第二十七話 完全無欠の魔将軍!
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第二十七話 完全無欠の魔将軍!
帝都ハミヴァイの上空でエルストイとクレナリオンは激しく火花を散らせていた。
「想像以上ノパワーダナ。推定値ヲ大キク超エテイル」
クレナリオンはエルストイの腕を受け止めながら言う。彼の腕はキシキシと軋みを上げていた。
一方押しているエルストイはニヤニヤとクレナリオンを挑発する。
「所詮お前などがらくた人形に過ぎないのだ。この私に勝てるわけなかろう?」
エルストイはさらに腕に力を込める。
クレナリオンの腕はよりいっそう大きく軋み始めた。
「やばいわね、このままではクレナリオンが……」
僕の前で様子を見ていた師匠が眉をひそめる。そこへ咲が何もしない師匠に詰め寄った。
「魔法で何とかできるないのか!」
師匠は所在なげに首を横に振った。
「二人の距離が近すぎるのよ。あれではクレナリオンまで巻き込むわ」
師匠の言う通りである。エルストイに通用するような魔法を使えば、もれなくクレナリオンまで巻き込んでしまう。
師匠に言われて改めてそれを理解したらしい咲は黙り込む。だが、しばらくして咲は想定外の行動をした。
「クレナリオンに加勢してくる!」
「待って、無謀すぎるの! 咲とエルストイでは力に差がありすぎる!」
咲の後ろにいたナルが咲を懸命に止めようとした。でも咲は耳を貸さずに飛んで行ってしまった!
「無茶するわね! こうなったらしょうがないわ。ナル、白河、咲が頑張ってるうちに拘束魔法を全力で準備しなさい。それを使ってエルストイの動きを止めたら私が奴にスペクトル・アタッカーを打ち込むわ!」
なるほど、あの最強魔法ならエルストイを倒せる。希望が出て来たぞ!
僕とナルは高速で呪文を唱え始めた。辺りに魔力が立ち込める。
「小賢しい奴らだ。何をするつもりだ」
エルストイは無防備な僕とナルに向かって魔法を放ってきた。師匠がシールドを展開して襲いくる魔法の嵐を防ぐ。
魔法が次々とぶつかり、シールドの全体から溶接作業の時のような青白い火花が飛び散る。やがてシールドが不気味に揺らぎ始めた。
「ちっ、なんて馬鹿魔力よ。シールドが持たないわ!」
師匠が魔力の大量に込められた魔法に思わず叫ぶ。
このままではやばい、逃げなきゃ! そう思った僕とナルは呪文を唱えたままで後ろに走り出した。師匠との修行の成果だ。
僕らが後ろに避難を始めたところでついにシールドが破られた。師匠は身を屈めて建物の陰に逃げる。路上に取り残された僕とナルに暴風のように魔法が襲ってきた。極彩色の魔法たちが僕らのいる路上を隙間なく埋め尽くした。だれか助けてー! 死んじゃうよ! 僕は心の中で悲鳴を上げた。ただし、口では呪文を唱えたままだ。
ナルも目を極限まで見開いているが、口は細かく動いている。悲鳴すら上げられずに死ぬのか……。そう思った時、女神が降り立った。
「はあぁりゃりゃりゃりゃあ!」
僕とナルの目の前救いの女神こと咲が現れた。咲は奇声を上げながら魔法を刀で片っ端から斬っていく。すごい! どんどん魔法が斬られていく……。ほどなく路上は焦げ跡や氷の残骸、風でえぐられた跡などでいっぱいになった。
咲はあらかた魔法を斬ったことを確認すると、再び空へと帰って行く。
僕とナルは咲に向かって手を振った。
「邪魔してくれたな。まあいい、死ぬのが少し遅くなっただけだ」
エルストイはそう言うと咲に向かって攻撃を仕掛ける。爪が長く伸び、咲を切り裂かんとした。 咲は爪を刀で受け止めるが、エルストイの圧倒的な力に押され始める。咲の額から冷や汗が流れた。
その時、エルストイの背中で爆発が起こった。
「私モイルゾ」
クレナリオンが腕を突き出していた。手の平に丸い穴が開いている。その穴からは煙りが一筋出ていた。
「がらくた人形がぁ!もう許さんぞ!」
エルストイは憤怒の形相となり、クレナリオンに襲いかかる。クレナリオンは手からエネルギー弾を乱射し始めた。光が幾筋もの直線を空に描く。エルストイの身体が爆発に包み込まれた。爆発は大きくなり、夕方になった帝都を照らす。
「エネルギーハ長クハ持タナイ。早ク何トカシロ!」
クレナリオンは咲に向かって怒鳴った。咲はそれを聞いて僕らの方を見て声を張り上げる。
「魔法の準備はまだか! もうそろそろ限界だぞ!」
まだだ、まだ呪文は唱え終わらない!
僕らはしゃべれないので、ジェスチャーでそのことを知らせようとした。僕とナルはアイコンタクトをするとそれぞれポーズをとった。僕が手で×印を作り、ナルは手の平を向かい合わせて少しだけ隙間を作る。それぞれダメ、後もう少し、ということを意味している。それを見た咲は僕らの言いたいことを正確に理解してくれた。
「後もう少し、時間がかかるそうだ」
咲の言葉を聞いたクレナリオンは焦ったような声を出した。
「クソ、モウエネルギーガ持タン。後ハオ前ガ何トカシロ」
クレナリオンの叫びに咲は刀を構え、攻撃態勢を取る。それと同時に砲撃が終了し、エルストイが姿を現す。なんてことだろう……。傷一つない……。僕らがそう思っているうちに、咲が斬撃を放った。斬撃がエルストイを覆い尽くすように飛ぶ。しかしエルストイは涼しい顔をしている。
「遊びは終わりにしよう」
エルストイは呪文を唱え始めた。大魔法でけりを付けるつもりだ。だがこちらの呪文も佳境に入っている。頼む、間に合ってくれ! 僕とナルはより早く唱えようと限界を超えた高速詠唱をする。だが、エルストイの方ももうすぐ唱え終わってしまいそうになってきた……。
「adjgat……セフィロト!」
僕とナルの声が重なり、魔法陣が現れた。間一髪、僕らの呪文の方が早く唱え終わったのだ!
魔法陣から黄金に輝く樹が生えてきた。その樹は急速に成長していき、空を貫くかのように伸びていく。
「agjpmd……ダーぐふおぉ!」
エルストイが樹に飲み込まれた。悪しき敵を飲み込む大樹を生み出す呪文。それが先程唱えたセフィロトの呪文だ。その主な効果は拘束だけだが、その効果は絶大でエルストイでも抜け出すことは不可能だろう。
帝都に魔将軍を取り込んだ大樹がそびえ立った。その大樹は夕陽を反射し黄金色に輝いていた……。
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