は、

冷や汗が流れたが、開殿のおかげで、何とか弾が供給され、

勝利することができたぞ。

これで、陸の防御はなんとかなるだろう。

後は、海だな、バルチック艦隊が迫ってるんじゃろう・・)


「真之よ、海はまかせたぞ」

好古は小さく呟くと、クロパトキンが残していったウォッカを飲み干すのだった。


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