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カイと偉人と日元国  作者: ベガ爺
第一章 幕末編
24/55

024 閑話1 サムライスポーツ

魔法が使える世界なら、こんなスポーツをやってみたいなと思って書きました。

ロサンゼルス空港の到着ゲートをくぐってロビーに出ると、

今年から女子大生になり、これまでの知的美少女から、

知的美人へと変貌しつつある、従姉のナタリー・バードが、

カイに気づき、手を振ってくれた。

その隣には、ナタリーの父親のマイケル・バード伯父さんがいた。


「久しぶりだけど、元気そうだね、カイ君」


「はい、マイケル伯父さんもお元気そうで、ナタリー姉さんは、

一段と、綺麗になりましたね。しばらくお世話になります」と

2人とハグをしながら挨拶をかわす。


****


マイケル伯父さんが運転する車は、片側5車線のフリーウエーを

伯父さんたちの住むビバリーヒルズに向かって快適に走っている。


「え、ハーバードから、授業料免除で奨学金まで付いてる

オファーが来てるの?すごいじゃない、私なんか、UCLAの

授業料免除が最高のオファーだったわ、

授業料免除で、奨学金までもらえて、何を悩む必要があるのよ」

助手席のナタリーが後ろを振り向きながら声を荒立てる。


「でも、日元人に比べれば、たいしたことのない魔力量で、

こんなに優遇されていいのかなって・・」


「いいのよ、元々魔力保持者を、魔女狩りと称して火あぶりにして

殺しまくった欧米人が悪いんだから、今更、魔力保持者を増やしたいのなら、

私達のように魔力持ちを優遇するのはあたりまえでしょう。

別に悪い事している訳じゃないんだから、使える武器は、

なんでも使わないと損だよ、カイ」


僕らのご先祖さまは、イザベラ・バードという女性の旅行作家で、

明治の初期に日元国を周り{前世では、40代後半で来日していたが、

今世では、20代後半で来日していた}その時に、リョウマ・サカモトと

カイ・アラミチという2人の男性に出会ったのだという。


そのどちらの男性と、そう言う関係になったのか分からないのだが、

帰国する船の中で妊娠していることが分かり、帰国後に生んだ女の子は、

魔力持ちだったそうで、その女の子が、僕らの曾々ばあちゃんだ。

それから代々、バード家には、魔力保持者が生まれているのだった。


ただ、代を重ねるごとに魔力量は減ってきていて、従姉のナタリーは

アメリカ人としては、高い魔力量だが、日元人と比べると、

10分の1ぐらいの魔力しか持っていなかった。


ところが僕の場合、親父が日系の女性と結婚したためか、

普通の日元人レベルの魔力を持っていて、これはアメリカ人としては、

トップクラスなのだという。


そのため、両親は、明治時代に日元国で活躍し、ご先祖さまとも、

関係があったかも知れない、伝説の偉人と同じ“カイ”という名前を

僕に付けたのだそうだ。


日元国には、魔力モーターや魔力電池を使った車やパソコンなど、

欧米のメーカーではとても太刀打ちできない高性能な、

さまざまな製品が作られている。


魔力保持者は、肉体強化魔法や、治癒魔法などが使えるだけでなく、

それらの高性能な魔力製品をも、自由に使いこなせるのだ。


そのことが、羨望とやっかみの対称となり、ハイスクールでは露骨に、

すり寄る者と陰険な嫌がらせをする者に別れ、日々、やりづらい生活を

送っていたのだった。


このまま奨学金をもらってハーバードに進んでも、魔力保持者に対する

羨望とやっかみの中での生活が続くのだろう。でも、日元国なら・・


****


カイ・バードは、ハイスクール時代に、母方の実家や親戚が住む日元国へ、

2ヶ月程、短期留学をしたことがあった。


カイの魔力量は、アメリカではトップクラスだといっても、日元国では、

普通のレベル3の魔力量ということで、ちやほやされることもなく、

普通の留学生として扱われたのだ。


「へえ、アメリカ人なのに魔法が使えるんだ、すごいじゃん。

お母さんが日系人なんだ、どうりで・・」クラスメイトたちはそう言うと、

後は普通の友人として接してくれたのだった。


普段、羨望とやっかみの中で過ごしていたカイにとって、その生活は

ホッとする一方で、有名スターから、一般人に格下げになったようで、

少し物足りなさも感じる2ヶ月だった。


「じゃあさあ、サムライスポーツも、できるんじゃない?」そう言うと、

日元国のクラスメイトたちは、放課後、カイを部活動に誘ってくれたのだ。


日元国では、フェアネス精神というか、魔法が使えない欧米人と対等に

スポーツを楽しむために、野球やサッカーやテニスなど、欧米発祥のスポーツでは

肉体強化魔法も含めて、魔法は全面禁止でプレーをするのだが、

日元国発祥の剣道、柔道、弓道、長刀、空手や合気道など、そして、

それらを統合した魔法将棋では、魔法を自由に使っていいことになっていて、

魔法を使えない、欧米人ではありえないような、スピードやパワーを駆使して

プレイされていて、その圧倒的な迫力から、外国からは、“サムライスポーツ”と

呼ばれるようになっていた。


カイが留学初日に連れて行かれた部活は、魔法将棋、海外ではサムライ・チェスと

呼ばれているスポーツで、元々は明治時代に陸軍の小隊の動きを練習するための

模擬戦から始まったものだという。


プレイヤーは、東洋で言う将棋、西洋のチェスのような名前と武器が与えられるのだ。

具体的には、

王将キング1人:武器は大太刀と魔法砲と軽機関魔銃

飛車クイーン1人:武器は、魔法砲(バズーカ砲のようなもの)と太刀

角行ビショップ1人:武器は、ライフル魔銃と太刀

金将ゴールドナイト2人:武器は、軽機関魔銃と太刀

銀将シルバーナイト2人:武器は、軽機関魔銃と太刀

桂馬ポーン2人:武器は、長刀と弓

香車スピア2人:武器は、槍と二刀

の11人で、敵味方合わせると総勢22名が50m×100mのフィールドで、

攻守に分かれて、9回の表裏まで行われるのだ。

{戦闘5分、攻守入れ替え準備5分、戦闘5分の繰り返し}


勝敗は、守っている側の王将に攻撃を加えた回数{3回斬られるか、

撃たれると攻守がチェンジする。ただし攻撃時間は5分}で、

点数{斬ると3点、撃つと1点}が与えられるのだ。


カイは、初めてなので、全体の動きが見られる、王将役をやらせてもらったのだが、

最初は、その迫力に圧倒され、まともに動くことさえできなかった。


魔法将棋はもともと日元国陸軍の模擬戦から来ているので、攻撃側11人が、

本当に殺気を放ちながら、王将である自分を斬りに向かってくるのだ。


もちろん、その間には、味方のプレーヤーがいて、カイを守ろうと

動いてくれているし、{敵、味方とも、3回撃たれるか、斬られると、その回は退場になる}

さらに言えば、訓練用の刀や砲弾なので、斬られたり、弾が当たっても、

蛍光塗料の印が付くだけなので、少し衝撃があるだけで死ぬことはないのだが、

それでも、敵が走り込んできて、自分に刀を向けてきて、初めて斬られたときは、

本当に斬られた感じがして、しばらく動けない程だった。


また、カイ以外は全て日元人なので、高校生といえども、

みんな、かなりの魔力を持っていて、それらを使いながら、

空中を飛んだり、ありえないスピードで斬り合いをしたり、柔道の投げ技や、

空手の正拳や回し蹴りを放つなど、これまで、映画やゲームでしか

見たことのないような、すばらしいプレイをするのだった。


その日から、カイは魔法将棋というサムライ・スポーツに夢中になった。

授業が終わると、毎日部活に顔を出し、いろんな技を教えてもらったのだ。


飛行魔法は、かなりの魔力を使うので、カイの魔力量だと、すぐに枯渇してしまう

そこで、空中に見えない足場を作り、そこを踏み台にしながら、空中を走る、

ステップ魔法や魔力を節約するために、刃だけに魔法を這わせる方法。


そして肉体強化魔法も、足や腕などにピンポイントで掛ける方法などを

教えてもらい、ひたすら、練習をしたのだった。


その甲斐あってか、留学の最後の頃には、クラブ内でも、

そこそこ上位の選手となり、練習試合では、

飛車役をさせてもらえるようにまでになったのだった。


アメリカに戻ってからも、魔力パスポートにダビングさせてもらった、

“一人でできる、魔法将棋の練習”のビデオを何度も見ながら、

さらに、上級選手が使う、魔法の刃を飛ばす方法や、小さな魔法シールドを

瞬時に、ピンポイントで張る方法をマスターしていったのだ。


類は友を呼ぶもので、そんなサムライチェス好きのカイは、

やがて同じ街のサムライチェスチームに呼ばれ、{魔法が使えない人が

ほとんどなので、アメフトやバスケのように各校に一つのチームはなかったのだ}

そこでの活躍が、多くの人の目にとまり、やがて州代表チームに選抜され、

そして昨年にはなんと、ナショナルチームの練習にも参加させて

もらえるようになっていたのだった。


****


片側5車線のフリーウエーが渋滞しだした。

「これ、もしかしてスタジアムに向かう車ですか、試合は明日なのに・・」

遠くにスタジアムが見えていた。


「午後から、相手チームの公式練習があるのよ、多分、明日のチケットが

取れなかった人たちへのサービスね、カイも寄る?」


「いえ、相手のデータは何度も見て覚えましたから、予定通り明日の9時に

スタジアム入りで大丈夫です。今日は、そのまま伯父さん家で

少し汗を流すくらいでやめておこうかと思ってます」


そう、明日、アメリカチームは日元国のプロチームと親善試合を行うのだが、

若手に国際舞台の経験を積ませるために、なんとカイも飛車役として、

途中からだが、出場することになったのだ。


「相手は阪神タイガースだっけ?どんなチームなの」


「ナタリー姉さんも行ったことがある、京都や大阪など、関西と呼ばれる地域を

ホームにしている名門チームだよ。ずっとトップリーグに入っていて去年は、

21年ぶりに総合優勝した上に、巨椋池杯でも優勝してるんだ」


日元国では、有名な試合としては、トップ12チーム

{アメリカのメジャーリーグにあたるリーグで、マイナーリーグにあたる、

あすなろリーグ24というのもある}の年間130試合を行うリーグ戦と、

オープン参加{プロチームの上位以外は予選有り}の

魔力模擬戦発祥の地で行われる巨椋池杯がある。


「ああ、なんか聞いた事あるわ、今年は、さらに二刀流のルーキー・オオタニが

入ったチームでしょう?でもなんで、二刀流でそんなに騒がれてるのよ、

カイだって、時々二刀使ってるじゃない」


「いや、ナタリー姉さん、二刀流の字が違うよ、彼は、剣だけじゃなく

魔法砲の使い方もすごいんだよ、それで、二頭の竜がいるみたいだから

二頭竜と呼ばれているんだ」


魔法砲とは、テニスボール程の蛍光塗料弾を撃ち出す道具で、撃ち出した

弾のスピードは、プレーヤーのセンスによって決まり、トッププレーヤーで

平均250km程なのだが、オオタニが撃つ弾は、300kmを超えるのだ、

しかも、カーブやシュートと言って、右や左から曲がって来たり、

フォークやホップと言って上から落ちてきたり、下から浮き上がって来るのだ。

その映像を魔法パスポートで見せてあげると、ナタリー姉は本気で

心配しはじめた。


「・・カイ、死なないでね」


****


それは、一方的な試合展開だった。

先攻を選んだ、カイの所属するアメリカチームの攻撃は、

敵の王将に一発の弾も撃つことが出来ずに、2分程で全員斬られて

チェンジになり、守りでは、逆に2分程で、半数以上が斬られて、

守備に穴が開き、王将が3回斬られてしまうのだ。


それでも、スタジアムを埋めた10万人の観客は大喜びだった、

なにせ、魔法を使って人間が飛んだり跳ねたりしながら、

砲で撃ち合ったり、剣で斬り合ったりするのだ。

しかも、吹っ飛ばされ轟音と共に、地面に叩きつけられた選手が、

すくっと起き上がり、土をはらうと、再び戦いに向かっていくのだ。

そのすさまじい迫力とタフさに、人間のすごさを感じているのだろう。


「大丈夫ですか」控えのカイは、チェンジ休憩のときに、キャプテン・

カエサルにスポーツドリンクを渡しながら尋ねる。


「オオ、サンキュー、ところで気づいているかカイ?」


「彼らが利き腕と逆の腕で、刀や砲を構えていることですか」

カイがビデオで見た、飛車の掛布選手、角行の馬薄選手、金将の真弓選手、

岡田選手たち、彼らはみんな右利きだったはずなのに、左で剣を振っているのだ。


「いや、それもあるが、彼らはおそらく、スピードアップの魔法を

使ってないみたいだよ」


「ばかな、それであのスピードなんですか」


「ああ、それに、王将役のルーキーオオタニの魔法砲はマジでやばいぞ、

とんでもないスピードで飛んできて、ありえない角度で曲がってくるんだ・・」


「そんな、キャプテンたちが手も足も出ないなんて・・」


「まあ、本場のレベルのすごさを味わえただけでよしとしよう。

カイも次の攻撃から入ってもらうから、準備しておけよ」

そう言うと、キャプテンは少し悔しそうな顔を、一瞬見せたが、

微笑みながら、グランドに戻っていった。


電光掲示板には、6回の表を終わって、45対0の数字が示されていた、

普通の試合なら、もう逆転は不可能なので、コールドゲームになるのだが、

あくまでも親善試合なので、9回表の、カイたちの攻撃まで続けられるのだ。


「くそ、ぜったい、本気にさせて、1点でも入れてやる」

カイは静かに闘志を燃やした。


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