第1章:朽ちゆく威光 (Decaying Eminence)
古の力が再び世界大戦の火蓋を切ろうとする時。無法地帯から来た決意を秘めた青年は、自身の不安定な異能を制御し、思いがけない仲間たちを集めなければならない。神の如き暴君に抗い、人類の新たな道を切り拓くために。
ナウィック編 (Nawick Arc: Chapters 1-5)
「戦争。それは太古の昔から人類を苦しめてきた災厄だ。異能力への進化は、その血生臭さをさらに加速させた。だが、一人の男がその連鎖を断ち切った。彼は嵐のように現れ、いがみ合う赤ん坊のような国家群を強引に引き離した。平和は確立された。しかし、国家は水面下で怨嗟を募らせていた。男は死に、彼の平和もまた、彼と共に死んだ。
俺の祖国が、最初に崩壊した。あの日の光景は、俺の魂に永遠に焼き付いている。
戦争という呪いが再び世界を飲み込むのは、時間の問題だ。俺はそれを絶対に許さない。俺には守るべき家族がいる。彼らは俺より長く生きるだろう。だからこそ、俺の創る平和もまた、彼らと共に生き残るものでなければならない。途方もない使命だ。だが、誰かがやらなければならないのだ」
ソヌ校長(Mr. Sonu)は手にした作文用紙をゆっくりと下ろした。
机の向こう側では、緑の髪の少年が膝に手をついて座っている。まるで自分が書いた名文が読み上げられるのを、心底楽しんでいるかのような態度だ。いや、実際その通りなのだが。
「この『極めて重要な使命』とやらに加え、君の『華麗なる戦闘スキルの証明』を鑑みて……」
校長は紙を机に置いた。
「私をエリート校へ編入させてほしい、と」
「またこの話か、モト(Moto)」
「お願いしますよ、先生」モトは身を乗り出した。「俺は学年トップです。この学校で学ぶことはもう何もありません」
「井の中の蛙、という言葉を知っているか」
「だからこそ、大海に出たいんです」
ソヌ校長は両手を組んだ。何度もこの会話を繰り返し、そしてこれからも繰り返すであろう人間の、ひたすらに忍耐強い顔だった。
「あそこは『戦争』のための訓練施設だ。君の喧嘩殺法など、三十メートル先から雷を降らせるような連中の前では何の意味も持たない。自ら死地に赴きたいと言っているようなものだ」
「もっと鍛えます。なんだってやります。だからチャンスをください。お願いします」
「この手の直訴にはもうウンザリだ」
校長は声を荒らげない。その必要がないからだ。
「それに、君のその御伽噺もな。君の能力は、他の生徒と何も変わらない。ここは護身のための学校だ。君のような生徒を守るために存在している」
モトの瞳から、ゆっくりと光が失われていく。スイッチを切ったのではなく、徐々に光量を絞っていくように。
「……嘘じゃありません」
ソヌ校長はしばらく彼を見つめ、やがてペンを手に取った。
「自分がそこまで特別だと言うのなら」彼はもう顔を上げなかった。「雷を避けられるようになってから出直してきなさい。そうすれば、編入を考慮してやろう。……下がりなさい」
モトはドアを開けた。
廊下では、赤毛の少年が呼ばれるのを待っていた。彼はモトを一瞥もせず通り過ぎる。自分の存在する空間だけを正確に認識しているような、真っ直ぐな視線だった。
一瞬だけ視線が交差し――ただそれだけで、二人の間でドアが閉まった。
壁に寄りかかって待っていたシェウ(Sheu)が、モトの顔を覗き込む。
「そんなに酷かった?」
モトは深く、長く息を吐き出した。感情の滓が混じったような溜息。
「……教室に戻ろうぜ」
その教室には、ここが誰にとっても『最終目的地』ではないと悟っているような、独特の空気が漂っていた。
体重をかけると軋む椅子。引っかかる窓。誰も最後まで消そうとしなかったため、隅に古いチョークの粉がこびりついた黒板。生徒たちはここへ来て、そして去っていく。部屋だけが、ずっとそのままの姿で残される。
モトが椅子にどっかりと座り、シェウがその隣に腰を下ろした。
「私が手紙をチェックするべきだったわね」と彼女。「文章のセンスは私の方が上だって、お互い分かってるでしょ」
「ああ」
「いつもそう言うけど、結局読ませてくれないじゃない」
モトは答えなかった。
彼女は少しの間をおいて、再び口を開く。
「ドレイク(Drake)はあんたよりずっと前からあれをやってるけど、結局上の学校には行けてないわ」
「あいつは直接行って喚き散らしてるだけだろ」
「少なくとも彼は――待って」彼女はモトを見た。「違うわ、手紙を書いてるのはあんた。彼はただ喚いてるだけ」
「その通り」モトは軋む椅子に背中を預けた。「まあ、次は手紙なんて必要ないさ。雷を避けられるようになったら考えてやるって言われたからな」
シェウは彼をじっと見つめた。「それ、諦めろって言われてるのよ」
「先生にとっては不運だったな」
ドアが開いた。
教官が、先ほどの赤毛の少年を伴って入ってきた。彼は廊下にいた時と同じように――静かに、必要な空間だけを占有し、真っ直ぐに前を見て教室を歩く。
「席に着きなさい」教官は声を張り上げる必要がなかった。「転校生よ。自己紹介はおいおい。とりあえず今は――」彼女の視線が教室を横切り、モトを捉えた。「――スパーリングよ。前へ出なさい」
モトはすでに立ち上がっていた。
転校生が初めて彼を見た。まだ警戒する価値があるか決めていない、値踏みするような目。
二人が中央へ進み出る。生徒たちが椅子を下げる。
先に動いたのはモトだった。
相手のスタンスを読み、隙を見つけ、迷いなく踏み込む。フォームは完璧。タイミングも申し分ない。
間合いを詰めながら、肌から煙を立ち上らせる。二人の間に、灰色の雲が濃く渦巻いた。
(俺の煙は、最高の目隠しになる)
隙が見えた。
そこへ撃ち込む。
拳が、入った。
――だが、何かがおかしい。
衝撃そのものではない。その内側に潜んでいた『何か』。
耳の後ろから頭蓋の奥深くまで、低く、そして急速に高まる奇妙な唸り音。
直後。
鈍い感覚を切り裂くような、鋭い破裂音(バチッ!)。
誰もその閃光を視認するより早く、煙がそれを飲み込んだ。
視界が傾く。床が迫ってくる。
気づけば、モトは仰向けに倒れていた。薄れゆく煙の中、口の中に血の鉄の味が広がる。
そのまま動けなかった。
静寂。
モトは体を押し上げた。足は持ち堪えた。教室を横切り、手を差し出すと、少年は無表情のままその手を握った。
次はシェウの試合だった。
ドレイクはまるで朝からずっとそこに立っていたかのように、すでに中央に陣取っていた。腕を組み、この空間が自分のために存在していると信じて疑わない者特有のオーラを放っている。
彼が一度、強く足を踏み鳴らした。
ズシン!
地面が揺れ、不意を突かれたシェウが横に大きくよろめく。
周囲の目には、それが勝負の決定打に見えただろう。
彼女の指先には風が宿っていたが、それを振るうことはなかった。
ドレイクは彼女の従兄弟だ。だがそれ以上に、彼の編入試験へのアピールがすでに風前の灯火であることを彼女は知っていた。転校生の初日の目の前で彼を叩きのめせば、残されたわずかなチャンスすら完全に潰える。言われずとも理解していた。
だから彼女は一撃を受け、負けを受け入れ、自分が手加減した事実を胸の内に留めた。
「俺はもっと上の学校にいるべき人間なんだ」ドレイクは、誰にともなく言い放った。
教室の隅で、モトは半分だけ拳を握りしめていた。そんな彼に、さっきの出来事をあまり深く考えないでほしいと願いながら、シェウは目を丸くして無言を貫いた。
放課後、二人は午後の日差しの中を歩き出した。
校門にはシェルトン(Shelton)がいた。
保護者のような「待ち方」ではない。ただ、たまたまそこに居合わせたかのように、自然に手を下ろして立っている。
浅黒い肌に、娘と同じ青い瞳を持つ大柄な男。
右手には指輪が光っていた。純粋な青い宝石が深く埋め込まれたそれは、平民が持つような代物ではない。側面には『SHELTON』と刻まれている。
彼はモトの顔を見て、何も聞かずにすべてを察した。
ぽん、とモトの肩を叩き、隣を歩き出す。何年も前に相手への評価を決め、それを決して揺るがさない男特有の、気負いのない温かさだった。
しばらく歩いた後、彼はしゃがみ込んで靴紐を結び直し、二人を先に行かせるように手を振った。
二人が家の玄関に着く。
鍵は開いており、ストーブの上では何かが温められていた。
そして。
シェルトンはすでに、自分の指定席に座っていた。靴紐は完璧に結ばれている。
シェウが父を見る。
彼は新聞のページをめくった。
シェウがモトを見る。
モトが彼女を見返す。
シェルトンは新聞を置き、顔も上げずに椅子の横から包まれた食事をモトへ差し出した。「与える」のではない。最初からそこにいるのが当然の家族に物を渡すような、無造作な仕草で。
モトはそれを受け取った。
「ドレイクの奴は、直接行って喚き散らしてるらしいな」シェルトンが虚空に向かって言った。「毎回毎回」
シェウは目を逸らした。
部屋の中に、温かくゆったりとした空気が流れる。シェルトンは再び新聞を手に取った。
「さあ、行け」と彼。「いい夜だ。こんな狭い部屋で無駄にするな」
光の色が変わっていく中、二人は外の低い塀に座っていた。
「あんたが負けるとは思わなかった」とシェウ。
「俺もだ」モトは腕の後ろをさすった。「あいつのパンチ、何かがおかしかった。まるで雷に打たれたみたいだった」
彼女は横目で彼を見た。「言い訳ね」
「お前が言うか」
彼女は答えなかった。しかし、口角がわずかに動いた。
窓の内側では、シェルトンの座る隅のランプが点灯した。彼は二人を呼び戻そうとはしなかった。
空気が冷たくなるまで二人はそこに留まり、やがてシェウは家に入り、モトは一人で家路についた。
その路地は、人々が想像するものとは違っていた。ゴミもなく、悪臭もない。ただ狭く静かで、まるで街全体がその存在を忘れることで合意したかのように、建物の間にひっそりと隠れている。
モトは息を吐いた。
シューゥ……。
濃密な煙がゆっくりと溢れ出し、あらゆる隅から影が散っていく。彼は灰色の靄の中で、焦らずに型を繰り返した。呼吸が落ち着き、顎の奥で鳴っていた耳鳴りがようやく消えるまで。
見上げると、シェウの部屋の窓に明かりが灯っていた。
彼は上を見ず、彼女も下へ声をかけることはなかった。
その後、彼は屋根に這い上がり、片脇に枕を抱えて瓦の上に寝転んだ。街の喧騒が遠のいていく。雲の切れ間から、星が覗いていた。
「今日は負けたよ」
彼は誰もいない隣の空間に向かって、静かに呟いた。微かで、だが確かに瞬こうとしている星を、雲の隙間から見つめながら。
「でも心配するな、アンバー(Amber)。俺はもっと強くなる」
少しの間。
「これから来る『何か』から、お前を守れるくらいに」
風が屋根の上を一度だけ撫で、静まった。
彼は背中が冷え切るまでそこに留まり、そしてもう少しだけ長く留まった。眠りにつくのは、まだ何も誓っていない者たちだけで十分だった。
翌朝、モトはナジョを見つけた。――というより、互いに見知った顔ばかりの中庭で、その赤毛が異様に目立っていた。
「あいつ、誰とも口を利かないのね」シェウの方へわずかに身を傾け、モトが呟いた。
「放っておきなさいよ」とシェウが言ったが、まさにその時、モトは歩き出していた。
モトが近づいてくるのを見て、ナジョの表情が平板で閉ざされたものに変わる。彼は踵を返そうとし――モトの後ろに立つシェウの姿を見て、一瞬だけ動きを止め、それから早足で立ち去ろうとした。
モトの顔に、ゆっくりと笑みが広がる。
彼は午前中の大半を、ナジョに付き纏うことに費やした。
「昨日はラッキーパンチだったな」隣に並んで歩きながら、モトは言った。「お前が俺より強いなんてあり得ない」
ナジョは無言だった。
「腕相撲しようぜ」
無言。
「おいってば」
ついに、ナジョが足を止めた。
中庭のテーブルを挟んで、二人は向かい合った。
モトが勝っていた。確かな手応え。ナジョの腕が沈んでいく――。
その時、あの音が鳴った。
今度は、それを隠す煙はない。
バチィッ!!
鋭く、黄色みを帯びた白。紛れもない閃光がテーブルの上を弾けた。
衝撃がモトの腕を駆け上がり、力が入らなくなる。そのまま手の甲が木製のテーブルに叩きつけられた。
モトは瞬きを繰り返す。
周囲で、ざわめきが起き始めていた。
最初は低く。やがて大きく。
生徒たちが振り返り、指を差す。乾燥した薪に火が燃え広がるように、さざ波が中庭全体へ波及していく。
(雷だ)
ここに。こんな底辺校に、雷の能力者がいる。
どよめきが膨れ上がる。ナジョは集まり始めた群衆を見回し、モトを見て、そして何も見ないまま――足早にアーチを抜け、誰かが追いつく前に姿を消した。
モトはテーブルを見下ろした。
焦げ跡からは、まだ微かに煙が上がっていた。
――遠く離れた場所。
大人数用の巨大なテーブルを、たった一人で占拠している長身の男。
彼はコース料理の合間に、その報告を受けた。
雷の能力者。底辺校。中庭での公然たる力の露見。誰もが見間違えようのない閃光。すでに衆目を集めている、と。
男はフォークを手に取った。
金属の先端を電流が這い、皿の上の空気が陽炎のように揺らめく。
肉を一度だけ裏返す。
カチャリ、とフォークを置いた。
彼は、部下を呼んだ。




