第10章:巨人の激突 (Clash of Titans)
アリーナには、胸の奥深くまで入り込み、そのまま居座るような異様な緊張感が満ちていた。
ムカイは背筋を伸ばし、わずかに鼻先を上げて、視線の端でナジョを捉えていた。背後には巨大な水溜まりが静かに横たわり、満員の観客席を水面に映し出している。対するナジョは、その視線を真っ向から見据えていた。彼の背後では、二本の避雷針が、耳慣れた低周波の唸りを上げながら帯電している。
ジャンボ先生が中央へ進み出る。二人は前へ歩み寄り、五メートルの距離を空けて止まった。
「これが争いを解決する最も手っ取り早い方法だ」ジャンボ先生が宣言する。「どちらかが敗北を認めた時点で試合終了となる」彼は二人を交互に見た。「これを手配するのには骨が折れた。それに見合うだけの戦いを見せなさい」彼が片手を高く上げる。「構え」
ナジョが両拳を激しく打ち合わせた。
バチィッ!
拳の間で火花が弾ける。ムカイが右手を伸ばすと、背後の水面がゆっくりと、力を蓄えるような波紋を広げた。
観客席から、モトが身を乗り出す。「水は雷を通す。ナジョにとっては楽勝なはずだ」
「始め(ハジメ)!」
先生の言葉が終わるより早く、ナジョは動いていた。雷を纏った全力の拳が、ムカイの顔面を真っ直ぐに捉える。
(シェウの分だ!)
――しかし、それは空を切った。
継ぎ目のない水の壁が彼を包み込むように噴き上がり、ナジョはすでにその内側に囚われていた。
「そう簡単にはいかないよ」スタンドから、スカイが静かに言った。
「『毒水沼』」
ムカイが言った。職人が愛用の道具の名を呼ぶような――静かで、手慣れた、ほとんど独り言のような響き。その直後に、薄い冷笑が浮かんだ。
四方八方から水圧が迫り、ナジョの肺から空気を絞り出す。そして水の円柱は、異物を吐き出すかのように彼を上空へ撃ち出した。ナジョは地面に叩きつけられ、転がり、バク転で勢いを殺してなんとか両足で着地した。
彼は鋭く弾ける雷撃の雨をムカイへ放つ。だが、それらは水の壁にジュッと音を立てて吸い込まれ、ただの蒸気へと変わった。
「なんで感電しねえんだよ!」モトが叫ぶ。「水は電気を通すだろ!」
「僕たちの母上は、水と雷の両方を修めているんだ」スカイはフィールドから目を離さずに言った。「だからムカイは、自分と同族の能力をどう捌けばいいか、完璧に理解している」
モトは彼をまじまじと見つめた。「国内最強ってことか?」
「国内最強さ」
ナジョが戦法を変えた。地面から岩を引き剥がし、散弾のように激しく打ち出す。
(ただの力任せだ。技術が欠如している)
ムカイは冷徹に観察した。
「『水剛石:クリストファー』」
ムカイの目の前に、硬質化した水の精密なダイヤモンドの盾が出現し、飛来する岩の破片をことごとく綺麗に弾き飛ばした。
ナジョが自身の背丈の倍はある巨大な岩を持ち上げ、力任せに投げつける。ムカイは水の剣を引き抜き、下から上へ一閃した。
岩が真っ二つに割れ、その隙間から光が差し込む。
――その光の中を、ナジョはすでに潜り抜けていた。岩の真っ二つに分かれるのを待たずに、一気に間合いを詰める。
ドゴォォォンッ!!
観客席の上段まで響き渡る轟音と共に、その拳が完全に直撃した。
水と雷が接触と同時に大爆発を起こす。ムカイは宙を舞い、背中から大きく弧を描いて自らの水溜まりへと叩きつけられ、四方十メートルにわたって激しい水しぶきを吹き飛ばした。
観客席の半分を占める『雷』の生徒たちが、爆発的な歓声を上げた。
水中で、ムカイはその音を聞いた。くぐもってはいるが、紛れもない歓声。自分ではない、他者へ向けられた熱狂。
(あの余所者が、私より強いと思っているのか)
周囲の水は冷たく、静かだった。彼は一呼吸の間だけ、その静寂の中に留まった。
(私は奴より何年も長く鍛錬を積んできた。こんなこと、絶対に認めない)
ザバァァッ!
彼は水面から弾け飛び、すでに攻撃を放っていた。高密度・高初速の水の弾丸の雨が、ナジョをフィールドの端へ向かって激しく押し戻していく。
「今のは!」轟音に負けじと、ナジョが叫ぶ。「シェウの分だ! まだもう一発貸しがあるからな!」
ムカイの顎がこわばった。彼は放ったすべての水弾を、一斉に引き戻した。それらはナジョの周囲に集束し、完全に封を閉じる。
高密度な水の球体。ナジョを高々と宙に浮かせ、もがく彼ごと高速回転する。踏ん張る場所もない。押し返す足場もない。
「まずい」スカイが息を呑み、顔から血の気を失わせた。「このままじゃ――」
ナジョの思考は、彼の肺よりも速く回転していた。先ほど自分が投げ飛ばした岩が、まだフィールドのあちこちに転がっている。彼はその一つを自分の方へ引き寄せ、水球の中に侵入させると、そこに両足を叩きつけ、ありったけの力で蹴り出した。
プハァッ! ナジョの頭が水面を割り、激しく空気を吸い込む。
ムカイが水を解き放ち、水球が崩れ落ちた。
ナジョはまだ転がっている岩の一つに着地した。彼の全身から、鋭くギザギザとした雷光が眩いほどに迸っている。その目は細く見開かれていた。
(次の一撃にすべてを懸ける)彼には分かっていた。
ムカイもまた、空気の変化を感じ取り、それを歓迎した。
「『水槍:オーウェン』」
水溜まりは、まるでこの時を待っていたかのように応えた。全体の体積が一気にムカイへと押し寄せ、巨大で螺旋を描く一本の鋭利な槍へと形を変えていく。
ナジョは落下する岩を蹴って地上へ向かって急降下し、両手に限界まで雷を注ぎ込んだ。
二人の距離が、ゼロへと収束していく。
観客席で、モトの拳は白くなるほど強く握りしめられていた。隣のスカイは、完全に息を止めて固まっている。
二つの巨大な攻撃が、まさに触れ合おうとした――その瞬間。
揺らめく漆黒の空間が開いた。
何の予兆もなく、観客席の背後の空間が引き裂かれたのだ。そこからカンゲツが足を踏み出す。彼の手はすでに動いていた。すでにスカイへと伸びており――誰かが事態を認識するよりも早く、その手はスカイを捕らえていた。
カンゲツは自らの指先に、小さく、しかし明確な意志を持って血を噴出させ、それをスカイの顔の前に突きつけた。
何よりも先に、強烈な鉄の匂いが鼻を突く。
スカイの体が震えた。
「動くなよ」カンゲツが囁いた。




