051 日露戦争勃発
おそくなりました。本年もよろしくお願いします。
前世と同様に明治37年(1904)2月10日に日露交渉を打ち切られ、
事実上の宣戦布告が発せられると、仁川港にいた、三等巡洋艦千代田の村上艦長の
もとに、事実上ロシアが租借している仁川港からの追放警告書が届けられた。
「艦長・・」
「分かっている。京城からの大使館員の収容はまだか」
「最後まで残っていた民間人の収容に手間取りまして、大使館員の収容には、
まだ1時間程かかります」
「分かった。彼らを収容しだいすぐに出航すると、ロシアには伝えよ」
1時間後、京城に滞在していた最後の民間人と大使館員を乗せた千代田が
仁川港を出航していく。
その後ろには、千代田を追い立てるように、ロシアの二等巡洋艦ワリャーグ(6500t)と
砲艦コレーツ(1213t)が続く。
わずか2450tの千代田と、二等巡洋艦ワリャーグ(6500t)では
大人と子供のような感じだった。
「しかけてきますかね」
「ああ、おそらくな」
「仁川港、抜けます。右、右舷に艦影多数、接近中!」
監視員が悲鳴に近い、報告をしてくる。
「・・・一昨日から行方をくらませていた、ロシアの太平洋艦隊ですな」
そこには、行方をくらませていた、スタルク司令官の乗る、
旗艦レトウィザン、マカロフ中将が乗る、戦艦ペトロパウロースク(10960t)
ロシア最新最大の戦艦ツェザレウィッチ(12912t)などロシア太平洋艦隊が
ずらりと並び、待ち伏せをしていたのだった。
ドガン、ドガン、ドガン、ドガン
7隻の戦艦、11隻の巡洋艦、27隻の駆逐艦から一斉射撃が始まった。
{実際には、戦艦と巡洋艦のみの発砲}
千代田の回りには、轟音と共に、無数の砲弾が降り注ぎ、
水柱がいたるところに上がって、全く回りが見えなくなっていった。
「全速離脱!」
千代田の村上艦長は、そんな状況でも動じることなく命令を出す。
すさまじい砲撃が数分続いた後、
「撃ち方止め」の命令で、
たった一隻の千代田に数十発もの砲弾を撃ち込んだロシア艦隊は、
成果確認のためか、砲撃を止めた。
「轟沈して何も残ってないだろう」
スタルク司令官たちが、水柱の止まった海域を双眼鏡で確認する。
しかし彼らの予想に反し、千代田は無傷で存在しており、
しかも信じられない速度で逃げるのではなく、
ロシア艦隊の前方を突っ切るように進んでいたのだ。
「何だと!当たらなかったのか?それにしてもなんだ、あの速度は」
千代田も、日清戦争後に蒸気機関から、魔力エンジンに大改修され、
12センチ速射砲は12センチ速射魔力砲に、92ミリの側面の装甲は、
魔力防御布に変更されて、排水量は変わらなかったが、
最高速力は25ノットに上がっていたのだ。
(魔力砲をなめるなよ)
「目標、先頭の戦艦、一斉射撃で3連射後、反転離脱!」
「了解、ヨーソロー、撃」
ドガン、ドガン、ドガン
10門ある12センチ速射魔力砲から一斉に放たれた砲弾は、
波の揺れに関係なく{魔力によって修正される}、
射撃手が定めた目標に正確にぶち当たる。
たった、6門{右舷側4門、前後2門}とは言え、その6門からの3連射、18弾が、
先頭を走る、戦艦ツェザレウィッチのしかも船首に集中したのだ。
「バカな、初弾から全て当てるのか・・・」
レーダーなど無い時代に初弾から当てるなど、よっぽどの
マグレ当たりでしかありえなかった。
それが、18弾とも当たったのだ。
その様子を見ていたロシアの指揮官たちは、絶句していた。
いくら最新鋭の防御を誇るツェザレウィッチでも、18発もの12センチ砲弾には
耐えられなかったようで、いくつかの大穴が開くと、そこから大量に海水が流れ込み、
つんのめるように艦首から沈み始めたのだ。
「に、逃がすな!」
そのまま、反転して逃げる千代田に、40艦以上から砲弾が撃ち込まれる。
いくら魔法防御布を張ってあるといえども、そう何発も耐えられるものではなかった。
あちこちで亀裂が起き、火災が起きる所も出てきた。
「艦長!このままでは艦が持ちません。どうせ沈むなら、反転して一矢報いましょう」
「ならん。我々だけなら構わないが、この船には民間人も乗っているのだ。
なんとか、射程外に・・・」
その思いも空しく、まさに千代田が沈もうとしていたとき、
ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、とものすごい数の風切り音がして、
ドガン、ドガン、ドガン、ドガン、という炸裂音がロシア艦隊の方から聞こえたのだ。
村上たちが後ろを振り向くと、ロシア艦隊が燃えていた。
「艦長、み、味方の連合艦隊です!」観測員がうれし泣きしながら報告してきた。
「来てくれたか・・」
南下する千代田の左右を三笠を起点に両翼を広げるような形で、
連合艦隊が北上してきた。
「ニンム、ゴクロウ、アトワ、マカセヨ」三笠から発光信号が送られてきた。
25ノットどうしですれ違う時、500m以上離れているのだが、
三笠の艦橋で、東郷司令官が村上の敬礼に返礼してくれたのが
見えたような気がしたのだった。
それからの戦いは一方的であった。
両翼に広がった艦隊は、三笠や朝日、富士などの第1艦隊が右回りに
霧島、松島などの第3艦隊が左回りに、ロシア艦隊を取り囲み、
それぞれが、2周する間に、ほぼ全ての艦船を沈めてしまったのだ。
仁川港には、日露以外にも、英国軍艦のタルボットやイタリア軍艦のエルバ、
フランスのパスカルなどがいて、偵察がてら皆出港してきたのだが、
彼らが到着した頃には、日元艦隊は旅順に向けて北上した後で、
生き残った数隻のロシア駆逐艦が、波間に漂う兵士を救出しているだけだった。
そして、その4日後には、上村中将率いる、第2艦隊が、
ウラジオストクにいるフォン・エッセン少将率いる、ウラジオ艦隊を
朝鮮半島の蔚山沖で砲撃戦の後、壊滅させたのだった。
「好古兄さん、こっち{海}は、これでしばらくは大丈夫です。
そっち{陸}は頼みましたよ・・」
第2艦隊がウラジオ艦隊を壊滅させた報告を三笠で聞いた真之は、
そっと呟くのだった。
すみません。今回は、主人公たちが誰も出てきませんでした。




