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3-5 空の陰影

黑稻相癸です。第五節。


皆さん、現実世界に存在する大型の猛禽って見たことありますか?

アンデスコンドルは翼を広げると3メートルを超えるんです。空を飛んでる姿を下から見上げると、ちょっとした飛行機みたいで、本当に圧倒されます。


でも、コラたちが今回遭遇する相手は、それよりずっと大きい。

全長七歩以上の鋼の爪を持つ化け物が、頭上から急降下してきたら——あなたならどうしますか?


彼らの答えを、どうぞお楽しみください。

 この三日間、あたしたちはザカについて巨影紅杉の林の中を進み続けた。この森は途方もなく広い。ザカの言葉を借りれば、全速力で歩いても、この樹海を完全に抜け出すには少なくとも一ヶ月はかかるという。


 最初の三日は穏やかだった。影妖の蔓は、亜倫が黒石糖をばら撒いてくれた教訓の味を本当に覚えたのか、あるいは単純にザカが野営地の周囲に撒いた何かしらの防御粉末を恐れているのか、とにかく近寄ってはこなかった。


 毒々しい色彩の甲虫と、脚の生えた光る茸を何匹か見かけたくらいで、そこそこ大きな生き物には一度も遭遇しなかった。


 だが平穏は四日目に破られた。


 午後のことだった。陽光が樹冠の隙間から差し込み、暗い金色の光柱が幾筋も立っていた。


 最初は、風が吹いたのだと思った。


 巨杉の樹冠から重く沈んだ「バサッ」という音が響いた。巨大な帆が強風の中で激しくはためくような音。続いて、地面の落ち葉が目に見えない力に巻き上げられ、渦を巻きながら上空へ飛ばされていった。


「伏せろ! この匂いはマズい!」ザカが急に立ち止まり、片手で駄獣の首を叩いて巨杉の太い根の背後に押し込んだ。


 彼自身は本物の豹のように一瞬で地面に貼りつき、黒曜石の長槍を斜め上に構えた。


 あたしがまだ反応しきらないうちに、頭上から息が詰まるほどの風圧が叩きつけてきた。


 **赤羽鷹(せきうだか)**。


 山の上で豹を狩るところを見たことはある。だがあの時はずっと遠くからだった。今、全長七歩を超えるこの巨鳥は、あたしたちの頭上わずか三十歩ほどの高さを旋回している。


「あたしたちを見つけた」あたしはこちらの位置を完全に捉えた金色の鷹の眼を見つめた。背中の毛が全て逆立っていた。


「お前らを見てるんじゃない。あの鈍獣を見てるんだ」ザカが歯を食いしばり、半空の巨大な影を凝視していた。駄獣は木の根の後ろでガタガタ震えている。その巨体こそが最も目立つ的だった。


「これは戦いにはならない」亜倫は別の根の後ろに身を寄せ、相変わらず冷静な、むしろ分析的ですらある口調で言った。


「この林には他の獲物がいなくなった。飢えで気が狂っているんだ」


「黙れ、毛の抜けた人間! 役に立ちてぇなら爪を研げ、口ばっかり動かすな!」ザカが怒鳴った。


 *正直、同感。今は分析よりも解決策が欲しいの。*


 それから三時間、神経をすり減らす「かくれんぼ」が続いた。


 赤羽鷹は直接急降下してこなかった――巨杉の交錯する枝と、あたしたちが身を隠す複雑な根系が、容易な獲物捕獲を許さなかったからだ。代わりに消耗戦を選んだ。頭上を旋回し、甲高く鳴き、時折低空で掠めて、あの岩すら砕ける鋼の爪で太い枝を何本も叩き切り、木の杭が雨のように降り注いだ。


 駄獣は何度も恐怖に駆られて飛び出そうとしたが、その都度ザカが必死に押さえつけた。


 あたしたちは木の根の隙間を移りながら逃げ回ることしかできなかった。完全に一方的な逃走だ――いくらザカでも、遮蔽物なしに上空から急降下してくる巨鷹と正面から相対する気はない。あの暴風と鋼爪にかすっただけで、腹を裂かれる結末だ。


 一度、あたしの頭上三メートルもない場所をかすめ飛んだ。


 巨爪は当たらなかった。だが風圧だけで体ごと地面にひっくり返された。すぐ横にあった腕の太さの根が一撃で木屑に引き裂かれ、砕けた木片が空気を切り、二本があたしの左腕に突き刺さった。


 叫びそうになった。


 だが唇を噛みしめた。声を上げれば位置がばれる。


 *痛い。すごく痛い。でも今叫んだら死ぬ。*


 ザカが横からあたしをもう一つの根の穴に引きずり込んだ。


「動くな! 腹を晒すんじゃねえ!」


彼の声は限界まで押し殺されていた。金色の獣瞳に、頭上の赤い死が映っている。


「このままじゃダメだわ」あたしは荒い息の中、歯で木片を噛み、腕から引き抜いた。血が指を伝って滴り落ちる。


「鉄頭が怖がりすぎてる。あの子が飛び出したら、あたしたち全員まる見えになる」


「確かに、終わらせないとな」亜倫が頭上に旋回する赤い雲を見上げ、腰嚢から掌サイズの石を二つ取り出した。


 それは、かつて地竜島で採集した硫黄の原石だった。


 彼はさらに、あのバルが渡してくれた**熾熱粉(しねつふん)**の包みを取り出した。


「ザカ」亜倫の声が鷹の鳴き声を貫いた。


「あいつをあっちに誘導できるか?」彼が指差したのは、およそ五十歩先にある、枯れて太い幹の半ばだけが残った巨杉だった。その主幹は巨大な中空の煙突のようで、頂上にはかなりの大きさの開口部がある。


 ザカは枯れ木を見て、次に半空の赤羽鷹を見た。獣瞳が細い線に縮まった。


「ああ、尻尾斬(しっぽき)りだ。だがおまえがしくじったら、先にお前を木に串刺しにして干物にしてやるからな」


 言い終わる前に、ザカは隠れ場所から弾丸のように飛び出した!


 彼は開けた地面を全力疾走し、耳を劈くような挑発的な咆哮を放った。赤羽鷹はこの移動する標的に即座に注意を引かれ、甲高い叫びを上げて翼を畳み、赤い流星のごとく急降下してきた。


 風圧が一瞬で地面の落ち葉を吹き裂いた。


 鷹爪がザカの背に届こうとしたその刹那、半獣人は信じがたいほどの体幹捻りで、あの中空の枯れ木の底にある裂け目にスライディングで滑り込んだ。


 赤羽鷹は空振り。巨大な慣性に逆らえず、猛烈に翼を叩いて再び高度を上げ、二度目の急降下に備えるしかなかった。


 その瞬間、亜倫が別の方角から幽霊のように姿を現した。


 彼は枯れ木へ走ったのではない。開けた場所に立ち、熾熱粉を括りつけた二つの硫黄石を、飛び道具のように、枯れ木の頂上の開口部の中へ正確に叩き込んだ。


「ゴウッ――!」


 熾熱粉が水分に触れて爆発的に燃え上がり、瞬時に硫黄を引火させた。


 巨大な爆音ではなかった。ただ大量の刺激的で濃厚な黄色い煙が、噴泉のように枯れ木の中空の主幹から噴き上がり、空に向かって吹き上がったのだ!


 赤羽鷹はちょうど上昇の最中、その濃烈な硫黄の煙柱に正面から突っ込んだ。


「キェェッ――!」


 苦悶の嘶きが林間に轟いた。硫黄の猛毒の煙霧が一瞬でその両目を焼き潰し、気道に詰まった。


 あの巨大な体躯が空中でバランスを失い、糸の切れた凧のように墜落し、数十メートル先の灌木の茂みに叩きつけられた。無数の枝が折り砕ける音がした。


 赤羽鷹は地面で数度狂ったように暴れてから、か細い嗚咽を漏らし、そのまま動かなくなった。


 ザカが枯れ木の底部から這い出し、何度か咳をして大きく息をついた。長槍を握り締め、墜落した巨鳥に向かって大股で歩き出す。その目には捕食者の冷たい光がちらついていた。


 数百斤の上等な肉だ。


「止まれ」亜倫の声は大きくなかったが、ザカの足が止まった。


「殺すな」


 ザカが振り返り、信じられないという顔で亜倫を見た。


「何だと? この毛抜けの大鳥はさっき俺たちをおやつ代わりに噛み砕こうとしてたんだぞ!」


「目が潰れた。重傷も負っている。命だけは残してやれ」亜倫は歩み寄り、地面で力なく痙攣する猛禽を見下ろした。


「この森の生態系は影妖にほとんど破壊されている。もしこの林で最後の頂点捕食者まで死なせたら、あの吸血しか能のない蔓は天敵の圧力を完全に失い、爆発的に繁殖する。そうなれば、この巨杉の森は本当に死ぬ」


 ザカは亜倫を見て、それからあの赤羽鷹を見て、最後に盛大に「チッ」と舌打ちし、長槍を収めた。


「好きにしろ。どうせ策を出したのもお前なら、肉を捨てたのもお前だ」彼は野営地に戻り、駄獣を宥めに行った。


 あたしは亜倫の横に歩み寄り、彼が袋から薬草を幾つか取り出して、あの鷹の傷口の近くに遠くから撒くのを見つめた。


 *……さっきまであたしたちを殺そうとしていた相手を助けるのか。この人は時々、本当にわからない。でも、何も言えなかった。彼の言っていることが、たぶん正しいから。*


 あの晩、あたしたちは追加の食料にありつけず、相変わらず林梅干肉と、あたしが道中で採った渋い実をかじるしかなかった。


            ◇


 夜、焚き火の光が揺れていた。


 ザカが短剣で歯をほじりながら、不意に口を開いた。


「さっきお前、あの酒は海竜王に届けるとか言ったな」


 亜倫はちょうど自分の靴を拭いているところで、顔を上げもしなかった。


「ああ」


「口から出任せの狂言か、それとも本気でそのつもりか?」ザカの口調には吟味するような光があった。この半獣人は外見こそ粗削りだが、脳みそは意外と緻密らしい。


 亜倫は手元の動きを止め、布切れを火の中に放り込んだ。


「ドワーフのオレス要塞は、地下の『沸騰岩』の鉱脈が枯渇した。高温鍛冶炉がなければ、あの都市は死ぬ。折柄斧の醸造師と約束したんだ。この二樽、霊泉で醸した酒を海竜王に届けると」


 彼は顔を上げてザカを見た。


「その代わりに、海竜王から『竜巻隧道(りゅうかんずいどう)』を一本もらう。深海から直接、沸騰岩を要塞へ送り込む通路だ」


 焚き火のそばには、薪が爆ぜる音だけが響いていた。


 ザカはたっぷり三十秒間、亜倫をじっと見つめた。


 そして、低い笑い声を漏らし始めた。その笑いはどんどん大きくなり、ついにはこらえきれない哄笑に変わった。


「イカレてやがる、完全にイカレてやがる」ザカは涙が出るほど笑い、亜倫を指差した。


「昨日まではただの大口叩きの毛抜け人間かと思ってた。今確信したわ——お前は爪先から尻尾の先まで丸ごとぶっ壊れたイカレ野郎だ」


 彼は目尻を拭った。


「神と交渉だと? 自分を何様だと思ってやがる。精霊王が自ら出向いたって、あの老蛇は見向きもしねえ。たかが酒二樽で? まだ乳飲んでるガキでもそんな夢は見ねえぞ」


「試さなきゃわからない」亜倫は静かに靴を履き直した。


「あたしも思うけど……あんた、おかしいわよ、亜倫」あたしはぼそりと呟いた。


 泥沼巨鰐を相手にしたのも見た。貪欲蔓の毒棘を無視したのも見た。でも、津波を起こせる神霊を前にして、このいけしゃあしゃあとした平然さを保てるとは、さすがに想像がつかなかった。


 亜倫はあたしたちに反論しなかった。ただ顔を上げ、樹冠の隙間から漏れる一つの星を見つめた。


「寝ろ。明日も歩く」


            ◇


 さらに幾日歩いたかわからない。果てしない巨杉の森では、時間の感覚がひどく曖昧になる。


 そしてある日の昼、あたしたちはこの森が巨杉を育むことができた秘密を発見した。


 周囲の気温が急激に上昇した。


 地面の腐葉土は極めて乾燥し、足の裏が熱いほどだった。淡い硫黄の匂いと、焼けた土の香りが空気に漂っている。


 前方の樹林が疎らになり、広大な空き地が現れた。


 だがそれは普通の空き地ではなかった。大小さまざまな、まるで火口のような穴がいくつも穿たれた死地だった。


 **地火気孔(ちかきこう)**。


「どうりでこの森に冬がないわけだ」ザカが足を止め、駄獣の手綱を引き締めた。


「ここは休火山の上に生えてる森だ」


 それらの穴は絶え間なく白い熱気を噴き出していた。気孔の縁には黄色い硫黄の結晶が幾重にも輪を描いて固まっているものもあれば、極端な高温下でのみ生存できるという奇妙な暗赤色の地衣に覆われたものもあった。


 そしてこの気孔地帯のど真ん中に、あたしたちがこれまでに見てきたどの巨杉よりも十倍は巨大な「樹祖(じゅそ)」がそびえ立っていた。


 その根系は巨大な血管のように、熱気を吹き出すそれらの気孔の中へ深々と突き刺さり、大地の熱量と鉱物を吸い上げていた。


「ここの生態系は外とは完全に隔絶されているな」亜倫はやや小さめの気孔の傍まで歩み寄り、あの耐熱地衣を注意深く観察した。


「待って」あたしは不意に鼻をヒクつかせた。ここにあるはずのない、けれど見覚えのある匂いを嗅ぎ取った。


 硫黄ではない。熱気でもない。


「亜倫……」あたしはあの「樹祖」の巨大な根系の下方にある暗い一角を指差した。


 そこには噴気孔がなかった。ただ異様に平坦で、草一本生えていない黒灰色の岩地が広がっているだけだ。


 だがそこには、つい先ほど消えたばかりの篝火の残骸があった。


 そしてこの森のどの動物のものでもない、太い骨の半分が、綺麗にかじり尽くされて転がっていた。


 あたしたちが最初の訪問者ではない。しかも、あの骨に残された歯の跡からすると……それを食べたモノ、あるいは人は、非常に危険だ。


 *この嫌な予感は、当たる。いつだって当たるのだ。*


「全員警戒」ザカが一瞬で声を落とし、黒曜石の長槍を胸の前に構えた。


 巨杉の森の奥から立ち昇る熱波の中に、突如として背筋が凍るような冷たさが滲んだ。

お読みいただきありがとうございます。


今日はちょっと正直な気持ちを書かせてください。


この物語を書き始めた動機は、ただ自分の頭の中に広がる空想の世界を誰かと共有したい、それだけでした。バズるとか、人気が出るとか、そういう期待は正直ありませんでした。


でも——読んでくださっている方が少しずつ増えていて、追いかけてくれている方がいるとわかった時は、本当に嬉しかったです。すみません、素直に嬉しいんです。


心から感謝しています。

どうか引き続き、コラと亜倫の足跡を一緒に追いかけてください。


——次回、第六節「灰と負債」をご期待ください!

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