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第二十八話 散り行く戦士!

ネタバレをしないタイトルは難しいですね……。


第二十八話 散り行く戦士!


エルストイをその幹の中に封じた大樹がそびえ立った。今のところ、エルストイが出てくる気配はない。拘束は完璧になされたのだ。


「師匠、魔法を!」


僕は魔法陣に魔力を注ぎながら、師匠に向かって呼びかける。師匠が建物の陰から出てきた。師匠はもうすでに呪文を唱えている。

しばらくして師匠の前に光り輝く七つの魔法陣が現れた。魔法陣は次第に輝きを増し、まばゆい金色の燐光を投げかけた。師匠の髪も膨大な魔力を孕んで逆立ち、揺れる。

 しかし、師匠は呪文を唐突に止めた。


「し、師匠! どうしたんですか!」


師匠! どうしたんだ! 僕は師匠の行動に唖然として叫ぶ。隣にいたナルも驚きを隠せない。


「魔力ノ不足カ!」


上空のクレナリオンが僕らに向かって叫んだ。そうか、魔力不足か! 師匠はずっと魔法を使いっぱなしだったからな……。無理もないだろう。

その間にも師匠は顔を青白く染めながら、魔力を魔法陣に込めていく。体内に残された魔力を全て搾り出しているかのようだ。再び師匠は呪文を唱え始めた。それが佳境に向かうにつれて、魔力はわずかずつだが着実に増していく。その姿は夕陽に照らされて神々しいほどだ。


「まずい! 日が暮れてきたの! 夜になる前に何とかしなきゃ!」


沈みゆく太陽を見て、ナルが慌て始めた。普段無表情なナルが困ったような顔をしている。夜になるとよっぽど何か大変なんだろうか?


「ナル、夜になると何か大変なことになるのか?」


ナルが何も知らない僕に向かって怒鳴る。その顔は興奮しているのか真っ赤に染まっていた。


「魔族は夜になると魔力が跳ね上がるの!一説では五倍とも言われるわ!」


五倍! インフレし過ぎだぞ!

僕が驚いている間にも太陽は着々と沈んで行く。辺りが薄暗くなってきた。師匠の魔法はまだ完成しない! 間に合うか?


「ウギャアアァ! ウオオォ!」


大樹の中から魂を掻き消すような身の毛もよだつ雄叫びが響いた。ま、まさか……!


「エ、エルストイが! この樹は本当に大丈夫なのか!」


咲が焦燥に駆られたような顔をして叫ぶ。大丈夫だ、と言いたいところだが、今の状況では耐えれるとは言いがたい。

そう考える間にも闇はその深さを増していく。夜になったらやばいぞ!


「グゥオオ! グァアア!」


エルストイが再びおぞましい咆哮を上げた。樹の幹にわずかにヒビが入る。黄金の光でできた幹からどす黒い障気が噴出しだした。


「師匠早く! もう樹が持たないの!」


ナルが魔力を注いでいる師匠をせかした。師匠は首を横に振り、指を三本出した。


「三十秒ですか?」


僕が師匠に希望を込めた確認をした。もし三分を意味していたら終わりだ。

師匠は首を縦に力強く振った。

あと三十秒なら持たせられる、そう思ったところで太陽がついに沈んだ。


「エルストイノパワーガ増大シテイル。危険ダ」


クレナリオンが危険を知らせるや否や樹が大きく揺れた。百メートル近くもあるような大樹が、嵐の日の小枝のように揺れ動く。樹の幹からより一層激しく障気が噴き出し始めた。辺り一帯に黒いもやのような障気が満ちる。


「く、まともに息ができん!」


咲が口を抑えて顔をしかめる。咲のいる樹の上付近では障気の濃さは尋常ではないようだ。

もっとも樹の根元のこの場所でも障気のせいで息苦しい。


「キシャアア! ハァアア!」


ついにエルストイの上半身が樹から姿を現した! 顔に紫と黒からなるまだら模様が浮かべ、白目を剥いている。樹から抜け出ようと咆哮を上げながらもがくその姿に理性は全く感じられない。まさに怪物と言う感じだろうか……。


「全ク、獣ノヨウダ。世話ガ焼ケル」


クレナリオンはそういうとエルストイの元へと飛んだ。そして、その身体を力任せに樹に抑えつける。エルストイがめちゃくちゃに腕を振り回して抵抗する。鋭い爪がクレナリオンの鎧を紙のように切り裂く。切り裂かれた鎧から油が漏れ出した。


「離れるんだ! 魔法の巻き添えになるぞ!」


咲がその凄惨な様子にたまらず叫ぶ。

 クレナリオンが咲の方に振り向いた。そしてゆっくり尋ねる。


「私ハ所詮殺戮マシンニ過ギナイ。コウナッタノハ運命ダロウ。ソレデモ、オ前ハ私ガ"壊レル"ノガ嫌カ?」


咲は悲しそうな顔をすると感情を爆発させた。


「ああ嫌だ! だから私たちと一緒に行こう……」


クレナリオンは顔を俯けると、悲しげに叫んだ。


「行キタイトコロダガナ、私ハコイツヲ抑エナケレバ。感謝ハシテオクガナ」


クレナリオンはそう言い放つとエルストイと格闘を再開した。咲はその様子を見て、何も言わなかった……。

突如としてぞわり、とした感覚が僕の身体を襲った。膨大な魔力の感覚だ。


「魔法の準備が完了したの!」


師匠の方をずっと見ていたナルが叫んだ。僕も師匠の方を向いた。魔力が渦巻き、蜃気楼の様に空間が揺らいでいる。師匠の身体は魔力を帯びてぼんやり青く輝いていた。


「咲、師匠が魔法を撃つよ! 逃げて!」


僕は力の限り叫んだ。できるだけ早く逃げてもらわないと命の保証さえできない。そう思えるだけの魔力が師匠の魔法には込められていたのだ。


「さらばだ"戦士"よ……」


咲は感慨深げにつぶやくとこちらに飛んで来た。師匠は咲が飛んで来たのを確認する。そして、すぐに魔法を使うべく杖を地面に突き立てた。


「スペクトル・アタッカァアアー!」


師匠の杖から透明な水の塊のような魔力弾が放たれた。それは瞬く間に七つの魔法陣をくぐり抜け、七色に輝く光の弾となる。七色の弾は夜空に流れ星のような軌道を描いた。そして一直線にエルストイに直撃する。

直後に大地を揺さぶるほどの爆発が巻き起こり、周囲のなにもかもが光に飲み込まれた。

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