運営 サービス開始の裏で…
感想があることに内心ビビりつつ喜び、誤字脱字の指摘も丁寧にしていただいてとても感謝です。
A・Oサービス開始の3分前
「ディレクター!ギリでGMアバター完成しましたッス!」
「遅い!何をしていたんだ!」
「キャラデザ部のチーフが、後は任せるよ!待っててね弟よ!って言って行方をくらませたッス。」
「あんのアホタレめぇ!サービス開始直前に仕事ほっぽりだすだぁ!?」
「せめてもの救いはアバター用の素材だけは作ってあった事ッスね。」
「それは何よりか…、って、なるかぁ!!?あーもういい!さっさとあのアホ捕まえて来い!どうせサービス開始宣言イベの事忘れていやがるだろうから!」
★
かくしてサービス開始時刻、運営モニター室にて。
「さてさて、誰が一番乗りかなぁ…おっ、来た来たぁ!うぉ!?なにこのアバターマジ可愛いんだけど!?」
レンのログインの瞬間を捉えたモニター担当はレンの可愛さのあまりスクショを激写していた。
これで後二年は生きられるぞぉ!フフフフフ!!
「働け。気持ち悪い。」
隣の同僚の武辺の優しさの欠片もないツッコミで現実に引き戻される。
「は!?俺はいったい?」
バンッ!と突如モニター室の扉が開く。
「ふっふぅ!さぁて、私のレンきゅんはどっこかなぁ?」
現れたのはキャラクターデザイナー部門チーフの日名夏。プロデザイナーでプログラマーで重度のブラコンで変態で変人で誰もが手を焼く問題児であった。だが、超絶美人。社内付き合いたい女性ランキングトップ5を常に維持するほどの人気だ。問題児だけど。問題児だけど。
「あれ、日名さんどうなさったんですか?」
「ふっふっふ!よくぞ聞いてくれた!モニター担当の小山田君!」
「え、何で俺の名を?」
「ふっふっふ!私は天才だからね!」
くぅ!日名夏さんに名前を覚えてもらっているなんて光栄だな!俺!まさか俺にも春が!?
「ないない、ありえない。っと、すまん電話だ。席を外す。」
俺の心を読むな!否定するな!そしてもう二度と帰って来るなバカ!
武辺はスマホ片手にモニター室を出て行った。…はっ!まさか気を聞かせて二人きりに!すまん武辺!お前をバカにしてしまって!今度なんか奢ってやるからな!
「えっと、日名さんは何しに来たのですか?」
「えっとねぇ、実はね…。」
顔を赤らめて俯く日名さんマジ天使!いや、マジ女神!ってまさかまさかまさか!これってまさか!まさかなのか!?
「な、なんでありましょうかでふ!」
しまった!緊張のあまり口調がおかしくなった上に噛んでしまうなんて!
「ふふ、面白い方ですね。」
だがしかしナイス俺!これぞ怪我の功名!好感度ポイントが上がった気がするぞ!
「ははは、よく言われますよ。」
「っと、それでですね実はあなた「ディレクター!対象を見つけました!」に愛しのレンきゅんのこうど「でかした!即行捕縛だ!」スクショで「刺股隊突貫します!」記録ってうわぁぁぁぁ!!??」
「対象の怯みを確認!捕縛網隊構え!発射用意!てぇっっ!!」
「ひゃあぁ!?」
「対象の捕獲確認!これより対象を移送する!逃げ出さぬよう厳に監視せよ!行動開始!」
…あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!俺が日名さんと喋っていたらいつの間にかディレクター達が現れて瞬く間に日名さんを刺股で抑え網で捉えて連れ去って行ったんだ。
くそっ、自分が何言っているのかわかんねぇ、頭がどうにかなりそうだ。
連中の捕縛までの練度が凄かったとか、ディレクターが某艦長みたいな砲撃台詞でツボに入りそうとか思ったけどそうじゃねぇ!もっと恐ろしい会社の闇を味わったぜ…
「武辺さん、日名捕獲の協力ありがとッス」
「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。ん?どうした小山田?」
「俺の春を返せぇ!」
ついでに武辺の腹黒さも味わったぜ…ガクッ
★
「こんのアホタレが!お前ぜってぇサービス開始の宣言忘れてただろ!?」
「すいまちぇん。」
「予定よりも12分の遅れだ、既にマップの外に出ちまったせっかちなプレイヤーが居たんだからな?まぁ伝家の宝刀オコッタさんを投入したから外に出たプレイヤーは町に死に戻しておいたからさっさと開始宣言すっぞ!」
「ディレクター、まだ一人外に居ます!ええと、あ、オコッタさんと戦闘中みたいですね。ライフも残り少ないみたいなのですぐ死に戻りそうですね。」
「ん、なら問題なさげだな。よし、主要メンバーは管理アバターでインするように!」
「「了解です!」」
こうしてA・Oのサービス開始宣言は遅れながらも行われる
「…~である。是非プレイヤーの皆様にはこのゲームを存分に楽しんでもらいたい!ようこそ!アーキテクト・オンラインへ!」
「「「「「「わぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」」」」」」
ふっ、決まったな。
GMアバターでインしたディレクターは大歓声をその体に浴び酔い知れていた。
「コソコソ…ディレクター、緊急事態ッス。オコッタさんがなんと倒されてしまったみたいッス。」
「…ふぁ?」
「だから、オコッタさんがやられたッス。」
な、何を言っているんだこのうすらトンカチは?私の可愛い可愛いオコッタさんがインして間もないプレイヤーに倒されるなんてありえる筈が無い!オコッタさんには攻撃無効の安全メットとダイヤのツルハシを装備させておいたんだぞ!?
「くっ、認めたくないのは分かりますッス。けど、現実ッス。これがオコッタさんの遺品ッス。」
そ、それは!?私がオコッタさんに与えた安全メットとダイヤのツルハシ!?あばばばあばばかなななn
「ディレクター!?まるで足が生まれたての小鹿の如く震えているッスよ!?」
「だ、大丈夫だもももも問題ない。」
「あ、アカン奴やこれ。」
★
大会議室にて
「ふぅ、自分達が手掛けたゲームがプレイヤーに遊ばれるこの瞬間。今までのデスマーチの苦労が報われるようだ。」
プログラマー達は各々に涙を浮かべながら開始宣言を生中継で食い入るように見ていた。
「た、大変です!」
監視作業を行っていた一人が声を上げた。
「なんだよ!今いいとこなんだ!後にしてくれ!」
「そうだそうだこのプレイヤー達が見えないか!?俺達の努力の結晶が身をむすんだんだぞ!」
「でも!オコッタさんが倒された上に最初にインしたプレイヤーがもうログアウトしてしまったんですよ!?由々しき事態じゃないですか!?」
この発言の瞬間プログラマー達は凍り付いた。
「だにぃ!?」
「…嘘だろ!?嘘だといってよバー○ィ!」
「足首を挫きましたぁ!!」
「衛生兵ぇ――!」
「おおお、餅つけ!餅つくんだ!」
「お前こそ落ち着け!だいたい餅ついてどうすんだ。」
「え、……食べる?」
「違うそうじゃない。」
混乱が混乱を呼んでいた。しかも全員足を生まれたての小鹿の如く震わせて。
「とにかくオコッタさんの事は至急上に伝えてくる!」
立ち治った一人が報告の為走り出す。
「わかった、頼むぞ!それでログアウトの理由は?」
「ええと、オコッタさんとの戦闘で精神的に疲れたそうです!」
「せ、精神的…だと?」
「我々には!」
「圧倒的に!」
「癒しがぁ!」
「足りない!」
「ええい、貴様等さっさと立ち治れよ!ああもう、緊急採決!このゲームに今すぐ癒し要素を追加するのに賛成する奴挙手!」
「「「「「「はい!」」」」」」
レンの行動とデスマーチ後のプログラマーたちによってディレクターにも内緒で勝手に癒し要素が追加されることが勝手に決定した。
プログラマー達「うぉおお!デスマーチの再開じゃぁ!」
レン「…オフトゥン気持ちぃ」スヤァ