思い出
かなり短い小説です。
皆は覚えていますか?
小さな頃の事を。
僕は覚えています。
はっきりと。
小さい時に大事な人を失ったから。
僕がまだ幼稚園の時に、両親は離婚しました。
僕は母に引き取られ、母の実家で暮らすようになりました。
幼稚園から帰ると、家にはいつも、お婆ちゃんがいます。
そして、夕方になると決まった時間に、お爺ちゃんが帰ってきます。
仕事が休みの日は、いつも僕を自転車に乗せて、いろんな所に連れていってくれました。
僕は、そんなお爺ちゃんが大好きでした。
でもお爺ちゃんは、死にました。
僕が幼稚園の年長の時に、急に入院しました。
僕は、幼稚園が休みの時には、必ず病院に行きました。
月日が経つに連れて、お爺ちゃんは、痩せていきました。
そして、僕は幼稚園を卒業しました。
僕は、卒業証書をお爺ちゃんに見せに行きました。
お爺ちゃんは、笑いながら、お祝いと言って、僕に病院で出されるご飯に付いてくるゼリーをくれました。
その日がお爺ちゃんと話した最後の日でした。
お爺ちゃんは、死にました。
ガンだったそうです。
数日経って、お爺ちゃんが棺に入って戻って来ました。
お婆ちゃんや、お母さん達は泣いていました。
でも僕は泣きませんでした。
棺に入ったお爺ちゃんは、眠っているようでした。
お坊さんが、お経を唱えている間、僕は退屈でしかたありませんでした。
それから3日間お爺ちゃんは、棺に入ったまま、家にいました。
次の日、男の人が家に来ました。
お母さんは、お爺ちゃんとは、今日で、お別れと言いました。
お爺ちゃんの棺を開け、お爺ちゃんが大好きだった酒を飲ませてあげました。
お爺ちゃんは、喜んでいるように見えました。
その後、お母さん達は、棺にいろんな物を入れました。
僕も入れようと思い、だいじにしてたミニカーを入れようとしたけど、それはダメと言われたので、何も入れませんでした。
お爺ちゃんの入った棺が閉じられ、霊柩車に入れられました。
すると、お母さんが鳥かごを僕に渡しました。
中には、真っ白な鳥が入っていました。
鳥かごを開けると、鳥が一斉に飛んで行きました。
とても綺麗でした。
そして、僕は、お爺ちゃんの写真を持ったまま、車で火葬場に行きました。
火葬場に着くと、お爺ちゃんの入った棺が、変な機械に入れられました。
数十分経って機械から出てきたのは、粉々になった骨でした。
お母さん達が泣きだしました。
この時、もうお爺ちゃんと会えないと分かり、僕も泣きました。
泣きながら、僕は箸で、お爺ちゃんの骨を壺に入れました。
お爺ちゃんがいなくなった次の日、白い子犬が家に来ました。
首輪も付けていなかったので、たぶん野良犬です。
僕は、その犬を飼う事にしました。
でも、お婆ちゃんが、犬は家に入れるなと言ったので外で放し飼いにしました。
犬は放し飼いにしてたけど、どこにも行きませんでした。
毎日一緒に遊びました。
ある晩、その犬が鳴きながら、家の窓の所に来ました。
中に入れようとしたけど、お婆ちゃんがダメと言いました。
犬は僕を見ながら鳴いていました。
次の朝犬は、いなくなりました。
あの時、中に入れてあげれば居なくならなかったかもしれないと思うと、とても悲しくなります。
そして僕は、今高校生。
今思うと、もっとお爺ちゃんと話しておけばよかった、もっと遊んでおけば良かったと、悔やむ気持ちでいっぱいです。
お爺ちゃんが死んでから来た白い犬。
生まれ変わりとか幽霊とか信じていない僕でも、思ってしまいます。
あの白い犬は、お爺ちゃんだったのかな。
お爺ちゃんが、最後に会いに来てくれたのかな。って………。