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第1話 日常

「じーーーちゃぁん!」

元気よく駆け寄るその足はまだ覚束なく、何もないはずの地面で時折つまづく。

両手いっぱいに野菜を抱え前が見えていないようだ。

「ミネ!もっとゆっくり歩け」

野菜を持った少年=ミネの後ろから少しミネより背の高いまだ幼さが残るが凛々しい顔つきの少年が言う。


ちょうど太陽が真上にあがった頃だった。

『じいちゃん』は鍬を振り上げ耕していた畑から二人の方向に顔を向けた。


「おぉ、ミネ、すごいなぁ」

満面の笑みで老人のそばに寄るミネはこれ見よがしに野菜を突きつけた。

「いっぱいとったよ!でもね、兄ちゃんうるさいの!」

「そうかそうか」

落としそうな野菜をミネから少し受け取り『じいちゃん』は笑顔で頭を撫でた。

「兄ちゃんね!あれダメとかこれダメとか言うの!」

「何でもかんでも採りゃいいってもんじゃないんだよ」

「ジル」

ジルと呼ばれた少年は後ろに引いていたリアカーからいくつか野菜を取り出しじいちゃんに見せる。

「奥のヤツはあともう2週間後くらいがいいかも。手前の畑は収穫した」

「ん。すまんな、ジル。今回もいい出来だなぁ」

茄子を一つ受け取り、色身や照りを確認する。

「んで、こっちのトマトはもう終わりだと思う。来年用に苗だけ残そうと思うんだけど」

「そうだな、いいと思うぞ。しかし、ジルはすっかり野菜マスターだな、ハハハ」

「ジジィが仕込んだんだろ!」

少し照れたような顔で野菜を奪うジル。

ミネも訳が分からないながら老人と同じように笑う。

「兄ちゃんはますたーだぁ!」

「よし!今日はこの茄子とトマトでパスタだな!」

きゃっきゃと騒ぐミネの頭を撫でながらじいちゃんは鍬をジルに預けリアカーを引く。

「午後は?」

ジルは片手で鍬を担ぎ、空いた手でミネの手を引く。

「そうだなぁ、今日は久々にワシ直々に稽古をつけてやろうか」

「本当か!やっぱナシとか言うなよ、ジジぃ」

「じいちゃんと呼べ。いや師匠かな?」

ガハハと豪快に笑いながら、老人は愉快そうに歩き出す。

その横をジルとミネが着いていく。

「絶対、師匠なんて呼ばねぇ」

「ししょー!」

「ジルは素直じゃないのぅ〜、今日は手持ちを選ばせてやろうと思ったが、止めた。今日は素手な」

「なっ!卑怯だぞ!素手じゃ勝機がゼロじゃねぇか!」

「素直に師匠と呼んだら考えてやるぞ?ん?」

挑発的にジルを見る。

ジルはぐっと唇を噛み締める。

少し戸惑い、考えてからため息をちた。

「今日、一日だけ師匠って呼ぶ。だから、小型ナイフがいい」

「一日だけか?まぁいいか。小型ナイフ好きだなぁ、ジルは」

「一番手になじむってか、扱いやすいし。じ・・・師匠に勝つには意表がつけるのがいい」

少しだけムスッとした表情でジルは言う。

「構わんよ。ワシは何も要らんけどな」

じいちゃんは老人というには誤解が生まれそうな外観だ。腰は少し曲がって入るがまだまだ足腰はしっかりした出で立ち。

髪も髭も真っ白ではあるが、その顔は凛々しく目は澄んでいた。何よりもその腕や足、胸などの筋肉が年齢を感じさせない。

「とりあえずは飯だな!腹が減っては戦はできん!」

「めしー!ごはんー!」

三人はこうして家に向かう。

いつもの日常。

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