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カイと偉人と日元国  作者: ベガ爺
第一章 幕末編
27/55

027 鉄道と文明開化、その一

[第一回、鉄道事業説明会]という看板がだされた、旧江戸城の大広間には、

100名近い事業家が集まり、熱気にあふれていた。


「え、複線分の土地を買えば、もう複線分の土地を無料でいただけるのですか?」



「ええ、そうです。ただし、それには条件がありまして、都心部では、500m置きに、

都心から10kmまでは800m置きに、20kmまでは1000m置きに、30kmまでは、

1200m置きに、必ず駅を設置してもらいます。

そのかわり、ホームや駅舎、駅前広場の土地も国が無料で提供します。

それと、その駅に関しても条件がありまして、駅前の土地の4分の1を

国有地とさせてもらいます」

{それ以外にも、その地域の地方自治体と協力して、線路の両側に15mずつの

側道用の土地も無料で提供した}



「あの、本当に、その石炭を使わない、魔力水晶蒸気機関車を、この値段で

供給してもらえるのですか」



「ええそうです。現在、横須賀の製鉄所で製作し、実用試験を繰り返していますが、

舶来品に負けない性能を示していますよ。

さらにそれと平行して、蒸気に変換して、シリンダーを動かすのではなく、

魔力で直接車輪を動かす、魔力水晶モーターも開発中なので、

それが完成すれば、そちらの魔力電車も、魔力蒸気機関車と変わらない値段で

供給する予定です」


「それはほんまでっか、魔力蒸気機関車を輸入ものの半額で売ってくれるだけでなく、

魔力電車なるものも同じような値段で、買わせてもらえて、しかも駅前の4分の1だけ

国有地で、駅と駅広場の土地まで無料なんて、あまりにも大盤振る舞いやないですか」


「これからは、人や物が安く、早く、動くことで付加価値が生まれるような時代になるのは、

品川―横浜間の鉄道の様子を見ても明らかでしょう。

つまり、鉄道は宝の山になるのです。

もし、その鉄道を外国人の資本家が施設すればその利益は全て、外国に流れてしまうのです。

そしてそれは、植民地支配の有効な手段です。

そんなことになるのなら、例え政府が多少、赤字になっても、

日元国の資本家に利益を上げてもらいたいのです」


「なるほど・・・よっしゃ、うちらは申請させてもらいますわ」


「我が社もお願いします」、「わてらも」


10人配置した申請用窓口が、あっという間に埋まり、慌てて、窓口を5つ程

増やしているが、申請希望者が全て申請するまでには当分時間が掛かりそうだった。


「思った以上の反響でよかったですね」開が、鉄道大臣の井上馨に声をかけた。


「先ほどの、開殿の[鉄道から見る未来社会とは]の講演のおかげですよ、

ありがとうございます。

しかし、郊外の駅の周りの土地を、住宅地に造成して建売住宅を販売し、

その住宅を購入した人に毎日乗車してもらえるように、通勤・通学定期券なるものを

発行して、乗客を増やしたり、都心のターミナル駅にデパートを造り、郊外の終着駅

には、動物園などの遊園地を造って集客するというアイデアには驚きました。

私が留学していたロンドンでもまだ行われていない商法ですね、

いやはや、開殿の慧眼には、感服です」


「全部、阪急の創始者、小林一三さんのアイデアなんですけどね」

誰にも聞こえないような小声で呟く。



西郷さんたちの起こした反乱から5年、明治維新から数えると7年が経っていた。


戊辰戦争や、これから起こるはずだった西南戦争が片づき、膨大な戦費を

使わなくて済んだ上、串木野金山などの再生も順調なおかげで、

前世のように、100万ポンドもの資金をイギリスから借りる事もなく、

東京ー横浜間、大坂ー神戸間の鉄道が、一昨年と去年に相次いで開通したのだ。

{しかも複々線で、さらにもう複々線分の用地も確保してある}


そして開の発案{実際は、海の懇願}で、幹線は8路線(複々々々線)、

支線でも原則4路線(複々線)で日元国中に鉄道が建設されることになったのだが、

それでも、大都市近郊の鉄道網を国が全て建設する費用はなかったのだ。


そこで、鉄道運営に興味のある事業者や起業家を集めて、

鉄道ビジネスへの参加を呼びかけたのだった。


また、鉄道建設は、廃藩置県等により、家禄を失った武士たちの失業対策としても

非常に有効だということがわかったのだ。


鉄道建設がスムーズに行くためにと、開たちが開発した魔力水晶をコーティングして、

さらに魔法を付与した、刀や槍は、スパスパと木が切り倒せたり、

ゴリゴリと岩に穴が開けられるのだ。


武士たちにとっても、自分の剣術が人を殺めるのではなく、文明開化の象徴とも言える

鉄道建設に活かされる事がわかった上に、収入もかなり良いため、

積極的に、建築工事に携わるようになったのだ。


その結果、東海道線や東北本線、山陽本線など、日元国の幹線鉄道網が、

すごい早さで建設されていくのだった。{前世では、東北本線や山陽本線は民間が

建設した後に国有化されているが、資金に余裕があるため、最初から国が建設していた}


特に圧巻なのが、斎藤一から伝授された、三段突きを、連打する

トンネル切削軍団で、織田信長の鉄砲隊のように交代しながら、

直径6mものトンネルを1日で、100mも掘り進むのだ。


おかげで、前世では、100年後に開通するような、新幹線用の新丹那トンネルや

新清水トンネルなどが、明治の終わり頃には相次いで開通し、

大正時代には、なんと、関門トンネルや青函トンネル、さらには、前世では橋になっている、

明石海峡や鳴門海峡にもトンネルが開通する事になるのだった。


また、建設材料にも革新が起きた。

最初は、機関車や客車はもちろん、レールや枕木も全てイギリスからの輸入だったが、

まずは、枕木の国産化を目指して、魔法で圧縮して表面に魔法水晶をコーティングすると、

とんでもない性能の枕木になったのだ。


それをレールに応用すると、硬度や粘性などの性能は、鉄の輸入レールの2倍なのに、

重さは半分で、温度変化で伸び縮みもせず、1年に1回、コーティング水晶に魔力を

注入し続けるだけで、摩耗もしないとう、ものすごい性能のレールが

できてしまったのだった。


さらに、都市部での鉄道建設の最大のネックとなる、建設用地の確保も、

家屋を基礎ごとスライドさせる魔法が開発されたことで、みな気持ちよく移転

してくれるようになり、順調に鉄道建設が進んでいるのだった。


その結果、山手線は複々線になり{のちに快速運転と24時間運行されるようになった}、

前世では、実業家の高島嘉右衛門が中心になった、日元国で、初めての私鉄「日元鉄道」が引いた

上野ー青森の東北線、上野ー新潟の上越線、上野ー水戸の常磐線なども、今世では国が建設している。


それらの路線は、旅客用に複々線、貨物用に複々線の計8本が用意されただけでなく、

前世では、用地節約のため、日暮里から、ぐるっと曲がって東に向かう常磐線は、

上野から、入谷、三ノ輪を通って南千住に向かう{前世の地下鉄日比谷線}事となった。


同じように東北本線は、大宮まで上越線と並行するのではなく、日暮里から分岐して、

前世の新交通システム(日暮里ー舎人)のルートを通って、岩槻ー蓮田ー久喜から、

前世の東北新幹線路線を通るなど、かなりショートカットで直線的な路線になったため、

蒸気機関車の時代から高速運転されるようになるのだ。


それに伴い、高島嘉右衛門たちが、東北本線ではなく都市近郊鉄道に

出資してくれるようになり、その分、資金に余裕が生まれ、

前世以上に発達した私鉄網が形成されていくことになるのだった。


**1番の受付の説明側に開も入った**


「どの辺りに建設予定ですか」開の質問に

殿様のような身なりの紳士が、

「浅草辺りから、日光まで路線を引こうと思っております。

それと、春日部辺りから分岐して、熊谷や佐野、足利にも伸ばしたいんじゃが、どうかのう」と

返答した。


「それはいいですね。

ただ、浅草には、成田山から船橋や市川の海岸沿いを通って路線を

引きたいという事業者がいますので、いっそのこと上野に入って来ませんか?

この計画図だと、北千住から、ぐるっと隅田川ぞいを回って、

浅草に入ってますが、それより西新井から真っ直ぐ町屋を通って

日暮里へ入り、そこから地下を通って上野の山の中に地下ターミナル駅を

作れば、路線もかなり短くて済みますよ。


それと春日部までは最初から複々線で申請してください。

そうすれば、もう複々線分プレゼントしますから、8路線分が確保できます。

8路線分は多すぎると思うかも知れませんが、各駅運転と快速運転に分離し、

さらに、路線沿いの農作物等を運ぶ、貨物列車と、旅客列車に分離し、

24時間運行できるように、予備の線路を考えるとするなら、決して多くはないですよ。


あ、いっそのこと、草加から、野田の方にも分岐線を建設しませんか?

野田の醤油会社の人たちから、柏からの鉄道の分岐延長を懇願されているのですが、

なかなか手が回らなくて、困っているのです。野田醤油の運送も手がければ、

安定的な鉄道収入になりますよ」


「それはありがたいんじゃが、最初の資金がのう・・・」


「それなら、新しく出来た長期投資銀行の鉄道建設資金融資課の人を紹介しましょう」


「うーん、それでも、多額の資金が・・」殿様社長が悩んでいると、

斜め後ろに控えていた、利発そうな少年が


「殿様、この話は絶対乗るべきです」と意見を言ってきた。


「おおそうか、嘉一郎がそう言うなら、そうしようかのう、

但し、お前が中心になって計画を立てるのじゃぞ」


「はは、お任せください」

それが、前世では東武鉄道や南海鉄道など多くの鉄道敷設に関わり、

後に、「鉄道王」と呼ばれる事になる、根津嘉一郎と開との最初の出会いだった。


その後も、開の{実際は、勾玉内の海の意見}、八面六臂の活躍?で、


後の京成電鉄は、

前世の東武鉄道と入れ替わって浅草から出発し、京成高砂まで8路線(複々々々線)で進み、

そこから前世の北総開発線(複々線)と本線(複々々線)に分岐し、

本線は前世よりも、1km程陸側を通って、津田沼で千葉線(複々線)と分岐となった。


後の東武東上線は

池袋から朝霞まで8路線(複々々々線)で進み、朝霞から川越まで6路線(複々々線)、

川越から坂戸まで、4路線(複々線)となった。


後の西武池袋線は、

前世より、1km程北を通り、池袋から所沢まで8路線(複々々々線)、

そこから川越線(複々線)と飯能線(複々線)に分岐となった。


後の西武新宿線は、

新宿から小平まで8路線(複々々々線)、そこから拝島線(複々線)と

本線(複々線)に分岐となった。


後の京王電鉄京王線は、

新宿から調布まで8路線(複々々々線)、調布から相模線(複々線)と、

本線(京王八王子まで複々線)となった。


後の京王電鉄井の頭線は、全て複々線となった。


後の小田急小田原線は、

新宿から町田まで8路線(複々々々線)、町田から小田原線は厚木まで6路線

(複々々線)、厚木から小田原まで複々線、江ノ島線も複々線となった。


後の東急田園都市線は、

渋谷から二子玉川まで8路線(複々々々線)、二子玉川から溝の口まで6路線、

(複々々線)溝の口から中央林間まで、複々線となった。


後の東急東横線は、

渋谷から横浜まで全て8路線(複々々々線)だが、自由が丘からは、

前世より少し北側を通り、新横浜を通るようにして横浜まで敷かれる事になった。



後の東急目黒線、東急池上線、大井町線、多摩川線は全て複々線となった。

{特に大井町線は、大井町で終わらず、京急線と交差し、大井埠頭から将来は、

お台場まで延伸することになる}


後の京浜急行電鉄は、

品川から横浜まで8路線(複々々々線)、横浜から金沢八景まで6路線(複々々線)、

金沢八景から掘ノ内まで複々線となった。


その他にも、筑西から常総や守谷を通って取手を結ぼうとしていた、

後の関東鉄道に、守谷から直接東京を目指す{前世のつくばエクスプレス}

路線(8路線)を引くように働きかけた。


これらの設備投資の結果、後世の海の世界のように、ぎゅうぎゅう詰めで、

背骨が折れるとまで言われた、殺人的満員電車が無くなるだけでなく、

極めて早い段階での建設で減価償却が終わった{10年後には魔力モーターが開発され、

電気代も不要になる}ため、普通運賃で、海の世界の半額、通学定期ならさらにその半額なので、

4分の1の料金で移動できる世界が、やがて到来することになるのだった。


(これでいいか海)


(ありがとう、開、本当にありがとう!ああでも、そんな世界を俺も体験したかったな)


寂しそうに呟く海に、少し同情していると、


(よし、じゃあ続いて関西圏にいってみようか)と

勾玉内から元気な声がしてきた。


(お、おう、立ち直り早いな海・・・)


開は五代友厚さんたちがいる、大坂の起業家のブロックに説明に回った。




大学を卒業して、関東に就職した頃、最初に驚いたのが、通勤ラッシュの凄さでした。

今でも、「次の列車は短い10両編成です」とのアナウンスを聞くと、「どこが短いんじゃー長いわ」と

一人でツッこんでいます。小説の中だけでも、楽に通勤したいと思って描きました。次回は関西編です。

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