第0話
まずは、俺の異世界での記憶に入る前に少し俺のリアルにいた時の話をしようと思う。
これは約30年前…いやそちらの世界では5年といったところか。
俺は受験生だった。
小学生のころ周りより少し頭が良かったがために自分が特別だと慢心し、受験生だというのに一切の勉強もせずに自分のしたいように、自分の思い通りになると思っていた。
今思えばかなりたちが悪かったのだろう勉強もしていないのだから志望校に受かるはずもなく、かなり下のランクの学校に入ることとなったにも関わらずラノベや漫画のように頑張れば上手くいくと楽天的に考えていたんだ。
そう、もう聡明な君たちにはお解りだろうが俺はラノベや漫画が大好きな夢見がちなオタクだったんだ。
そして、中学に入り友達ができた。(同じ小学校の奴は一人もいなかった)
そいつとは、一緒に放課後残って学校を探検したりするなどしてかなり仲がよかった。
「やっぱり上手くいったな! 俺がここにきたのは運命だったんだ‼︎」そう心の中で思っていた。
それがただの現実逃避だとも知らずに…
程なくして、俺のクラスでいじめが始まった。
クラス内での格が決まったのだ。
当然俺は格が高い方にいちしていると高を括っていた。
だが、予想に反して俺の格は底辺だった。
なぜならここは進学校でもないランクの低い学校なのだ、格は腕っぷしの強さで決まる。
頭の良し悪しなどは二の次なのだ。
俺はいじめの格好の的となった。
最初は仲の良かったやつも罪悪感があったのだろう、そいつは見て見ぬ振りをするだけでいじめには参加して来なかった。
だが二年生になり、事態はかわった。
俺がオタクだとばれ、そいつもいじめに参加してくるようになった。
そしてそれは高校生になっても続いた。
俺はより一層二次元にのめり込むようになった。
友達に裏切られ、いじめを受け続けた結果がこれだった。
そんな俺を親が慰めたりするはずもなく、かける言葉はきまって「逃げるな」だった。
その言葉は呪縛となり、俺の心を蝕んでいった。
いつしか俺はこことは違う世界、異世界に行くことを強く望んでいた。
だが、異世界に行きたいと思うたびに「逃げるな」と聞こえてくるのだ。
下校時も俺は異世界に行きたいと考えていた。
異世界に行けば俺はヒーローになれる。
「逃げるな」
うるさいっ! 異世界でヒーローになれば逃げでもなんでもないじゃないか!
「逃げるな」
逃げてなんかいない! 俺に関わることから逃げているのはお前らだろ!
「逃げるな」
そんな思考を繰り広げていると
「ねぇ、君」
「ん?」
どこからか声がかかった、しかし声の主は見つからない。
少しの間キョロキョロしていると
「下だよ、下」
と声がかかった。
下を見るとそこには妙な少年がいた。
小年の周りには薄いぼんやりとした光球が飛び回っていた。
「君、異世界に夢を見ているようだね」
そうバカにしたように言ってきた。
「それのなにが悪い!」
軽くキレた口調で言ってしまった…子供相手に大人気ない…
だが少年は気にした様子もなくニヤッとして
「そんなに行きたいなら連れて行ってあげるよ?」
少年がそう口にした途端目の前に一つの選択肢が出現した。
【この世界を捨て、他の世界へ行きますか?】
→はい いいえ
「は?」
「その選択肢ではいを選べば君が望んでいる異世界に行くことができる、だが異世界も君の思っているような世界じゃないよ?」
「…そんなもん今いる世界よりひでえことはねえだろ」
「どちらを選ぶかは君次第だよ」
そう言って少年は姿を消した。
「なんだったんだ、いまの」
幻覚か…と思ったが目の前の選択肢はいまだに存在している。
俺は迷うこともなくはいを選んだ。
次の瞬間世界が暗転した。