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サード・アイ

作者: 磯野 光輝

 私はエージェント・スミス、遠い我が故星を離れ、エヌ星にて潜入調査を行っている。エヌ星では現在、宇宙開発が盛んに行われており、エヌ星人が星系の外へ進出するのもそう遠いことではないだろう。

 私の任務は、近い将来に宇宙進出を果たすエヌ星人が、この銀河を統合する銀河連合への加盟に値するか否かを判断することである。

 銀河連合への加盟が認められれば、エヌ星は手厚い宇宙進出の援助を受けることになるが、加盟が認められなければ、宇宙平和の名の下に、エヌ星は宇宙の藻屑と化すであろう。一つの星の命運を握るというのは、やはり何度やっても慣れるものではない。私は毎回胃が痛くなる思いで、この任務にあたっている。もっとも、最終的な判断は、エヌ星の各地に点在している我が同胞と共に下すこととなるので、責任は私一人に有るのではないのだが、止むを得ず星を滅ぼす判断を下すことは、私の気を重くする。

 嗚呼、しかし、今回は苦渋の決断をしなければなるまい。


 朝、私は特殊スーツに身を包み、エヌ星人に擬態して家を出る。我々エージェントは、その星への理解をより深めるため、現地人と同様の生活を送ることを義務付けられている。故に私は、季節は夏であるというのに、毎朝ブラックスーツに身を包み、出社時間よりも1時間も前に会社につかなくてはならない。その会社に向かうのも一苦労である。

全く持って無駄なように思える満員電車に押し込められ、何度も何度も車外に押し出されを繰り返していると、この非生産的な仕組みの改善を求めたくなる。第一通勤時間を強制し混雑緩和等対策はあるだろうに、協調性のなさから社会実現が不可能なのだ。

会社につくと新人の社員である私は、上司にコーヒーを継ぐことを命じられる。その後、私は自身の仕事をこなすのだが、事あるたびに上司は私を呼び出し、そして「経験を積むためだから」などと理由を付けて私に仕事を押し付ける。その仕事のせいで昼食の時間が無くなってしまったのだが、その分の昼休みの延長は認められなかった。最終的に何とか課せられた仕事と押し付けられた仕事の両方をこなすことができ、定時に帰ろうとすると上司に呼び止められた。曰く「上司よりも早くに退社をするのはマナーに反する」とのこと。

 私はそれに対し、契約と違うと主張したのだがその声が届くことなく、結果態度不良とのことで契約が打ち切られることとなった。私がその会社で誰よりも業績を残していたにもかかわらずである。


 さて、私はこの調査結果を報告するために故星へと帰郷している。他の同僚たちもおおむね同様の意見を持っていたため、エヌ星は銀河連合への加盟が認められず、残念ながら星ごとの破壊措置をとることとなった。主な理由としては契約遵守の精神が見受けられず、他の動植物に対して殺戮を行う野蛮な知的生命体が支配しているこの星が、宇宙に侵略する技術力を持った時、我々が危機に瀕するとのことだった。


 私はこの結果を上へ回すために報告書としてまとめ始めた。破壊措置を行った件数はすでに十万を超えてしまっていたため、新しいファイルに分けなくてはならないことに気が付いた。さて本腰を入れて報告書をまとめようとすると、次々と別件の資料が送られてきた。これも私がまとめろということなのだろうか。しかし、これも仕方がないことだ。上司というものは自らが主導して仕事をしなければならない。これこそエヌ星と違い、我らが高等生命体であることを表している。


 さて、だいたいの資料はまとめてあったが一応目を通す。ビー星の生物は高度な知性を持ち合わせていないために奴隷星と承認。エイチ星には下等生物が存在するが、エイチ星の大気には我々に有害な酸素が多く存在するため大気の入れ替えを行うことに対しての承認、ケイ星には高度な知性を持つ生命体が存在するが、制御が困難を極めるため早急な処分が必要……ふむ、おおむね問題がないだろう。


 私は自身のエヌ星に対する報告書をまとめ、下から送られてきた資料と共に上司に送り付けた。

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