037 ホノルル港の攻防
パールハーバーを艦砲射撃した19隻のアメリカ艦隊の内、
ジョンソン司令官の乗る旗艦を含む10隻は、パールハーバーへの上陸は部下に任せ、
本命のイオラニア宮殿の制圧及び、王家の束縛に向けて、真夜中の海を
ホノルル港に向かっていた。
「閣下、パールハーバーのサル共が、焼き尽くされる所を
見なくてもよかったのですか?」
「構わんよ、サル共の死骸など、これから向かうホノルル港で、いくらでも作れるさ。
それより、早くハワイのサル王の公開処刑と、あの気の強い王妃ザルが、
奴隷として引きづられ、絶望して泣き叫ぶ姿を見てみたくはないかな?
ああ、そうそう、日元国のサル王子と婚約したとか言う、メスザルは、
兵士達への褒美の一つとしよう」
「おお、それは名案ですな、我々白人に刃向かったサルがどうなるか、
よい見せしめになるでしょう」
「閣下、上陸準備、整いました」
「よし、作戦開始だ。サル共を皆殺しにしろ」
ホノルル港の沖合から、港へ真っ直ぐ進む艦船の内、前衛の5隻は
イオラニ宮殿のほぼ正面にある王族専用の桟橋に停泊中の2隻の
王族専用船に砲撃を加えながら、左に旋回して、
商船の停泊する、ダウンタウンの桟橋に殺到した。
パールハーバーと違い、今回は小舟を使わずに桟橋に直接接岸し、上陸するのだ。
{密かに、アメリカの商船が普段使う桟橋を空けさせていた}
「5隻とも接岸確認、海兵隊の上陸成功の合図確認しました」
しばらくすると、倉庫街から火の手が上がりはじめた。
{もちろん、事前に密約済みで、アメリカ資本の倉庫には指一本ふれず、
燃えだしたのは、ハワイや日元国資本の倉庫のみだった}
「作戦は順調みたいだな」双眼鏡を使い、ハワイ資本の倉庫群が
燃え上がる様子を満足そうに見ていたジョンソン司令官が呟く。
「閣下、そろそろ最後の詰めを」
「そうだな、よし、全艦前進せよ。サル王狩りに行くぞ」
「 「 「 おお! 」 」 」
400人の海兵隊を満載させた、最後の5隻の艦隊が、
先ほどの砲撃で破壊された船の横を抜けて、
王族専用の桟橋に接岸する体制に入っていった。
***
「く、間に合わなかったか」
密林を抜けて、ホノルルの町並みが、遠くに見えて来たとたん、
港付近から、火の手が上がっているのが見え、角刈りの大佐が呟く。
「いえ、宮殿からの救援信号弾は、まだ出ていませんから、ギリギリ間に合ってますよ。
2号作戦でいきましょう」
(大丈夫、イオラニ宮殿には、西郷さんや龍馬さんが、精鋭20人と詰めているんだ、
そんなに簡単には落ちないさ)
開を落ち着かせるように、勾玉内の海が励ましてくれる。
2000人の海兵隊に対し、訓練兵を集めても、400人程にしかならない開たちは、
少ない戦力を集中運用して、各個撃破していく作戦を立てていた。
まずは、真珠湾に上陸してくる700人の海兵隊を、
新兵器の魔法迫撃砲の集中運用と、400人全ての兵による白兵戦によって
迎え撃つ作戦を立てた。
{実際には、砲撃のみで、壊滅に追い込んだため、白兵戦をせずに済んでいた}
次に、モノレールという、この時代の陸上輸送機では、鉄道に継ぐ
高速移動機を開発して、真珠湾で使用した迫撃砲や400人の兵士を
そのまま、ホノルル港に移動して戦うのだ。
このモノレールによる移動のおかげで、計算上は、400人の兵士が
倍の800人に増えた事になる。
さらに、陸奥さんたちが入手してくれた情報によると、ホノルルで戦う
海兵隊は、市街地の倉庫を焼き討ちする部隊と、直接宮殿に向かう部隊に
分かれて上陸する計画だという。
ならば、モノレールで上手く移動すれば、分断している敵の部隊と
同数で戦うことができ、そこに勝機も見えてくるはずだというのが
開たちの考えだった。
これは織田信長が、10倍以上の今川軍と戦う時に、桶狭間という
狭い地域に奇襲を掛け、桶狭間に限っては、織田軍の方が多いという
体制に持っていった戦い方。
あるいは、ローマのカエサルが、10倍以上のガリア軍と戦った時に
戦車{馬に2輪の荷台を引かせて移動する乗り物}を使って
戦車で掛け巡り、一時的にローマ軍の方が多い状態に持っていった
アレシアの戦いに似ていた。
開たちは、もし敵が上陸してくる前に、ホノルルに到着できたなら、
1号作戦として、桟橋付近まで、モノレールで近づき、上陸を阻止する
作戦を立てていた。
もし、すでに上陸されていて、倉庫に火を付けられている状況なら
2号作戦として、海岸から一本内陸に入った、前世では、
キングストリートと呼ばれる道路脇に密かに造っておいたモノレールの軌道を通って、
街に入り込んだ敵を牽制しながら、イオラニ宮殿に向かう計画を立てていたのだ。
「いや、市街地に入った敵の部隊の足が意外に早そうだ。
このままでは宮殿前で、合流されてしまうだろう。
なので、3号、いや2号と3号を混成した2号改作戦がいいのではないか」
並行して走るモノレールから教導隊の隊長としてハワイに来ている
元新撰組三番隊隊長、斎藤一さんが提案してくる。
「2号改作戦ですか、でも戦力の分散は・・」
「はは、開くん。最初に一斉射撃で、3射ほど砲撃してもらえば、
後は我が小隊を含んだ5小隊ほどで対処するよ。
モノレールは残さないで構わないさ」
「わ、わかりました。ご武運を」
前世では、後に公園{アアラパーク}になる森を抜けて川を渡り、
街に入ると、モノレールは速度を落としていった。
そして、イオラニ宮殿から500mの所まで来ると、3射ほど砲撃し、
側面の防御板を倒して、滑り台のようにして、斎藤さんをはじめ
11人×5小隊の55人が、宮殿に向かう道を塞ぐように降り立った。
「斎藤さん、危なくなったら撤退してくださいね」
開がそう助言するが、斎藤はそれを聞き流すように、
昔、田原坂の戦いで、見せたゾクッとするような微笑みを浮かべ
「野郎共、日頃の特訓の成果を見せて見ろ、殿は我が隊が務める、
いいか、一歩も引くなよ」
「 「 「 おお !」 」 」
(ちょっと、人の話を聞けよ・・)
開の心配をよそに、前世で言う、ビショップストリートとの
交差点に陣取った斎藤の小隊を殿に、前衛と後衛がそれぞれ2小隊ずつ
ビーチストリートとフォートストリートの交差点付近に陣取り、
バラバラとやってくる海兵隊を片っ端から撃退していった。
「な、なんなんだこいつら、銃が効かねえ」
「いや、あの盾みたいなもので跳ね返えされてるだけだ。
接近して剣で刺し殺せば・・。がは」
ハワイ軍は、11人で小隊を組み、魔法盾で防御しながら、
魔法銃で攻撃し、それを抜けて接近して来た敵には、
魔法小銃に取り付けた刀で突くか、日元刀で叩き斬ると言う、
人間将棋、こちらではサムライチェスと呼ばれる動きをずっと
訓練して来たのだ。
「ふん、ぬるいわ、これじゃ、サイトウ隊長との模擬戦の方がよっぽどキツかったわ」
斎藤の教導隊に日夜、鍛えられていた、4つの小隊は、時には数十人単位で
襲って来る海兵隊に、一歩も引かずに戦っていた。
そして、その4つの小隊を、なんとかくぐり抜けて、イオラニ宮殿に
向かおうとする海兵隊員も、最後に待ち構える、
斎藤一が率いる教導小隊によって全て、斬り伏せられていくのだった。
ダウンタウンに上陸した400人の海兵隊が一斉に襲いかかれば、
どうにかなったかもわからないが、
最大でも数十人単位で襲いかかったのでは、
斎藤に鍛え抜かれたハワイ軍の敵ではなかった。
アメリカ海兵隊400人対ハワイ軍55人の戦いは、
1時間余りで、ハワイ軍の完勝となったのだった。




