1-4 波と錆
黑稻相癸です。
皆さんは、初めて船に乗った時のこと、覚えていますか?
私は盛大に吐きました。
でもコラの船旅は、私のあの時よりもっとひどかったようです。
第四話、どうぞ。
彼の言葉は正しかった。
鉄顎号が沈木港の波止場を離れて半刻もしないうちに、あたしは吐き始めた。
浅い吐き気なんかじゃない。五臓六腑を見えない手で鷲掴みにされて、ぐるりと捻られたような吐き方だ。胃の中のさっき飲んだ清水と、朝にかじった半分の硬い麦餅が酸液の灼熱感と一緒に喉の奥から噴き出し、船縁の向こうの灰緑色の海面に散った。
「おぇ――」
あたしは船縁にしがみつき、四肢から力が抜け、尻尾が情けなく垂れ、耳が頭の両側にぺたりと貼りついた。船体が一度揺れるたびに平衡感覚が完全に崩壊する。あたしの体は陸に慣れている。足元の堅い土や草地に慣れている。気根の上を跳ぶ方法も、泥干潟にしゃがむ方法も知っている。だがこの、永遠に終わらない、何の法則も見出せない揺れに対しては、すべての経験が無効だった。
さらに厄介なのは、海の匂い。
沈木港の匂いが騒がしい市場だとすれば、大海の匂いは果てのない曠野だった。遮るものが何もない。木も建物も丘も、気流を切るものが一切ない――風が四方八方から押し寄せ、何にも濾過されていない生の「塩」を運んでくる。
あたしの鼻はその塩気に蝕まれてひりひりと痛み、一息ごとにかすかな金属の味がした。錆びた鉄の欠片を舐めているような。
「初めての船か?」
嗄れた声が頭上から降ってきた。あたしが目を上げると、血走った目に映ったのは、独眼船長の傷跡と嘲笑だらけの顔だった。
「まだ港を出たばかりで、外洋の波にも当たってねぇってのに」彼はしゃがみ込み、ごつい指で前方を指した。
「あの岩礁の連なりを越えたら、波頭は人間三人分の高さになる。そんときまだここにへばりついて吐いてたら、マストに縛りつけて干物にしてやるよ――少なくとも見張りぐらいにはなるだろ」
言い返そうとしたが、開いた口から出たのはまた一口の酸液だった。
「からかうな」亜倫の声が船尾から聞こえた。彼は舵手の隣の木樽に座り、あの羊皮紙の海図を広げて、風に煽られる端を石で押さえていた。
「初めて船に乗る陸の生き物はみんなそうなる。生姜湯を一杯と、塩魚の干物を何切れか噛ませてやれ。空腹より胃に何か入ってる方がましだ」
「へえ、この人間、なかなか通だな」船長が片目で彼を横目に見た。友好的とは言えない笑みを口の端に浮かべて。
「船を走らせたことがあるのか?」
「本で読んだことがある」亜倫は顔も上げずに答えた。
それが彼の万能の答え。
◇
二日目、なんとか立ち上がれるようになった。
眩暈は完全には消えなかったが、少なくとも数分おきに船縁に駆け寄って乾嘔する必要はなくなった。コツを見つけたのだ。遠くの水平線と空が交わる一本の線に視線を集中させ、その固定された基準に合わせて目を動かせば、体の眩暈がかなり軽くなる。
「遠くを見ろ。目に脳を説得させるんだ――世界は回ってない、と」亜倫が、あたしが三度目に甲板で滑りかけた時に、さらりとその一言を投げてよこした。
言われた通りにした。それから船と、船の人間たちを観察し始めた。
船の名は「鉄顎号」。中型の遠洋漁船で、船体はおよそ三十歩の長さに十二歩の幅。暗色の硬木で造られているが、あちこちの塗装が剥がれて、下の海水に漬けられて白んだ木目が覗いている。船首のあの深海怪魚の木彫りは近くで見ると遠目よりもっとひどかった――左の目玉がすでに落ちていて、真っ黒な空洞だけが残っている。
船員は全部で七人。船長を入れて八人。
船長は独眼の獣人で――後に格拉克という名だと知った。茶色い短毛の獣人だ――残りの船員はほとんどが人間で、帆の索具を担当するドワーフが一人だけ、寡黙に働いている。彼らの匂いは統一されていた。塩辛い汗、魚の生臭さ、安い強い酒、そして長期間洗われていない肌が発する酸っぱい臭い。
この船に二日いるだけで、もう慣れ始めていた。慣れるのと好きなのは違う。ただ、あたしの鼻がこれらの匂いを「背景音」に分類し、強い反応を示さなくなっただけ。
三日目の夕方、風向きが変わった。
最初に気づいたのはあたしだった。耳が微かな変化を捉えた――風の「質感」が違う。沈木港を出てからずっと、風は北東から吹いていた。内陸の名残の乾きと港の油っぽさを帯びて。だが今、風は真南から吹き込んできた。湿って重く、水を含んだ毛布を顔に被せられたような。
「風が南に変わった」あたしは甲板で海図を広げている亜倫に言った。
彼が顔を上げ、あたしを見た。その目に微妙な……賞賛?
「ああ。予測より約六刻早い」彼は海図を閉じて立ち上がり、南方の陰鬱な水平線に目を向けた。
「この南風は暖流の前兆だ。地竜の体温が周囲の海水を加熱し、蒸発した水蒸気が上空の気流に乗ってここまで運ばれている」
「じゃあ地竜島まであとどれくらい?」
「この風速だと……六日から七日ほど」
六日から七日。あたしはその数字を心の中で繰り返し、そして周囲を見渡した。
海。
海しかない。島もない。岩礁もない。海鳥の一羽さえ見えない。果てしなく深い灰青色の水面と、頭上に裏返した灰色の鍋蓋のように垂れ込める雲だけ。
あたしはこれほど……空っぽな場所を見たことがなかった。マングローブの森がどれほど荒涼としていても、掴まれる気根があり、身を隠す樹冠がある。灰塩平原がどれほど不毛でも、足の下には固い地面がある。
だがここには何もない。
揺れる木と、底の見えない水だけ。
あたしが一度も経験したことのない恐怖が、静かに背中を這い上がってきた。大鰐と対峙した時のあの鋭い生死の恐怖ではなく、もっと低い、世界そのものに見捨てられたかのような空茫とした感覚。
もしこの船が沈んだら、誰にもわからない。
その考えが小さな蛇のように頭に潜り込み、そのまま居座った。
◇
五日目、天が変わった。
未明、激しい揺れに吊り床から叩き落とされ、背中が船室の床に強かに打ちつけられた。
「全員甲板へ――!」格拉克の怒号が錆びたナイフのように船室を切り裂いた。
あたしは手探りで梯子を這い上がり、頭を出した瞬間、氷のような海水がまともに降りかかった。
海面が消えていた。
いや、海面はまだある――だがもう平面ではなかった。世界全体が黒い山脈に変わっていた。その山々が暗闇の中でうねり、回転し、ぶつかり合い、低い轟きを上げている。空は星すら見えないほど厚い暗雲に塞がれ、唯一の光源は遠くの雲の奥で時折瞬く暗紫色の稲光だけ。
「嵐だ!」格拉克が両手で舵輪を握りしめ、顔の傷痕が稲光の中で凶悪に歪んでいた。
「帆を畳め――! 帆を畳め――! 間抜けども、主帆をしまえ! 前マストの嵐帆だけ残せ!」
船員たちが土砂降りの雨と傾いた甲板の上を、狂った猿のように索具を這い回っている。巨大な波が叩きつけるたびに、船体が肝を冷やすような「軋み」を上げた。どこか決定的に重要な木材が、見えない力にゆっくりへし折られているような音。
あたしは一番近いマストにしがみつき、爪を深く木に食い込ませた。雨水が目と耳に流れ込み、純粋な塩水を飲んでいるように鹹からい。
これが、海の癇癪か。
一つの波頭が――あたしの部族の天幕ほどの高さだと誓う――左舷から叩きつけた。船全体が巨人に平手打ちされたように、右にほぼ四十五度傾いた。あたしの爪がマストから外れ、体が巨大な竜巻の中に放り込まれたように、どちらが空でどちらが海かわからなくなった。
一本の手があたしの手首を掴んだ。
亜倫。
いつの間に来たのかわからない。黒い外套は海水にずぶ濡れで体にぴったり張りつき、マングローブの森で感じた時よりもさらに引き締まった輪郭を露わにしていた。髪はほどけて雨と海水に束になっていたが、あの木の簪がどういうわけかまだ挿さっていて、頭蓋骨に生えているかのように頑固だった。
「息を吸え! 止めろ!」
彼が叫べたのはその二語だけだった。
次の瞬間、また巨大な波が甲板を呑み込んだ。
世界が純粋な水になった。氷のような、塩辛い、深海の底の泥の匂いがする水が四方八方から押し寄せてくる。止めていた息が胸腔の中で膨れて痛み、鼓膜が水圧でじんじん鳴った。
そして、水が引いた。
あたしは甲板に這いつくばって、波に打ち上げられた死んだ魚のように喘いだ。亜倫があたしのそばにしゃがみ込み、片手を背中に当てて、気管に入った海水を叩き出してくれた。
「げほっ——ぅげほげほ——」
「よし」彼の声は穏やかだった。この天地を揺るがす暴風雨の中でも、その声は時計のように安定している。
「最大の波頭は過ぎた。海流が分散し始めている。この後は小さくなる」
「どうしてわか――」言い終わらないうちに、海水が鼻から噴き出した。
「波のリズムだ」彼は袖で顔の海水を拭い、南を見やった。
「嵐は東に逸れた。俺たちはその側面にいる」
彼は正しかった。それから先、波頭は確かに一波ごとに小さくなった。格拉克は舵輪の後ろで、ずぶ濡れの老猫のように丸半刻の間罵り続けたが、最終的には船を安定させた。
夜が明けた時、海面は先刻までの陰鬱だが穏やかな灰青色を取り戻していた。
甲板は惨憺たる有様だった。舷側の手すりが二本折れ、副帆がぼろ切れに引き裂かれてマストで風にはためいている。一人の運の悪い船員が暴風の中でロープに顔を打たれ、左の頬がリンゴを詰め込んだように腫れ上がっていた。
だが誰も死ななかった。このぼろ船はまだ浮いている。
あたしは甲板に座り込み、全身ずぶ濡れで、鬣と尻尾から水が絶え間なく滴り落ちていた。全身の筋肉が震えている。寒さからではない。一晩中圧縮されていたアドレナリンが、ようやく引き始めたからだ。
格拉克があたしのそばに来て、海水で半分塩辛くなった麦餅を目の前に放った。
「食え、嬢ちゃん」彼はぶっきらぼうに言った。あの片目から嘲笑が少し減り、代わりに古い水夫だけが持つ審査のような眼差しが覗いていた。
「嵐の中でマストにしがみついて離さなかった陸っぱりは、初めて見たぞ。大抵の新入りは最初の波頭で小便を漏らしやがる」
「あたしも漏らしかけた」あたしは正直に言った。
格拉克が一瞬固まり、それから豪快な大笑いを爆発させた。笑い声が早朝の海面に響き渡る。
「は——少なくとも正直だ!」彼はあたしの背中をどんと叩き、危うく海に叩き落とすところだった。
「何食わぬ顔してるあの人間よりよっぽどましだ」彼は顎で亜倫の方を指した。
あたしはその視線を追った。亜倫は船尾の纜の山に座っていた。体の海水は朝の風でもう大方蒸発している。何か、あたしにはよくわからないことをしていた。指先に海水をつけて、甲板の上に何かを描いている。線は細く、描くそばから乾いて消えていく。文字を書いているのか、何かを計測しているのか。
彼の唇がかすかに動いていた。声にならない言葉を唱えるように。
「おまえんとこの人間——」格拉克が声を落としてあたしに言った。片目に複雑な光がよぎる。
「昨夜、嵐が一番ひどかった時に、舵輪からあいつが船首に立ってるのが見えた。ただ立っていた。何にも掴まらず、波に倒されもしなかった。波頭が頭の上から叩きつけたのに、一歩も動かなかった」
「まるで、あの波は自分とは無関係だとでも言うように」
あたしの尻尾の先がかすかに痙攣した。
この人間はまともじゃない。
心の中でこの言葉を繰り返すのは、これで二度目だった。だが前回とは違い、今回の語調には、恐怖よりも好奇心の方がずっと多かった。
◇
嵐が過ぎた翌日、海面が変わった。
天候でも風向きでもない。水そのものが。
黄昏時だった。太陽が西の雲に沈み、海面に暗い紅色の残照を撒いている。あたしは船縁に身を乗り出していた。船酔いのためじゃない――船酔いは四日目に完全に消えた――ただ海を見ていた。
そして光を見た。
水の下に光がある。
反射した陽光ではない。もっと深い所から来る光だった。最初はまばらな幾つかの輝点で、沈んだ蛍のように暗紫色の深い水の中明滅していた。それが次第に増え、密になり、まるで水の下に誰かが巨大な、光の点で編んだ網を広げたかのように。
「あれは何?」あたしの尻尾が警戒して倍に膨らんだ。
「深海蛍藻」亜倫がいつの間にかまたあたしの隣に立っていた。彼もあの光を見ている。だがその表情は好奇心ではなく――
確認だった。
「霊気の密度が上昇しているサインだ。あの藻類は海水中の遊離霊気を養分にする。大規模に発光し始めたということは――」
「近づいてるってこと?」あたしが先を言った。
亜倫がわずかに頷いた。
遠くの海面で、あの光の点が幅広い発光帯に集まりつつあった。深海を流れる天の川のように。時おり巨大な暗い影が光帯の下を泳ぎ過ぎる。その影の輪郭はあまりに大きく、あまりにぼやけていて、何の生き物かは判別できなかったが、それがゆっくりと動くのを目にするだけで、うなじにぞっと寒気が走った。
「あの下に……何かいる」あたしは声を落とした。
「沢山いる」亜倫が静かに言った。
「霊気に養われた生態系だ。地竜島に近づくほど、生物の密度も体の大きさも急激に増す。今見えているのは外縁にすぎない」
彼が首を傾けてあたしを見た。その目に何かが一瞬よぎった。警告であり、同時に期待でもある何か。
「覚悟しておけ、コラ。明日から、景色が……面白くなる」
あたしは唾を呑み込み、深い水の中を泳ぐ巨大な暗い影を見つめた。
面白く。
彼はいつだって、最も平凡な言葉で最も平凡でないものを語る。
お読みいただきありがとうございます。
ここまで読んでくださった皆さんなら、もうお気づきかもしれません。
亜倫は、おかしい。
嵐の中、何にも掴まらず船首に立ち続ける人間。波が頭上から砕けても、一歩も動かない人間。
いったい何が、この男の心を揺らすのか。
……それとも、もう何にも揺らされないのか。
話は変わりますが、この回の嵐のシーンを書いている時、頭の中ではずっと「パイレーツ・オブ・カリビアン」の風景が流れていました。
あの映画、皆さんは観たことがありますか?
それとも、海の嵐と聞いて思い浮かぶ別の映画や作品がありますか? 感想欄でぜひ教えてください。
——次回、第五節「脊の上の森」
大きすぎる。もはや生き物と呼ぶには、あまりに。
これは――神か?
地竜……。
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