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カイと偉人と日元国  作者: ベガ爺
第一章 幕末編
31/55

031 閉話3 ある青年の、真夏の夜の夢 

猛暑日が続くので、思わず書いて見ました。

「うー暑い、暑すぎる、なんで、この時間になってもまだ、熱が残ってるんだ」

向野快むこうのかいは、新京成電鉄の八柱駅の改札を出ると、

エスカレーターを下り、駅前のロータリーを通って、県道を渡り、

1年契約している、野外駐輪場に止めてある自転車に乗って、

結構、アップダウンのある住宅街を、妹と同居しているアパートに向かって、

フラフラと、自転車をこいでいった。


時刻は夜の10時を過ぎていた。

快が高校まで暮らしていた東北なら、

いくら8月の初旬でも、この時間なら割と涼しく、

いや、むしろ長袖じゃないと寒いぐらいになるのだ。


それに比べ、東京近郊のこの町では昼間に貯め込まれた熱が、

いまだにアスファルトからモアモアと放出されているような感じだった。


「それにしても、この明るさ・・、すごいよな」


快の住んでいた、岩手県盛岡市の郊外、小岩井農場の一帯では、

森の中を外灯も無い農道が走っており、月が出ていない夜なんかは

バイクのヘッドライトをハイビームで点灯させないと、

ほとんど前が見えないぐらいまっ暗で、さらにこの時間帯なら

人気も全く無いので、結構怖いのだ。


それに対して、ここには、ほんの数m置きに外灯があり、

しかも人気も多く、今も、白っぽいワンピースを着た女性を追い越して、

さらにその前方を缶ビールを飲みながら、千鳥足であるいている、

おじさんを追い越す所だった。


(危ないな、まったく酔っ払いは・・)


そういう快自身も今日は、数少ない友達と、先ほどまで居酒屋で、

グチを言いながら、飲めない酒を飲んで、結構酔っ払っていた。


理由は、昼間に大学院で行われた、研究発表会で、快の研究発表が

ボロクソに叩かれたからだった。


「あそこまで言う必要ないじゃないか」


快は昼間のやり取りを思い出し、また呟いてしまう。


***


[ロボット・トレイン・システムの開発]略して[ロボ電の開発]と

言うのが快の研究テーマだった。


子供向けの○○レンジャーのようなテレビ番組のように、

列車がロボットに変形して悪と戦うようなロボットの研究ではなく、

AIを搭載する、小型の電車、[ロボ電]を開発して、

目的地までの、レールのポイント切り替えも、搭載されているAIが

自ら行うことで、複数の路線を自由に走り回ることができ、

乗客は、出発地から目的地まで、乗り換えることなく、

座って行ける乗り物を開発するという研究だった。


具体的言うと、短い間隔で、駅を沢山つくり、そこに1人~6人乗りの

小型列車[ロボ電]を、タクシーが順番待ちをしているような感じで

数台ずつ並べておくのだ。


お客さんは、先頭に止まっているその[ロボ電]に乗り込み、

行き先を指示するだけで、後は、AIがルートを自動的に選び出して、

目的地まで運んでくれるというシステムだ。


駅まで行かなければならないし、目的地も最寄りの駅から歩かなければ

ならないが、その間は一種の無人タクシーのようなものになるのだ。


そんな快の研究発表に対し、


「今や、自動運転の車が、世界中で開発中なのになぜ、

いまさら自動運転の電車なんだ?」


「地方では単線の路線が多いのだ、それを複線にするには

多額の設備投資がかかるぞ。

逆に都会では、ラッシュ時には、満員電車が10両や15両編成で、

2~3分おきに走っている状態だ。

そんな所に1人乗りの列車を走らせたら、

よけい混雑して乗客を捌ききれなくなるだろう」


「時代に逆行した研究だ」


などと、教授陣は、辛辣な意見だった。


***


(確かに車の自動運転の方が便利だよ、でも、その自動運転の車に

免許返上して持っていない、お年寄りが1人で乗れるようになるまで、

あと何年かかるんだよ!それまでに、じいちゃんが、

いなくなっちゃうじゃねえか・・)


快は、じいちゃん子だった。

じいちゃんは、小さな牧場を営み、小岩井ブランドの牛乳をつくっている。

じいちゃんは、いつも大きなトラクターを運転し、快が遊びに行くと、

今度は、4WDに乗り換えて、いつもどこかに連れて行ってくれる

行動派のとてもカッコイイ、じいちゃんだった。


ところが数年前に怪我をして、トラクターを降り、

その後、自動車の普通免許も返上して

4WDを手放してからは、急にボケはじめたのだ。


もちろん、自動車免許の返上と、ボケの進行具合が医学的に

根拠があるのかどうかは、快にはわからない。


でも、じいちゃん子の快としては、少しでも早く自動運転の乗り物をつくり

じいちゃんが、1人で出かけられるシステムをつくりたいのだった。


自動運転の技術はどんどん進歩しているし、おそらく数年後には、

高速道路を走る先頭のトラックだけに運転手が乗り、

その後ろを追走するトラックは自動運転になるような

コンボイタイプの自動運転が開始されるだろう。


次に、全てのトラックの高速道路での自動運転、

そして乗用車の高速道路での自動運転が進められていくだろう。


しかし、一般道で、しかも免許を返納した老人が、1人で移動できる

自動運転の車の普及となると、かなり時間がかかるだろう。


(それじゃあ、間に合わないんだ・・)



****



「うう、頭いてー、やっぱ、飲みすぎたか・・」

スマホのアラームでなんとか起きた快は、洗面所に向かった。


そこには、同居している妹の真衣20才がいた。

「おはよう、カイ兄ぃ。ねえ、なんか急に髪伸びてない?また、切ったげようか」


都会に憧れ、わざわざ、都内の美容学校に通うため、去年から快の部屋に

転がり込んだ真衣は、来年の春にもう、卒業なのだが、

明るく、愛想も良いので、この春に行ったインターン先の美容室で

早々と内定をもらっている。


「お、おう、お前、なんか綺麗になったな」

笑顔で話しかけてくる妹に、そう返事をすると。


「・・・カイ兄ぃどうしたの?熱でもあるの、そんな綺麗な言葉を

カイ兄ぃが吐くなんて!大学で何かあったの」と本気で心配してきた。


「・・昨日のプレゼンで、ボロクソ叩かれて少し落ち込んではいるけど、

なあ真衣、俺いつも、そんなに、汚い言葉を使ってるのか」


「うん、いつもはバカにハサミだの、小学生のガキか、だの・・」


「そうか・・それはすまん」


「え!カイ兄ぃが謝った!!真夏に雪が降るかも」

すごく失礼な事を言いながら、何やら騒いでいる妹は置いておいて、

顔を洗い、髪の寝癖を直して服を着替えた。


「あれ、カイ兄ぃ出かけるの?

今日は、大学もバイトも休みなんじゃなかったっけ」


「ああ、ちょっと研究室に顔を出してこようかと」


「なんだ、そのボサボサの髪、切ってあげようと思ってたのに、

じゃあ帰ってきたら切らせてね」


「ああ、わかった」

そう言いながらアパートの外へでた快はしばらく固まった。


「な、なんだ、ここは?」

そこは、いつもの見慣れた住宅地ではなく、

巨大な立体駐車場のような感じで5mぐらいの高さに天井があり、

6mぐらいの通路を挟んで、両側ズラっと家が建ち並んでいた。


そして、昨日玄関に、駐めたはずの自転車が無かった。


快の住むアパートは駅から歩くと30分近く掛かるのだ。

(昨夜、カギを掛けるの忘れて盗まれたか、妹のもないや)


快は急いでアパートに戻ろうと振り返ると、今、出てきたアパートも

見慣れているアパートではなかった。

(どういう事だ???)慌てて、快はドアを開ける。


「あれ、カイ兄ぃ、忘れ物?」


「自転車が盗まれたみたいだ・・」


「??自転車って??」妹の真衣は不思議そうにドアの外を覗く。


「ええ、ちゃんとあるじゃん、魔転車」と真衣が指さす先には

タイヤの付いた台に立ち乗りする、セグウェイのような乗り物が

2台置いてあった。


「へ、魔転車?」

快が不思議がっている横で、サンダルを履いて出てきた真衣が、

赤色のセグウェイに似た、魔転車に乗りスーと回りを一周して戻ってくる。


セグウェイと違い、左の脇に棒があり、それを微妙に操作しながら

動かすようで、早さはジョギング程度だった。


「うん、別に故障もしてないみたいだし、カイ兄ぃのはもしかして魔力切れ?

そういえば、魁兄ぃ魔力が出てないみたいだけど、どうしたの」


「魔力?」


***


「ええ、魁兄ぃじゃなくて、快兄ぃなの?」


どうも妹と話しがかみ合わないので、もう一度部屋に戻り、

いろいろと聞いてみると、ここは日本国ではなく日元国という世界だった。


ファンタジー小説によく出てくる、パラレルワールドのようなのだ。


「へえ、快兄ぃの世界の私(真衣)は、美容じゃなくて、看護の専門学校なんだ。

いや、実は私もどっちに進か、高3のギリギリまで迷ってたんだよ、

だってどっちも他人を元気にさせる仕事じゃない。

で、私は他人を元気にさせるなら、綺麗にして元気にさせたいなと思って、

こっちを選んだんだけど、そっか、向こうの私は看護師を選んだか、

さすが私、エライ、エライ」

そう言いながら、真衣は快の髪を切っていく。


結局、真衣の練習台を兼ねて、快は髪を切ってもらいながら、

こちらの世界の話しを聞いていた。


こちらの世界、日元国では、5歳になるとみんな、

朝起きると平均2400MPの魔力が貯まりはじめるのだという。


魔法には7つの色の光りがあり、小学校の間に、

自分の好きな色の魔力を伸ばしていくのだという。


真衣は白色(医療系)や黄色(真・善・美)が好きでその2色を中心に

魔力を伸ばしていって、高校の終わり頃に、

美容師の方に進むことに決めたのだそうだ。


「魔力モーター電車による、自動運転車両だって」


こちらの魁は、銀色(科学系)の魔力を伸ばし、

快と同じ、津田沼駅近くにある中堅の工業大学に進学し、

ロボット工学を専攻して、大学院には進まず、

そのまま、愛知県に本社のある自動車メーカーに入社し、

東京本社の研究部門に配属されているのだという。


「これは、すごい・・」


髪を切ってもらった後、昨夜、自分が寝たはずの、魁の部屋を

もう一度よく見学させてもらった。


そこには、快が理想とする、自動運転車両の資料が山積みされていたのだ。


常時電力を必要としない魔力モーターが発明されたことで、

電車と自動車は融合された形で発展しているようで、

大雑把に言うと、長距離の大型貨物等は魔力モーターの貨物列車、

短距離の小型貨物は魔力モーターの軽トラックで、

中距離は臨機応変といった感じだった。


「ねえ、快兄ぃ、せっかくだから、この世界を案内してあげよっか、

私もちょうどブクロ(池袋)に用事があるし」


「お、おう」


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