第三十一話 勇者と聖剣
今回は会話文やや多めです
第三十一話 勇者と聖剣
「こちらがわが王と勇者様のおられる玉座の間です。くれぐれ王の前で粗相のないようお願いします。それでは準備はよろしいですね?」
僕らは近衛兵に案内されて玉座の間の前に来ていた。重厚で大きな扉や深紅の絨毯が敷き詰められた廊下にはいかにもといった風格があった。僕はその雰囲気にのまれそうになりながらも近衛兵に頷いた。扉が重々しい音を立てて開かれていく。
「おお……」
僕は思わず息を飲んだ。贅を凝らした室内は広々としており、金に輝く装飾品があちらこちらで輝いている。だが決して成金趣味というようなけばけばしさはなく、むしろ気品に溢れていた。さすがは王様の城といったところか。なんともはや芸術的なその室内の奥に燦然と輝く玉座があった。その上に王様と思わせる壮年の男性が腰掛けている。さらに、その脇には勇者と思しき青年と大臣らしき中年の男の姿もあった。
「そなたたちがこの間の戦士たちか。苦しゅうない、ちこうよれ」
王様は立派な髭を撫でながらそう言った。全身から武人とはまた違った覇気が発せられている。指導者のオーラとはまさしくこういうものを指すのだろう。
僕らは緊張に身体を硬くしながらゆっくり王様の方に歩いて行った。
「ふむ、余がこのダタールの王、カイザルである。そなたたちのこの度の働き、まことに大儀であった」
エルストイにとどめを刺したのとかほとんどそっちの勇者ですからね……。僕は王様のお褒めの言葉に少しだけ戸惑った。
「いえいえ、そちらにいらっしゃる勇者様のおかげです」
僕がそういうと勇者がこちらを見てきた。なんだ、この見透かされるような感覚は……。そして無理矢理何かを隠しているように見えるその瞳は一体……。白銀の甲冑を纏い、聖剣を背負うその勇ましい姿はまさに勇者そのもの。なのにどうして気配が……あのエルストイに似ているんだ……?
勇者はそんな僕の渦巻く感情を無視するかのように王様と話を始めた。
「王よ、あのエルストイとか言う魔族を倒せたのは彼らのおかげさ。何か褒美をあげたらどうだい?」
「そうか。ならば何か与えるとしよう。ほれ、何か望みのものがあるならば言うてみよ」
王様に言われて、ようやく僕は思考を回復した。それから褒美にもらう物を考えるがすぐに思いつかない。やっぱりこういうことは話し合った方が良いだろう。そう思った僕はみんなに意見を求めることにした。王様に許可を取るとみんなで話し合う。
「みんな何か欲しい物ある?」
「うーん、私は特にないな。まあ強いて言うなら刀だ」
「私も特にない。白河の好きな物をもらえばいいと思うな」
「そうね、旅に出るための馬車をもらうといいと思うの。これから買わなくて済むもの」
ナルの馬車を採用だな。咲の刀もいいけれど、この国にあるのかわからないからね。
「王様、馬車を頂きたいと思います。それで良いでしょうか」
「良かろう。そこの大臣に手配させるゆえ、どのような物が良いか大臣と話し合うと良い」
「ありがとうございます、王様」
「いやいや、王として街を救った者にたいする最低限の礼をしたまでだ。では達者で旅をするが良い」
王様が話を終えると大臣が僕らの方に来た。そして扉の方に移動して手招きをする。ついてこいと言うことなのだろうか。僕らは大臣に続いて玉座の間を後にした。
★★★★★★★★
「ねえナル、さっきの勇者ってエルストイみたいな気配がしなかった?」
僕は城の廊下を歩いている途中、小声で隣を歩くナルに聞いた。ナルは僕により近づいて言う。
「確かに似ていたの。でも勇者が魔族というのはありえない」
「どうして?」
僕はすぐ、ナルにオウムのように聞き返した。ナルは小さな声で僕に耳打ちする。
「勇者は聖剣を背中に背負っていた。あんなこと魔族にはできないもの」
聖剣ってエルストイと戦ったときにも良く出てきたけどそんなにすごいのか?
「聖剣ってどんな剣なの? 僕は知らないんだけど」
「聖剣とは初代ダタール皇帝にして初代勇者のブレスデンが手に入れた神の力を分け与えられた剣。魔族に対して絶対的な力を持つの。だから魔族は剣に近づくことすら避けるわ。ましてそれを背中に背負うなんてありえないの」
なるほど、そうだったのか。なら勇者は白かな……。あれれ、ナルのセリフ今おかしかったような?
「今初代皇帝って言わなかった?」
「ええ言ったの」
「ならなんでさっきの王様は王様なんだ? 帝国なんだし皇帝じゃないのか?」
「それはね初代しか皇帝と名乗ることを許されていないからなの。だから他の人は王と名乗るの」
なるほどなるほど、そういうことだったのか。僕がそう納得したところで、僕らは城の庭まで着いた。大臣が庭の端にある馬小屋の前に立つ。
「好きな馬を二頭選びなさい。私はその間に車の方の手配をして来よう」
大臣はそういうと居なくなってしまった。僕らは馬を選び出すことにする。
「この馬なんて良さそうだな。大きいし毛並みもいいぞ」
咲が一頭の馬に目をつけた。咲の言うように黒々とした毛並みの美しい大きな馬だ。
「私はこの馬がいいと思うぞ。生き生きしている」
スフィアも一頭選び出してきた。こちらも黒い大きな馬だった。この二頭で決定かな。僕は一応ナルにも聞いてみたが、ナルは馬には興味がないということだった。そうしている間に、大臣が兵士と車を伴って庭に現れる。
「ほほう、良い馬を選ばれましたな。私も乗馬はしますがこれはなかなかですぞ。長旅も大丈夫でしょうな。さて、車の方を用意してきたがこれでよろしいかな? 確かめて欲しいのだが」
大臣はそういうと車を指し示す。幌の張られた丈夫そうな車だった。実用性を重視したのだろう。 僕らは言われたように車を隅々まで確認をしたがどこにも問題はなかった。
「大丈夫です。ありがとうございました!」
僕がそういうとみんなも頭を下げる。大臣は照れ臭そうに顔を赤くした。
そのあと、僕らは車に馬をつけて、いよいよ城から旅立っていく。
「さてと、まずはどこに行こうか?」
「そうだな……。まずは竜の山なんてどうだろう? 浮島に行くためには空を飛ぶ乗り物がいるだろうからな」
城の門をくぐったところで僕は目的地をみんなに聞いた。その質問に咲が地図を見て答える。咲の意見にみんな賛成のようだった。竜の山……。どんなところだろうか。僕らの旅は今、始まったばかりであった……。
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