第十四話 大陸最強武道会迫る!
修行編最後です!
第十四話 大陸最強武道会迫る!
「うぅ、痛たた」
僕は腰をさすりながら起き上がると信じがたい光景が目に飛び込んできた。
雲が吹き飛ばされ、太陽が辺りを明るく輝いている。その太陽は師匠の呪文の想像を絶する威力の爪跡を明るく照らしていた。
辺りに積もっていた雪は吹き飛ばされ、巨大なクレーターが出来ていた。ドラゴンは跡形もなく消滅している。さらにドラゴンを吹き飛ばしただけでは呪文の勢いは止まらなかったらしい。なんと山脈の山々を一直線に貫く丸いトンネルが出来ていた。
「さすが最強魔法スペクトルアタッカー。信じられない威力なの」
十メートルほど後ろまで吹き飛ばされていたナルが唖然とした表情でつぶやく。
「大丈夫かー?」
僕はナルに向かって呼びかけた。ナルは元気そうに手を振ったが腰をさすっていた。
「少し腰を痛めたみたいなの」
僕はナルの元に駆け寄り、肩を貸した。ナルは僕の体に寄り掛かる。う、柔らかい、ナルって意外と……。頭をピンク色の思想が駆け巡った。
「変なこと考えてる。白河なら構わないけど……」
鋭いナルは僕の鼻の下が伸びたことに気がついたようだ。いかんいかん、気を引き締めなくては。
そうしている間に師匠がいる場所に到着した。
師匠の立っている場所はクレーターに突き出た半島のようになっていた。
「これが最強魔法の威力よ。魔法はこんな大破壊をもたらすこともあるの。今回スペクトルアタッカーを使ったのは魔法の恐さを知ってもらいたかったからよ」
師匠は真剣な鋭い顔をしてクレーターを指差した。
「師匠、それは良いのですがこれだとスノードラゴンの討伐をしたこと証明できませんよ?」
場の雰囲気を壊すようで悪かったのだが気になったので僕は師匠に聞いた。師匠は口をあんぐりと開けた。
「しまった、考えてなかった!」
意外と抜けてるなあ。ナルも思わずクスリと吹き出した。すると師匠の顔がどんどん赤くなっていく……!
「笑ったわね……。ふふ、それなら覚悟できてるわよね? ここからエベレスの街まで全力ダッシュで帰りなさーい!」
師匠は杖の先に炎の球を作った。本気だ、目が冷たい! 僕とナルは師匠に追い立てられるように山を下っていった。
★★★★★★★
あれから数週間が過ぎた。結果的にスノードラゴンの討伐はスペクトルアタッカーでできたクレーターを見せて証明した。その時組合の人の顔が引き攣っていたのは気にしてはいけなかったと思う。
「何を考えてるの? 私のことなの?」
考えごとをしていた僕にナルが頬を赤くして聞いてきた。なんだか最近、ナルとの間に妙な関係が芽生えつつあるような気がする。でもスフィアがいるしなあ、ナルは魅力的だけど……。
「何をイチャついてるの……。武道会まで後一週間を切ったのよ? もっとも、私としてはそういうの好きだけど」
師匠が黒板の前から生暖かい目でこっちを見てきた。僕とナルは慌てて黒板に視線を戻した。
それから一時間後、座学の時間が終わると師匠は僕らに話を始めた。
「今日でエベレスでの修行を終えて、明日ダタール帝国に行くわ。
それから向こうで最終調整をしたら、いよいよ大陸最強武道会よ! 大陸最強武道会は各地から武術や魔法の達人、いや超人が集まる大会。でも、今のあなたたちは私の家にきた時とは比べものにならないほど強くなったわ。それは保証しておく。だから頑張って優勝を目指しなさい!」
いよいよか……。もともと博士に強制されて出場を決めた訳だが、もはやそんなことはどうでもいい。勝ちたい、そんな純粋な思いで頭がいっぱいだった。
僕がひそかな決意を固めていると、ナルがこっちを見つめてきた。目には炎が燃えている。そうか、ナルも武道会で敵になるのか。何だか感慨深いな……。僕はナルに手を伸ばした。ナルは僕の手を掴み、僕らは互いの健闘を祈ってがっしりと握手をした。
「明日は早いわよ。だから今日は早めに寝なさい」
師匠がそういうと僕らはそれぞれの部屋に戻っていった。
★★★★★★★★
「行くわよ」
翌朝、僕ら三人は転移魔法でダタール帝国の首都ハミヴァイへと旅だった。
「白河? 白河なのか? 二ヶ月半ぶりだな!」
ハミヴァイに着くと早速目の前にスフィアがいた。タイミング良すぎだ。到着する場所とか時間をあらかじめ予想してたのか? 精霊さん特有の力とかで。
「あなたは誰? 白河にずいぶんなれなれしいの!」
ナルは絶対零度の視線でスフィアを睨む。スフィアも負けずに言い返した。
「私は白河の嫁になる予定の女だ。お前こそなんだ」
「私は白河と一緒に修行した仲間で今の恋人なの。今、白河はあなたより私の方が好きなはず」
ナルがそういった途端スフィアの表情が凍る。そして口をしばらくパクパクさせた。
「な、何! 本当なのか白河?」
スフィアがようやく声を搾り出すと、僕に凄まじい目をして視線を向けてきた。ナルも僕の方を見てくる。た、助けて師匠! 僕が師匠の方を見ると師匠はすでに集まっていた野次馬と同化していた。
「頑張ってね。私は人の修羅場眺めるの趣味だから」
そんな見捨てないでくださいー! 僕は途方にくれた。その間にも二人の争いは激化していく。
「もういい。良く考えたら白河が好きなのは私に決まっているじゃないか。白河は胸の大きい女が好きだからな、お前は守備範囲外だろう」
「そんなことない。私もあなたと同じくらいあるもの」
二人の争いはいつのまにか互いの胸の大きさくらべになっていた。どうしてそうなった。頼むから路上で変なことしないでくれ!
僕は二人の間に割って入り止めようとした。だが、外野、特におじさん連中が二人を煽るのでなかなかやめない。その時通りの向こうから聞き覚えのある声がした。
「おお、白河。久しぶりだな。どれ、再会記念に景気よく波動銃でも撃ってやろうかの」
もじゃもじゃの白髪頭に、真っ白なシミ一つない白衣。そして何よりその突拍子もない発言。間違いない、博士だ!
なんという最悪のタイミングで……。こうしてハミヴァイでの生活は波乱と共に始まった……。
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