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第三十八話 世間は意外と狭い?

最近忙しくて投稿遅めでした。すいません。

第三十八話 世間は意外と狭い?


森の中で悲鳴を聞いた僕らは、すぐに悲鳴の聞こえた方へと向かった。霧が立ち込める夕闇の森の中を走り抜ける。そうして少し走ったところで男に取り囲まれた女の子を見つけた。男たちは五人で武器をそれぞれ手にしている。ほぼ間違いなく山賊だ。


「まず……」


「どうかしたの?」


その光景を見たナルが、何故か具合悪そうにして後ろに引っ込んだ。そしてスフィアが心配そうにナルを見る。


「確かに気分が悪くなる光景だな。あの山賊たちは私が何とかするからナルは休んでいるといい」


咲がそういうと先陣を切って森の中から山賊たちの方へと出て行った。山賊たちの視線が突如現れた咲に集中する。僕もいかなくては! そう思って僕が出て行こうとするとスフィアの手が僕を遮った。


「スフィア? どうして」


 僕が止めた理由を聞くとスフィアは咲を一瞥して言った。


「咲にやらせてあげよう。咲は正義感の塊のような奴だから。ああいう輩は自分でやらないと気がすまないだろう」


そう言われて僕は改めて咲の顔を見た。いつもと同じような穏やかな表情をしているが、目に鋭い光が宿っている。

ああ、咲はあいつらみたいなのがよっぽど許せないんだろうな……。そう思った僕は咲の様子を木陰から見守ることにした。


「ほう、こりゃまた美人だぜ!」


「今日はついてらぁ!かわいい娘を二人も抱けるぞ」


咲の顔を見た山賊たちは口々に汚い言葉を言いながら彼女に近寄っていく。それに対して咲の視線は冷ややかだ。


「さあお嬢ちゃん、俺達と楽しもうぜ。気持ちいいからよ」


一人の山賊が咲に手を伸ばした。咲はただ黙って山賊を睨みつけている。

次の瞬間だった。


「ふぎゃ……」


山賊は超高速で後ろに回り込んだ咲に首筋を叩かれ、あっさりと気絶させられた。それを見た周りの山賊たちは動揺して後ろに下がる。


「ち、ちっとぁやるじゃねえか。ただそいつは俺達の中じゃ一番弱いんだぜ。悪いことは言わねえからおとなしくしてな」


一人の山賊が震えた声でそういうと、山賊たちは全員で咲の周りを取り囲んだ。すると咲の周りをぐるりと四人がかりで囲ったおかげで、山賊たちに余裕が戻った。


「四人まとめて相手じゃ手も足も出ないのか? 腰のもんが本物なら俺達を斬って見ろよ」


げらげら笑いながら山賊たちが咲を囃し立て始めた。咲はうっとうしそうな顔をすると、ただ一言だけ言った。


「お前らなど斬ったら刀が錆びる」


この一言は気の短い山賊たちを怒らせるのに十分だった。すっかり猿のように顔を赤くした山賊たちが咲を罵る。


「このくそアマァ! 許しちゃ置けねえ」


山賊たちは一斉に咲に飛び掛かかる。剣に斧にナイフにメリケンサック。様々な武器の軌道を咲は瞬時に見切ると、滑らかな無駄の一切ない動きでそれらを回避した。そしてまたたく間に盗賊たちの腹や鳩尾に拳を決めていく。ものの数秒で盗賊たちは全員地面に寝転ぶこととなった。


「咲!」


僕はすぐに咲の元へ駆け寄る。咲はそれを満面の笑みで迎えてくれた。


「心配してくれたのか? 私があんなのに負けるわけないだろうに」


咲はいつもの調子でそういうと、縄でぐるぐる巻きにされていた女の子の方に向かった。


「大丈夫だったか? 今解放してやるからな」


咲の刀がひらりと一閃した。縄とさるぐつわが切られ、女の子は自由になる。


「助かりましたわ。感謝しておきます。私の名前はアメリ。あなたたちの名前はなんですの?」


女の子は僕らの名前を聞いてきた。しゃべり方がなんか凄くお嬢様だ。髪の毛も金色でカールしている。まったくどうしてこんな森の中にいたんだろう。


「私は桜坂 咲、そっちにいる男が白河 輝彦。あとあっちにいるのがスフィアで、それから……あれナルはどこだ?」


咲がみんなを紹介しようとすると、ナルがいなくなっていた。さっきまでいたはずだけど……おかしいな。


「すまない。仲間を探してくるから待っててくれないか?」


「ええ、いいですわよ。ただ一人では不安ですわ。できれば誰か残って欲しいですわね」


アメリは不安げな顔をして言った。僕ら三人は顔を見合わせる。


「それなら男の僕が行こう。女の子が残った方が良いだろうしね」


「それもそうだな。じゃあしっかりナルを見つけてきて」


スフィアがそういうと咲も頷く。僕はそれを確認すると、森の中へと入って行った。そしてしばらく辺りを散策したところで霧の中でも目立つ銀色の頭を見つけた。


「おーいナルゥ! どうしてそんなところにいるんだよ!」


僕が呼び掛けるとナルはこちらをチラリと見た。そして言う。


「私は今、名前を他人に知られちゃいけない病にかかっているの。だから無理」


なんなのさそりゃ。僕は呆れながらもナルに言った。


「何を言ってるんだよ。ほら、行くよ」


僕は少々強引だが、ナルの手を掴んだ。そしてナルをみんなのいる方に引っ張っていく。


「あら、あなたもしかしてナルさん?」


意外なことにアメリがナルを見て真っ先に声を上げた。さらに興味津々といった顔でナルを執拗に見る。ナルは顔を俯け、アメリから目をそらした。


「どうして目をそらしますの! まさか私のことを忘れてしまいましたの? ほら、学園で同じ組だったアメリですわよ」


目を逸らされたことに少し怒ったらしいアメリは大声でナルに言う。それを聞いたナルはさらに露骨に目を逸らして言った。


「知らないの。アーリーと同じ組になったことなんてない……あ……」


 ナルはしまったとばかりに口を押さえた。だがもう遅い。


「アーリーなんてあだ名、知っているのは同じ組の人だけですわ。やっぱりあなたはナルでしたのね」


アメリはしてやったりという顔になり、ナルを見る。ナルも、もう観念したのか目を逸らすのをやめてアメリの顔を見た。


「どうしてこんなところにいたの? それにアーリーは出かける時はいつも付き添いがいたはず。一人でいるのはおかしいの」


ナルが苦い顔をしながらアメリに尋ねた。アメリはため息をつくと話し出す。


「それが、ハイランドに用があって出掛けたのですけれど、帰りに先程の山賊に襲われまして。その時護衛たちは私をおいて逃げてしまいましたわ。あの、それよりもナル、あなたの方こそどうしてましたの? 突然学園を辞めたりして」


アメリの問い掛けにナルは口ごもる。なるほど、これがいやだったのか。


「答えたくないんですの? ならもう良いですわ。私、話したくない人から無理矢理に聞こうとするような不躾な真似はいたしませんの」


アメリはそう言ってにこやかに微笑んだ。それにつられてナルの方も表情が緩む。


「何だかわからないがうまく行ったようだな。それなら今日はもう遅いし休むことにしよう。アメリも一緒にどうだ?」


二人をずっと見ていた咲がそう言うとアメリは頷いた。こうして僕らの旅に同行者が増えたのだった……。



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