12-7 巨口
黑稻相癸です。最終節。
巨口の中の冒険もいよいよ幕引きです。あまり名残惜しまないでくださいね、皆さん。
戻った時、艾琳はもう起きていた。
壁に寄りかかって座り、杖を膝に横たえ、髪は何かに揉まれたかのようにぐしゃぐしゃだった。あたしが入ってきたのを見ても、どこに行っていたかは聞かなかった。
「行こう。」あたしは言った。
「どこへ?」
「フィンティスのところ。」
……
あの高い場所の縁は空だった。
人がいない。帆布は地面に広げられたまま、木炭は横に転がり、端が風にめくられていた。あの等深線はまだそこにあった——びっしりと、何度描いたか分からない航海図が。
だが人はいない。
後ろで物音がした。
高い場所に建てられた壊れかけの小屋の中。物を漁る音、布が擦れる音、何かが何かの中に素早く押し込まれる音。
あたしは近づき、入り口から中を覗いた。
フィンティスが地面にしゃがみ、古びたリュックに荷物を詰め込んでいた。布切れ、ロープの一段、帆布で包んだ容器。動きはとても速く、整理しているのではなく——時間を奪い合っているかのようだった。
彼の地図はリュックの中にはなかった。
外の地面に広げたままだ。
彼は入り口の気配を察し、顔を上げた。
目はあの鋭い、正気の輝きのままだった。あたしたちだと分かると、表情は緩まなかった——むしろもっと急いた。
「お前たちか。早く。行くぞ。」
「え——」
「冥翳が食事をする。」
艾琳とあたしは顔を見合わせた。
「冥翳?」
彼はもう聞いていなかった。リュックを肩に放り、入り口からくぐり出て、下へ走り出した。方向は酸液湖だ。
あたしは迷わなかった。艾琳の手を引き、後を追った。
帕夫が籠の中で一声叫んだ。
……
酸液湖に辿り着く前に、あたしは見た。
湖面が下がっている。
ゆっくりと。だが見えた——縁の蛍光を帯びた水際線が後退し、その下の湿った肉壁が露出している。水面の上よりも暗い色で、おかしな光沢を帯びていた。
腔壁が蠕動を始めた。
前までの蠕動は緩やかで、たまにあるだけだった。眠っている人が寝返りを打つように。今は違う。頻度が上がり、波が次から次へと押し寄せ、肉壁全体が何か外側から押されているかのように起伏の幅を増していく。
そして振動。
足の裏から這い上がってくるもの——骨を、歯を、頭蓋骨を貫いてくる。まるで世界全体が太鼓の上に乗せられ、誰かが叩き始めたかのようだった。
地面が傾き始めた。
ゆっくりと。だが感じ取れた——重心が片側にずれ、足の裏に少し余計な力が必要になる。地震ではない。空間全体が傾いているのだ。
この巨獣は冥翳という名で、そして動いている。
冥骨地の人々が動き出した。
だが彼らは走っていない。
物を縛っていた。木板を壁に釘付けにし、ロープをきつく結び、子供を低い仕切りの中に押し込んでいる。動作はとても手慣れていて、慌てふためいている様子はない。何度もやったことがあるかのように。
何人かがあたしたちが酸液湖の方向へ走っていくのを見て、顔を上げた。
何も言わなかった。
ただ一瞥しただけだ。
そしてまた自分たちのロープを縛り続けた。
……
フィンティスの足は速かった。この道を百回は走ったかのように熟知していた。すべての角、すべての傾斜、足を置ける場所すべてを、一切立ち止まらずに越えていった。
あたしは彼の後ろを走った。艾琳はあたしの後ろ。
地面の傾斜はどんどん明らかになっていた。走る時に身体を横にしなければバランスが取れず、足を踏み下ろす角度が絶えず変わる。
後ろから木が折れる音がした。
あたしは振り返って一瞥した——
冥骨地の建物が崩れている。船板とマストで組み立てられたあの家々が、腔壁の収縮の中で押し潰され変形し、木板が骨のように折れて、連続した、密集した鋭い音を立てている。
一瞥だけ。
走り続ける。
酸液湖はほぼ干上がっていた。湖底が露わになり、溝だらけの肉質の地面が広がっている。溝の中には最後の蛍光液が少しだけ残っていた。
あたしたちは湖底を駆け抜けた。滑りやすい肉壁の上を踏む一歩一歩が、転倒の危険だった。
「早く——」フィンティスが前方で叫んだ。
冥骨地の範囲を走り抜けた。巨獣の腔体の深部に入った。
肉壁が両側から迫り、頭上の空間が狭まり、空気はさらに熱く湿った。呼吸が焼けるようだ。
そして——
光。
前方に光がある。
苔蘚の青緑ではない。白い。明るい。外の光だ。
あたしの足は思わず一瞬止まった。
その光は冥翳の巨口から差し込み、体腔の内壁を奇妙なピンク色に染めていた。肉壁のすべての紋様、すべての皺が明瞭に照らし出されている——暗闇の中で突然窓を開けたかのように、珂拉が何日も過ごした場所が本当はどんなものなのか、初めて目にしたのだ。
外の世界は本物だった。
ずっとそこにあった。
その静けさは数秒しか続かなかった。
そして水が来た。
光の方向から押し寄せてくる——水流ではない、壁だ。白い泡沫を伴った海水の面が巨口に突入し、その速度は音が追いつけないほどだった。
水の中に何かが混ざっている。
木板。ロープ。帆布。マストの破片。貨物箱。
船だ。
砕けた船。そして——
人。
光の中から落ちてきた人たちが、水と瓦礫とともに巨口に呑み込まれていく。その姿は混沌とした水飛沫の中で翻弄され、一瞬で見えなくなった。
数日前のあたしたちと同じだ。
「伏せろ!」フィンティスが腔壁に張り付き、しゃがんで腕で頭を庇った。
あたしは艾琳を引いて壁面の窪みに飛び込んだ。
水が身体の横を奔流する。冷たい。塩と海の生臭さを帯びている。一枚の木板があたしから二歩のところに叩きつけられ、数片に砕けた。
帕夫の籠が危うく水に攫われそうになった——あたしは全身で押さえつけた。四匹の小松鼠の悲鳴は水の音の中でほとんど聞こえなかった。
「走れ——今だ——」フィンティスはもう壁際から立ち上がっていた。
巨口の方向へ。水の流れに逆らって。
あたしは艾琳を引いた。水が腰を打ち、あたしたちを押し戻す。一歩一歩が壁と格闘しているようだった。
一枚の帆布が水の中から突っ込んできて、あたしの顔に直接かぶさった。
暗転した。
何も見えなくなった。布が顔に張り付く窒息感と、水の重さがあたしをどこかへ引きずっていく感覚だけがあった。
一本の手があたしの腕を掴んだ。
きつく。指先が筋肉に食い込んでいた。
艾琳。
彼女が帆布をあたしの顔から引き剥がした。水飛沫の中で目を大きく見開き、口を開けて何か叫んでいる——聞こえない、水の音が大きすぎる——だが彼女の手は離れなかった。
あたしの足が地面を見つけた。踏ん張った。
走り続ける。
……
そして水の方向が変わった。
徐々にではなく——突然に。巨大な弁を誰かが切り替えたかのように。
さっきまで中へ流れ込んでいた水が、外へ向かって流れ始めた。
速度は速かった。水位が下がっていく。さっきまで腰まであった水が、膝に、そして足首に。
「今だ!」フィンティスが前方に立ち、水が足元から外へと奔流していた。
「排水している——出る準備をしろ!」
彼の声が獣の腔内に反響した。
だが彼がそう叫ぶと同時に——彼の足は別の方向へ向かっていた。
引き返している。
冥骨地の方向へ。
「どこ行くの?」あたしは叫んだ。
「出られるんじゃないの?」
彼は止まらなかった。
「ここまでだ。」
彼の声は大きくなかったが、水流の切れ間にはっきり聞こえた。
「おれの全てはここにある。」
「黄金島に行くんじゃなかったの?」艾琳があたしの後ろで叫んだ。声は水音にずたずたに切られていた。
フィンティスが止まった。
振り返った。
水が彼の足元から外へ流れ、泡と瓦礫が彼の周りで渦を巻いていた。光が巨口の方向から差し込み、彼を照らし、彼の影を長く長く引き伸ばし、冥骨地の方向へと延ばしていた。
彼はあたしたちを見ていなかった。
彼の視線はあたしたちを通り抜け、後方を見ていた。崩壊し、また再生しつつある暗闇の奥深くを。その方向は彼が生きてきた場所だ。
「あるものは——」彼は言った、
「幻想の中にあるうちが、一番美しいままでいられるんだ。」
艾琳が口を開きかけた。
水が来た。
背後から押し寄せてくる力——さっきの流入する水ではない、排出される水が冥翳の体腔の収縮によって加速されたのだ。
あたしは押されて後退した。足が地面を離れた。
最後の一瞥。
フィンティスはその場に立っていた。水が彼の傍を流れていき、彼は動かなかった。まるでそこに打ち付けられたかのように。この場所の一部であるかのように。
背後は冥骨地の方向。
前方は光。
そして水があたしの視界を覆い尽くした。
頭に最後によぎったのは、あの帆布だった。
地面に広げられたまま。持ち出されなかった。等深線がびっしりと描かれた航海図。
彼が永遠にたどり着くことのない場所への地図。
……
水。
暗闇。
翻弄される。方向感覚が消えた。どちらが上か分からない。
水中の温度が変わった。
冥翳の体内にあったあの温さから——冷たさに変わった。
冷たい。塩辛い。外の海だ。
あたしの身体は何をすべきか知っていた。上へ。四肢が動き出す。考える必要はない——本能だ。水の中で方向を見つけ、上へ向かう。
光がどんどん明るくなっていく。
水面を突き破った瞬間、空気が肺を満たした。
飲み込むように吸った。空気を塊ごと飲み込んだ。
一本の手があたしの手を掴んだ。
艾琳。
彼女の髪は顔に張り付き、目はまだ水の中で瞬きをしている——完全には覚醒していないが、彼女の手はあたしを見つけていた。
とても強く掴んでいる。
二人で水面に浮かび、荒い息をした。水は冷たい。空は明るい。風が吹いてくると、塩と陽光の匂いがした。
帕夫は籠の中にいた。どうしてまだあたしの手にあるのか分からない——全体がずぶ濡れで、長い間浸かっていたかのようだった。帕夫は中にうつ伏せ、全身の毛がびしょびしょに張り付いていて、四匹の小松鼠は彼女の腹の下に一団となって詰め込まれ、チーチーと鳴いていた。
生きている。
みんな生きている。
あたしは仰向けに水面に浮いた。空はとても青い。風は強い。波があたしたちを上下に揺らしていた。
それから艾琳の手が動いた。ある方向を指している。
あたしは首を回した。
遠くの海面に、一つの輪郭がある。
逆光で、はっきりとは見えない。だがその形——船首の弧、マストの高さ、帆の角度——
余暉号だ。
お読みいただきありがとうございます。
フィンティスはあたしたちと一緒に来ませんでした。やっとの思いで巨口の外に出られるところまで来たのに、彼は振り返って暗闇の中に戻っていきました。
冗談じゃないですか?何を考えているのか、皆さんには分かりますか?
「幻想の中にあるうちが、一番美しいままでいられる」——彼にとっては、黄金島は手に入れるものではなく、ただ信じ続けるものだったのかもしれません。
第十二章、完。ありがとうございました。




