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カイと偉人と日元国  作者: ベガ爺
第一章 幕末編
35/55

036 二人の新兵

新兵のライアンは、上陸用の小舟から飛び降りると、

急いで波打ち際を脱して、息を整えながら、

先行する先輩兵の軽口を聞いていた。


ハワイ軍士官学校や、大型船が横付けできる港は、

ライアンたちが上陸した砂浜から左にある岩場を越えた所にあり、

その岩場を越える道に向かって、先行する先輩兵がランタンで照らす先には、

確かに、先輩達がバカにするに値する、塀の作りかけのような柱と、

それを上部で繋ぐ梁がついている柵のようなものが見えるだけだった。


(塀を作りかけていなくなるなんて、これは、本当に先輩たちが言うように、

ハワイのサルたちは、おびえて逃げたのかもしれないな)

これなら、楽勝かもと、ライアンが少しホッとしていると、

ドッドッドッという蒸気機関とはまた違う機械音と、

ドン、ドン、ドン、という大砲を撃ったような音が聞こえてきた。


(なんだろう)

ライアンがそう思った瞬間、暗闇だった空が、昼間のように明るくなった。


(な、これは・・照明弾っていうやつか)

浜辺に上陸した、700人もの海兵隊の姿が、その光で映し出されるだけでなく、

1km程沖合にいる9隻の艦隊のシルエットまで浮かび上がっていた。


ドン、ドン、ドン、ドン、次の瞬間、先ほど浜辺に引き上げた何十隻もの

上陸用小舟が、次々に砲弾によって吹き飛ばされていった。


(なに、どこから撃っているんだ)

振り返ると、いつの間にか、先ほどの作りかけの塀の梁の上に

高さ2mぐらいで長さが10mぐらいの貨物列車の貨車のようなものが、

何両も{正確には15両}ずらっと並んでいて、そこから撃ち出されていたのだ。


(な、いつの間に、というか、あれはなんなんだ!梁の上を走る列車?

そんなものがあり得るのか・・)

{記録によると、アメリカでも、1876年にフィラデルフィアの

建国100周年記念博覧会で、蒸気駆動ではあるが、跨座式モノレールが

走っているのだが、アリゾナ出身のライアンは知らなかったようだ}


ライアンがあっけにとられていると、その梁を走る貨物列車の側面が

少しスライドし、そこから銃口が現れて、

チュン、チュン、チュン、チュンと雀が鳴くような音がしたと思うと、

「うぎゃ」「ぐふ」「うう」と先行していた

先輩海兵隊たちが、崩れ落ちていったのだった。


「て、敵襲!」「は、反撃しろ」ようやく、味方側から、号令がかかるが、

その時には、すでに先行していた100人ぐらいの兵士が動かなくなっていた。


「ぐは」ライアンも左腹を撃たれようで、痛みに悲鳴を上げながら

近くに横たわっていた先輩兵の亡骸のそばに倒れこんだ。


(くそ、サル共が)海岸の方を見ると、上陸用の小舟はほぼ破壊されていて

もはや逃げる事も出来なくなっていた。


(誰か、艦砲射撃をこっちに回せと頼んでくれ、そしてサル共を蹴散らしてくれ)

ライアンがそう、願いながら、沖合の艦隊を見ると、

なんと、その艦隊にも火柱が上がっていた。


(な、なんてこった、サル共の砲弾は、あそこまで届くのか・・)


怒りに満ちながら、もう一度振り返ると、梁の貨物列車の向こうにも、

もう一段、高くなった梁があり、その上に鎮座する列車?から、

大量に砲弾が撃たれていたのだ。

(くそ、もう一線あるのか・・)

それが、ライアン新兵がこの世で見た最後の風景だった。



***20分ほど時間を遡る



「よし、砲撃は終わったみたいだな。

これから海兵隊が上陸してくるぞ、準備はいいか」


「 「 「はい」 」 」


「よし、扉を開けろ、発進するぞ」

スライド式の魔法防御板の扉がスルスルと開かれる。


その様子を緊張で、少し震えながら、見つめる新兵のヒロに

「ヒロ、訓練通りやれば大丈夫だよ」と、新道開が肩を叩き、

声を掛けながら、運転席に乗り込む。


「ハ、ハイ、ガンバリマス」とヒロは尊敬の眼差しで開に返事をする。


ヒロと開の出会いは、5年前まで遡る。


***


腕利きの漁師だった父が、嵐で亡くなり、母と妹の生活を守るために、

父の後を継いで、漁師見習いとして、船に乗り込んでいたヒロは、

あるとき、仕留めたと思ったサメに不用意に近づき、サメの最後の

反撃に遭い、大けがを負ってしまったのだ。


自分の体から、流れ出す血と、激痛で、もうダメだと思い、

意識が途切れそうになった所に、誰かが駆け寄って来たのだ。


その人の手が、ヒロに触れたとたん、ものすごい癒やしのエネルギーが

流れ込んできて、気づくと、食いちぎられた、左腹の出血が止まった

だけでなく、いつの間にか元通りに戻っていたのだ。


その命の恩人こそが、日元国からやって来た、カイ・アラミチで、

偶然、ハワイの漁業の視察で乗り合わせていたのだ。


自分の命を救ってくれた開に心酔し、その後、すぐに日布神道に入信して、

魔法も使えるようになったのだが、カイさんのように、治癒魔法から、

攻撃魔法まで、オールマイティではなく、肉体強化魔法に特化したものだった。


カイさんのように治癒魔法が使えず、病気や怪我で苦しんでいる人を

救う事は出来なかったが、肉体強化魔法も漁師見習いのヒロにとっては

ありがたい能力で、10歳にして、普通の大人の使う銛の2倍の重さの銛を

2倍の威力でサメに打ち込む事ができ、サメ殺しの達人と呼ばれるように

なっていたのだった。


もちろん西郷さんが創ったハワイ軍士官学校には、最初から、

入学を希望していたのだが、15歳になるまでは許可されず、

この春、ようやく入学することが出来たのだった。


***


「出発!」隊長の号令のもと、モノレールが軽快に走り出す。


ヒロは急勾配でも振り落とされないよう、安全ベルトをもう一度確認して

前のセーフティーバーをしっかり握った。


開たちの開発したモノレールは、4気筒1000ccの魔力エンジンを積む跨座式で、

30cm四方の角形レールの上部に直径10cmの穴が等間隔で開いている所に

凸型の車輪が食い込んでいく、ホール式であった。


車両の横幅は、前世でいう所の軽自動車と同じ1.5mほどの2人掛けだが、

長さが10mと大型トラックなみにあり{正確には、1.5mの動力部に4mの荷台が

2両連結されている}、その車体が最大速度10km/hで斜面を登っていくのだ。


荷台の2人掛けの座席と座席の間には、前世の日元陸軍で使われていた、

九二式歩兵砲と、九四式軽迫撃砲を合体させたような魔法迫撃砲が、

3台ずつ{計6台}備え付けられてあった。


その2両編成のモノレールは、歩くと30分はかかる岩山を

40度の急勾配でグングン登りきり、出発してわずか10分ほどで、

敵の上陸現場に到着したのだった。


「照明弾用意、発射角80、距離3000」隊長から照準の命令がかかる。

隣に座っていた先輩のハヤタ上等兵が、ハンドルを回して、

角度や距離を合わせている間に、ヒロは、訓練通りに、

座席下から照明弾を取り出して、魔法迫撃砲にセットした。


「ヨーソロー、テー」隊長の合図に合わせて、

ドン、ドン、ドン、とヒロたちのモノレールだけでなく、

海岸側に展開した15両のモノレールから、

時間差で次々に照明弾が打ち上げられた。


「おお、これはよう見えるわい。

よし、炸裂弾用意、目標、波打ち際の上陸艇。

発射角40、距離500、ハヤタ機で試射、ヨーソローテー」


ドン。見事に波打ち際の上陸艇を2艇まとめて吹き飛ばした」


「よし。発射角、距離そのまま、2号機、3度ずらせ、3号機、6度・・」

その後は、訓練で何度も練習したとおり、各魔法砲が1分間に6発の砲弾を

決められた地面に正確に打ち込んでいったのだった。


その結果10分間で、5000発近い砲弾が、砂浜を順番に耕していき、

10分後に再び、照明弾を上げて、砂浜を観測した時には、動く者は皆無で、

所々から、微かにうめき声が聞こえて来る程度だった。


後の調査では、この砂浜に上陸した700名の海兵隊のうち、

生き残った者はわずかに35人にすぎず、死亡率は95%という壮絶な結果が示され

後々まで、海兵隊にとってパールハーバーという言葉は、

全滅を意味する不吉な言葉となっていった。


「ハヤタ先輩、突撃はまだですか」ヒロは、支給されている魔法銃

{前世の九九式短小銃に似ているが、魔法爆発で弾丸を飛ばすため、

有効射程距離が2倍の3000m、装弾数は3倍の15発に増えていた}

の先に銃剣を取り付け、いつでも行けるように身構えながら聞いて来た。


「あのなあ、ヒロ、回りをよく見て見ろ、敵なんて何処にいるんだよ。

動いている者を見つける方が難しいわ」


「あ」先輩に指摘されて、ようやく状況を飲み込めたヒロが納得していると


「よし、ここでの作戦は終了だ。これよりホノルルに向かう。

速やかに席に着け」と隊長から移動の号令が掛かった。


ヒロは慌てて、安全ベルトを閉めると、前方の安全バーを

しっかりと握った。


ここまでわずか、30分。

たった300人{ヒロたちのような訓練兵を新兵と数えてようやく400人}の

ハワイ軍が、その倍近い白人に勝利した初の戦いだった。


同じ新兵で、今回の戦いが初陣だったライアンとヒロ、

なぜこれほどまでに、二人の人生の明暗が分かれたのか、

それは、上部の指揮官たちの情報収集能力と、その分析力、

対策力の違いといって過言はないだろう。


とは言っても、ヒロはまだ本格的な白兵戦を経験していなかった。

サムライチェスという11人ずつの模擬戦では、銛から槍に持ち変え

何度か対戦をしていたが、あれはあくまで訓練であり、

ヒロが槍で突いても{ほとんど避けられてしまうが}白い粉が

付着するだけだった。


今回は槍ではなく、魔法銃のさきに短刀を付けて戦うのだ。

(うまくやれるのか・・)

再びヒロが震えそうになると、今度は隣のハヤタ先輩が声を掛けてくれた。


「ヒロ、落ち着け、カイさんも言ってただろう、大丈夫

俺たちはやれるさ、ハワイ人の手でハワイの平和をつくるんだ」


ヒロは小さく頷く。モノレールは平地に入ったのか、ジャングルを

縫うようにしながらも暗闇の中を凄いスピードで突き進んでいった。

{急勾配では最大速度10km/hだが平地では、30km/hは出る}


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