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死神ボタン  作者: 斑鴉


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3/3

死神ボタン3

 生活保護が9年目になった。

 電源の切れたスマホに充電器を挿して湿気た畳に倒れ込む。

 少ない金額をやりくりしながら生きるのは慣れてきた。でも、ネットで不意に殴りかかってくる悪意や差別には何年経ってもなかなか慣れない。

 かといって完全にネットを断つのも難しい。

 情報収集とかポイントだとか、そういうものじゃない。社会から切り離された人間には、コミュニケーションが絶望的に足りないのだ。

 ナマポと知って好き好んで友達でいる人間なんていないし、たまに妙な上から目線で馴れ馴れしく「気にしないから」とか言ってくるおかしいやつも、半年もせず飽きて消える。もちろんそんな人間を雇おうなんて会社もなく、社会のどこにも受け入れられる場所がない。

 だから最終的にはパチンコに入り浸ったり、病院で迷惑ネゴシエーションをしたり、SNSで粘着誹謗中傷をするようになっていく。もしくは犯罪に手を出すかだ。


 精神を壊したのは義務教育のころだった。

 条件が重なれば人間の心なんて簡単に壊れる。

 無関心な家や親。クソ教師と生徒児童による加害行為のエスカレーション。

 もしその両方とは違うところに救われる場所があれば違ったのかもしれないが、そんな幸運そうあることじゃない。

 そして成人を迎える前に未来は消えた。

 残ったのは懲役のような余生だけだ。無期懲役。殺されたのは僕のほうなのに。


 だが、そんな人生に救いの光が差し込んだ。

 死神ボタンが届いたのだ。

 これで終われる。と思ったのだが、思わぬところで水を差された。

 このボタンで死ぬには、事前に説明した上で別の誰かに押してもらわないといけないらしい。

 死んで欲しいが責任は別の誰かに負って欲しいという気持ちが透ける中途半端な救いの手だが、幸い僕には押してくれる相手の候補には事欠かなかった。

 無関心な親。クソ教師や同じ学校にいた生徒児童の成れの果て。最悪そこらの人を捕まえて頼んでもいい。

 匿名とはいえ日頃あれだけ邪魔者扱いしているのだ。ボタンを押すくらいの手間は惜しまないだろう。


 と思っていた。

 僕の心と人生を壊していった連中はどいつもこいつも迷惑そうに

「なにかあったら相談に乗るよ、友達だろ」

「今からでも人生遅くないって」

 とか言い捨てて逃げていく。

 僕の心と人生をズタボロにした責任は、一億で割ればゼロになるのか。

 それでいて、自分たちが僕に覚える迷惑感にはなんの補正も入らないのか。


 街の人に頼んでみても、みんな僕などここにいないように無視して逃げていく。

 いつも吐いている呪詛の責任の欠片もとるつもりはないらしい。

 なんでだろう。しばらく考えて気づいた。

 体があるのがいけないのだ。死体が残るからいけないのだ。

 見えないところで勝手に死ぬのなら、みんな大喜びだろう。

 誰にも気づかれないように何の痕跡も残さずに消滅しないと許されないのだ。

 つまらない言葉だと思っていたが、存在を許されないというのはこういうことかと腹に落ちた。


 それから一晩。あらゆる人に声をかけた。

 そして結果は変わらなかった。

 僕はボタンを投げ捨てた。

 こんなものに頼らなくても、方法はいくらでもあると思い出したから。

これで終わりとなります。

お付き合いありがとうございました。

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