第十六話 恐怖! 武道会の怪物
主人公の初戦です。
第十六話 恐怖! 武道会の怪物
僕の試合がやって来た。緊張した足取りで舞台に上がる。
「頑張ってなの!」
ナルが舞台のしたから応援してくれた。ナルの隣にいる師匠は舞台を見て考え込んでいた。師匠の視線の先には敷かれていた石が剥がれている場所があった。
「舞台の石はジルカニアだからそう簡単には壊れないんだけど……。しまったわね、試合見てれば良かった……」
師匠のつぶやきが聞こえるが気にしている余裕はない。僕は舞台の向かいにいる対戦相手を見た。対戦相手は二メートルはありそうな筋骨隆々の男だった。その男は余裕こいて観客席に手を振っている。観客席から歓声が上がった。僕が勝利するとは身内以外だれも思ってないらしい。
「さて、続きましては第四試合、白河選手対ウルグ選手です! ウルグ選手は実力派傭兵団アサルトの団長で成績が期待されております。果してどんな戦いを見せてくれるのでしょうかー? それでは試合開始!」
司会者の合図と共に試合開始の鐘が鳴らされた。ウルグは 手に持った巨大な剣を構えると僕に挑発してきた。
「坊主、お前見たところ魔法使いのようだが魔法使いは武道会には向いてないぜ。痛い思いする前に棄権したらどうだ?」
観客席からどっと笑いが起きた。鎧を着込んだ男たちが大爆笑していた。いらいらするな……。ダメだ、落ち着かないと!
「そんな奴一撃で倒しなさい! 負けたら処刑よ!」
魔法使いを馬鹿にされたことが師匠には許し難いようだ。杖を手に暴れている。それをナルが両手で抑えていた。
「愉快な仲間だな坊主。笑いが止まらねえぞ。とまあ遊びは終わりにして……行くぞ!」
ウルグは剣で切り掛かってきた。舞台の端から端までの距離を一瞬で詰めてくる。でも動きが直線的でさらに大振りだ。僕は袈裟切りに放たれた剣をひらりと軽く回避する。ウルグは切る対象が突然いなくなったのでその場でよろけた。
「何やってるんだウルグー。俺はお前に賭けてるんだ。頼むから勝ってくれよー」
「そうだ、そんなやつさっさと倒しちまえよ」
観客席から大ブーイングがウルグに起きた。ただその中でスフィアだけは歓声を上げていたが。
「い、一撃で終わらせたら面白くないからな。サービスだよ、サービス。感謝しろよ坊主。」
ウルグは顔から蒸気が出そうなほど赤くなるとさっきよりも勢い良く切り掛かってきた。しかしさっきよりも速くなってはいるが直線的で大振りな動きは変わっていない。僕はまた剣をなんなくかわす。ウルグはますます赤くなって次々に斬撃を放ってくる。僕もまたその斬撃を次々に回避していった。
「あの人弱いの」
ナルがボソッとつぶやいた。その一言でついにウルグがおかしくなった。
「許さん、この俺様をこけにしてくれおって……。許さんぞぉ!」
ウルグは猛烈な勢いで剣を振り回しながら突っ込んで来る。なんかこの人かわいそうになってきたな……。そう思った僕はウルグの突撃を 回避すると背中に回り込み杖で思い切りついた。ウルグはあっけなく倒れた。あれ、ずいぶん弱いな。この大会の参加者って意外と大したことないのかな?
「こ、これは衝撃の展開です! なんとウルグ選手がいとも簡単に倒されてしまいましたぁー! 今回の大会はひと味違います! それでは白河選手に拍手をお送りください」
司会者の言葉に会場がどよめいた。賭けに負けたのか頭を抱える男に、逆に儲けて大喜びしている女など会場に混沌とした空気が満ちる。
「白河、頑張ったわね。さすがよ」
師匠は顔をほころばせて微笑んだ。ナルも優しく笑いかけてくる。
「大したことないですよ。あの人あんまり強くはなかったですから」
気恥ずかしくなった僕は照れながら師匠とナルに言う。
「それもそうね。まあ、準々決勝ぐらいになればあんたたちより強い奴も出てくるけどね」
師匠はそういうと控え室の方へ帰っていった。ナルもそれに続いて行く。僕もすぐに会場を後にした。
★★★★★★★★
その後の試合も順調に勝ち進んだ僕とナルは大きな控え室で他の選手たちとともに休憩していた。師匠は試合を見ると言って舞台の方に行っていていない。
「白河頑張ってるな! このまま行けば優勝できそうだぞ」
スフィアが控え室に入ってきた。周りにいた選手がスフィアを見つめる。
「すごい美人だな。君の知り合いなのか?」
近くにいた咲がスフィアに話しかけられた僕を見て話しかけて来た。ちなみに彼女も勝ち残っている。
「そうですよ。大切な友達です」
スフィアが石になった。それを見てナルがニンマリと唇を釣り上げる。
「友達止まりの女なのね」
スフィアからプチッと音がしたような気がした。見てみると全身からオーラを放っている……。
「ナル、今のは?」
怖いよ! スフィアとナルの間に火花が見えた。
「なんだか知らないが止めた方がいいのか?」
咲が止めに入ってくれようとした所で突然師匠が控え室に飛び込んできた。
「試合がすごいことになってるわよ!」
師匠は僕とナルを強引に引っ張ると舞台の前まで連れてきた。
「何ですかあれ……」
僕は舞台の上の光景に思わず息をのんだ。舞台にはなんとも異様な姿となった選手が立っていたのだ……。
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