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2-2 歯車と狼群

黑稻相癸です。第二話。


今回は新しい出会いがあります。

ゴブリンって、皆さんはどんなイメージですか?


小さくて、ずる賢くて、洞窟にいる――?


……うちのゴブリンは、ちょっと違います。

ぜひ、お楽しみに。

 あたしたちは丘陵の稜線に沿って疾走した。風の中の血の匂いがどんどん濃くなり、泥土の湿気さえ掻き消していく。


 急な坂を越えた瞬間、視界が一気に開けた。下方の、岩に半ば囲まれた窪地に、精鋼の縁取りで補強された木造馬車が二台、頭と尻を繋いで防御陣形に停まっていた。


 車を引いているのは馬ではなく、一・五メートルはある、甲殻が銅緑色に光る巨大な昆虫二頭――土岩甲虫(つちいわかぶと)だ。苛立った「かちかち」という音を立て、前脚で不安そうに地面を掻いている。


 馬車の周囲の陰に、十数対の幽い緑色の目が車陣を凝視していた。岩地灰狼(いわちはいろう)の群れだ。体格は普通の荒原の狼より小さいが、毛皮はずっと厚く、筋肉は岩のように引き締まっていて、明らかに丘陵地帯の狩りに適応している。


 狼群は急いで飛びかかろうとはせず、完璧な半円の包囲網を敷いて、じりじりと締めている最中だった。


 二台の馬車の間に、二つの小さな影が立っていた。ポケットだらけの油染みた革のベストを着て、青い電光をばちばちと放つ短い棒を構えている。


「あれがゴブリンだ」亜倫が坂の頂上の灌木の陰にしゃがみ、声を落とした。


 あれが本物のゴブリン。身長はあたしの腰までしかない。尖った小さな耳がレーダーのように不安にぴくぴく震え、鼻梁に多層レンズを嵌め込んだ奇妙な眼鏡をかけている。


 一匹の特に屈強な灰狼が馬車の車輪に近づこうとした。片方のゴブリンが手の中の電棒を馬車の鉄板に突き刺した。青い電弧が一瞬で車枠を伝い狼の鼻先に走り、「ばちん」と破裂音が鳴った。狼は悲鳴を上げて影の中に退き、毛の焦げる匂いが空気に漂った。


「長くはもたない」あたしは腰の匕首を握り締め、骨の髄に流れる猟師の血が沸き始めた。


「あの光る棒で狼を追い返せるけど、数が多すぎる。狼たちがあれは火傷させるだけで命までは取らないと気づいたら、一斉に襲いかかる。下りていかなきゃ!」


 飛び出そうとした瞬間、亜倫に肩を押さえつけられた。


「待て」語調が異常に冷静だった。目は今にも飛びかかろうとしている灰狼の群れではなく、窪地の縁の岩場を繰り返し走査していた。


「亜倫! もたもたしてたら引き裂かれる!」


「狼は極めて社会性の高い動物だ、コラ」亜倫の手が鉄の万力のようにあたしを押さえ込む。有無を言わせない。


「この規模の包囲網が本能だけで形成されるはずがない。頭狼が一匹、指揮を執っている。おまえが今突っ込んだら、もう一つの包囲される獲物が増えるだけだ。探せ。吠えない、噛まない、ただ見ている(・・・・)だけの狼を」


 あたしは深く息を吸い、無理やり自分を落ち着かせた。


 耳を立て、この窪地の音場の中から「静かな」一角を探し始めた。


 見つけた。


 包囲網の左上方、突き出した灰色の岩の陰に、やや大柄だが毛色が極めて淡い灰狼が一匹、腹這いになっていた。口を開けて唸ることもなく、他の狼のように苛立って地面を掻くこともない。ただ冷ややかに窪地の中央を注視しているだけ。時おり、その耳が微かに動く。すると下方の狼群がその耳のシグナルに従って包囲圏を調整する。


「あそこ」あたしは岩を指差した。


「十一時の方角」


「いい目だ」亜倫があたしを押さえていた手を離し、口角に満足の弧が浮かんだ。


「覚えておけ。蛇の急所を打つように、狼の群れは頭狼を叩く。おまえは下の雑兵を片づけろ。頭狼は俺に任せろ」


 彼は武器を抜かなかった――そもそもまともな武器を持っていない。ただ腰袋から、鶴嘴岡で買った拳ほどの大きさの生石灰の粉袋を二つ取り出しただけだ。


「行け、子猫」


 あたしがおじいちゃんの援護なしに実戦に出るのは、これが初めてだった。音もなく斜面を滑り降りた。足先が窪地の縁の泥に触れた瞬間、一気に力を込め、弦を離れた矢のように包囲圏の背後に射出した。


 馬車に迫っていた一匹の灰狼が背後の風切り音を聞いた。振り向いた瞬間には、あたしの膝が奴の下顎骨に叩きつけられていた。「がきっ」と乾いた音がして、悲鳴すら上げずに地面に崩れ落ちた。


 狼群が一瞬で陣形を崩した。数匹が馬車を捨て、あたしに向かって飛びかかってきた。


 同時に、上方から物音がした。


 亜倫は頭狼に直接突進したのではなく、風向きを計算して、二つの生石灰の粉袋を頭狼が潜む岩の上方に力いっぱい叩きつけた。


「ぱん! ぱん!」


 粉袋が岩に弾けて、白い石灰粉が一瞬であの一帯を覆い尽くした。頭狼が苦痛の呻きを上げた。石灰粉が目と鼻に飛び込み、激しい灼熱感で判断力を瞬時に失った。慌てふためいて岩の上から転げ落ち、狼群への指揮が完全に途絶した。


 頭狼の統率を失い、あたしに背後を突かれ、もとは軍隊のように規律正しかった灰狼たちがたちまち烏合の衆と化した。あたしが三匹目の狼の肩に匕首で深い血溝を刻んだ後、残りの狼はついに瓦解し、尾を丸めて丘陵の夜闇に消えた。


 半ば目を潰された頭狼もよろよろと逃げ去った。


 窪地に静寂が戻った。土岩甲虫だけがまだ不安げに荒い息を吐いていた。


 あたしは匕首の血を振り払い、二台の馬車に目を向けた。


 二人のゴブリンはまだ電棒を構えたまま、分厚いレンズ越しに警戒の目であたしを見つめ、次いで坂の上から悠々と歩いてくる亜倫を見やった。


「おや? 部品完備の旅行者がお二人」年かさの方のゴブリンが鼻先まで滑り落ちた眼鏡を押し上げ、甲高くて早口な声で言った。


「私はバル、こちらは弟子のジブ。まさか、潤滑油すら凍るようなこんな場所で、義侠心溢れる長脚族に出会えるとはね」


「こんばんは、バルさん」亜倫があたしの隣に来て、あの温和で無害な笑みを浮かべた。


「たまたま通りかかっただけです。土岩甲虫がだいぶ怯えているようですが」


「忌々しい畜生め! もう少しで転軸がバラバラになるところだった」バルは馬車の車輪を力いっぱい蹴りつけてから、心配そうに大きな甲虫の硬い殻を撫でた。


「この錆びた世の中、野犬まで強盗を覚えやがった! もし俺の『高周波熱電発生器こうしゅうはねつでんはっせいき』がまだ信頼できなかったら、俺とジブは今頃あいつらの晩飯になってたさ」


 彼は亜倫を眺め、抜け目のない小さな目が上から下まで品定めした。


「おかしいな……若いの、おまえの『年輪(ねんりん)』は……いや、つまり気質だ。見た目は二十そこそこだが、さっき頭狼をあしらった手つきは、坑道に百年座っていた俺の叔父を思い出させる。なんというか……構造がとても安定している感覚だ」


「読んだ本が雑で、気持ちが老けているだけでしょう」亜倫はさらりとかわした。


「出会いも縁ですから。お二人がよろしければ、今夜はご一緒に野営しませんか。狼は追い払ったばかりですし、今夜はもう来ないでしょう」


 バルが声を上げて笑った。錆びた歯車二つが擦れ合うような音だ。


「願ってもない! お二人みたいに歯車の噛み合わせが完璧なボディガードがいれば、今夜はやっと目を閉じられるってもんだ」


            ◇


 あたしがゴブリンという生き物に間近で接したのは、これが初めてだった。


 その夜、馬車で囲んだ安全圏の中に篝火を起こした。バルとジブが馬車の中から奇妙な缶詰をいくつか引っ張り出した。中身は強烈な防腐香辛料の匂いがする肉の塊で、食べると味のついた木材を噛んでいるようだった。


 だが食べ物より驚いたのは、彼らの口と手が永遠に止まらないことだ。


 休んでいる時でさえ、バルの手には精巧なスパナが握られ、淡い黄色の光を放つ提灯をひっきりなしに調整していた。


「このオンボロ提灯、もとの魔力変換率は豚の脳みそ並みだったが、俺が回路を一つ足した」バルが誇らしげに亜倫に見せた。


「今のご時世、本物の精密仕事がどんどん難しくなっている。百年前のあの大災変以来、大気中の魔力流が解れた糸みたいにぐちゃぐちゃで、魔具の廃棄率がおっかないほど高い。俺たちみたいに精密機器で飯を食ってる者は、砂の中で時計を修理してるようなもんだ」


 亜倫は真剣に聞いていて、時おり歯車比や魔力共振に関する専門用語を挟み込んだ。これでバルの好感度は急上昇し、義兄弟の杯を交わしかけるほどだった。


 その後三日間、あたしたちは商隊と道連れになった。


 馬車に乗るのは歩くよりずっと楽だった。土岩甲虫の足取りは速くはないが、極めて安定していて、起伏の激しい丘陵でも車体の揺れは我慢できる範囲に収まっていた。


 この数日、丘陵の生態があたしにその奇妙な一面を見せてくれた。


 背中に石苔がびっしり生えた巨大な亀を見た。地面で動かない時は、草が生えた岩そのものだ。尻尾が鞭のような蜥蜴も見た。日向に腹這いになって、尻尾で空気を叩いて飛ぶ虫を捕まえる。


 だが楽しい時間は長くは続かない。


 四日目の昼、車列が分かれ道で止まった。


「俺たちは東に行くぞ、長脚族」バルが馬車から飛び降り、甲虫の轡を点検しながら言った。


「買い手が石門鎮にいるんだ。おまえらが目指す北の要塞は……石ころと冷たい風しかない行き止まりだ」


「ここまで大変助かりました、バルさん」亜倫が笑みとともに礼を述べた。


「これを持っていけ」バルがあの底なしのようなポケットから小さな包みを取り出し、亜倫に放った。


「これは『熾熱粉(しねつふん)』だ。水を少しかけるだけで高温を発する。上等な着火魔具には及ばんが、乾いた薪が見つからない時にゃ命を救う代物だ。おまえのあの『安定した構造』への、ちょっとした投資だと思え」


「大変ありがたい。実用的です」亜倫が丁重に受け取った。


「二人とも幸運を祈る。おまえらの歯車が永遠に噛み合い続けることを!」


 ゴブリンの甲高い別れの声とともに、二台の馬車が東の土道にゆっくりと走り出し、やがて丘陵の起伏の中に消えていった。


            ◇


 二人きりの徒歩に戻った。


 標高が上がるにつれ、丘陵の勾配はどんどん急になり、空気も薄くなっていった。植生が目に見えて減り、矮い灌木が次第に剥き出しの岩に取って代わられた。


 旅は退屈にもなった。


 足取りが重くなるだけでなく、もっと切実な問題がある。食料が減った。


 鶴嘴岡で買った乾糧はほとんど底をついた。草原ではそこら中にいた野兎や地鼠も、ここでは影も形もない。


「今夜は焼き菜の根しかないみたい」あたしは石の隙間から一株の枯れた植物を引き抜き、泥を振り払って、少し気落ちして言った。


高山蓼(こうざんたで)だ。不味いが、カロリーは摂れる」亜倫は岩にもたれ、あたしが植物を処理するのを見ていて、手伝う気配はまったくなかった。


 前日、実はマーモットの巣穴を見つけていた。意気揚々と、部落で習った罠の技術を使い、草縄と曲がった枝で完璧な投げ縄罠を作った。一午後まるまるそこで粘った。


 結果、マーモットは巣穴の入り口から頭を出し、罠に残った人の匂いをくんくん嗅いで、あたしがまったく気づかなかった別の穴から逃げてしまった。


 あの時、亜倫はすぐそばで見ていた。あの隠れた裏口にとっくに気づいていたくせに、一言も言わなかった。


「なんで昨日、あの巣穴に裏口があるって教えてくれなかったの?」あたしはとうとう我慢できずに訊いた。苦い根茎を力いっぱい齧りながら。


「教えたら、高山のマーモットがどれだけ狡猾かを学べなかっただろう」亜倫が腰袋から塩漬け肉の小さな一切れを取り出した。あたしたちの最後の肉だ。大半をあたしに分けてくれた。


「マングローブでは、獲物は泥の中に隠れている。おまえに必要なのは、奴らより辛抱強くなることだけだ。だがこういう物資の乏しい極地では、生き残ったすべての生き物が二つ以上の逃げ道を持っている。おまえの部落の経験は、ここでは半分しか通用しない」


 あたしは肉を受け取り、少し不服そうに噛みついた。


「じゃああんたは? 何でも知ってるのに、なんで直接捕まえてくれないの?」


「コラ」亜倫があたしを見た。あの黒い目の中に、あたしには読み取れない深淵があった。


「俺が永遠におまえのそばにいて裏口を指し示してやるわけにはいかない。おまえはこの新しい土地のルールで生き延びることを学ばなきゃならない。俺に頼るのでも、過去の経験に頼るのでもなく」


 その言葉が、なぜか微かな不安を残した。この果てしない旅の、まだ半分も歩いていないのに、彼はもう何かの別れの準備をしているかのようだった。


 風が冷たくなった。


 あたしは外套をきつく巻き直し、北方のあの永遠に辿り着けないかのような山脈の輪郭を見つめた。初めて感じた。これは本当に、途方もなく長い旅なのだと。

お読みいただきありがとうございます。


今回、新しい種族の「俚語」が出てきましたね。

獣人たちには獣人の言い回しがあったように、ゴブリンにはゴブリンの言い回しがある。

バルは世界を一台の機械として見ているから、挨拶も別れも全部「歯車」で語る。


ところで、皆さんにもこういう経験、ありませんか?


長い付き合いの友達、バイト仲間、部活の先輩後輩――

気づいたら、外の人には通じない「自分たちだけの言葉」が生まれていた、みたいなこと。


あの感覚って、たぶん「仲間」の証なんですよね。


もしよかったら、あなたと誰かだけの「俚語」、聞かせてください。


——次回、第三節「飢えた山の背」

食べ物がない。空気が薄い。

そして、空から何かが見ている。


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