050 超越者と呼ばれて
日露戦争開戦の1週間前、冬の黄海を北上する日元軍の大船団があった。
といっても、海軍の艦隊ではなく、なんと、陸軍の魔力竹船車で、
波でひっくり返らないように繫がって進んでいるのだった。
「なんだか麻雀の索子牌ようだな」
レーダー代わりに上空を魔力飛行しながら、警戒している開が呟く。
そこには、七索のように先頭が一隻飛び出し、その後ろに6隻どころか
200隻ほど固まるように進む船団が、3船団もあったのだ。
魔力竹船車のテストから3年が経ち、各地の師団基地や、軍指定の協力工場で
作りに作った魔力竹船車は、医療船や予備船を含め、すでに2万隻を越えていた。
それだけの数の竹船車を運ぶ貨物船を作るよりは、外洋でもひっくり返らないように
竹船車どおしを繋げて、自力で航行してもらうことになったのだ。
そして今回は、その先駆けとして、第三軍の乃木軍3000人が600隻の竹船車で
船団を組んで、旅順港に向かっているのだ。
「この先100kmは特に異常なかったですよ」
定期偵察を終えて、乃木軍の中のさらに先頭を行く、秋山支隊200隻の
さらに先頭の船に降り立った開が、少将になった秋山好古に報告しにやってきた。
「超越者さまに、偵察までしていただいて申し訳ございません」
好古はちょうど休息中らしく、副官が恐縮しながらお礼を言ってきた。
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「超越者か・・・」
開は自分に与えられた個室には戻らず、食道船車の2階部分で、
海風に当たりながら、呟く。
パラレルワールドの妹の麻衣ちゃんの千切れた魂を探すために、
この世界に来てすでに37年が過ぎていた。
ずっと一緒に活動してきた龍馬さんは70歳になっても、
見た目は50歳ぐらいにしか見えず元気なのだが、
勝先生や小栗先生、西郷さんや桂さんは、みな大往生して、
もうこの世界にはいない。
移りゆく世界のなかで、開と麻衣ちゃんの体に宿る天照大神さまだけが、
歳を取らないでいるため、皆、畏怖の念を抱き、
{いつか、龍馬さんと話した、ありがとうポイントで若返るシステムは、
社会に混乱を起こす可能性があるため、まだ発動していない}
特に、軍や政治家の間では、ハワイの独立維持活動や日清戦争、
そして今回の動員でも、活動する開は、超越者と呼ばれて、
皆、気軽に話しをしてくれなくなっていたのだった。
「ここに、おったがか、なに黄昏れちょる」
「あ、龍馬さん・・」
開は、今の心境を少し龍馬さんに話した。
「確かに、一緒に活動していた仲間が老いて死んでいく姿を
見続けるのはちと辛いのう・・・じゃがのう開くん。
儂は、天照大神さまや開くんたちと出会って、
一緒に活動するようになってから、あの世の世界の方が、
本当の世界で、この世は、学校のように思えてしかたないんじゃ」
「学校ですか」
「うん。まあ言えば、肉体は制服で、あの世のいろんな魂が、男の制服や
女の制服を着て、日元学校、いや、地球学校の日元分校で学んでいるっちゅう感じかのう。
ほんで、死ぬっちゅうのは、卒業してあの世に帰るっちゅうことじゃと考えてるんじゃ。
だから、儂らのようになかなか死ねんっちゅうのは、出来が悪うて、
留年させられちょるってことじゃないかのう」
「留年ですか・・。ふふ、じゃあ頑張って、使命を果たせば、僕らもあの世に
帰れるっていうことですね。やっぱり龍馬さんは、おもしろい方ですね」
少し、元気が出た開は、しばらく龍馬さんと話して、この日露戦争が終わったら、
しばらくは、姿を変えて活動し、もし20年経っても、麻衣ちゃんの魂が
見つからなかった場合は、今度は開の息子として、再び現れる計画などを話し合った。
***
明治37年(1904)2月10日
前世と同じように、日露交渉を打ち切り、宣戦布告が発せられると、
佐世保に集結していた、東郷平八郎率いる連合艦隊は、
ロシア太平洋艦隊が停泊する仁川{前世では旅順だったが、今世では、旅順は
日元が治めていて、逆に李氏朝鮮がロシアの属国になっている}に向けて出航した。
前世では、三笠{全長131m、排水量15140t、速力18ノット、兵員860人}を旗艦に、
富士{全長114m、排水量12533t、速力18ノット、兵員726人}
八島{全長113m、排水量12320t、速力18ノット、兵員741人}
敷島{全長133m、排水量14850t、速力18ノット、兵員836人}
朝日{全長129m、排水量15200t、速力18ノット、兵員836人}
初瀬{全長134m、排水量14850t、速力18ノット、兵員836人}
八雲{全長124m、排水量9646t、速力20ノット、兵員648人}
吾妻{全長136m、排水量9307t、速力20ノット、兵員644人}
浅間{全長134m、排水量9700t、速力21ノット、兵員726人}
常磐{全長134m、排水量9700t、速力21ノット、兵員726人}など、
戦艦8隻、装甲巡洋艦8隻、装甲海防艦8隻、巡洋艦18隻、駆逐艦27隻だった。
今世も、艦船の数はほとんど変わらなかったが、性能面が150%{速力}から
200%{砲弾の飛距離や防御力}ほどアップしていたのだ。
例えば、旗艦の三笠は、全長や排水量などはほとんど変わっていなかっtが、
魔力絹等を貼り付け、蒸気機関から、魔力エンジンに変更したことにより、
速力は25ノット{しかも石炭がいらなくなったため、その分砲弾や食料が
大量に積むことができるようになっていた}もの高速を長時間出すことが
できるだけでなく、石炭投入係や、砲弾の運搬係、伝令係などが、
魔力水晶のエンジンや通信機のおかげでいらなくなった為、
兵員860の半分の、430人で済んでいた。
{そのため一般兵にもハンモックではなく、3段ベッドが割り振られ、
一応プライベート空間が与えられていた}
その他の船も
富士が全長、排水量は変わらないが、速力が25ノットに上がり、
逆に兵員は726人から400人に
八島も全長、排水量は変わらず、速力が25ノット、兵員は400人、
敷島も全長、排水量は変わらず、速力25ノット、兵員400人
朝日も全長、排水量は変わらず、速力25ノット、兵員400人と
いった感じで、性能が格段に向上しながら兵員は減っていた。
浮いた兵員を使って、もう一艦隊作るという話しも出たが、
それよりも兵員団を2セット作り、3ヶ月の海上勤務をこなすと、
3ヶ月の陸上での休暇{ケガの場合の療養}や訓練を交互で行うようにして、
英気を養うようにしていたのだった。
そして、前世でいう仁川沖海戦と、黄海沖海戦を合わせたような海戦が始まろうとしていた。
つたない文章にお付き合いいただきありがとうございました。
本当は50話で完結する予定で今年の年初から書き始めたのですが・・・終わりませんでした。
と言うことで、もう少し書き続ける予定です。来年もよろしくお願いします。




