第四十三話 先生の怪しい噂
戦闘が最近なくてすみません。
第四十三話 先生の怪しい噂
翌朝、僕らはアメリの様子を見るべく保健室へと来ていた。アメリは白い服を着せられ、ベッドに寝かせられている。
「ふあぁ、あれ、ここはどこですの?」
「気がついたね! アメリは影に襲われて倒れてたんだよ。だから僕らが保健室に運んだんだ」
「そういえば確かに頭を後ろから殴られたような気が……」
目を覚ましたアメリは後頭部を押さえると、そのままの姿勢で考え込む。
「どうしたの?」
考え込むアメリを心配そうにナルが覗き込む。アメリは弱々しい目でナルを見つめ返した。
「いえ、いま襲われた時のことを思い出そうとしたら何も思い出せないんですの……。まるでもやがかかったようで……」
「無理に思い出さなくてもいい。ゆっくり思い出せばいいの」
「仕方ありません、そうさせていただきますわ」
ナルはアメリに布団をゆっくりとかけてあげようとした。するとアメリはいきなり布団をガバッと押しのける。
「ナルさんちょっと待ってくださいな。私はもう大丈夫ですわよ。だから休むのはもう止めて皆さんについて行きますわ」
「危ないの! ここで寝ていた方がいい」
「私は襲われたまま黙っているような女ではありませんのよ? 犯人を捕まえてキィキィ言わせてやりますわ」
アメリは首を絞めるような動作をした。どうやら犯人にかなりご立腹のようだ……。
「むぅ……言っても聞かなさそう。みんな、アメリを連れていっていい?」
「私は構わんが」
「私も別に良いわ」
咲とスフィアは諦めたようにアメリの同行を許した。
うーん……。他のみんなは許可したし……。どうしたものか。僕は深く悩む。僕がそうして額にシワを寄せていると、アメリが僕の顔をうるうるした目で、しかも上目遣いで見てきた。
うう、そんな顔されて逆らえるわけないじゃないか。
「まあ迷惑かけないなら」
僕が渋々許可を出すと、アメリの顔がどんどん明るくなって行く。
「ありがとうございますわ。それでは早速調査に出発しますわよ!」
アメリはベッドから降りて高らかに宣言した。そして腰に手を当てて、指を虚空に突き刺す。
「おおー!!」
なんだかんだでノリの良いみんなはアメリに合わせ、気合いを入れたのだった……。
★★★★★★★★
「まずは聞き込みですわ! とりあえず影の噂について他の生徒たちに聞いて見ますわよ!」
アメリが廊下を踏み鳴らしながらどこかの刑事のようなことを言っている。いつのまにか彼女がリーダーのようになっているのはなんでだろう……?
「アメリ、いまさらだけど授業は?」
ナルが思い出したように言った。そういえばそうだ。みんながアメリの方に注目する。
「私は優秀でしてよ。一日ぐらい大丈夫ですわ」
サボるのかよ……。みんな呆れたように生暖かい目でアメリを見る。
「な、何ですのその目は! ほ、ほらあそこにいる生徒に聞き込みをしますわよ」
アメリは話題を無理に逸らすと、廊下を歩いていた女の子に声をかけた。
「そこのあなた! 調査に協力してくださいまし!」
アメリはいっそ清々しいほど高圧的な態度で言い切ると、女の子をこっちに引っ張ってくる。
「あの、何ですか? 私、忙しいんですけど」
眼鏡をかけた女の子はアメリの強引な態度に戸惑ったようにオロオロとしていた。そして、僕らにすがるような目を向けてくる。
「私たち影の噂について調べていますの。ほら、昨日騒ぎになったでしょう?」
「あれについてですか? 私は何もしらないですけど」
女の子はいかにも興味なさそうに答えた。まあ普通はそうだよなあ。
「そうですか。なら仕方ありませんわね。失礼しましたわ」
アメリはそれ以上聞いても無駄だと感じたのか女の子から歩き去って行く。僕らもそれに続いて立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってください! あの、あなたはもしかしてナル先輩ですか?」
女の子はナルの姿を見つけると、さっきまでとは打って変わってナルに積極的に話しかけてきた。話しかけられたナルはキョトンとして立ち止まる。
「そうだけど、どうして?」
「私、先輩のファンなんです! サインください!」
「え、それは別にいいけど……何故に私のファンなの?」
「先輩はとっても有名なんですよ! 成績は常にトップでしたし、めちゃくちゃかわいい! そして何より突然学園を辞めるっていうミステリアスな行動! そのすべてに痺れるからです!」
「は、はあ……」
「というわけでここにサインを!」
女の子は持っていた本を差し出した。ナルは訝しげな顔をしながらもスラスラとサインをする。
「やったあ、ありがとうございます! お礼と言ってはなんですけど、耳寄りな情報がありますよ」
女の子はナルから返してもらった本を大事そうに抱き抱えると、そう切り出した。その時、前を歩いていたアメリがピクッと動いた。
「それは聞き捨てなりませんわ! どうしてさっき言ってはくださらなかったんですの!」
アメリが眉間にシワを寄せて、凄い剣幕で女の子を怒鳴る。女の子はアメリが怖かったのか早口で話した。
「話します、話しますから落ち着いて! えーと、昨日襲われた現場の近くにいたっていうクレイブ先生には怪しい噂があるんですよ」
「へえ、どんなですの?」
「それはですね……」
その後、女の子が話してくれた内容をまとめるとこうだ。クレイブ先生はフィー先生と同時期に国の研究所の推薦でこの学園に入ったそうだが、良く姿が見えなくなるらしい。さらに彼がいなくなっている時と重なるように例の影が目撃されているそうだ。ちなみにこのことはあまり知られてはいないらしい。何でも、先生たちにすらあまり好かれてはいないクレイブ先生の行動を観察しているような人など、ほとんどいないからだそうだ。
「いよいよ本格的に怪しいですわね。まったくあの陰険教師は前々から何かやらかしそうだと思っていましたわ!」
女の子の話を聞き終わったアメリは顔を真っ赤にした。そして廊下を一目散にかけてゆく。
「どこ行くんだよー?」
「クレイブのところに決まってますわ! あの陰険教師をとっちめてやるんですから!」
腹が立ってしかたない様子のアメリは僕の質問に苛立たしげに答えると廊下をドタドタと走り、職員棟へと移動する。そして職員棟の廊下の端にある、クレイブと書かれたドアを勢い良く開け放った……。
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