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カイと偉人と日元国  作者: ベガ爺
第一章 幕末編
22/55

022 魔法と錬金術

横須賀製鉄所から船で大坂に向かった開は、2日後、大坂で、海援隊商社部門の

岩崎弥太郎たちと会い、今後の海運事業についての打ち合わせを済ますと、

五代友厚と交流のある鉱山技師たち10人にも同行してもらいながら、

それからまた2日かけて、薩摩の串木野に向かった。


薩摩半島の太平洋に面した串木野一帯は、鎌倉時代から金が採掘されていた

鉱山{芹ヶ野金山など}がいくつか存在し、江戸時代になっても、

薩摩藩によって採掘は続けられていて、一時期は7000人を超える鉱夫を

集めていたが、しだいに採掘量が減り、現在は休山中だったのだ。

{前世では、明治4年頃に生野銀山から水銀を用いる精錬法が導入されて復活し、

大正13年まで採掘された。ちなみに4km隣の羽島鉱山は昭和18年まで、

1km隣の、荒川鉱山では平成元年まで採掘されていた}


「本当に鉱山を魔法で再生するのですか」


「はい、実はレアメタルを創る時に、実験で少し金も創って、

観察しているのですが、3ヶ月たっても、鉛に戻ることはないようなので

成功したと思っているんです」と、

ポケットから自分で生成した、金貨を1枚取り出した。


「こ、これがそうなのですか、鉛から、金を・・凄すぎる

でも鉛から金が創れるのなら、わざわざ休山している鉱山に来なくても

よかったのではないですか?」


「ええ、僕もそう思ったのですが、天照さまに反対されたのです」


開は、鉛に魔子を注力し、原子核の陽子や中性子、そして電子を増やして

金にする実験に成功してからすぐに、天照さまに、この魔法で鉛から金貨を

大量に創る計画を説明したのだが、大反対されたのだ。


この世界の地球では、各鉱物の割合が決まっているのだという。


なので、鉛や銅などに、4次元世界から魔子を集めて電子などにして注力し、

大量に金を創ってしまうと、何が起こるかわからないのだという。


そこで、考えたのが、原子の移動だった。地球上の別の土地にある金の原子を

4次元に吸い上げて移動させて、別の場所に出現させるという方法だった。


では、どこに出現させるか?

それは休山している鉱山が一番よいのではないかという事になったのだ。


そして、なぜ串木野の金山なのか?

同じく平成元年まで採掘していた、佐渡の金山でもよかったのではないかと

思われるが、それは、吸収元の金鉱の位置と関係していた。


吸収先の金鉱として、一番手っ取り早いのは、他国の金鉱山から吸い取る方法だが、

それは、さすがに泥棒行為になるのではと考え、実行しないことして、

沖縄トラフや小笠原海域の海底熱水鉱床から吸い取る計画にしたのだ。


そのためには、いくら4次元を移動させるといっても

日元列島を越えて佐渡金山に移動させるより、

太平洋に面する串木野なら、目の前の海底から吸い取り、

移動させるイメージが、しやすかったからだ。


「海の底から、吸い取るのですか、それは、いくら開殿が魔法の天才でも

難しいのでは?」


「はい僕の魔力だけでは無理でしょうね、なので助人を呼んでいます」と

開が呟くと、まるでタイミングを計ったように、


「おそい、いつまでレディを待たせるのじゃ」と天照さまの声が聞こえた。


そこには、映画のロケで出番を待つ女優さんのように、

折りたたみ椅子に座った天照さまと、横に控え、なぜか団子の皿を持つ

お竜さん、日傘を支えている龍馬さん、それに案内役の人が立っていた。


「お、お待たせしてすみません」開が頭を下げると、

小栗さん、五代さん、岩崎さんそれに続く鉱山技師たちも頭を下げた。


「休山している鉱山への入山許可はもらっちょるきに、

すぐに入れるけど、どないする?」と龍馬さんの問いに、

すぐに向かいたい旨を伝えると、

「久しぶりに、妾をおぶって行くのじゃ」と天照さまが、わがままを言ってきた。


しかたなく開は、天照さまの前で膝を付き、天照さまを背負うと、

案内役の人に案内をお願いした。


その一連の動きに、みんなが驚いたのだが、天照さまが、上機嫌なため、

誰もが笑顔でぞろぞろと、その後ろを付いていったのだった。


****


坑道を50m程、奥に進と、30畳ぐらいある少し広い場所に出た。


そこからさらに、坑道は4本に分かれて、それぞれ数百mほど

掘り進まれているのだという。


「では、今日はこの右端の坑道にしましょうか」と、いうと

開は幅1m高さ2mぐらいのその坑道に、厚さ50cmぐらいの岩の壁蓋を

魔法で生成していった。


「天照さま、お願いします」岩の壁蓋の生成を終えると天照さまに声を掛ける。


「うむ」と天照さまは、その岩の壁蓋に手を当てる。


そのとたん、壁の向こうでドンという音がする。

「繫がったぞ」と開に声を掛ける。


一瞬で1000km先の沖縄トラフの海底熱水鉱床と壁の向こうの坑道が

繋がっているのだ。

イメージ的に言うと、坑道内だけが、海底鉱床になっているという感じだろうか、


「ありがとうございます」開はすぐに、天照さまに代わって壁に手を当てると

金の原子がこちらに残り、逆に外にある金の原子が坑道内に入り、

それ以外の砂岩は元の海底鉱床に戻るイメージで魔法を流していく。


(せっかく海底鉱床と繋げてもらっているんだ。確か、ゲルマニウムや

ガリウムなんかも含まれていたはずだから、それも残るイメージにしてみるか)


開は、1分程魔力を流し金の原子を移動させ続けた。

魔力の消費量が9割を超えたので、

「ふう、ここまでかも知れません、天照さま、解除を」と手を下した。


天照さまが繋がりを解除して、開が岩の壁を取り除くと、

そこには、少し海水を含んだ砂岩がぎっしり、詰まっていた。


鉱山技師たちが急いで、砂岩を調べ始める。

「こ、これは、すごい金の量じゃ、今までいくつもの鉱山を

渡り歩いて来ましたが、これほどの金鉱石ははじめてじゃ、

目測ですが、500いや1000グラム近いかも知れませんな」


ちなみに金鉱山の金の含有量は、1トン当たり、平均15グラムから20グラムで、

30グラムを超えると、優良鉱山と呼ばれる。{1981年に発見された、

世界最高水準の菱刈鉱山でも、試錐で290、平均50グラムである}


(おい、1000グラム近いって開・・)勾玉内の海があきれている


(ごめん、少しやりすぎたかな)

この半年間、儀右衛門さんたちとレアメタル創りに精を出していたので、

知らぬ間に、原子移動の精度が向上していたようだった。


開の魔力消耗が激しかったため、残り3本の坑道の創造再生は、明日以降に

持越しとなった。


****


近くの温泉宿まで戻り、開は相談を受けていた。

{ちなみに天照さまは、お竜さんと2人で温泉に入っている}


「今日はお付き合いいただき、ありがとうございました。

明日以降、残り3本の坑道の復活と、新たな鉱山の探索に向かいますね」

開は、1980年に発見される30km上流にある、菱刈鉱山への調査にも、

行っておこうと考えていた。


「技師達の話では、採掘設備も整っているので、鉱夫さえ集まれば、

すぐにでも再開できるそうです」小栗忠順がうれしそうに話す。


「じゃあ、計画通り、岩崎弥太郎さまの商船で大坂に定期的に運んでもらい、

五代友厚さまに造幣局の建設と運営管理をお願いしてもよろしいですか」

2人が快く引き受けてくれたので、

「よかった。これで、当分の間の、お雇い外国人の給料をはじめ、造船所の建設費

教育機関の建設費と運営費、それに鉄道の建設費が払えそうですね」と呟く


その後、予想通り、2ヶ月後から、この新生串木野鉱山から産出されて、

大坂で金貨に製造されたた金は、当時の価値で年間3億円にもなるのだった。


そして、明治政府の国家予算が1億2千万ほどの時代に国家予算の2.5倍の資金が

その後、50年間に渡って入り続けることになるのだった。


そのおかげで日元国は、国民に無理な増税を課すことなく、小栗の計画していた、

製鉄所、造船所、大学等の教育機関の設置、鉄道網の整備などが、

急ピッチで行われることになっていった。


「これも、開殿のおかげです。ありがとうございます」


「いえ、何度も言っていますが、僕のは後出しジャンケンなので、

小栗さまたちの計画が無ければ、どうなっていたか・・・。

それより五代さま、大坂の豪商たちの件はどうなっていますか」


「天王寺屋五兵衛殿をはじめ、なかなか難しいですね」


「そうですか・・」


江戸時代の経済は、江戸の金経済と大坂の銀経済の2つが共栄していた。


やがて、その金と銀を両替するための、両替商が力を持つようになるのだが、

なかでも、全国の米が集まる大坂に豪商が現れ、幕末頃には、天王寺屋、鴻池、

平野屋、加島屋(久右衛門)、加島屋(作兵衛)、米屋、升屋、炭屋、茨木屋の

影響力は凄まじいものになり、大名や幕府に莫大な金を貸すようになっていたのだ。


特に五代が所属する、薩摩藩などは、500万両もの藩債を積み上げ、

明治に元号が替わった現代でも、今後250年間かけて、藩債を返すという、

とんでもない長さの、分割払いの証文が存在していたのだった。


西郷さんや大久保さんは、それらの借金を帳消しにするためにも、

早急な廃藩置県を行うことを計画していた。


開も、現在のような2重外交を無くすためには、廃藩置県を行い、

中央集権国家になることには賛成であったが、豪商たちの救済も考えると、

大久保さんたちのように早急な廃藩置県には、反対の立場だったのだ。


そのため、五代さんに、豪商への、大名の借金の減額のお願いと、

その見返りとしての、製鉄所や造船所、鉄道事業への参入の資金援助や

優先権の交渉をお願いしていたのだった。


「わかりました。僕は、この金山の再生と、新たな金山の調査のために

もう2週間ほど、こちらに滞在しますが、五代さんたちは、明日にでも大坂に

戻っていただき、造幣局の建設計画の推進と、天王寺屋さまたちとの会合の

セッティングをお願いしてもよろしいですか」と、指示を出した。


「わかりました」


その後、開は、海からの情報を基に、小栗忠順さんたちと、

前世の日元国でもなく、開の住んでいた月本国でもない、

新しい形の廃藩置県の構想を話し合ったのだ。


そのキーワードは、民主、自由、信仰で、

これから生まれてくる全ての日元人は、平等な身分とし、

どの子もみんな、5才になれば、魔力が開花するようになること。


そして、日元神道とその親神様への信仰を失わない限り、一生

得られた魔力は増え続けること。


そして、日元人は、個々の努力によって自由に魔力と個性を発揮して

生きていけること。


また、開が持っている魔力パスポートのような物を日元国でも創り上げ、

龍馬さんのアイデアを基にして、{ありがとうポイント}のようなものを

感謝の想いで送信できるようにして、そのポイントの量に比例して、

県知事や、国会議員には、徳ある人物が選ばれるような、制度にもっていくこと

などを、夜遅くまで語りあったのだった。


****


「開、疲れたからおんぶじゃ」


「・・・天照さま、まだ宿を出てから、10分も経っていませんけど?」


「新婚旅行で、新妻が疲れたと言っておるのじゃ、ここは

優しく夫が背負うのが常識じゃろう」


「いやいやいや、新婚旅行じゃ無いですし、新妻でもないです・・」

開はそう呟きながらも、天照さまに近づき、おんぶして歩き始めた。


五代たちと分かれて、すでに2週間が経っていた。

あれから3日かけて、串木野金山を再生させ、その後2日かけて、菱刈山に移動して、

さらに3日かけて、鉱山の調査を行った所までは、順調だったのだが。


菱刈鉱山の調査も無事に終わり、かなり高品位の鉱山であることが分かったため、

その調査成功と鉱山技師たちへの労いも兼ねて、みんなで宴会をしているときに、

開が何気なく、

「龍馬さんが昔、寺田屋で襲われて怪我を負った後に、リハビリも兼ねて、

この付近の霧島山や日当山温泉に、お竜さんと、日本初の新婚旅行に来たんですよね」と話を振ったのが、きっかけだった。


それを受けて、少しお酒に酔っていた、お竜さんが、楽しそうに、その時の

2人だけの新婚旅行の話をしたのだ。


それがよっぽどうらやましかったのか、天照さまが急に、どうしても2人だけで

霧島山に登り、霧島温泉や日当山温泉に入ると言い出したのだった。


その結果、日程的には、まだ少し余裕があるということで、開と2人で

温泉旅行をしたのだった。


しかし、開と天照さまが、目を離した、6日間で、日元国は

再び、危機の時代に突入してしまうのだった。


****


開たちが、日当山温泉近くの鹿児島神宮から、天照さまの瞬間移動で、

江戸城の二の丸に戻って来た、1時間後。


サスケさんが、血相を変えて、明治天皇がお呼びだと伝言に来たのだ。


慌てて、明治天皇に謁見すると、陛下が震える声で、

「大久保利通公が、一昨日、暗殺されました。それと、西郷隆盛公が

1週間前に薩摩に呼び戻され、今朝、薩摩藩から、政府に宣戦布告の

文章が届いたのです」と語られたのだった。


「な・・・」それを聞いた開は暫く、固まったままだった。



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