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第11章:最後通牒 (Ultimatum)

タデックス編 パート2 (Tadex Arc Pt2: Chapters 11-18)


護衛たちは動かなかった。


彼らはアリーナの周囲の配置についたまま、顔の前に血まみれの手を突きつけられている少年を見て、何もしなかった。何か行動を起こすということは、王子の命を危険に晒すことを意味する。その計算が、彼らを完全に麻痺させていた。


フィールド上では、ムカイの顔から完全に血の気が引いていた。


カンゲツはそのすべてを見渡した――凍りついた護衛たち、呆然とする観衆、アリーナの中央で微動だにしないムカイ――そして、自分の計画が寸分違わず上手くいったことに、心底満足げな笑みを浮かべた。


「王様に伝えな! すぐにアリシア(Alicia)から連絡がいくってな!」


観客席にさざ波が走った。最初は困惑。そして、恐怖へと傾きかけてはいるが、まだ完全にはそこへ至っていないようなざわめき。


その時、ポータルの向こう側から、微かに、苛立ったような囁き声が漏れ聞こえた。

『チャンドラーの娘、だ』


カンゲツは片手を耳に当てた。「ああん? なんだって、大男さんよ?」


『「チャンドラーの娘」と言え』今度はシフィソの声がはっきりと、激しい怒りを込めて響いた。


カンゲツは観客席に向き直った。彼は、必要以上に一拍長く、意図的に沈黙を引き伸ばした。


「――『チャンドラーのドーター・オブ・チャンドラー』だ」


その名前は、急激な気圧の変化のように群衆を打ち据えた。

今まで膨らんでいたあらゆるノイズが、ピタリと止む。身を乗り出していた者たちが、弾かれたように背筋を引いた。観客席の最上段付近で、誰かが言葉にならない悲鳴を漏らす。

スタンドを駆け巡った恐怖は、古く、そして極めて特殊なものだった。顔ではなく『名前』に宿る恐怖。人々が理由を説明できるようになるより前に、本能で感じ取るまでに何年にもわたって語り継がれてきた恐怖。


そしてポータルが閉じ、カンゲツの姿は消えた。


「スカイ!」


モトとムカイの声が、全く同時に静寂を切り裂いた。モトはすでに立ち上がり、ポータルがあった場所へ向かって走り出していた。足を緩めない。彼は全速力で、閉じゆく虚空へと文字通り飛び込んだ。


「モト!」シェウの声が裏返る。


ポータルが震えた。

それは、明確な『拒絶』として彼を吐き出した。暴力的で、即座の排斥。


ドゴォッ!!


モトは後方へ弾き飛ばされ、積み上げられていたアリーナの椅子に激突した。ガシャガシャと音を立てて椅子が散乱する。その衝撃の最中で、彼の片方の靴がどこかへ吹き飛んだ。


最初に彼に追いついたのはナジョだった。瓦礫の横で滑るようにして立ち止まる。


「何があった!」ナジョの視線が、モトから、アリーナの中央でまだ凍りついているムカイへ、そして立ち上がったまま震えているシェウへと移る。


「……何もないところから、突然現れたの」シェウが絞り出した。


ムカイの硬直が解けた。彼は踵を返し、家へ向かって走り出した。


モトはすでに体を起こし始めていた。片足を引きずり、靴は片方しかない。「追うぞ」


「本気かよ?」ナジョが彼の腕を掴む。


モトはその手を振りほどいた。「早くしろ。見失う前に」


彼らに追いつくのは容易だった。ムカイは速かったが、身を隠そうとはしていなかったからだ。


モトは彼に並走し、少しの間何も言わず、ただ王子の背中から放射される焦燥感を見つめていた。無防備で、制御を失った焦燥。二日前の夜、シェウを木に押さえつけていた冷酷な人物とはまるで別人のようだった。


「なぜついてくる」ムカイは彼を見ようとしなかった。


「ダチが危ねえんだ。俺たちも助ける」


「遊びじゃないんだぞ」ムカイの声は短く切って捨てるようだった。「足手まといは不要だ」


「お前が心配するなんて意外だな」モトが言う。「スカイのことは嫌いだって聞いてたけどよ」


ムカイは顔を背けた。顎の筋肉がこわばる。彼は答えなかった。


豪邸の扉には警備が敷かれていた。扉はムカイのためだけに開き、他の全員の目の前で閉ざされようとする。ムカイは彼らを入れないよう護衛に指示を出すほんの一瞬だけ振り返り、そのまま中へ入り、扉は完全に閉まった。


彼らは待った。


ムカイが再び出てくるよりも早く、ダグラス王(King Douglas)が到着した。


最初に見つけたのはシェウだった。彼女は二人の少年の首根っこを掴んで強引に頭を下げさせ、自らも素早く片膝をついた。


王は深紅の毛皮のローブを纏い、他人に深刻に受け止めさせるために急ぐ必要など一度もなかった人間特有の、ゆったりとした重みのある足取りで歩を進めてきた。頭には色とりどりの宝石がはめ込まれた純金の王冠。右手には、指ごとに異なる指輪がはめられている。


「何用かな、子供たち?」


「私たちはスカイの友人です。どうか――」シェウの肘が、横にいるモトの脇腹に鋭く入る。「――陛下。どうか私たちにも手伝わせてください」


ダグラス王は少しの間、面白がるような目でシェウを見た。「賢い友人を持ったものだ」彼の視線が動く。「ジニンビの孫――お前も同じ理由でここに?」


ナジョは黙っていた。シェウの肘がさらに強く彼を小突く。


「……はい」ナジョは慌てて答えた。


「息子の友人たちと、このような形で会うことになるとは残念だ」ダグラス王が指輪をはめた指を一本立てると、屋敷の中から一人の護衛が音もなく進み出た。

その背後で扉が開き、オリヴィア(Olivia)が、その肩越しにムカイを連れて姿を現した。モトが敷居を跨ぐことを許されているのを見た瞬間、ムカイの表情が再び硬化した。


護衛が映像通信機ビデオ・トランスファーを差し出す。画面が明るく光った。


そこからアリシアが見つめ返してきた。この会話の準備を万端に整え、そしてこの状況を少しばかり楽しんでいる者の、余裕に満ちた態度だった。


「ごきげんよう、陛下」彼女の声には、秘密を共有しているかのような親しげな温もりがあった。「私の仕事が、まさかあなた様と敵対することになるとは思いませんでしたよ。でも、お金が物を言う世界ですからね」


「いくら欲しい」王の声は硬かった。


アリシアは笑った。軽やかで、急ぐ様子もない。すでにこの質問が来ることを知っていて、退屈だとすら思っているような笑い声だった。

「馬鹿を言わないで。お金が目当てなら、ジニンビの血族を攫っていたさ」彼女は間を置き、その言葉を浸透させる。「私が欲しいのは、それとは比べ物にならないほど価値のあるもの。……そして、あなたが最初は頑固に拒むことも分かっている。だから、無駄な駆け引きは省かせてもらうよ」


画面が切り替わった。

二人の構成員によってスカイが前に引き出される。手首と足首を縛られ、目を大きく見開き、縄の中で指を痙攣させることしかできない状態だった。


爪先立ちで、完璧に静止して立っていたオリヴィアが――その踵を、床へと下ろした。


ほんの些細な動きだ。ほとんど何でもない。

だが、制御を失い、彼女の周囲を這うように微かに弾け始めた『雷の火花』は、決して「何でもない」ものではなかった。彼女の視線は、夫の顔に固定されたままだ。揺るぎなく、意図的に。彼女は今、リアルタイムで『決断』を下そうとしていた。


「お前」王の声が低く落ちた。「頼む。……まずは要求を聞こう」


オリヴィアの踵は床に留まった。火花がそれ以上広がることはなかった。


「いい子だ」アリシアが言った。「あなたの奥様が一歩でも外に出た瞬間、この子は死ぬ。彼女がどれほどの真似をやれるか、私はよく知っているからね」彼女は一呼吸置いた。「さて。国境から六キロ先の洞窟へ、『大地の鉱石』を運びなさい」


「だが、それは――」


「駆け引きはなしだ、ダグラス」

王の名を敬称もなしに呼ぶその馴れ馴れしさに、王の護衛が目に見えて歯を食いしばるのが分かった。

「必ず持ってくるんだ。期限は日暮れまで」


画面が、暗転した。



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