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カイと偉人と日元国  作者: ベガ爺
第一章 幕末編
21/55

021 からくり儀右衛門さんと新無尽灯

開は、作業台の上にのっている完成したばかりの、魔力水晶で出来た

小指ぐらいの大きさの魔力電池10本に手をかざした。


すると、ほんの2~3秒で、透明な魔力電池が、淡く輝き出したのだ。


おお、と周りから驚きの声があがる。


「これで充電できたと思います。儀右衛門さんお願いします」と開が

儀右衛門さんに、次の作業に進むように促す。


{開の世界(月本国)では、陽子や電子は、クォークで出来ており

そのクォークは、光子が集まって出来ており、さらにその光子は、

4次元以降の世界と3次元の世界を自由に行き来する、霊子で出来ており

その霊子の中に赤や青といった名目上、色で区別している霊子が存在しており

その霊子のことを魔子と呼んでいた。

つまり、電子は突き詰めると、多々種類の魔子の内の一つだという考えが

浸透しており、そのために、魔力を補充する事を充電と呼んだり、

魔子を蓄えている機器を電池と呼ぶことに違和感はないのだ}


「え、もう充電できたのですか、さすが開殿ですな、ではさっそく」と

からくり儀右衛門こと、田中久重{のちの東芝創始者}は、

開と共同開発した、新無尽灯に、充電された魔力電池を1本差し込むと、

スイッチを入れた。


「おお、なんとこれは、昼間のような明るさじゃ、最初の無尽灯も

すごいと思ったが、この新無尽灯は、まさに奇跡のような明るさじゃ」

小栗忠順をはじめ、横須賀製鉄所に併設された研究所に集まっていた、

多くの技術者たちが感嘆の声を上げた。



元旦に元号が慶応から明治に変わり、明治天皇から五箇条の御誓文が

公布されて、半年が経っていた。


この間、龍馬さんや齋藤一さんたちの説得により、大きな内戦は起きておらず、

前世と違って、小栗上野介忠順さんも新政府に入っているので、

幕府時代に小栗さんが、手がけていた様々なプロジェクトは、

滞ることなく順調に進んでいた。


そして、そのうちの一つとして元治元年(1864)に幕府が、

フランスに建設を依頼していた横須賀製鉄所{前世では、幕府瓦解のため、

途中で資金が止まり、新政府に引き継がれるも完成は、明治4年(1871)だが、

それよりも4年も早く完成することになった}も、ほぼ完成の目途がたっており、

開は、儀右衛門さんたちと一緒に、その一画を使って、白熱電球ではなく、

一気に発光ダイオードを使った照明器具の開発を行っていたのだった。


「この新無尽灯が普及すれば、夜でも学問や仕事が楽にできますなあ、

これで日元国の生産性が飛躍的に上がりますぞ。これも開殿のおかげじゃ」


「いえ、私は前の世界で、学んだ事を伝えただけで、後出しジャンケンの

ようなものですよ。それよりも、私のつたない図を基に、これまでの無尽灯を

再設計して作り上げた儀右衛門さんたちのおかげですよ。

ただ、私のように魔力補充できる人間が、日元国に多数現れるのは、

まだ20年先ですから、そんなにすぐに生産性は上がりませんよ」


からくり儀右衛門こと、田中久重の技術力はすさまじかった。

元々、ゼンマイ式のからくり人形や、油を自動的に吸い上げて、

点灯し続ける、無尽灯を独自に作り上げていた人物だったので、

開が図を見せ、魔力や電気の説明をすると、立ちどころに理解して

しまったのだ。


さらに儀右衛門さんにも魔力適性があったので、開が魔力回路を浄化すると

たちまち、青色魔力で10万MP、銀色魔力では、70万MPもの魔力を

創造できるようになったのだった。


これからは、その能力も使って、新無尽灯や魔力電池の生産の責任者に

なってもらう予定だった。


(確かに、後出しジャンケン出しすぎだよな、しかも、レアメタルまで魔法で

合成してしまうんだからなあ)海が勾玉内であきれたように呟いている。


そう、最初は、この辺りにも、竹藪が沢山存在しているので、エジソンが

作りだしたように、竹をフィラメントとする炭素電球を使った照明器具を

考えたのだが、電球はやがて進歩して、蛍光灯になり、さらに将来は

発光ダイオードを使った、LEDの照明器具が開発される事になるのだから、

いっその事、はじめからLED照明の開発を目指そうということになり、

この半年間、儀右衛門さんたちと、試行錯誤を繰り返してようやく、

開発に成功したのだった。


開発のボトルネックは材料だった。

開の魔力パスポートには、百科事典機能も付いているため、発光ダイオードの

構造はすぐに調べられたのだが、光を発する化合物半導体をつくるための、

ガリウム・ヒ素(Ga As)やインジウム・ガリウム・ヒ素・リン(In Ga As P)などの

いわゆるレアメタルがなかなか手に入らなかったのだ。


勾玉内の海たちは、いっその事、レアメタルの産地の、中国大陸まで徐福を連れて、

取りに行くべきだと主張したのだが、開は、将来の資源争奪競争を回避する事も

考えて、原子構造をイメージ化した、ボーア・モデルと周期表を基にして、

そのレアメタルたちの原子を創ってしまったのだった。


と、いってもゼロから物質を創ったのではなく、例えば銅(29Cu)のインゴットに

手を当て電子を2個づつ増やすイメージで魔力を送り込んで、

魔子が、霊子、電子{ちなみに霊子が6×10の23乗個集まったものが電子になる}

となって、銅から、ガリウム(31Ga)が出来るといった感じの、

まさに中世ヨーロッパの錬金術のようにして創りだしたのだった。


この方法では、魔力がごっそり持っていかれてしまうのだが、開のレベル5の

上位の魔力量なら、1回で、1トンほどのレアメタルが創れる事が分かったので、

将来ABCD包囲網のようなものが出来て、日元国に資源が入ってこなくなっても、

大丈夫なようにしておきたかったのだ。


幸い、天照さまの政策変更により、この1月1日より、日元国に生まれた子供たちは、

すべて魔力持ちで生まれて来ている。


しかも、月本国のように20歳までで魔力成長が止まるのでは無く、

信仰心の強さによっていくらでも魔力成長できるようになっているのだ。


なので、将来、奴隷解放、植民地解放のために世界を相手に戦うためには、

資源輸入封鎖が行われたとしても、この魔法錬金術を確立しておけば、

ある程度は、持ち堪えられるはずだと開は考えていた。


「そ、そうでしたな」


その後も儀右衛門さんたちと、今後の新無尽灯や、魔力水晶の増産計画など

様々な事を話し合っていった。


****


「ところで、陸蒸気は、本当にこのまま計画を進めてもよいのですか」


夕方まで、儀右衛門さんたちと、今後の新無尽灯の増産計画を話し合うと、

これから、大坂そして薩摩に向かうため、船に乗り込んだ開に、

小栗さんから、鉄道頭てつどうのかみに抜擢された、井上馨が質問してくる。


井上馨は、文久3年(1863)から昨年まで2年間{前世では今年までの3年間だが

1年短縮されている}、伊藤博文や山尾庸三たちとイギリスに密航留学し、

ロンドン大学で、語学、算術、理化学などを学んだ後、鉱山や鉄道の技術も

修得している秀才だった。


「はい、発光ダイオードは、1907年にイギリスのラウンドによって

発光現象が発明されるので、仕組みはそのうち分かってしまうのですが、

魔力モーターに関してはギリギリまで知られたくないのです。

なので、魔力モーターの開発は外国人技師たちが帰国してから、

本格的に始めたいと考えています。

そのためのつなぎとしては、蒸気ボイラーの国産化のために、

力を注ぐべきかと思っているんです」


横須賀製鉄所は、フランスに設計から建設まで一貫して依頼してあるため、

今も多くのフランスの技師が建設に関わっているのだ。


実際、この研究室には、外国人技師は立ち入り禁止にしてあるが、

{今の所は、日元人はサルと変わらない人種と思われていて、

何をやっているか、興味も持たれていなかった}

数年後には、新無尽灯が数台盗み出される事になる。

{ただ、欧米人には、魔力水晶への魔力補充が出来なかった事と、

この時代の測定器では、微量のレアメタルの成分が測定出来なかったため、

コピーが出来ず、さらに第一次世界大戦の時に、フランスの研究施設ごと

破壊されてしまい、欧米でのLED照明の開発にさほど影響することはなかった}


「それと、この前も言いましたが、鉄道施設権や経営権は絶対に売らないで

くださいね。そこから、植民地にされてしまいますから」


実際にこの時期には、ロシアのプチャーチンや、アメリカのペルーが

鉄道模型でのプレゼンを行い、鉄道インフラの建設計画を提案して

きていたが、計画書をよく読むと、その利益のほとんどは、

敷設した外国の経営会社に入るようになっていた。


「はい、その話を聞いて、イギリスのパークスが提案してきた、

自国管理方式の鉄道建設を採用しようと思っていますが、どうですか」


そんな中で、当時の鉄道大国、イギリスだけは日元国での管理方式を

提案してきた。おそらく、蒸気機関車やレール等の鉄道機材の輸出と

膨大な建設資金を貸し付ける事で、利益を得る計画のようだった。


「ええ、それで大丈夫だと思いますが、建設資金に関しては、私に

考えがありますので、資金の融資については、まだ、ぼやかしておいて

もらえますか、それと、レールの幅は1067ミリではなく、

イギリス本国と同じ1435ミリにしてください。

これは後の、スピードアップや車両の大型化に関係してきますから、

あと、路線を幹線と支線に分けて、幹線は8本分のレール、5m幅×8本で、

40mの線路用地と側道15m×2本で合計70m分の用地を、

支線は4本分のレール、20mの線路用地と10mの側道2本の合計40m分の用地を

確保していただけますか」


「おお、あの莫大な建設資金の当てがあるのですか!

しかし、将来の速度アップのため1435ミリのレールを引くというのは

理解できますが、8本分のレールと側道で70mもの用地を確保するのは、

いささかやりすぎなのではないですか?

ロンドンでもそこまでレールは多くなかったのですが」と

留学経験のある井上馨が質問してくる。


(僕もそう思う、それは海の指示だよ)開は心の中で呟く。

すると、

(あのな、お前は伊勢からほとんど出たことないから分からんと思うけど、

あの東京の満員電車は殺人的なんだよ、頼むよ、この時代から将来

ああならないように、手を打っておきたいんだよ)と

東京で大学生活を送っていた、海が頼み込んでくる。


しかたなく開は、適当な理由を思いつき、説明していく。


「そうではないのです井上さん、まず旅客用と、貨物用に線路を分けて、複々線にし、

さらにそれぞれ、近距離用と長距離用の複々線にして列車を走らせることで、

移動効率が格段に良くなるのです。

また、夜間に、それぞれの複々線の半分の線路を休ませて、

レールの点検時間に充てれば、鉄道を24時間稼働させられるようになります。

そこに、寝台車を連結して走らせれば、船の倍の早さで、つまり、夜に乗れば

次の日の朝には、京や大坂、果ては長州や薩摩にも到着できるようになるのです」


「なるほど、点検しても24時間走らせることが出来るのですか、

それに、次の朝に、長州や薩摩に着けるのは、いいですね。

そういう事なら西郷殿や桂殿の賛同も得やすいですな」同郷の先輩でもある、

桂小五郎(木戸孝允)やライバル藩の英雄、西郷隆盛らから、

莫大な建設資金が掛かる鉄道は、まだ、時期尚早ではないのかと、

小言を言われ続けている井上は、開の説明に少し、心が軽くなった。



そして、海に懇願されて、開が提案した、この幹線路線の複々複々線計画は

未来の日元国に莫大な経済利益を生むことに繫がっていくのだが、

そのことに気づく者は、提案した開も含めて誰もいなかった。



「しかし、建設資金の方は本当に大丈夫なのでしょうか、前世に比べ

内戦が起きていない分、軍資金が少なくて済んでいるそうですが、

この船をはじめ、多くの武器弾薬、さらには先ほどの横須賀製鉄所を

含めた、設備資金の支払いがあるのです、これ以上新政府が

資金を調達するのは、厳しいと思うのですが」同じく、イギリスをはじめ

ヨーロッパ各地を巡歴し、薩摩一の経済通と呼ばれ、前世でも、造幣局や

紡績業、大坂株式取引所、大坂商業講習所{大坂市立大学}、阪堺鉄道{南海電鉄}

などを創り、後に大坂を創った男と呼ばれる五代友厚が、質問してくる。


「それに関しては、五代さんをはじめ、是非みなさんに

見てもらいたい所があるんです」と開は微笑んだ。



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