第三十二話 リンドン再び!
第三十二話 リンドン再び!
僕らは竜の山を目指して一路、帝都ハミヴァイから南に向かっていた。草原に囲まれた街道を馬車で駆け抜ける。
「そろそろ補給が必要だな。でも路銀が少々心許ないし……うむむ……」
咲がそろばん片手に帳簿とにらめっこしている。そろばんが得意だ、と言った彼女が今のパーティーの家計を担っているのだ。
「ずいぶん早くないか? この前街によってから一週間も経ってないよ」
僕は咲の言葉に疑問を感じて質問した。確か街によった時に、二週間分ぐらいの食料を買ったと言ってたような気がする。ならまだ大丈夫じゃないのか?
「そこで本読んでるのがたくさん食べたからな。もう残り少ないんだ」
咲は魔導書を読み耽っていたナルをじいっと睨む。ナルは睨む咲を無視するかのように本を読み続けた。どうやら本に夢中のようだ。
「ナルは育ち盛りなんじゃないのかな?」
僕はナルを見て、食事の度に皿の山を作る姿を思い出した。でもそれは大きくなるためなんだろうから仕方ないんじゃないのかな。
「そういうレベルじゃないと思うのだが……。それにナルは十七才だからもう成長期じゃないぞ」
えっ……ナルってそんな歳だったの? 今日初めて知ったよ! てっきり十五才ぐらいだと思ってたのに……。
そいして僕が驚いていると外から声が聞こえた。
「おーい、街が見えて来たぞー!」
御者席で馬を操っていたスフィアの声だ。彼女は精霊さんであるためか動物を扱うのが上手かったのだ。そんなスフィアの叫びによって僕らは馬車から身を乗り出す。僕の目の前には懐かしい街があった。森と草原の間ぐらいにある壁に囲まれた美しい街。そう、僕がこの世界で最初に来た街、リンドンである。
「もうすぐ街に着くから荷物をまとめなさいよ」
スフィアが外からお姉さんぶって言った。実際彼女が一番年上なんだけどね。その言葉を聞いた咲が手早く荷物をまとめ始める。
「まだ途中なの!」
いきなり咲がナルの本を取り上げてかばんにしまった。ナルは頬をぷうっと膨らませて咲を見る。咲は見事にそれをスルーすると荷造りを終えた。そしてみんなに話を始める。
「さて、荷造りも出来たし、これからどうする? 買い出しに行くことは決定しているが」
「なら僕はみんなが買い物している間に冒険組合に依頼を受けに行こう。路銀も少なくなってきたことだし」
女の子の買い物は長いから。暇なその間に僕は稼いでおいた方が良いだろう。
「一人だけでは危ないな。家来の私もついて行くぞ」
「咲だけはダメ。私も行くの」
「それなら私も行かせてもらおうかな」
僕に誰がついていくのかで三人は睨み合いを始めた。眼光の鋭さが異常だ。いつ喧嘩に発展してもおかしくない。僕はとりあえず三人を仲裁することにした。
「まあまあ、みんなで一緒に行けばいいんだよ。ね、そうしようよ」
三人はしばし考えたがそれぞれ答えを返して来てくれた。
「白河がそういうのなら従おう……」
「しかたないの。一時休戦」
「私もそうしようか」
三人は何とか納得したようだ。こうして僕ら四人で依頼を受けに出かけることになった。
★★★★★★★★
「こんにちは。久しぶりだね」
僕は冒険組合の建物に入ると、さっそく受付のリーナに挨拶をした。リーナは僕らの方を見るとすぐに笑顔になる。
「白河さん! 心配してましたよ! ダタールで大変な事件があったそうですね! 巻き込まれませんでしたか?」
僕らはむしろ巻き込む側でした……。そう思ったが黙っておこう。もし前みたいに気絶されたりしたら困るから。
「大丈夫だったよ。ははは……。それより依頼ないかな? 今旅をしてるのだけど、路銀があと少ししかないんだ」
リーナは僕がそういうと後ろにいるナルと咲を見た。
「依頼ですか? それはもちろんありますけど……。そんなことよりさっきから気になってたのですけど、もしかして後ろの人は白河さんの仲間ですか?」
リーナに尋ねられた二人は自己紹介を始めた。
「私はナル。白河の嫁よ」
「い、今のナルの嫁発言は嘘だからな! 私は咲、白河に仕える家来だ。これは本当だぞ!」
リーナは二人の自己紹介を聞くと急ににやけだした。近所のおばあちゃんみたいな顔だ。
「白河さーん、モテますねえ。うらやましいですよ。ふふふ」
リーナさんの目が僕を全力でからかうといっていた。これは早く何とかしないとややこしいことになるぞ!
「それはいいから……。依頼を見せてくれないかな?」
「ノリが悪いですよ。 でもそれが白河さんらしいですね。ちょっと待っててくださいね。すぐ依頼書持ってきますから」
リーナはカウンターの中から紙の束を取り出した。それをざっと広げて目を通していく。そしてある依頼書を取り出した。
「これなんてどうですか? 最近入った依頼なんですけど、引き受けてくれる冒険者の人がいなくて困ってたんです。Cランクの依頼ですけど、割はいいですよ。どうですか?」
訳ありの依頼なのだろうか。気になったので読んで見ることにする。
「見せてみて。読むだけ読んでみるから」
「あれ、白河さん文字読めましたっけ?」
リーナが疑問を口にした。そういえばそうだった。博士の発明で読み書きできるようになったから忘れてたよ。
「練習して読めるようになったんだ」
無難な嘘をついておくことにした。リーナは何の疑いもなく信用してくれた。
「そうですか。ならどうぞ」
僕はリーナから渡された依頼書を読んだ。
『森に現れる怪しい団体を調査してください。報酬は二十万ルーツ』
よくわからないことの多い依頼だ。怪しい団体って何なんだ。わからないから調査依頼が来るのだろうけど……。僕一人では決めかねたので、みんなにも見せた。
「私はこう見えてSランクの冒険者だ。問題ない!」
咲が任せておけと言わんばかりに胸を張る。咲ってSランクだったんだ。咲ぐらい強いなら当然かもしれないけど。だがそれにナルがつっこんだ。
「Cランクの白河に負けたけどね」
ナルのつっこみに咲は言い返すことができない。咲の顔がくやしいのか赤くなる。
「むぅ……。そんなことナルに関係ない! 白河、その依頼受けるぞ。スフィアもそれでいいな?」
スフィアは咲の迫力に押されて無言で何度も頷いた。その顔は微妙に引き攣っている。咲の前であの試合の話題は禁止しなきゃいけないようだ……。
「じ、じゃあ受けることにするよ」
僕はリーナに依頼書を返した。リーナは苦笑いしながら依頼書を受け取る。依頼成立だ。こうして僕らは森で”怪しい団体”とやらいうのを調査することになったのだった。
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