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第十一話 魔法使いは……体育会系?

修行編の始まりです!

第十一話 魔法使いは……体育会系?


僕とナルは翌朝、師匠に呼び出されていた。まだ日が登る前のことだ。なので凄まじい眠気が僕を襲っている。それはナルも同じようであくびを我慢しているのが見て取れた。師匠はそんな僕らの様子とは反対に元気そうだ。


「今から出かけるわよ。修行するのにピッタリの場所にね」


師匠は呪文を唱えて、家に魔法をかけた。家がすうっと見えなくなっていく。完全に見えなくなったところで師匠は僕らを手招きした。


「この円の中から出ないように」


師匠は杖で直径三メートルぐらいの円を書いて僕らを円の中に入れる。そしてさらに杖を使い円の外側に文字らしき物を書き加えていった。

 全ての必要な文字を書き加えると師匠も円の中に入り、呪文を唱える。一分もすると文字が光を発し始めた。


「転送魔法! 始めて見たの!」


ナルが興奮して叫ぶと文字が一段と激しく光る。眩しい! そう思った瞬間、僕は空に放り出されたような浮遊感に襲われた。


★★★★★★★★


気がつくと辺りは森ではなかった。山頂に雪を頂く巨大な山々に向かって、荒涼とした荒野が辺り一面広がっている。その赤ちゃけた荒野に白い筋が一本通っていた。その先の山の方から煙りが上がっているのが見える。


「エベレス……。世界で一番過酷な地域……」


ナルが意味ありげにつぶやいた。ここがどこか僕は知っていそうな雰囲気のナルに尋ねる。


「ここがどこか知ってるの?」


「ええ、ここはエベレス、世界で一番高いマライア山脈のど真ん中よ。良質な鉱石が取れることで有名なの。だけど空気の薄さと魔物の強さから世界で一番過酷な地域と言われているわ」


世界で一番過酷って……すごいな。いきなり世界一とは……。

ナルが話を終えると、何かわっかのような形の物体を手にした師匠が今後の説明をはじめる。


「ナルの言ったように、ここは世界で一番過酷と言われるエベレスよ。今日から三ヶ月、ここで修行するわ。まずこの腕輪をつけなさい」


僕とナルは腕輪を受け取り、腕に装着した。


「ちゃんと着けたわね。それじゃ私に続いて呪文を唱えて。行くわよ! ファイアボール、ウィンドカッター、アイスランス、ウォーターシールド!」


僕は嫌な予感がしたものの、師匠の後に続いて呪文を唱える。ナルも眉を僅かに寄せたあと、唱えはじめる。


「ファイアーボール、ウィンドカッター、アイスランス、ウォーターシールド!」


僕とナルが呪文を唱えた。師匠はそれを確認すると、さきほど見た煙りの方を指差した。


「あの煙りのところに街があるの。そこまで走って行くわ。ただし、呪文を唱えながらよ。もし途中で呪文を唱えるのをやめたり呪文を噛んだりしたら……腕輪からすごい電流が流れるからね。それではスタート!」


僕とナルは呪文を唱えながら走り出した。走り出した途端に空気の薄さが体に襲いかかる。しかも、呪文を唱えているので息を整えることすらできない。シュールな見た目に比べて非常にハードな訓練だ。尋常でない勢いで体力が奪われていく……。

十分もすると息が上がって、呪文を唱え続けるのがきつくなってきた。息を整えたい、呪文を唱えるのをやめてもすぐに再開すれば大丈夫かな……。そう思ったとき、僕の後方から聞こえていた呪文を唱える声が瞬間的にではあるが途絶えた。


「はゃあああ!」


ナルから小さな体のどこからそんな音量が出るのか疑問なほどの悲鳴が上がった。こ、こええ! 唱えなきゃ!

僕はナルのそのまま死にそうなほどの声に恐怖に駆られた。その時、呪文を唱える口は止まらなかったが、足がその場で止まってしまった。


「こら、止まるなー!走り続けなさい!」


僕よりずっと前方にいた師匠が立ち止まって叫ぶ。僕とナルは疲れた体をおしてヨタヨタと走り出す。


「遅いわね……。予定より遅れてるわ」


師匠は走るのが遅い僕らを見て何事か呪文を唱える。

地面が揺れ始めた。後ろを振り向くと地面がだんだん盛り上がっていく。やがてそれは人型になって歩き始めた。

ゴーレムですか!師匠、あなた僕らを殺す気ですか?

ゴーレムは見上げるような大きさなので歩くのはかなり速い。僕らは体の限界を超えて走る、走る、走る!


「頑張りなさい、あともう少しだから」


師匠は必死に走り続ける僕らの様子にとても満足そうだった。


★★★★★★★★


「はい、もう呪文唱えるのやめて良いわよ」


街の入口まで着いたところでようやく呪文を唱えることから解放された。荒い呼吸をこれでもかというほどする。

息を荒くして、肩を上下に激しく動かしている僕らを見て師匠がまた呪文を唱えた。


「ふう、はあ、も、もう無理です!」


「無理なの……」


僕とナルはそれぞれもう限界だと師匠に訴える。師匠はそんな僕らの様子にほんのり笑顔になった。


「これ以上なんにもしないわよ、それヒール!」


師匠の杖の先から暖かな光が僕らに降り注ぐ。すると体が温かくなって疲れがいつの間にか抜けていった。


「元気になったようね。なら早速私について来なさい。宿とか確保するわよ」


師匠は街の中に入って行った。なんだろう、初っ端から修行について行ける気がしないよ……。というかこんな標高の高いところでマラソンやってよく死ななかったものだ。異世界パワーなのか? だとしてもこの先きっときついよなあ……。

僕は先行きに不安を感じながらも師匠の後を追いかけた。



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