第三十九話 森を抜けたら魔法の都
今回は短めです。
第三十九話 森を抜けたら魔法の都
五人に増えた僕らの一行は、森の中をひたすら南に向かって移動していた。
「へえ、あなたたちそんな目的で旅をしていらしたのですね。私にはすこし信じがたいですわ」
馬車の中での退屈しのぎにと僕に旅の話を聞いていたアメリが驚いたような顔をする。
やっぱり普通はそういう反応だよなぁ……。僕がアメリの様子を見て何か複雑な感覚になっていると、アメリが予想外の事を言ってきた。
「あれ、でもたしか竜の山は登るのに管理している学園の許可が要りますわよ。あなたたちもう許可はお取りになりまして?」
許可? そんなものいるのか。そんなの誰も取ってない気がするぞ。
「登るのに学園の許可なんていらなかったはずなの」
ナルが読んでいた本をパタリと閉じてアメリに反論する。その声はわずかに上擦っていた。
「昔はそうでしたわ。でも最近ダタールで大変な事件がありましたでしょう? それを受けて制度が変わりましたの」
アメリはさも当然のように言った。それを聞いてナルが呆然とする。そりゃそうだ。ダタールでの事件の時すでにナルは僕らと一緒にいたんだから。
「アメリさん、その許可は条件がきつかったりするのか?」
二人の前に座っていた咲が困惑したようにアメリに尋ねた。するとアメリは肩を落として首を縦に振る。
「あなたたちは外国の方ですから難しいかもしれませんわね」
アメリは険しい顔をした。みんなも困ったような顔をして押し黙る。そうして馬車の中が陰欝な雰囲気になったところで、急に外から光が差し込んできた。あの暗い森を抜けたのだ!
「あれがドラグナー王国の誇る魔法都市ルーフィアですわ!」
御者台に身を乗り出したアメリが興奮したように叫ぶ。アメリの視線の先には 大きな街があった。湖の隣にある小高い丘に沿うように建物が立ち並び、その丘の頂上には赤い城のような建物が建っている。そして一番特徴的なのはその城のような建物の中心に聳える高い搭だ。赤い煉瓦の建物とは対照的に真っ白なその搭は青い空に映えて美しい。
「あの搭はいったい何なの?」
僕は気になったのでアメリの方を見て聞いて見た。するとアメリは困ったような顔をする。
「あれはシースライトタワーですわ。この街の象徴ですの。私はこれぐらいしか知りませんわ」
アメリはそう言うとナルの方を見た。後はナルに任せるということらしい。
「もっと詳しいことでしたらナルさんの方が知っていますわ。そうですわよね?」
ナルはくたびれたような顔をした後で、アメリの言葉に頷いた。さらに彼女は手に持っていた本から視線を搭に移すと説明を始める。
「シースライトタワーは古代の時代から建っている搭で材質は不明。その地下には古代の遺産が封じられてるそうよ。何でもエレメントを司る機械だとか何とか……。その古代の遺産を後の時代の魔法使いたちが守るために搭の周りに集まった。それが今のルーフィア魔法学園の原形となったの」
魔法学園なんて響き、それを聞いただけでも格好良いよな。僕も一週間ぐらい在学したいものだ。
「その魔法学園ってどんな所なの? 僕も一応魔法使いだから興味あるんだけど」
好奇心が抑えられなかった僕はナルに質問する。ナルはそんな僕の質問に丁寧に答えてくれた。
「ルーフィア魔法学園はドラグナー王国が設立している学校よ。魔法使いの素質のある十三才から十八才までの子供が通うわ。でも学校というよりは研究機関としての側面が強くて、実用的な魔法というより学問としての魔法を学ぶところよ」
面白そうだなぁ。ホ○ワーツの親戚みたいな感じなのか? そうやって僕が想像を膨らませていると、咲が話しかけてきた。
「ところで許可についてはどうするのだ? あそこに見える竜の山に住むという古代竜。その力を借りねばオルガ様の浮島には辿り着けないぞ」
咲はそう言って丘の後ろにある黒い山を指差す。僕はその山を注意深く見た。その雲を貫く山は岩で覆いつくされ、不気味な紫の靄がかかっている。まさに魔境といった雰囲気だ。
「許可に関しては私とアーリーでどうにかしようと思う。だから心配しないで大丈夫」
ナルはアメリを見た。アメリは任せておけと言わんばかりの笑顔でナルを見つめ返した。僕らは少しほっとするとまた竜の山を見る。それだけ人を引き付ける不思議な魅力が竜の山にはあった。
「あれが竜の山か。なるほど強大な魔力を感じる。それに精霊もたくさん住んでいるようだ」
スフィアが馬を操りながら山の山頂の辺りを見て言う。精霊さん同士わかるようだ。
そうこうしているうちに馬車はルーフィアの前まできた。スフィアは道の端で馬車を止める。
「ありがとうございました。私はここからは歩いて学園まで帰りますわ。あなたたちも一緒に学園に来ます?」
アメリが馬車から降り立つと、魔法学園の方へと続く道をさして言う。
「とりあえず僕らは馬車を置いてからにするかな。それじゃまた学園でね!」
僕らはこうしてひとまずルーフィアの街中へと向かったのだった……。
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