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スリッパでぶっ叩きたい  作者: レア役ウマ太郎


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働きなさいおじさん

 辺りがガヤガヤしてきた。話し声や足音、台車を運ぶような音が聞こえる。顔のすぐ横にあるスマホを確認すると、朝の8時である。ショート動画を20分ほどスクロールした後でネットカフェの個室から出る。朝限定でトーストが無料で食べられるサービスの時間がそろそろ終わってしまうことに気づき、急いで移動する。食パンが5切れだけ置いてあったので、3切れをとって皿に乗せる。トースターに入れて、その間にバターとジャムをとる。飲食用のテーブルに腰掛け、ジャムとバターを塗ると、スマホを片手で持ちながらトーストを食べ始める。今日はこのネットカフェから歩いて10分のパチンコ屋が20周年週間で、かなりの設定が入ると予想されている。SNSのパチスロ界隈も盛り上がっていて、なかなか熱い日であるようだ。足早に歯磨きと寝癖直しを済ませ、個室に戻る。個室には大きなリュックと、スマホの充電器と、ブランケットが2枚置いてある。ブランケットを返却ボックスに入れて、精算を済ませて店を出る。

 パチンコ屋に到着すると、すでに500人くらいの列ができている。大通りに面しているパチンコ屋だが、通行人の迷惑にならないよう、客は脇の小道に整列させられる。大通りで通勤中、通学中の人たちの晒し者とならないことに安堵する。海老名の後ろには大学生らしき4人組がパチスロの話で盛り上がっている。自分も友達とワイワイパチスロを打ったことがあると思い出す。9時40分になると先頭の人から順番に抽選を引く。海老名は125番を引き当てた。なかなかの良番である。事前に目星をつけていた台に着席できるかもしれないと、わずかに気分が上がってくる。

 開店時間になると客たちは綺麗な列を作って入店する。直前まで店内の台の配置図を見ていた海老名も前の客に続いて入店する。今までの店の傾向から判断して高設定が入るであろう狙い台は複数ある。入店し、階段を上り、左右どちらに進むかの選択に迫られる。右には先週導入された新台があり、店の傾向的にも高設定は堅いであろう。ただ、125番の自分が行く頃には台は埋まっていると考えられるので、左に進んで、手堅い人気機種を取るのが賢明だ。海老名のパチスロ歴による勘が功を奏し、海老名にとっての3番目の人気台に座ることができた。

 開始3時間ごろ、当たりを5回引いたがどれも伸びず、当たりまでの挙動も微妙だった。「これは設定2かな」計数ボタンを押して台を離れる。マイナス8000円だ。高設定台を掴めなかった日はその近辺でフードデリバリーをしつつ、何度かパチンコ屋に戻りハイエナ狙いをする。退店の前に喫煙所へ寄る。紙タバコを咥えて火をつけると、隣にいた中年のオヤジが声をかけてくる。「調子どう?出てる?」「いやー。僕の台は設定なさそうですね。」海老名にとって無視と同等くらいの態度で、適当ではあるが事実を伝える。「そうなのねー。いや、俺はさー、設定とかはどうでも良くて、久しぶりにちょろっとスロット打ちに来たんだよね。君は何?パチプロでもやってるの?」「いやー、まあ、これ一本というわけではないんですけど」今すぐ無視して立ち去りたい気分だったが、まだタバコを吸いきっていない。「パチプロかー。俺も昔は考えたことがあるんだけど、やめた方が良いよ?ずっと勝つのって難しいし、素直に働いて稼いだ方が早いよ!」パチプロとして生活したことがないのに、なぜ自分にアドバイスをしてくるのだろうか。働くことの辛さは人によって違うことを理解できていないのだろうか。こういう自己本位の中年が、若者にとって働きにくい環境を作っているのではないか。言いたいことは山のように思い浮かんだが、ただタバコを力強く灰皿に押し付ける。「まあ、君もいつか気づくと思うよ。そんじゃ。」「あなたは自分のうざさに一生気付かないでしょうね」こう言えたらどんなに気持ち良かったことだろうか。

 パチンコ屋を出ると、駅前のレンタル自転車を借りてフードデリバリーアプリを立ち上げる。都会ではすぐに案件が見つかり、高設定台を取れなかった日でも収入にありつける。「⚪︎⚪︎イーツです!」元気に挨拶をして、飲食店から配達する食べ物を受け取る。少なくともこの店の店員にとっては海老名は社交的に映ったはずで、喫煙所で若者に説教を垂れ流す親父よりは社会にとってプラスの存在だとも思える。パチンコ屋で感じた鬱憤をぶつけるように、いつも以上に機敏に動いてデリバリーをこなす。夕方の6時ごろにはスロットで負けた8000円はデリバリーで取り戻した。

 店の状況を確認するために元いたパチンコ屋へ戻ると、海老名が座っていた台には別の客が座っていて、グラフは大きく凹んでいた。「絶対低設定。あっぶねー。」横を見ると、両隣とも6000枚以上出ていた。「おいおい、こっち座れば良かったわ。ニブイチ外したー」店全体を見回すと、全体的に高設定が入っていそうだ。空いている台もほとんどなく、ハイエナはできなそうだ。ふと、例の親父が打っているのを見つける。昭和に流行った台のリメイク機をせっせと打っている。グラフを見ると、5000枚飲まれている。「はい、おつー!!!」口角が上がるのを我慢しながら、軽快な足取りで店を出た。フードデリバリーで宿代と夕飯代を稼いだ後は、クーポンを使って牛丼を食って、またネットカフェに戻る。今日は全て含めてプラマイゼロだが、気分は良い。SNSに今日の報告をしながら眠りについた。

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