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カイと偉人と日元国  作者: ベガ爺
第一章 幕末編
19/55

019 みんなで足掻こう

「ぐは」

魔力を纏った、龍馬さんの愛刀、陸奥守吉行で、白鎧ごと、

袈裟斬りにされた開は、治癒魔法でなんとか傷を修復して立ち上がった。


江戸城の地下にある、格技鍛錬所で、今日も朝から、2時間は、

龍馬さんに模擬戦を行ってもらっていたのだ。


「だから、目で追っちゃいかんて言うとるじゃろう、もっとハッと感じて、

スッとよけんといかんぜよ、どうする開師しょ、いや開殿もう一回やるか」


(だから、そんな某巨人軍の元監督のような感性的な言い方じゃあ分からないですよ・・)

開は心の中で愚痴りながらも

「はい、お願いします龍馬師匠」と答えた。


ちなみに、龍馬さんの開への師匠という名称はやめてもらい、

逆に剣術を教えてもらっているので開が龍馬さんの事を師匠と呼んでいた。


土方さんたちを説得できなかった、感化力のまったくない今の自分に、

師匠の称号は不相応だと訴えたのだ。


小栗さんたちと会ってから、2週間が過ぎていた。


この間ずっと、午前中は龍馬さんに剣の稽古をつけてもらい、

午後からは、この時代の医者の生活を脅かさない範囲で、大奥をはじめ、

お城で働いている人達に、こっそりと治癒魔法を行っているのだ。


剣術は、単純に自分の身は自分で守れて死なないようにするためで、

治癒魔法は魔力量を上げ、少しでも多くの人を助けられるように

なるためだった。


「お、いい返事じゃな、やはり天照大神さまの言葉が、触媒かい?」


「はい、僕の出来る範囲で、足掻こうと思っていますから」

そういうと、開は刀を握りしめ、龍馬さんに再び突っ込んでいった。


天照大神さまの言葉・・。


****


そう、2週間前に品川に向かう船上で、小栗さんたちに会い、休戦し、

さらに今後の日元国の様子を伝え、150年後には中国の属国になってしまった事を

話した時の、彼らの落ち込み具合は凄かった。


結局、築地から江戸城に戻る間も一言もしゃべらず、その日は分かれたのだった。


次の日、品川から西郷さんや大久保さん、桂さんや伊藤さんも江戸城の

大広間に呼ばれ{開はチャッカリ松の廊下を歩かせてもらった}、

さらには、天照さまが瞬間移動で京都に戻って、明治天皇や美子さんや西園寺公を

連れてきて、江戸城の無血開城と、来年の1月1日(1868年)を明治元年とし、

それに向けての新政府の設立を宣言されたのだった。


そして、本来は将軍が座る上座に、天照さまが、魔法で立体スクリーンを作り、

そこに明治維新後から、太平洋戦争を経て、中国に占領されるまでの

歴史的トピックスを映し出したのだった。


これまでも開の口から、説明を受けていた、明治天皇をはじめとする、

維新の英雄豪傑たちも、天照さまの魔法映像には、度肝を抜かされたようで、

特に、アメリカとの戦争で、街が焼き尽くされるなかで、一矢報いようと

爆弾を抱えて、敵艦に特攻していく、若き兵士達の姿や、それをあざ笑うかの

ように、原爆を広島や長崎に落とし、一瞬で10万人もの市民が殺されていく

様子には、言葉も出ずに、ハラハラと涙を流していた。


その後、その解決策の参考事例として、別の世界である月本国での

水晶魔法文明のプレゼンを開にやらせたのだ。


一応、前の日にプレゼンをするように言われていた開は、勾玉内の海に相談し、

リンゴマークの会社のスティーブ・ジョ○ズという人が、アイ○ンとかいう製品を

発表したときのプレゼン風景を見せてもらい{月本国では、魔力パスポートが

普及しているので、まったく無名だった}、夜通しかけて練習したのだった。


ジョ○ズさんに似せて丸めがね{伊達めがね}で、身振り手振りで説明し、

表面に魔力水晶をコーティングしてある弾丸や魔力が込められている絹布。


重さが鉄の10分の1なのに、強度が鉄の10倍もある魔力が込められている合板。


そして魔力電池などを使って、これから起こる、月露戦争を勝ち抜き、

その後も、空母を含む機動部隊を作って世界の海で、白人の有色人種差別国連合と

互角に戦い、死闘の上に勝利し、アジアやアフリカの植民地を次々と

開放していった事を説明すると、今まで、お通やのように暗かった大広間は、

拍手喝采で、歓喜の渦となったのだった。


そして、会場が少し落ち着いた所で、麻衣ちゃんの体に入っている天照大神さまが

厳かに、しかし力強く宣言されたのだ。


「ムー帝国が滅んで1万年。妾は、そのムーの末裔を、日元列島に呼び寄せ、

信仰深き、世界の希望となる国を創るために努力してきた。


その日元国が、このまま進めば、今、映像で見たように、150年後には、

こともあろうかあの支那によって滅ばされてしまうのじゃ・・。


おまえたちは今、幕府側じゃ天皇側じゃと、いがみおうとるが、

妾にとっては、どちらも、みなかわいい、子供達なのじゃよ。


このままだと、そのかわいい子供達のひ孫たちが、みな奴隷に

なってしまうのじゃ、親としてこんなに悲しいことがあろうか・・・。


子供達よ、どうか妾に力を貸しておくれ、お前達の、そして妾のひ孫たちが

支那人の奴隷にならぬよう、お前達が、今できる最高の努力をしておくれ。


幸いにも、月本国から開という、魔法使いの青年を一人、借りてきておる、

日元国にも、これから魔法使いが沢山生まれるようにするから、

この開と、生まれてくる魔法使いたちの力も借りながら、明治天皇をもり立てて

信仰深き、豊かな国、世界のリーダーとなる国にしてほしいのじゃ。


どうか、足掻いて、足掻いて、日元国が占領される歴史を

変えてほしいのじゃ、よろしくたのむ・・」


そう言って天照さまが頭を下げると、その場にいた、

明治天皇をはじめ、全ての人間が平伏し、号泣したのだった。


****


普段は少しわがままで、食いしん坊で、どこか人間くさくて、

つい、女神様であることを忘れてしまいそうになる天照さまが、

日元国の国民の将来を本気でお願いしてきたのだ。


みんなと同じように涙を流した開は、最優先事項を、

分裂して飛ばされた、麻衣ちゃんの魂の救済から、

日元国の歴史の変更に変えたいと、勾玉内の海たちに提案した。


勾玉内にも、天照大神さまの言霊は届いており、反対どころか

海たちも全力で応援してくれることになった。


といっても、魔力を持った子供達が生まれてくるのは、3週間後の

1月1日からで、その子達が成人するにはそれからまだ十数年はかかる。


それに、新しい政治体制は、小栗さんや勝さんの旧幕臣と

西郷さんや桂さんの討幕側が、一緒になって構築中だったので、

開は自分の得意分野の魔法で、貢献するため、毎日魔法力の向上と、

自己防衛のために剣術の修行を行っていたのだった。


ちなみに現在の開の魔力を勾玉内で測定してもらったところ、

この2週間でまた少し上昇したみたいで、

赤色の肉体強化系魔力量100万MP,

黄色の光系魔力量200万MP,

青色の知力系魔力量100万MP,

緑色の調和系魔力量100万MP,

紫色の礼節系魔力量100万MP,

銀色の科学系魔力量100万MP,

白色の医療系魔力量200万MP,で合計900万MPにもなり

レベル6の上位クラスになっていたのだ。


「龍馬さま、開殿、小栗様がお呼びです、本丸の方におこしください」

勝先生に仕えていた小僧さんが呼びに来た。


「あ、ありがとうございます、サスケさん」

開は最初、小僧さんだと思っていたのだが実は開と同じ20歳で、

サスケという名があり、どうやら忍らしいことがわかり、

開はきちんと名前を呼ぶようにしていたのだ。


「いえ、めっそうもございません」サスケさんはなんだか

尊敬するような眼差しで、答えてくれる。


どうやら、お竜さんから、影法師の事を聞いたようで、さらに

魔法を使って鎧を作り、龍馬さんに毎日、挑んでいる姿をみて

開に憧れているらしい。


(少しでも気を抜くと、ばっさり切られるから、必死に

足掻いているだけなんだけど・・)


この前も、かなり深く、袈裟斬りにされ、白色の医療系魔力のほとんどを

使って、自己治療をしたのだが、あの時、もし事前に他の人を治療していて

魔力量が少なくなっていれば、本気で危なかったのだ。


それ以後は、治癒魔力量に関しては必ず、満タン状態で、稽古を付けてもらい、

深く斬られても大丈夫なようにしていた。


しかし袈裟斬りにしても大丈夫なことを知った龍馬さんが、

躊躇せずに斬りかかってくるようになったので、

最初の1週間はかなりの頻度で斬られるはめになったのだった。


地上に上がり、松の廊下を通って、白書院に向かう、

いずれは、国会議事堂なども必要なのだろうが、

なにせ、新政府には、お金がないので、当分の間は、

江戸城の本丸をそのまま新政府の中心地としていたのだ。


白書院は、上段20畳、下段20畳、帝鑑之間30畳、連歌之間30畳が

田の字型に並ぶ空間だが、今は畳と襖が全て取っ払われ、

そこに、島状に机と椅子がいくつか並ぶ、ワンフロアの

ベンチャー企業のような空間になっていた。


島は大まかに三つに分けられていて、右奥の連歌之間の島には、

西郷隆盛の課長席?と少し離れて、大村益次郎(陸)山県有朋(陸)

榎本武揚(海)永井尚志(海)らが集まる軍事部門があり、


右下の帝鑑之間の島には、大久保一翁の課長席?と、大久保利通、

五代友厚、木戸孝允、伊藤博文らが集まる内政部門、


そして、外交部門なのか情報部門なのか、左上の上段の島には、

小栗忠順、勝海舟、坂本龍馬、一条開ノ宮(開)の席があったのだ。

{ちなみに左下の下段は全体会議ができるようになっている}


そして天照さまは、最初は、そのまま本丸の半分の敷地を占めていて、

女中を含めると、千人は居ると言われた、大奥に居座ると言い張ったのだが、

リストラが進んだ大奥には、今は台所を中心に百人程の女中しか残っておらず、

大好きな甘味はあまり創れないから、天皇を支える、伊勢神宮の巫女という名目で、

天皇と一緒に江戸に来てもらったほうがよいということで、みんなで拝み倒して、

瞬間移動で京に戻ってもらっていた。


京に戻った天照さまや明治天皇は、天皇がすぐに、江戸に向かう事を宣言され、

1週間前に1日約30kmのペースで京を出発されたので、もうあと、1週間ほどで、

江戸城に到着される予定になっていた。


その行列に加わって、御輿に揺られて、ゆっくりと江戸に向かっている

天照さまに、お手伝いとしてついていったお竜さんが、通り過ぎる宿場ごとに、

甘味を買いに走らされたという苦労話を開が聞かされたのは、江戸に到着してから

大分経ってからのことだった。


ちなみに天皇陛下は、江戸に着くと、開の世界では、宮内庁があった西の丸に、

天照さまは二の丸に入る計画になっていて、

そして、元旦に、江戸を東京に、西の丸を御所{京の御所は京都御所}に

元号を嘉永から、明治に改めることになっていた。



「おお、開殿、龍馬そこに座ってくれ」海舟さんが声を掛けてくる。


開は自分が一番若いので、殿や、さまは、やめて、呼び捨てにしてほしいと

頼んだのだが、名目上、天皇の義兄になるとのことで、殿つけになっている。


「どうしたんですか」


「江戸の治安維持のための彰義隊が、上野の寛永寺に籠もり、先ほど

ついに戦闘が始まってしまったのだよ」


「そうですか、説得はだめでしたか・・」開は残念そうに呟く。


勾玉内の海の話だと、前世では、武装解除を拒否して上野に籠もったと

聞いていたので、武装解除はしないで、そのまま治安維持をしてもらい

やがて警察隊に編入していけば、戊辰戦争は防げるのではないかと考え

小栗さんたちに説得をお願いしていたのだ。


「すまない、力不足だった」小栗さんが頭を下げてくる。


「な!、頭を上げてください、小栗先生のせいではないですよ」


「この前聞いた史実では、上野で負けた彰義隊は、千葉の鴻之台で

旧幕府軍の主だった勢力と合流して北上し、一時は宇都宮城を奪取するが、

新政府軍の増軍に敗北し、その後、会津で、また激戦になるが敗北し、

仙台で榎本艦隊と合流し宮古、松前で戦い、最後は函館で、土方が戦死して

終わるんじゃったな」


「なるほどなあ、でもそれじゃあ」


「ええ、土方さんは、もういませんし、榎本艦隊もこちら側です。

だから、上手くいけば、宇都宮や会津での悲劇の前に戦いを止められるかも知れません」


「開殿、頼めますか」


「はい、絶対に止めてみせます。ただ、この前話した、例の制度を

早く実施しないと、武士の反乱はまだまだ続くと思います」と

開は向こうで会議をしている、西郷さんの方を見た。


「大丈夫じゃ開殿、その件は儂にまかせちょいてくれ。

さあ、犠牲者が少ないうちに戦を止めにいこうぜよ」

そう龍馬さんに励まされ、開は松の廊下を駆け出すのだった。


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