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従業員と私。

ジョブチェンジした従業員と私と隊長さん

作者: 東雲

変わらずゆるめで。



 さあさあ、こんにちは。


 相も変わらず王都にて魔道具店を構えていますイーハです。

 半ば………いや強引に従業員になったギハも変わらず元気ですよ、最早あちこちに跳ねた寝癖のまま接客がデフォルトになりましたけどね。それに最近は害虫も少なくなってきたようで夜中に物音無くなってなによりです。そうそう、ギハお手製うさぎのぬいぐるみさん達は主に憲兵さん方に売れていきました。


 お子さんや恋人にあげるようで、これで俺の株が急上昇!とか涙ながらに言ってました。憲兵の皆さん案外忙しいですものね、家庭とかでの評判は底辺と聞く。休日なんて有って無いようなもんだよ!幻想だ!チキショー!って血走らせた目で詰所に行くのよく見るし。



 

 「イーハちゃあああんっ聞いてる?ねぇ?ちゃんと聞いてる?」


 「はいはい、聞いてますよー。あ、ギハ折角札出してくれた所で悪いけど、今日はもう営業にならないだろうからお店閉めちゃって」


 「全然聞いてないじゃんかっ」




 開店してすぐにやってきてカウンターをバンバン叩きながら作業をしていた私に話し掛けるのは、先日やってきた副長さんことガイナーさんの上司で隊長のラオさんだ。

 この人もこの人でまた色々あったり大分面倒な性格なのは有名ではある。が、まあそこは一先ず置いておこうかな。




 「あん?開けたばっかだぜお嬢、いいのか?」


 「いいのよ。ラオさんが来たら商売なんて無理よ、気が済むまで居座るのよこの人」


 

 怪訝な目で私の隣を見つつも、営業中の札を外し終了の札を掛けるギハにお礼を言って、話を聞いてとうるさいラオさんに向き直る。



 「はあ………、それで何でしたっけ?ガイナーさんがモテるのが羨ましいとか王都中の男性が泣いてるとかですか?ガッツがないですね」


 「全く違うからっ!俺奥さんいるから!毎晩イチャイチャする位仲良しだから!知ってるでしょ?!」


 「ラオさん家の性生活とか知りたくないです。あ、ギハちょっと話相手代わってくれない?もう少しで終わるやつが何個か有るのよ」


 「聞いてるフリでいいよなー、おっさんどうしたー?」


 「おっさんじゃない!お兄さま!まあでも君でもよかろう、聞いてくれたまえ!」



 お兄さまて………45歳はおっさん以外の何者でもないなと大分引きながら話を聞いてくれるならギハでもいいらしく話し出したのを見て、ひらひらと代わってくれたギハに手を振って作業部屋に移動した。

 

 護りの魔法陣を深緑のブレスレットに移して、ささやかだが治癒力を上げるよう魔法陣を書き足していく。王都の外回りを担当する憲兵御用達のもので、御贔屓にして頂いてます。大事な定期収入だ。

 但し、あまり効きすぎると憲兵の実力やら質が落ちるやもしれないので程々にと憲兵隊から言われているので案外調整に時間を食う依頼でもある、だからラオさんの長い話に付き合う時間はない。

 

 そもそも隊長のラオさんが言い出したのだし作業を邪魔しないで欲しいなぁ。今日みたいに突撃してくるラオさんに今までは若干いやかなり辟易していたけれど、今日ギハが居て良かったと初めてギハとの出会いに感謝している。ありがとう。


 残っていたブレスレットが終われば、次に装飾はないシンプルな銀の指環に、途中まで刻んでいた魔法陣を完成させるべく自分の中の魔力を循環させて、充分に巡らせた後、指環が耐えられるギリギリの魔力量で刻んでいく。

 完成した物をもう一度間違いなどないか確認してから納品用に包装する。これで、明日にでもガイナーさんに届ければ良いだろう。


 今居るラオさんに渡すといつの間にか無くして闇市で売られていたなんてざらなので、他の所でも同じようにしでかしてからラオさんにはお使いは無理であるから決して持たせないようにと憲兵隊から回覧が回ってきたもの。

 本人も本人で参っちゃうよね~あははは!と反省が見られないので始末に終えなかったのだけれど。まあ、あんまりにも反省しないので最終兵器な奥さんに説教されて最終的には号泣していた。二十歳も年下の奥さんに説教の挙げ句号泣とはある意味凄い人だなぁと思う。

 こんなのに隊長なんて務まるのかと思えど、そこは腐っても隊長。敵には一切容赦をしないらしく王都の悪魔や死神と言った二つ名が駆け巡っているらしい。私達には奥さん大好きな変人だけど。


 

 ***



 「ギハ君聞いてるのー?街で僕の奥さん見掛けてもナンパは駄目だよ?なんたって僕の奥さんだからね!可愛いからって、駄目だよ!」


 「へー、しないしない」


 「本当に分かったの?駄目だからね!駄目!」


 「だからしねぇよ、おっさん気持ち悪いなー。俺だったら重た過ぎて無理だわ、嫁さんすげー」


 「僕の奥さんだからね!」


 「はあ、もう帰れば?」

 


 

 相も変わらずカウンターをバンバンしながら中身の有るような無いような話をしているラオさんに頬杖ついてるギハはお疲れの様子。気持ち悪いって言われてるのにまるっと無視出来るって怖いわ。面と向かって気持ち悪いって言う方もどうかとは思うけど、大体皆心の中で思ってると思う。


 ちらっと見た時計が昼時なので、開店から居るラオさんの話とやらは三時間続いている訳か。ギハもおざなりな返事をしているし、私もそろそろお腹も減ったので掛けたくはないが二人に声を掛けた。



 「ラオさん、もうお昼ですよ。早く帰らないとチルリ一人でさっさと食べちゃうと思いますけど?」


 「なにっ!もうそんな時間かっ帰らねばっっじゃあねお二人さん!待っててチルリ!」


 

 奥さんことチルリの名前を出してやれば、風の如く帰って行った。 


 呆然としているギハに少し笑いながらどうしたのと問えば、三時間延々と奥さんの話をエンドレスで頭おかしくなるかと思ったと項垂れていた。



 「ふふっ王都で店を構える人は皆、経験済みよ。疲れたでしょ、お昼にしましょう」


 「もう相手したくねーな、あれは」


 「皆言うわ、でもお構い無しに来るから面倒なんじゃない。午前中ならさっきみたいに追い払えるけど、午後だと日暮れまでその手が使えないのよ?まだましな方ね。まあ、気力がなくるからどのみち休みになるんだけど。あ、お皿とか出しておいて」



 気だるそうに返事をするギハに頑張ったわよねと犠牲にした代わりに奮発して買っておいた燻製肉を分厚く切ってパンに挟んでおくとりあえず4つもあればいいだろう、スープはいつもの残り野菜を煮込んだものだけどソーセージも茹でて簡単なサラダを用意して少し豪勢な昼食である。



 「お皿ありがとう。はい、出来たわよ」


 「お、豪華だな。おっさんの相手した甲斐があるってか、お嬢の方は作業終わったのか?」


 「ええ、これで暫くはのんびり営業ね。それと、はいこれあげるわ。手を出して」



 早速サンドイッチを頬張ろうとしていたギハに、さっき作った指環を渡す。

 きょとんとした顔に珍しいなと思いながらも、私もサンドイッチを一つ確保しておく。



 「これ、いいのか?」


 「いいから渡したのよ。でもそれ無くさないでね、憲兵隊に卸してる治癒力上げるブレスレットが霞む位は効力があるから」


 「そんなすげぇの俺に渡してくれちゃうとか、お嬢俺の事好きなの?」


 「あら、心外だわ。渡してもいいと思う位には信頼してるのよ、そんなにしょうもない事言うなら返してもらおうかしら?」


 「あっ嘘嘘!!調子に乗りました!下さい下さい!お嬢~ごめんって!」



 にやにやしているのにイラッときたので返還を求めたら、激しい身ぶり手振りで慌てた様子が面白かったので良しとしよう。


 午後からギハの指に銀色の指環が光っている光景が、また何とも言い難い気持ちになるのでネックレスかブレスレットにした方が良かったかもなぁと知り合い達が見たら冷やかされそうだと苦笑した。



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