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第二十九話 恐怖の叫びと魔族の笑み

今回は残酷なシーンがあります

第二十九話 恐怖の叫びと魔族の笑み


「ふおおぉ!」


僕の身体は爆風で吹き飛ばされ、宙を舞う。街の建物もみな薙ぎ倒されていった。

僕の背中に激痛が走った。石畳の地面に叩き付けられたのだ。


「いたたぁ……。みんなー大丈夫?」


僕は身体を起こすと辺りを見回した。街は瓦礫だらけで、原形を留めた建物は遠くにしか見ることができない。


「大丈夫なの……」


ナルが瓦礫の中から現れる。その身体は誇りだらけになっていた。


「私も大丈夫だ」


咲はもうすでに立っていた。そして樹のあったところを見据えている。その目はどこか空虚であった。


「あれ、師匠は?」


ナルが不安げに言い出した。確かに師匠がいない。まさか……、いやそんなはずはない。師匠は最強の魔法使いなんだからあれぐらいで……。


「ここよ。ほらここよ、よく見なさい!」


師匠の声が聞こえた。僕らは慌てて声のした方へと向かう。数百メートルはあろうかというクレーターの中で師匠が叫んでいた。


「助けて、出られないのよ!」


深いクレーターに師匠の声が響く。その声は元気そうだ。

ナルが光の魔法を使い、クレーターの底を照らす。師匠の姿が煌々と照らし出された。ローブが破れ、顔にも切り傷が出来ているが、大きな怪我などはしていないようだ。


「今すぐ助けに行きますよー。少し待ってて下さい」


咲はそう言って暗い闇の底へと潜って行く。


「やれやれ、まさか私が自分の魔法の巻き添えを喰らう日が来るとはね……」


咲に支えられてクレーターから出てきた師匠は、そういうと横たわった。魔力を使い過ぎてつらいのだろう。


「師匠、今僕の魔力を分けますからね」


僕は師匠の手を握り魔力を注ぐ。師匠の息はかなり荒かった。さっき叫んでいたのもかなり無理をしていたようだ。


「私も手伝うの」


 ナルも反対側の手を握った。魔力が師匠の身体を満たしていく。少し回復した師匠は立ち上がった。さらにローブの埃をパタッと払う。


「ふう、ありがとね。少し良くなったわ」


師匠はそういうとクレーターの中心を睨んだ。その顔は猛禽のように鋭い。


「エルストイ……。本当に恐ろしい敵だったわね」


感慨深げにつぶやく師匠にみんな同感だった。師匠はしばらく黙り込む。

ゆったりと長い時が流れていく。


「さて、行くわよ。ここにいつまでいてもかわらないわ」


師匠はそういうと颯爽と歩き出した。僕らもその後に続いて歩き始める。

クレーターの姿が夜の闇に消えた頃だった。背中に殺気を感じた。冷たく、刺すようで極めて邪悪な殺気。僕らは恐怖で足を止める。


「お、おい白河……この殺気は……」


咲が顔を硬直させて言う。ありえないと僕も思った。だが……。


「ふふふ……。我々魔族は不死身なのだよ。ましてやこのエルストイはな……」


地獄の底から聞こえてくるような声がした。僕らは絶望に包まれる。そしてゆっくりと後ろを向いた。

 そこには変わり果てたエルストイが立っていた。その黒い翼は羽根が無くなり、骨だけ。身体も焼け焦げ、皮膚はケロイド状になっている。さらに全身から紫色の血液がとめどなく溢れて、彼が歩く度地面を濡らす。

 しかし、そのような姿に成り果てていても異様な存在感と確かな力を感じられた。


「ま、魔力もう残ってないの……!」


ナルが涙目でこっちを見てきた。鮮明な恐怖の表情だ。


「僕も師匠に分けたからあんまり残ってないよ……」


僕がそういったところで師匠が吐き捨てるように言った。


「なんて生命力よ! もう魔力も残ってないしおしまいね!」


師匠はそう言うと達観したようにその場で杖を置いた。

そんな中、戦闘意欲を燃やすものがいた。咲だ。


「貴様ぁ! 私が倒してやる」


咲が半ば狂ってしまったかのような勢いでエルストイに斬りかかった。だが刀の振りは大振りで隙だらけだ。それをエルストイは爪でいとも簡単に受け止めてしまった。


「死にたいらしいな。だったら、一番最後に殺してやろう。せいぜい死の恐怖に震えているのだな」


エルストイは気合いを入れ、爪に力を込める。咲は弾き飛ばされ、瓦礫の山に突っ込んだ。


「咲ぃ!」


僕の叫びに咲は力無く頷く。まだ生きているようだ。

そうホッとしたのも束の間、エルストイはこちらに向かってその歩みを進めていた。


「まずはローブの娘からだ。喜べ、ゆっくり死なせてやろう」


エルストイはまず最初にナルに狙いを定めた。ナルは逃げようとするが、腰が抜けてしまって動けない。師匠がナルを庇ってエルストイの前に立ちはだかる。だが、エルストイは師匠を軽く払いのけた。そしてまたナルに向かって悠然と歩く。


「そう逃げるでない」


エルストイは逃げようとするナルのローブの端を掴み、さらに杖を取り上げた。エルストイの顔が歪んだ笑みを浮かべる。


「さて、どこから斬るとしようか。手かな、足かなそれとも腹からかな?」


ナルは恐怖で涙を流しながら叫び続けた。しかし、この魔族に対してはそんな叫びなど喜ばせるだけのものだった。


「恐怖の叫びと言うのは実に良い。心が満たされるようだ。さあもっと叫べ!」


エルストイは爪を振り上げる。僕はようやく恐怖ですくんだ身体を動かし、ナルを助けに向かった。


「なっ!」


僕がエルストイの後ろから放った杖の一撃はあろうことか、骨だけの翼で止められた。そして攻撃を受け止めたエルストイは、つまらなさそうに腕で僕を投げ飛ばす。


「ナル、ごめんよ……。助けられそうにない……」


僕に力があればエルストイを倒してナルを助けられるのに……。悔しい、ただただ悔しい。薄れゆく意識の中で僕はそのことだけを考えていた。

遠くから暖かい力を感じた。そこで、僕の意識は途絶えてしまった。



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