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カイと偉人と日元国  作者: ベガ爺
第一章 幕末編
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046 わがままな亡命者たちと義和団事件

「うーん、なぜ明治維新が成功したか、ですか?

やはり、自分達自身で動いたからですかね」


日元国に亡命してきた清国の革命家の孫文に聞かれ、

開は、率直な感想として、そう答えた。


この頃の清国は、香港やマカオの租借だけでなく、ほとんどの鉄道の

権益を欧米列強に奪われて、半植民地状態になっていた。


そしてそんな状態を憂いた青年皇帝の光緒帝こうしょていが、

広東の知識人の康有為こうゆういが上奏した、

「日元国の維新革命に倣って政治改革を断行して、富国強兵を成し遂げるべし」という

{変法自強論}のもと改革を進め始めたのだが、

保守派の西太后により幽閉{前世では、10年間程幽閉された後に毒殺}されてしまい、

多くの光緒帝派だった者が捕まり処刑されていて

光緒帝派だった、康有為も、命からがら東京に逃げて来ていたのだ。


つまり、日元国でいうと、徳川幕府{光緒帝の治める清国}を改革して

国を立て直そうとする、佐幕派に当たるのが康有為。


それに対して、もう古びてしまった幕府{清国}を倒して、

新しい政府を造ってしまおうとしている討幕派が、孫文で、

なぜか、その両方の主要人物が二人とも、清朝政府に追われて、

日元国のしかも東京に逃げて来ている状況だったのだ。


しかも、この康有為派{清朝改革派}と孫文派{清朝打派}は、

仲が悪く、{まあ佐幕派と討幕派に当たるので当然といえば当然の話}

開たちがいくら、手を結ばせようとしてもいっこうに和解せず、

薩長同盟を成し遂げた龍馬さんですら匙を投げてしまう状況だったのだ。


そして、康有為派にいたっては、光緒帝を幽閉している、西太后を暗殺して

政権を奪取しようと考えているみたいで、

しかもその暗殺を、開たちに依頼してくるありさまで、その斜め上の発想に驚き、

それを聞いた伊藤博文総理大臣も「シナ人のことはよくわからい」と呟いたという。


孫文派も似たようなもので、日元国での活動拠点の提供だけでなく、

革命のための活動資金や、武器弾薬の提供を日元政府に、何度も懇願に来ており、

そのたびに、犬養毅などの政治家や資産家の平岡浩太朗などが資金を出していたのだった。


(気持ちは分かるけど、自分達の国を改革するための資金調達や同志集めは

自分達の国でやってほしいよ)


(ほんとだよ、ここで西太后の暗殺なんかに、日元人が手を貸したりしたら、

それをネタに何十年もたかられ続けられるぞ)


(確か、戦後も、賠償金の代わりに、円借款や技術移転をせがまれ続け、

新幹線を始め様々な技術が盗まれたんじゃなかったっけ、この頃からなのか・・)


(そうなんだ、僕の世界では月本国人以外は、魔力が使えないから、

魔力水晶に充電出来ないので、基幹部品が動かせなくて

月本国からの技術移転はほとんど進んでいないよ)


(そっか、じゃあ、このやり直しの日元国の世界も、魔法文明に

なりそうだから、大丈夫かも知れないね)


(ああ、確かに、このままじゃ、技術移転は無理だね)



清国亡命者達からの要請を、なんとか断っていたのだが、

アメリカから独立運動のため戦っていた、フィリピンのアギナドル将軍より

支援要請が届き、ちょうど、日元国では、魔法を使える者カが半数を越え始めたために、

軍や警察などで、使われなくなってきた、西洋式の火薬銃などの武器弾薬を

提供したことにより、{日元神道を信仰すれば、魔法銃も使えるようになることを

使者のポンセに説明したのだが、500年間に渡りスペインに植民地化され、

キリスト教が根付いているフィリピン人には、宗教の変更を、

なかなか受け入れてもらえず、結局、西洋式の火薬武器弾薬を使って

独立運動を行ったため、すぐに弾薬が切れて、50万人もの戦死者をだしながらも、

フィリピンの独立運動は潰されてしまい、成功はしなかった}

康有為派、孫文派、両派からの支援要請が、益々強くなっていったのだった。


そんななか、前世でも有名な義和団事件が起こるのだった。



***



光緒帝の改革を、幽閉という方法で潰した西太后が、光緒帝の改革派を

大量に粛正した結果、清国では急速に治安が悪化していった。


そのため各農村では、自衛団が組織され、その中に、

拳術や棒術の修練を積めば鉄砲の弾も通さない神通力を得られるという

教義によって急速に勢力を伸ばす、{義和団}という集団があったのだ。


そしてちょうど、山東省のドイツ系キリスト教会が襲撃されて、

それを口実にドイツが青島を占領したあたりから、

地域住民と外国人宣教師とのトラブルが相次ぎはじめ、

やがて、「教会憎し、外国人憎し」の感情が増えていったのだった。


そんななか、北部を中心に大干ばつが発生し、

「この干ばつは、外国の宗教の祟りである」という噂が流れて、

外国人への襲撃が急激に増加したのだ。


清朝政府は、事態の収拾のため袁世凱を派遣し、

袁世凱は自ら編成した新式の陸軍を使って、

義和団を山東省から追放してしまった。


そして山東省を追われた義和団が、天津から北京、さらに東北部に

一気に拡散していくことになったのだった。


やがて、義和団は「扶清滅洋」というスローガンの基に、東北部全域で

外国教会や、外国支配の鉄道、停車場、電信施設、外国人学校を

襲撃しはじめたのだった。


その状態になると、清朝政府は、その義和団の暴挙を押さえるのではなく、

放置するようになり、さらに西太后派はこの際、義和団の勢力を利用して、

列強諸国を清国から一掃しようと考え

なんと、光緒帝{実際は西太后に幽閉されている}の名の下に

清朝政府が列強外国8カ国(イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ロシア、アメリカ、

スペイン、そしてなぜか日元国)に宣戦布告をしたのだった。



***



「開君、懐かしいな、なんだか昔、京の都から、

みんなで寺田屋に逃げた頃を思い出すな」

本当は66歳になるのだが、魔力の影響なのか、40代ぐらいにしか見えない

龍馬さんが、食料を背負い、怪我をしている白人女性を、

お姫様抱っこしながら話しかけてくる。


「確かに・・・なぜ、龍馬さんといると、いつもこんな目に会うんですかね」

開も、さっき、農家から分けてもらった、100kgを越える食料を

肉体強化魔法で背負いながら歎く。


開と龍馬が、ちょうど6月に北京を訪れた時に宣戦布告され、

そのまま日元公使館で足止めをくらい、50日以上、

帰れなくなっているのだった。


もちろん、開と龍馬は魔力飛行が出来るため、二人だけなら逃げることも

できるのだが、公使館職員とその家族や北京に在住していた日元人の

民間人が100名程逃げ込んで来ており、見捨てる訳にはいかなかったのだ。


さらに、各国の公使館が破壊される度に、その国の公使館員や民間人が

日元国の公使館に逃げ込んで来ていて、現在は800人を越えていた。


幸いというか、欧米諸国より、下に見られていたため、日元国の公使館は、

北京の外国人居住区の端っこにあり、敷地だけは広かったので、

開たちが土魔法を使って、避難民のための宿泊設備は作り上げたため、

寝場所に関しては、人数分、確保できていた。


問題は、食料の確保で、数日前までは、柴五郎中佐の率いる密偵隊の活躍によって

なんとか、確保していたのだが、2日前に、公使館回りの道路が完全に

封鎖されてしまい、魔力飛行が使える、龍馬と開の買い出しのみが唯一の

命綱になっていたのだ。


そして、北京郊外の農家まで買い出しに行った帰りに、

公使館を追われ日元公使館に避難している、イギリス人一行に出会い、

護衛を兼ねて一緒に移動しているのだった。


「ミスター・リョウマとミスター・カイだったね。今回のサポート

本当に感謝する」

自らも怪我をしている様子で、頭に包帯を巻きながらも、娘を背負って

前を歩く、イギリス公使のマクドナルドが、振り返りながら礼を言う。


「いえ、たまたま通りかかっただけですから・・」

世界中で植民地政策を実施し、有色人種に対し、差別政策を変更しようとしない

欧米国家に対し、反発を感じる開たちは、基本的に他国の公使館とは

不干渉を貫いて、いるのだが、さすがに女性や子供にまで、

襲いかかろうとしている場面に出くわすと、助けに入るしかなかったのだ。


パン、パン、パン

突然、側面から、わらわらと、清国軍兵士が現れ、銃撃してきた。


カン、カン、カン

公使たちの数メートル手前で、なぜか銃弾が弾かれていく。

開がシールドを展開していたのだ。


「オオ、これが、日元国のミラクルパワーですか」

公使一行が驚きの声を上げる。


(本当は見せたくないんだけど・・)


青竜刀を振り上げて襲ってくる兵士達の前に

立ちふさがるように立つと、

「足を止めしますから、みなさんはそのまま、走ってください。

龍馬さん、みなさんをお願いします!」といいながら、

開は右手をかざす。


(できるだけ、死なないように調整して、雷撃!)


大通りいっぱいに広がり、迫って来る数百人の軍勢の上に、

直径10mぐらいの巨大な黒い球体が出来ると、ビシィと大音響がして、

そこから無数の稲妻が放たれた。


開が出来るだけ相手を死なせないように開発した、雷撃魔法だ。

ギャー、一瞬感電したように跳ね飛び、数百人の軍勢が崩れ落ちた。


一応、気絶する程度に出力を落としているが、電撃には個人差があるため、

数十名は、感電死しているだろう。


同じ東洋人として、やるせない想いに包まれながらも、

後から、後から、続々とやってくる軍勢が途切れるまで、

十数回の雷撃魔法を撃ってから、その場を後にした。



***



「どうしましょうか」西徳二郎公使が、憔悴しきった顔で、開たちに相談してきた。


日元国以外の公使館は全て落ち、その勢力も合流した結果、

日元国の公使館には、1000人を越す避難民がおり、その外側は、

数千名の軍勢に囲まれている状況になっていた。


ドガン、ドガン、ドガン、

そして、何十発もの大砲弾があれからずっと、打ち込まれ続けている。


公使館は、開たちのシールドで覆われているために、

今のところ被害はないが、食料の問題もあり、

このままでは、詰んでしまうのは、確実だった。


「・・・紫禁城に突っ込んで、敵の中枢を潰すしかないですね・・・」



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