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第四十一話 怪しすぎ? 陰険魔法教師

第四十一話 怪しすぎ? 陰険魔法教師


「調査は夜に行いますぅ。それまであなたたちはこの部屋で休んでいて下さい」


フィー先生は建物の端の小さな部屋に僕らを案内すると、そういって部屋を出て行った。とりあえず僕は部屋に置かれていたソファーに腰掛ける。うん、なかなか坐り心地の良いソファーだ。


「私もそろそろ部屋に帰りますわね。でもまた夜になったら来ますから、調査に連れて行って下さいましね」


アメリはそのまま部屋から出て行こうとしたので慌てて僕は声をかける。


「ねえ、ちょっと! 調査に連れて行くのは無理だよ。危ないから」


「平気ですわ。学園長先生はああ言ってましたけど、この学園に強い魔族が侵入することなんて不可能ですもの。だから大丈夫ですわよ。それに私、治療魔法が使えますから何かあった時でもきっとお役に立ちましてよ」


アメリはどこからか金色の扇を取り出して、高笑いを始める。

 ……大丈夫かなこの人。


「大丈夫。アメリは馬鹿っぽいけど、見た目ほどは馬鹿じゃないわ」


ナルが僕に耳打ちをした。いつのまにナルは読心術をマスターしていたんだ?


「ナルさん? 今遠回しに私を馬鹿にしましたわね!」


 アメリが額にシワを浮かべて叫ぶ。ナルはその大声に耳を押さえた。


「うるさいの。それはあなたの被害妄想」


 ナルのきつい言葉にアメリが固まった。危険を感じた僕は二人から距離を取る。


「ムキィーー! も、もう帰りますわ! それではご機嫌よう!」


アメリはドアを勢い良く閉め、足音を響かせながら部屋から出て行った。


「ナル、あれはやり過ぎ」


「私もあれはどうかと思うぞ」


スフィアと咲が口々にナルを非難する。しかし、ナルは無表情なままこう言った。


「ああ見えてアメリはいじめられて喜ぶタイプ。だから問題ないわ。むしろあれくらいしないと本人が満足しないの」


 衝撃のカミングアウトに部屋の空気が凍りついた。どこからか寒い風が吹き抜けた気がする。


「……そうなのか」


「しゅ、趣味は人それぞれだからな!」


スフィアと咲はそう言ったきり黙り込む。そんな微妙な空気のまま時間が過ぎて行った。


★★★★★★★★


「さて出発しますですよ~ってあれ、何なのですかこの空気」


日が暮れてフィー先生がやって来た。しかし彼女は部屋の中の妙な空気に驚く。するとナルがボソッと言った。


「私の冗談をみんなが間に受けたの」


何……冗談だと。


「ナ、ナル……騙したなぁ!」


 スフィアが真っ赤になって怒る。ナルは立ち上がり、広い部屋の中を逃げる。


「だ、大丈夫だぞ白河。あの悪魔からは私が守ってやる」


 どさくさに紛れて咲が僕の身体を抱き寄せ、がっちりとガードする。


「一時休戦なの!」


「くっ、やむを得ないか!」


咲と僕の様子を見たナルとスフィアは、手を取り合って接近してきた。咲は僕をさらに強く抱き寄せる。


「咲? 抜けがけはダメだぞ?」


「そうなの。その手を白河から離して」


黒いオーラを放ちながら二人は仁王立ちする。咲は二人をキリリと睨み返した。一触即発。やばい空気だ。

 こういう時はどうしたらいいんだ?


「こらっ喧嘩しちゃダメなのですよぅ~」


フィー先生が教師らしく一喝した。まったく迫力はなかった。でも、三人はおとなしくなる。


「それでは行きますよ。まずは庭園からですぅ」


フィー先生はドアを開けて僕らを廊下に呼ぶ。僕らはすぐに廊下に出た。

廊下は魔法の光で薄ぼんやりと照らされていて、飾られている彫刻が不気味さを醸し出している。


「私がお邪魔する前に勝手に出掛けないでくださいまし!」


「うわあっ!」


後ろからアメリが話し掛けてきた。僕はびっくりして飛び上がる。


「人をお化けみたいに扱わないでくださるかしら」


アメリは不機嫌そうにそう言うと強引について来る。フィー先生は何か言いたそうだったが、アメリの気迫に押されたのか黙っていた。

 そうしているうちに僕らは庭園の入口に着いた。


「この庭園にあるシースライトタワーの周辺で黒い影はよく見られるそうですよぅ。だから注意してくださいですぅ」


シースライトタワーは月明かりを反射して淡い輝きを放っていた。僕らはその根元に広がる庭園をゆっくりと歩き、辺りを見回す。庭園には様々な花が咲き乱れ、植えられている樹木と合わせて幻想的な雰囲気だ。


「気だ。誰か来るぞ」


咲が鞘から刀を抜き放つ。白銀の刃が煌めいた。僕も杖を構えて魔法の用意をする。スフィアやナル、フィー先生も戦闘準備をする。ちなみに戦えないアメリはみんなの後ろに逃げ込んだ。

 木々の間から怪しい人影が見えた。紫色の長髪に、病的に白い顔。彫りが深くてギョロリとした目が気味悪い。


「誰だ! ただものではないな!」


咲が不振な男に刀を突き付けた。それに男は驚いたような声を出す。


「一体何の真似だ。フィー先生、事情を説明してくれたまえ」


 男はフィー先生の姿を見つけると、鋭い目で睨む。フィー先生は素っ頓狂な声を出した。


「ふぇ、クレイブ先生ですか? どうしてこんなところに?」


先生だって? こんな警察がみたら間違いなく職務質問しそうな人なのに?


「見回りだ。フィー先生の方こそどうしているのだ? 生徒たちまで引き連れて」


クレイブ先生は僕らを見回した。僕らはひとまず武器を仕舞う。


「学園長先生からの命令で黒い影の調査をしていたんですぅ。こちらの人たちは学園長先生が頼んでくれた助っ人の人たちで、アメリさん以外は生徒じゃないのですよ」


フィー先生がそういうと、クレイブ先生は僕らを値踏みするような目で見てきた。そしてしばらくの間見続ける。


「ふうむ。頼りにはならなさそうだな。まあ気をつけて調査するがいい」


僕らから目を逸らしたクレイブ先生はそれだけ言い残して足早に歩き去って行った。


「ふぅ、やっといなくなった。それでは調査を続けるですよ」


フィー先生はクレイブ先生が苦手らしく、彼が見えなくなったのを確認すると一息ついた。そしてまた調査を開始する。黒い影の調査はまだ始まったばかりだ。



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