第三十七話 ある日森の中で!?
今回は短いです
第三十七話 ある日森の中で!?
「本当に何もなかったって」
翌朝、ナルとスフィアに睨まれながら、僕と咲は朝食を取っていた。ベッドで一緒に寝ていたのはさすがにやばかったようで、ナルとスフィアはカンカンだ。
「そうは思えないの」
ナルが冷ややかに言い放つ。その視線はあたかも凍りついているかのようだ。
「まあまあ。白河はそんなことしないぞ。なあ白河?」
スフィアが優しい顔で僕を見据えてきた。しかし目が異様に鋭い。
怖い、怖いよ咲ぃ!
僕は咲の顔を見て助けを求める。咲は穏やかに微笑んだ。
「白河と私は二人が喧嘩していたから一緒に寝ただけだ。あ、あんなことやそんなことなんて……まったくしてないぞ」
咲! そんな言い方したら逆に疑われるよ! 僕は近い未来に起こる出来事を想像して椅子に座ったまま後ろに下がりはじめる。
だが案の定、僕が心配したように二人は下がる僕を恐ろしい目つきで睨みつけてきた。僕はもうただ笑うしかない。そうしているうちに二人は僕に詰め寄ってきた。
「人間だもの。過ちはある。だから今回は許してあげるの。でも次は……」
僕に顔を近づけていたナルが首を手刀で切る動作をした。僕は恐さのあまり無言で何度も頷く。スフィアは何も言わずに咲の方をまっすぐ見ていた。咲はスフィアの威圧感に圧倒されている。
「そ、そろそろ時間も遅いし出発しないか。次はドラグナー王国だぞ。長旅になるから早く行こう」
咲は声を絞り出して言った。ナルとスフィアもそれに賛成した。こうしてようやく今回の騒動は収まったのだった。
★★★★★★★★
あれから様々な準備を済ませて僕らは大きな森を抜ける小さな道を馬車で走っていた。周りはすべて森に囲まれている景色だ。これを見て、さっきから思っていたのだがこの辺りはほんとに森ばかりだ。ただ、この大陸は砂漠や雪山、草原など以外はほとんど森林らしいけど。そんな景色を見る事に飽きてしまった僕は馬車の中を見回す。馬車のなかではいつものナルが本を読み、咲が地図を見ていた。
「咲、地図見せて」
「ああ、もちろん良いぞ」
咲に許可を貰った僕は地図を覗き込む。地図には山やら森やら様々な絵が描かれていて、等高線と記号で表された日本の地図とはかなり異なっていた。
「ここが今いる位置だぞ。そして、この大森林を抜けたらいよいよドラグナー王国だ。ただこの大森林を抜けるのに丸三日はかかる」
咲が地図を指差して解説をしてくれた。ほうほう、後少しで新しい国に着くのか。楽しみだな。
「ドラグナー王国は魔法と竜で有名。その王国の首都のすぐそばに目的地の竜の山があるの」
ナルがにわかに話しに入ってきた。そして脅かすように怖い話を始める。
「ただドラグナー王国までつながっているこの大森林は別名霧の森。すごく霧が出やすくて危険なの。さらにその霧に乗じて山賊が襲ってきたりもするとっても怖ーい森よ。森の奥に入ったら最後、ほとんど出られない」
ナルは凄みを効かせて言った。咲と僕は互いに身を寄せる。すると、馬車の外から声がした。
「おーい、霧が出てきたぞ。もう遅いし今日はこの辺りで泊まることにしよう」
このタイミングでかよ! 僕は心の中で激しいツッコミを入れた。しかし天候が変わるはずもない。仕方なく僕らは馬車を道の端に止め、泊まる準備をする。
薪を集め、火を起こし、夕食の準備が終わった頃には辺りは霧で白く染まっていた。
「ずいぶん濃い霧だな。止まって正解だった」
スフィアが雲の中にいるような状態になった森の様子に思わずそう言った。ほんとに、スフィアの言ったように止まっていなかったら今頃遭難していたかもしれない。
「ご飯ができたぞー! さあさっさと食べよう」
今日の食事当番の咲が出来上がった料理を運んできた。おお、今日のおかずは魚の干物のようだ。咲は見かけ通り和食が好きなようだ。
「いただきまーす」
僕は挨拶をしてから魚を食べる。他のみんなもそれぞれ違った挨拶を済ませてから食べ始めた。
「この魚おいしい。なんて魚?」
「アイジって魚だ。私の故郷の方で良く捕れる魚でな、懐かしくてたくさん干物を買ってしまった」
咲は少し遠い目をした。きっと故郷のことを思い出したのだろう。僕も咲に釣られて日本のことを思い出す。うーんなんか懐かしいなぁ……。
「お代わりなの!」
僕と咲が感傷的になっているとナルが皿を突き出してきた。
皿の中を見ると魚の骨だけが綺麗に残され、他はなくなっていた。慣れない魚料理を良くもこれだけ綺麗に食べれるものだ。ナルは食事に関する才能でもあるのかもしれない。ちなみにスフィアはナルの横で魚の骨と戦っていた。
「さすがというのかこれは。まあいい、好きなだけ食べれば良い。食糧にはまだゆとりがあるからな」
咲は慣れた様子でナルの皿の上に魚を送ると、自身は食事の後片付けをしはじめた。
「片付けたら寝袋を用意しよう。今日は疲れた」
僕はそういって馬車の中へ戻り、寝袋を敷く。この世界の夜は早い。照明があまりないからだ。
「そうだな、今日は早めに眠ろう」
スフィアや咲もそういって馬車に戻ってくる。その後に続いて、ナルがお腹をさすりながら戻ってきた。かなりたくさん食べたようだ。
「今日はもう寝る」
スフィアが寝袋に潜ろうとしたその時、遠くから甲高い悲鳴が聞こえてきた……。
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