010 海援隊は魔援隊になるの?
「お田鶴さまから、話を聞いた時には、心底、肝が冷えましたよ。
慎太郎さんは残念じゃったが、龍馬さんだけでも生きておられると
聞いて安心しました。
しかも、お田鶴さまの話では、近江屋に遅れてきたと思ったら、
魔法使いを連れて来てくれて立ちどころに、美子様の傷を
治してしまったとのことで、いやはやそちらの御仁が、魔法使い殿ですか」
海援隊で医官をしている長岡謙吉の言葉に龍馬さんが苦笑いをする。
「でも、慎太郎さんは治さなかったんですよね、その魔法とやらは
おなごにしか効かないんですかね」面長の青年が、眼光鋭く
開に嫌みをいう。
(なんで、この人こんなにケンカごしなの)
(おそらくこの人は陸奥宗光さんだな。龍馬さんの右腕で、
後に外務大臣になってカミソリ陸奥として、
日露戦争の時に活躍した人だと思うな)勾玉内の海が教えてくれる。
そういわれれば、日本史の教科書で見たような気がすると思ながら
「僕が治せるのは、傷だけで、僕が駆けつけた時には、中岡さまはもう、
亡くなっていらして、亡くなった人を生き返らせるのは僕には無理・・」
「ほほう、死んでいるかどうか、脈も診ず、息の確認もせずに判断できるとは、
そなたは、その若さで、さぞ優秀な医者なんでしょうねえ」
「いえ、僕は医者ではないんです・・」
(なんなの、この塩対応?)
(きっと、開に対する嫉妬心だろう)
「陽之助(陸奥)、いいかげんにせんか、慎太郎は首をひと突きされて、
儂らが来た時には、もうこと切れちょったぜよ。
相手は相当の手慣れじゃったぜよ、ありゃ、儂でも躱し切れん。
まあ、慎の字も儂も、土佐を脱藩するときに、
とうに命は、天に預けちょるよ。陽之助もそうじゃろう。
それより飯にしようぜよ」
朝ご飯を4人で食べながら、龍馬さんが、長岡さんと陸奥さんに
開と天照さまの説明をしていく。
「ええ、じゃあ開殿の力添えで、龍馬殿も魔法使いになられたんですか!」
長岡さんが驚きの声を上げる。
「そうじゃ、儂にも、魔法使いの素質があるらしくてのう、
昨夜、開師匠に魔力回路とやらを、調整してもろうたんじゃ、
ほれ見てみい、すごいじゃろう」と
龍馬さんは、あぐらを組んで、懐に片を突っ込んだままの姿勢で、
先ほど、覚えたばかりの飛行魔法を披露する。
龍馬さんが、1m程浮き上がって、ススーと室内を飛び回って、
再び元の位置にもどってくると
「おお、すごかー」長岡さんと陸奥さんが目をまるくして驚く。
「龍馬さんが今使ったのは、赤色魔力の飛行魔法なんです」
開は魔法には7色系統の魔法があることや、個性によって
使える魔法が違うことを話した。
「あの、お二人も魔法の素質があるみたいなので、もしよければ
魔力回路を整えてみますか、どの色の魔法が使えるようになるかは、
整えてみないと分からないんですが」開は、少しずつだが、相手に
魔力があるかないかを感じ取れるようになってきていた。
「そりゃ誠か、ぜひお願いしたい!!」
龍馬さんの飛行魔法を間近で観た二人がすぐに同意したので、
開は、昨夜の天照さまの指導を思い出しながら、
二人の魔力回路を整えていった。
長岡さんは、医療系(白色)魔力と教育系(紫)魔力の素質が
あったようで、すぐに簡単なヒーリング魔法を使えるようになった。
そして、試しに、自分の足にヒーリングを掛けていた。
「おお、これはすごい。実は、ここに来る途中、少し足を痛めましてな、
どないしたもんかと思っちょりましたが、この魔法のおかげで、
痛みがなくなりました。
ありがたい、ところでこの魔法は、コロリ(コレラ)とかの、
はやり病にも効くのでしょうか」
「はい、コレラや労咳(結核)は、細菌という目に見えない程の、
小さな病原菌が原因になっている場合が多いので、
その病原菌を浄化魔法で死滅させれば、治せると思いますよ。
ただ、はやり病は、急激に患者さんが増えますから、
1人2人の魔法使いでは、どうにもなりませんよ、
大阪で適塾を開いている緒方洪庵先生あたりと、協力して、
これから多くの、治療魔法が使える医者を育てていく体制を
創っていくべきだと思いますね」
実際に、開の世界では、洪庵の開いた適塾が、後に大阪大学の魔法医学部
として、発展していることも話した。
「なるほど、魔法を使える医者を育てるのですか」
陸奥さんの方は、龍馬さんと同じく、青色系の魔力の素質があったので、
実験的に、開の魔力パスポートを使って、英語のアニメーション映画、
{ア○と雪の女王}を観せてみると、思ったとおり英語の主題歌を、
完璧に聞き取ることができた。
「おお、この能力を使えば、メリケン国の奴らと対等に外交の議論ができるぞ、
奴らは、こっちの通訳がジョン万次郎さんぐらいしかいないのをいいことに、
無理難題をふっかけてきますからねえ。
ありがとう、開君、僕も龍馬さんに倣って、師匠と呼ばせてもらうよ。
ところで開師匠は、この日元国をどのように改革したいと考えておりますか」
開としては、師匠なんて呼ばれたくないのだが、龍馬さんがそう呼んで
いる手前、陸奥さんが呼ぶのを止めさせることができなかった。
「ええと、魔法は訓練していけば、今、見てもらった映像で、
女王があっという間に、氷りの城を創り出したように、
無から有を生み出すことも出来るんです。
だから、上手に使えば、この日元国を、今まで以上に、
すばらしい国にできると思うんです」
開は、自分のいた月本国では、ほとんどの人が魔法が使える事と、
そのメリット、デメリットを話し、デメリットの部分を
できるだけ小さくするため、昨夜、龍馬さんたちと話し合った、
信仰心のある者の魔法力が、個々の努力によって伸びていくシステムや
龍馬さんの提案の、ありがとうポイントで若返るシステムなどを話した。
「なるほど、維新後に生まれる赤子はみんな魔力持ちにするんですか、
そして、身分など関係なく、己を律して、信仰心を深めた者ほど、
魔力がどんどん上がって行き、出世し、成功して豊かになっていく社会ですか、
確かにそれは夢がある世界かもしれないですね」
陸奥さんも感心しながら感想を述べる。
「確かに信仰心が無ければ魔法が使えないようにすれば、自我我欲のために
魔法を悪用出来なくなりますね。ところで、開師匠としては、
海援隊は今後どうすればよいと思いますかのう」長岡さんが、開に質問してくる。
「海援隊の今後ですか、そうですね、商社部門は岩崎弥太郎さんたちにお任せして、
日元国が発展繁栄していくための情報を収集し、分析して提言していく、
情報機関として動いてはどうでしょう」
開は、海から聞いた話を元に、今後、日元国が、白人たちの植民地支配に
異を唱えて、対立し、ロシアやアメリカと戦争になってしまうこと、
ロシアには、かろうじて勝利するが、ハワイ王国を吸収し、フィリピンを
植民地にした、アメリカとの戦争では、欧米の開発する石油を中心とする
内燃機関や、電気を利用した、レーダーや無線機などの様々な
電気機器の開発に遅れを取り、結局、戦争に負けてしまった事。
そして、アメリカに占領されて、平和憲法と称して
自分の国を自分で守れず、日元神道も日陰においやられるような
憲法を押しつけられ、クラゲのような主体性のない国家になってしまった事。
それでも焼け野原から、なんとか頑張って復興し、世界第2の経済大国にまで
復活したものの、中国共産党政府に開発援助金として、毎年多額の援助を行い、
そのおかげで台頭してきた、中国共産党政府にうまくあしらわれ、
ついに、属国になってしまった事を話した。
「な、ロシアに勝ったのはよしとしても、その後、メリケンに
戦で負けて占領され、あげくに、支那の属国になるがか、
なんちゅうことじゃ」長岡さんが落胆する。
「どうすれば、どうすれば止められるんだ」
「メリケンを含め白人の奴らとは、同じ土俵で戦わん事じゃのう、
開師匠、陸奥たちにも、例のモノを見せて、月本国の文明の話を
しちゃてくれんかのう」
「はい、ええとじゃあ、飛鳥時代から、かいつまんで説明しますね
僕らの世界では、聖徳太子が魔法水晶を使ってですね・・」
開は歴史のトピックスを追いながら、魔法の話をして、
例の、魔力水晶銃の弾丸、魔力絹、魔力木板、魔力電池を
取り出し、明治から現代までの月本国の説明をした。
「つまり、白人たちが創る、石油と電気の文明に対抗して、
魔法水晶文明ですか、なるほど・・」
「ええ、でも石油製品にも便利なモノがあるので、
全く使っていない訳ではないんですよ。それに電気だって、
広い意味では魔力の一種ですから、多少は使っているんですよ」
開は、秋田県や静岡県にある小さな油田から採れる石油から、
合成樹脂を製造していること
(油田には、緑色系のレベル7の魔法使いに、毎年、地質回復魔法を
掛けてもらっているため、2018年現在も枯渇していない)や
魔力とは、高次元から引いてくる霊子の事で、
霊子が6×10の23乗個集まったものが電子になるので、
欧米が開発した電気製品にも一応、魔力電池が使える
(実際には欧米の電気製品に魔力電池を使っても使用時間はあまり増えない。
ちなみにアメリカのリンゴマークのスマホは1日か2日で充電が必要になるのだが、
月本国のソ○ーなどの魔力パスポート(スマホとしても使用可)は1年以上、
充電の必要がなく、みんな魔力の補充を忘れてしまうため、
誕生日に補充するようにしている)事などを話した。
そして、実際に魔力パスポートを使って、動画を撮って見せると
二人は目を丸くして驚いていた。
「すごいですね。でも、そんな白人とは違う、独自の文明を
日元国だけで創り上げるには、ものすごく多くの人材が必要なんじゃ、
ああ、だからこれから生まれる赤子には魔力の素質を授けるのですか、なるほど」
「そういうことです。
それと、天照さまの話では、日元国が危機にたる時代には
いつも、何人かの魔力保持者を生まれさせているというです。
そしてこの時代も、かなり大きな危機の時代だから
龍馬さんや陸奥さん、長岡さん以外にも、きっと多くの
多分、数十人の魔力保持者が生まれているはずなんです。
だから、先ほどの緒方洪庵先生をはじめ、多くの優秀な人に
協力を要請していく事と」
「その人達を探しだすのも、海援隊の仕事だと?」
「そうです。協力してもらえますか」
「もちろんじゃ、開師匠」
「いや、だからその師匠って呼び方は・・」
「海援隊ではなく、魔援隊って呼んではいかがか」
「いや、外国に魔法の事を知られると、これから生まれてくる赤子が
拉致されるかもわからんきに、海援隊内の情報収集機関の事を、
隠語で魔援隊と呼ぶことにしておこう」
それから、誰が魔力を持っていそうか、どうやって
その人物と接触するか、どこまで今の話をするか等を、
みんなで話をしていると、
天照さまが、ドタドタとやって来た。
「おお、そちらの姫殿が、龍馬さんが先ほど話された、
天照大神さまが、憑依されておられる方ですか、
お初にお目にかかります、拙者は海援隊の長岡謙吉と申します」
「同じく、海援隊の陸奥陽之助と申します」
(先ほどの開師匠の話だと、神話の時代からずっと日元国を見ているとの事、
肉体は若いおなごに憑依しているが、一体何歳なんじゃろうか)
「うん?陸奥とやら、お主何か変な事を考えておらぬか」
「!、いえ何も・・」
「天照さま、それよりいかがなされたのです」
「おお、そうじゃった、開、ちょっとまずいことになったぞ、
美子が、ようやく意識を取り戻したんじゃが、
麻衣になってしもうたんじゃ・・」
「はあ?」開が急いで、美子さまがいる部屋に駆け込むと、
***
「海にいちゃん!」と美子さまが、開に抱きついてきたのだった。




