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カイと偉人と日元国  作者: ベガ爺
第一章 幕末編
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043 日清戦争の勃発と終わり

「英国汽船より信号、ワレ、シンコクセンニ、オワレテイル、キュウエン、モトム」


「どう思う」巡洋艦浪速の艦長東郷平八郎大佐が、参謀長に尋ねる。


「怪しいですね。ご覧ください」と双眼鏡を差し出す。


それを覗くと、英国船には、清国陸軍の将兵を満載しているのが見えた。


それに追われているという清国の戦艦とは、1000mを切っている。


なぜ、撃たれてないのか、いや逆に従えているようにも見える。


「そうだな、ただちに停船させ、投錨させよ」


「ハッ」浪速から、停船信号を送るが、停船する様子はなく、

それどころか、後ろにいる清国の戦艦、済遠、広乙から、

いきなり、日元国の三隻の巡洋艦、吉野、秋津島、浪速に発砲してきたのだ。


「なんだと!こちらも反撃する。撃てー」命令と同時に、

日元国の三艦から、砲撃が開始される。

ドン、ドン、ドン、


前世の海戦では、清国の広乙は浅瀬に乗り上げて降伏し、済遠は逃げ去るのだが、

今世の吉野、秋津島、浪速は、魔法砲身と魔法砲弾に変更してあり、

破壊力が段違いで、しかも魔法観測兵、の予知魔法で、

敵の航路を予測できるため、一撃で二隻を轟沈させてしまった。


「なんと、一撃で仕留めるのか・・。すごい威力だな、

確か、吉野と浪速は我が大英帝国のアームストロング社製ではなかったか、

あんな強力な砲を積んでいたかのう」英国船の艦長が驚愕して呟く。


「いえ、確か15.5センチ速射砲が4門に12センチ速射砲が8門の

軽武装だったと思いますが」


「では、サル共が、例の魔法とやらで何かやったと」


「はい、おそらく、今の砲撃は、30センチ砲に匹敵します。

情報部の話しでは、このところ、横須賀、呉、だけでなく、

最近は沖縄の北部にも軍船が出入りしているといいます。

おそらく、そこで何かの改装をしているようですな」


「なるほど、しかし、これで、プラン1が不可能になってしまったな。

しかたがない、プラン2でいくぞ。至急浪速のトウゴウに連絡、

貴艦の指示に従うと信号送れ」


その後、停船した英国船には、前世と同様、浪速からボートが出され

士官が派遣された。


そして、その報告では、済州島に上陸するための陸兵1100人と大砲14門が

確認されたため、英国人船長たちにその船を捨てるよう信号で命令を送り、

2時間半待ったが下船せず{清国の将校が脅し下船させなかった}、

水雷を発射して撃沈させた。


船長以下の船員は救助されたが、清国兵はほとんどが溺死し、

この事件が電報で知らされるやいなや、清国の大宰相の李鴻章は

日元国に対して、宣戦布告をし、直ちに、北洋艦隊の提督丁汝昌に

日元艦隊撃滅を命じたのだった。


なぜ、済州島に1100人もの陸兵を上陸させようとしていたのか、

なぜ、いきなり、清国軍艦、済遠と広乙が発砲したのか、

その背景には、英国情報部の暗躍があったとされているが、

日元国の海援隊の情報機関でも詳細は分からなかった。


ただ、この済州島沖海戦によって、前世と同じように

{陸上での戦いはまだない}日清戦争が勃発してしまったのだった。



***



それから、約2ヶ月後の9月17日。

開は、明治天皇への報告官として、特別に連合艦隊の旗艦、松島に乗船して、

黄海を進んでいた。


表向きの理由は天皇への報告だが、本当は、前世では、砲艦筑紫に乗船しているはずの、

秋山真之少尉が、なぜか松島に乗船していたからだった。


そして、勾玉内の海の父親の話では、その旗艦松島は、清国艦隊の巨大戦艦鎮遠から、

命中弾を受け、大破しているのだ。


日露戦争でバルチック艦隊を壊滅させる7段戦法や、T字戦法を考え出した

真之がもし、ここで戦死してしまったら、歴史が変わってしまう。

{とは言っても、龍馬さんや西郷さんが長生きして、ハワイの独立が

続いていることで、かなり変わっているのだが・・}

そこで、真之には開が、東郷には、治癒魔法が使える海援隊情報部の

3人のメンバーが密かに付いているのだ。


そして、黄海海戦は、前世通り、突如はじまった。


艦隊運動の演習を行おうと隊列を組む日元連合艦隊が、鴨緑江の河口付近で

V字型で孝行する清国北洋艦隊と遭遇したのだ。


「あれ、開殿、艦長のそばにいなくてもよいのですか」

その時、開は真之を守るため、偶然を装い、真之が指揮する第一砲塔に

やって来ていた。


「ええ、少し船酔いしたみたいで、気晴らし風に当たりに来たんです」と

話していると、


「敵艦隊発見、総員第一戦闘態勢を取れ」と艦内に号令が掛かる。


「すみません真之さん、艦橋にもどる時間がないので、戦闘が終わるまで

ここにいさせてください」開が頼み込むと、なんとか許可が下り、

真之のすぐ後ろに居させてもらえることになった。



***


「どうします、伊東艦長、敵艦には、米国やドイツの観戦武官も乗っています。

本艦の性能が分からないように、速力を落としますか」

密かに改造した魔力蒸気機関の性能を計られる事を考慮して、参謀が聞いてくる。


「いや、出し惜しみは無しで行こう、薩摩の示現流と同じで最初の一撃で

倒すつもりで行かねば、油断が生じる。それにこの魔力蒸気機関も、あと数年もすれば

魔力モーターとかに置き換わるはずじゃ、ここで性能が知られても問題なかろう」


「了解しました」

その後、日元艦隊12隻は全速{といっても遅い艦の20ノットに合わせて}での

単縦陣で進み、V字型で、7ノットで、のろのろと進む清国艦隊の前方を

斜めに突っ切りはじめた。


5800mで、定遠が誇る12インチ主砲が打ち始め、日元艦隊の前後左右に、

おびただしく、すさまじい水煙が上がる。


開たちが乗る松島の近くにも水煙が上がり、特に第1砲塔付近には

滝のような海水が降ってきた。

(く、陸砲とは比べものにならない威力だ。前世と違い、魔法防御板を

張っているが、本当に持つのか・・)

開はずぶ濡れになりながらも、砲身以外の第1砲塔全体に魔法シールドを

張りながら着弾に備えていた。


「敵艦との距離3000、撃て」3000mでの一斉射撃の命令が出ていたようで、

第1砲塔の指揮者である真之が号令をかける。

ドズン、ものすごい音と腹に響く振動が伝わる。


「着弾―、今」観測兵の声が聞こえる。ドン、ドン、ドン、

まるで日元艦隊に合わせたように12隻で迫る清国艦隊の内、

4隻か5隻に火柱が上がり、しかもそのうちの1隻が轟音を上げて沈んだ。


(一撃で・・一撃で撃破か!なんということだ、あのモビルスーツは

戦艦なみのビーム砲を持っているのか)

勾玉内の海が、宇宙世紀アニメのマスクを付けた赤い少佐のセリフを呟いてくる。


(いやいや、モビルスーツじゃないし、ビーム砲でもないから)と突っ込みながらも、

魔法砲弾の威力の凄さと、おそらく魔法予知能力を使ったと思われる、

砲撃兵の腕の良さに驚いていた。


その後も3度、一斉射撃があり、さらに3隻が轟沈した。

そして、第1遊撃隊の吉野、高千穂、秋津島、浪速の4隻が左に旋回して

清国艦隊の行く手を押さえ、本隊の松島、千代田、厳島、橋立、比叡、

扶桑、西京丸、赤城が右旋回して後ろを押さえた。


ドドン!1700mまで近づいた時、松島に向かって、

鎮遠の12インチ砲2門が同時に咆哮した。


前世ではこの砲撃によって、松島の船腹は貫かれ、うずたかく積まれた

薬莢に誘爆して大爆発を起こし、94人が死傷している。


「ぐはっ」開が展開していた3枚の防御シールドが砕け散り、

甲板に突き刺さる。

ドガン。ものすごい衝撃に開は真之に重なるように倒れ込む。


(くっ、間に合うか)開はいそいで立ち上がると、

なんとか1枚だけシールドを張り直して爆風に備える。


(3枚でもダメだったんだ、1枚じゃ無理だな)開は観念して

目を瞑ったが、覚悟した爆風はやってこなかった。


甲板に張った防御魔法板が、変形しながらも砲弾をはじき飛ばして、

きちんと仕事をしていたのだ。


(助かった・・)


その後も、第1遊撃隊と本隊が時計と反時計回りに旋回しながら、

足の止まった清国艦隊に次々と砲弾を浴びせて撃沈していく。


結局、4時間半に及ぶ海戦が終わったとき、提督丁汝昌が乗る旗艦定遠を除く、

全ての艦が撃沈されており、丁汝昌は、白旗を揚げ、観戦武官を下船させた後、

自沈する船と共に沈んでいった。


多くの観戦武官が、このような日元艦隊のワンサイドゲームになるとは、

予想してなかったどころか、艦が小さく、砲も小さい日元艦隊を

「軽艦隊」と馬鹿にしていたのだ。


各国の観戦武官がこの結果に驚き、動けないでいたとき、イギリスだけは、

着々と次の準備をしていたようだ。


まず、日元国に対しては、清国が今回と前回の海戦での賠償金として、

台湾島と、遼東半島の一部を差し出す用意があるようだと話し、

逆に、清国には、海上での勝利をよいことに、日元国が遼東半島の良港、

旅順を狙っていると告げ口外交を展開したのだ。


そして、その外交手口に開戦派だった、大鳥圭介と川上操六が踊らされてしまうのだ。

特に、陸軍中将だった川上は、伊藤博文総理に、治安維持のために旅順に少しだけ

兵を送るといいながら、なんと1師団と1旅団の1万5000もの兵を、大山巌大将を

司令官として上陸させたのだった。


その中には、真之の兄、秋山好古少佐も騎兵第1大隊長として従軍していた。


そして、当時東洋一と言われ、ドイツ人によって造られた、旅順要塞は、

好古の放った偵察部隊と、それを基に好古が説いた、旅順攻略方法を大山が

そのまま実行したことにより、わずか1日で陥落してしまったのであった。


そして陸海両方の敗戦を受け、1895年4月17日、下関において、

清国全権大臣李鴻章と日元国全権大臣伊藤博文たちの基、

日清講和条約が、結ばれ、その後、日元国はアジア代表的立場に、

逆に清国は、坂道を転がるように権威が失墜し、滅亡していくのだった。


(うそー、あれほど大陸には、手をださないようにと、お願いしてたのに!

しかも、前世同様、台湾島と遼東半島を割譲してもらちゃってるし、

マジどうすんだよー。くそーイギリスにしてやられた)

その事実を後日知った開は、なぜかガックリとしていたという。


また、日清講和条約には、前世のように李氏朝鮮の

独立を認めろという項目は無かった。


そのため、大国の力を利用するという、

高宗や閔妃たちの危うい外交政治が続けられ、

清国の衰退と入れ替わるように、ロシアの支配が強くなり、

明治32年(1899)にウラジオストックの視察のために、

途中、ハルピンに立ち寄った、ニコライ2世に、安重根が

発砲したことにより、ロシアの怒りを買い{密かに海援隊情報部が

治癒魔法士で護衛させていたため、すぐに回復させた。

ちなみに今世では、大津事件は、起こっていない}、

翌、明治33年(1900)、前世よりちょうど10年早く、

李氏朝鮮は日元国ではなく、ロシアに併合されてしまうことになるのだった。


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