第四十話 学園長と怪しい依頼
祝日ですので連日投稿です。
第四十話 学園長と怪しい依頼
僕らは街の端にあった馬を預かる業者に馬車を預けると、魔法学園に向かった。街を歩くローブをきた魔法使いらしき人々とすれ違いながら坂を登る。すると、魔法学園の威容がはっきりと見えてくる。その赤い煉瓦で構成された外観はどこか古い日本の大学のように見えなくもないが、雰囲気が異なっていた。ましてその奥に聳える高い高い搭などはさらに独特の雰囲気だ。
その魔法学園に僕らはナルの案内で入っていく。
「とりあえず職員棟へいくわ。事務的なことはそこで行っているはず」
先頭を歩いていたナルはそう言って、真正面にある一際大きな建物に入って行った。それに僕らも慌てて続いていく。ここは常時かなりの人数が出入りしているらしく、その人々に紛れて僕らはすんなりと中に入る事ができた。中に入って見ると、大きなエントランスになっていた。豪奢なシャンデリアが照らすその中を人が盛んに行き来している。
「へぇ、結構騒がしいところなんだね」
イメージとは違う様子に、僕はナルに率直な感想を言う。ナルは聞き慣れた感想なのかなめらかに返事をした。
「職員棟は出入りしている業者さんとかが良く来るもの。それ以外にも今の私たちのように学園に用がある人が来たりするし。だけど教室棟や宿舎は静かなの」
「そうなんだ。なるほど」
僕はそういうとまた歩き出したナルに続く。ナルは長い階段を三階まで登り、廊下を歩く。両端に小さな石像の飾られた廊下はいかにもと言った感じだ。
「遅かったですわね。待ってましたわよ」
木製の扉の前にアメリが立っていた。彼女は盛んに手招きしている。扉には事務室と書かれていた。
僕らは素直にアメリの手招きに従い、扉に近づく。
「それじゃ入りますわよ」
アメリは扉を開けた。中では背の低い老婆が書類と格闘していた。僕らには気がついていないようだ。
「おばあさん、おばあさん! こっち見てくださいまし。私たちあなたに用がありますのよ」
アメリがおばあさんを何度も呼ぶ。するとようやく僕らに気がついたようでこっちを見てきた。
「おやおや何のようだい……ってあんたナルかい? 久しぶりだねえ。わたしゃ懐かしいぐらいだよ」
おばあさんは驚いた様子でそう言うと両手を広げた。ナルもそれに応じて、おばあさんの胸に飛び込む。どうやら二人は知り合いらしい。
「私も会えてうれしいの。でも今日は言わなきゃいけない用がある」
ナルはおばあさんから離れると、事情を説明し始めた。するとおばあさんは険しい顔になる。
「困ったねえ。竜の山に登るには学園長先生の許可がいるんだよ。それが無いことには手続きできないねえ。ごめんよナルちゃん」
ナルが説明を終えるとおばあさんはそう言った。その言葉にアメリが噛み付く。
「ちょっとぐらいどうにかなりませんの? あんなに大きな山なのですから何人か隠れて登ったところでばれませんわよ」
それはいけない気がするな。そう僕が思うと案の定思った通りの答えが帰ってきた。
「それはダメだよ。規則があるからね。どうしても登りたいのなら、学園長先生の許可を得てきておくれ」
「そうですわね。そう致しますわ」
アメリはそう言って扉を開け、部屋を出て行った。僕らもすぐに後を追う。
★★★★★★★★
事務室からさらに階段を登った廊下の先でアメリが腰に腕を当ててイライラしたように僕らを待っていた。
「まったく気の利かない人でしたわ。少しぐらい良いでしょうに」
アメリはおばあさんの対応にいらついているようだった。それをスフィアが年長者らしくなだめる。
「まあまあ、そう怒らない。怒ると身体に悪いぞ。それよりここが学園長の部屋なの?」
スフィアは何も書かれていない扉を見てなだめるついでに質問をした。アメリは深呼吸すると、気分を落ち着かせたのかゆっくりと質問に答える。
「ええそうですわ。ここが学園長先生の部屋ですわよ。何も書かれてませんからわかりにくいかもしれませんけど」
スフィアはアメリの答えに納得したように首を振る。
それを確認したところでアメリは扉についていた金色の呼び鈴を鳴らした。カランカランと澄んだ音がする。すると中から老人の声がした。
「誰じゃ? 用があるのなら入りなさい」
「失礼します」
威厳のある声に僕らはみんな緊張しながら返事をした。そして部屋に入る。部屋の真ん中に大きな机があった。そこに白い髭を蓄え、大きな黒い三角帽子をかぶった老人が座っていた。
「ほう、これはまた珍しいお客様じゃの。して、わしに何の用かな?」
学園長は僕らを見ると興味深そうな笑みを浮かべた。そこでナルが代表して事情を説明する。その話が進むにつれて学園長の顔は険しくなっていった。
「ふうむ……。どうやら大変なことが起きとるようじゃ。よろしい、許可を出そう。ただし一つやって欲しいことがある。頼まれてくれんかの?」
学園長はそう言って僕らの顔を見回した。何を頼もうと言うのだろうか。厄介な気配しかしない。しかし、これは引き受けるべきだろう。
「わかりました。引き受けます」
ナルも引き受けるしかないことがわかったのかそう言った。それを聞いて学園長は顔をほころばせる。
「おお、頼まれてくれるか。その依頼の内容なんじゃがの、最近この学園で黒い影のような物が目撃されておるようなのじゃ。先程まではさほど気に留めておらなんだがの、お前さんたちの話を聞いたらどうにも気になっての。これの調査をして欲しい。情けない話だが、学園の教師よりお前さんたちの方が実力はありそうじゃからの」
学園長はそういうと机の上に置かれた小さな鈴を鳴らした。するとしばらくして、廊下からバタバタと音がしてくる。そして扉が勢い良く開かれる。
「お呼びですかぁ学園長先生」
扉を開け部屋に入ってきた女性は舌足らずな高い声で言った。たぶん大人なんだろうけど……中学生くらいにしか見えない。
「フィー先生、実はの……」
学園長はフィー先生を呼ぶと説明を始めた。フィー先生の感嘆の声が漏れ聞こえてくる。
「わかりましたぁ! 私が皆さんのお世話をすれば良いんですね!」
そう言ってフィー先生は学園長にビシッと敬礼した。学園長は生暖かい目でそれを見ると、こっちに視線を移す。
「心配じゃのう……。でも仕事がない先生は他におらんしの。お前さんたち、これから先のことはこちらのフィー先生に頼んだからの」
「よろしくですぅ!」
フィーは先生はニコニコして挨拶をした。不安だ、すごく不安だ……。この場にいるほぼ全員がそう思った。スフィアだけは違っているように見えたが。
「よ、よろしくお願いします」
僕がみんなの代わりに振るえ気味の声で言った。するとフィー先生は手を出してきた。なので僕はがっちりフィー先生と握手をするのだった。いつになく不安になりながら……。
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