1-6 帰路
また私です、黑稻相癸。
皆さんは、遠くに冒険しに行ったことはありますか?
都会でも、異国でも、どこかの荒野でも。
そして帰ってきた時——何を感じましたか?
今回は、帰り道の話です。
どうぞ。
帰りの道は、来た時ほど狂ってはいなかった。
あたしたちは地竜島の縁の浅瀬から海に滑り込んだ。水温が外洋よりも明らかに高い。地竜の体温が周囲の海水を温い湯のように加熱しているのだ。布袋を背中に結びつけ、できるだけ水面の上に持ち上げて、亜倫の後を追って遠くの鉄顎号に向かってゆっくり泳いだ。
「急ぐな。ゆっくり泳げ」亜倫が声を落とした。
「速い動きは注意を引く。穏やかに移動していれば、大半の捕食者は俺たちを漂流物だと見なして無視する」
あたしは頷き、歯を食いしばって水をかく動作を制御した。獣人は生まれつき泳ぎが得意ではない。少なくともあたしたちの一族は。四肢の水中での抵抗が陸上よりずっと大きく、尻尾は濡れると重くて鈍くなり、後ろに引きずる丸太のようだ。
幸い距離はそう遠くなかった。鉄顎号は地竜島の外縁から二、三百歩ほどの位置に停泊していて、そこの海水はもう底が見えないほど深い。
水の中で魚の匂いがした。一匹の魚ではない。無数の魚だ。その生臭さは霊気に浸されて少し奇妙になっていて、新鮮な魚の上に砕いた薄荷の葉を撒いたような。密集した魚群があたしたちの足の下を泳ぎ回り、時おり大胆な何匹かがあたしの靴を掠めていく。鱗が水の中で氷青色の微光を放っていた。
霊気魚。格拉克はもう獲り狂っているに違いない。
半時辰とかからず鉄顎号の傍に泳ぎ着いた。舷側から垂れ下がった纜をつかみ、懸命によじ登った。腕はもう酸っぱくて言うことを聞かない。亜倫は隣から船縁の端を掴んで軽々と翻り上がった。低い塀を越えるような綺麗な動作で。
あたしがようやく舷側を越えて甲板に這いつくばって喘いでいると、巨大な影が頭上に落ちた。
「お――おまえ――おまえら――」
格拉克の片目が眼窩から飛び出しそうなほど見開かれていた。傷だらけの顔一面に信じられないという表情が書かれている。驚喜ではなく、死人が蘇った時にしか出ないあの類の衝撃。
「死んでなかったのか?!」
その声の大きさに、甲板の反対側で魚を運んでいた船員たちまで手を止め、一斉にこちらを振り向いた。
「さっきの恐魚――あいつが水から飛び出した時、全員見たぞ! あの口、あの歯、おまえらは――」
「ちょっと探し物をしてきた」亜倫は顔の海水を拭い、甲板を散歩してきたとでも言うような平淡さで言った。
「さて、船長」彼は背嚢から植物を少し取り出した。銀毛草が何株かと冰脈苔が一塊。あたしにもわかった。それを格拉克の手に載せた。
「これを水に浸して飲めば、長年の航海で溜まった関節の痛みや古傷が楽になる。乗船の礼だ」
格拉克が手の中の地味な草を見下ろした。半生を塩水に浸かってきた老水夫で、体の古傷は自分でも数えきれない。半信半疑で葉を指で揉んだ。銀毛草の汁が指先に滲み出た瞬間、彼は一瞬動きを止めた。何かを感じ取ったらしい。
「……この狂人め」ぶっきらぼうに呟きながら草をしまったが、あの片目の中の敵意はもう別の何かに取って代わられていた。
あたしは甲板を見回し、同じ船かと目を疑った。
至る所に魚。
木桶に詰め込まれ、甲板に山積みになり、船室の入り口まで魚の山で半分塞がれている。どの魚も、沈木港で見たどんな魚より大きく肥えていて、鱗が日光の下で霊気特有の淡い青の光暈を帯びている。空気中の生臭さは本来なら息が詰まるほどのはずだが、霊気に濾過されて、涼やかな、ほとんど我慢できる程度の鮮味に変わっていた。
「三日分の量を一日で獲りつくした」格拉克が魚の山の真ん中に立ち、両手を腰に当て、片目にあたしが見たことのない光を宿していた。貪欲ではなく、満足だ。老漁師が一生に一度しか出会えない類の満足。
「魚群が散り始めた」彼は遠くの海面に目をやった。先ほどまで暗雲のように密集していた魚群の影が、徐々に薄れつつある。
「全部積め、帰航準備だ!」
◇
帰路の風向きは順だった。南西から吹く暖風が鉄顎号を北東の沈木港に向けて滑らせていく。来た時に九日かかった航路が、帰りは六日ほどで済む。
だがこの六日は穏やかではなかった。
問題は魚にあった。
満載の魚貨が放つ匂いが、海面に目に見えない帯を引いている。あたしの鼻にはただ濃いだけだが、海の中の奴らにとっては、それは巨大な晩餐会の招待状だ。
二日目の夜、激しい揺れと船底から伝わるくぐもった衝撃音で目が覚めた。
「何かが船底を突いてる!」見張りの叫びがマストの天辺から降ってきた。
格拉克と船員たちが銛と長槍を手に甲板に駆け上がった。月明かりの下、幾つかの巨大な影が水面下で鉄顎号の周りをぐるぐると回っていた。背鰭が時おり水面を切り、月光の中に銀白色の航跡を残す。
衝突のたびに、船が何枚かの板を失い、舷側にまた亀裂が増えるのを感じた。
「鉤脊鯊!」格拉克が歯を噛み締めて罵った。
「霊気魚の匂いが奴らを呼び寄せやがった!」
それから一刻の間は混沌とした防衛戦だった。船員たちが舷側に近づく影を銛で突きまくり、格拉克は舵輪にしがみついて船を鯊の包囲圏から抜け出そうとした。亜倫も加わった。銛は使わず、甲板の魚の山から一番大きな霊気魚を何匹か掴み上げ、船から一番遠い海面に力いっぱい投げ込んだ。
「奴らが欲しいのは魚だ。俺たちじゃない」彼が格拉克に叫んだ。
「何匹か投げて、引き離せ!」
格拉克の顔が苦悶の表情に歪んだ。一匹投げるごとに自分の肉を切られているようだ。だがわかってもいた。船が貫かれたら、すべての魚も全員の命も海の餌になる。
「投げろ! 舷側に近い奴から投げろ――惜しくても投げろ――!」
船員たちが罵りながら舷側の魚を海に投げ込んだ。鯊たちは果たして餌に引かれ、暗い影が徐々に船体から離れて、水面に散らばる魚の死骸を追っていった。
夜が明ける頃には、魚貨のおよそ三割を失っていた。甲板の魚の山はだいぶ低くなり、何個かの木桶がひっくり返って、魚の血と海水が混ざって甲板中に流れていた。
「三割か」格拉克が惨憺たる甲板に立ち、大きく息を吸い込んだ。
「まあいい。残りの七割で船の全員が一年は食える」
彼が亜倫を見た。複雑な目だった。感謝と、警戒と、そして言葉にしにくい敬意が入り混じっている。
「人間」彼が歩み寄り、ごつい手を差し出した。
亜倫がその手を見つめ、わずかに眉を上げてから握り返した。
「次に沈木港に来た時は」格拉克が力強く手を揺すり、片目に笑みが浮かんだ。
「俺を探せ。船賃は取らん」
◇
六日目の夕暮れ、沈木港の輪郭が東の天際線に現れた。
船が岸に着いた時、埠頭の人間たちが鉄顎号の甲板に積み上げられた霊気魚を見て固まった。格拉克が碇を下ろす前に、もう三人の魚商人が桟橋に駆け上がり、金袋を振り回して値段を叫んでいた。
あたしと亜倫は留まらなかった。
格拉克と船員たちが荷降ろしの混乱に追われている隙に、あたしは草薬で一杯の布袋を背負い、亜倫の後ろについて静かに埠頭を抜けた。
「お別れしなくていいの?」あたしは振り返り、甲板で魚商人と値切り合っている格拉克を見やった。
「もう済んだ」亜倫は振り返らなかった。
「最良の別れは、もう一度会う価値がある人間だと相手に思わせることだ」
あたしはしばらく考えて、なるほど一理あるかもしれないと思った。
沈木港を出ると、来た時の道は使わなかった。灰塩平原を抜ける道は遅すぎる。亜倫はもっと東寄りの路を取り、海岸沿いの丘陵の稜線を北上した。
「この道は地勢が高くて風が強いが、塩灘のような消耗はない」彼は歩きながら言った。
「それに、おまえは来た時よりだいぶ強くなっている」
その通りだった。
来る時は十三日かかり、一歩ごとに自分の死体を引きずっているようだった。今は違う。両脚は長距離に慣れ、足裏の繭が一層厚くなり、肺活量も出発時よりずっと良くなっている。それ以上に大事なのは、自分がどこに向かっていて、何のために歩いているのかを知っていること。
その確信が、一歩ごとをより堅くしていた。
亜倫の歩調も来る時より少し速かった。あたしがついて来られると察したからか、それとも彼も早く戻りたかったからか。
道中、あたしたちはほとんど話さなかった。時おり彼が遠くの鳥や植物を指差し、名前と一言の紹介を口にする。歩く百科事典が勝手にページをめくっているかのようだ。あたしはその知識を一つずつ頭に詰め込んだ。冬の前に木の実を溜め込む栗鼠のように。
三日目に丘陵を抜け、内陸に近い矮い灌木の地帯に入った。五日目には、空気の中に馴染みのある匂いが現れ始めた。乾いた土、焦げた草の根、遠くの角鬣鹿の群れが残した古い糞の匂い。
家の方角。
九日目の黄昏、空の最後の橙紅が草原の果てに沈んだ時、あの一番高い刺棘樹が見えた。樹の向こうで、何筋かの炊煙が獣皮の天幕の頂から緩やかに立ち上り、焼き肉と鞣し皮の匂いが夕風に乗って漂ってきた。
毛皮の歌。
あたしは足を止めた。
一ヶ月。ここを発ったあの朝から今まで、ちょうど一ヶ月。塩灘を越え、大海を越え、眠れる巨竜の脊背を越えて、命を救う一袋の草薬を持ち帰った。
背後で、亜倫も足を止めた。急かすことなく、ただ静かに傍らに立ち、あたしが準備するのを待っていた。
あたしは深く息を吸い込んだ。
部族の匂いが包み込んできた。焼き肉の油脂、獣皮の酸味、幼子の乳の香り、篝火の煙。あの馴染みの匂いの結界が温かい毛布のように、あたしを頭のてっぺんからつま先まで覆った。
肩の力が抜け、尻尾が垂れ、耳がもう緊張して回らなくなった。
そしてあたしは歩き出した。篝火の方角に向かって。
お読みいただきありがとうございます。
簡単な旅ではありませんでした。
でも、それは皆さんの日常も同じだと思います。
この作品を書き始めた理由は、一つだけです。
読んでいる間だけでも、日常の重さを少しだけ忘れて、心の中の冒険に浸ってほしい。
それだけで、書いている意味があります。
——次回、第七節「風を追う者」
第一章、最後の一話。
どうか、お楽しみに。
感想・ブックマーク・評価、いつもありがとうございます。




