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3-3 下山の道

黑稻相癸です。第三節。


ふたたびの別れです。今回はドワーフの街を離れます。 出会いがあれば、別れがある。亜倫の「旅」の性質上、この先もこういう別れを何度も経験することになるでしょう。 でも、だからこそ一つ一つの出会いが濃いものになるのだと思います。


それでは、雪山を下りる二人の背中を見送ってください。

 出発の前日、ブルックが直々にあたしたちのところへやってきた。


 彼は二つのものをテーブルに置き、ポンと叩いた。


「酒樽だ」


 普通の木樽ではなかった。精鋼で鋳造された二本の円筒形の容器で、大きさはあたしの前腕ほど。両端は螺子式の蓋で締められ、外壁には断熱用の革の層が巻かれ、背負えるように幅広いベルトが二本取り付けてある。見た目はまるで、液体をぎっしり詰め込んだ短く太い小砲のようだった。


「この酒は寝かせれば寝かせるほど旨くなる」ブルックは髭を擦った。


「精鋼密封だ。衝撃にも温度差にも強い。海底がどんな温度かは知らんが、この二樽は、わしの生涯最高の作品だ。あの老蛇にしっかり届けてやれ」


 あたしはそれらを前後に背負い枠に収め、重さを試してみた。重い。でも洞窟の中で爬虫類を運んだ時に比べたら、ずっとマシだ。


「おれが持とう」亜倫が酒樽を受け取り、自分の背に負った。


 酒樽の他にも、ドワーフたちはたくさんのものを押し付けてきた。


 ホーガンが持ってきたのは二本の短い岩鑿――武器ではなく工具だ。刃は深灰色の合金で、岩も木も削ることができる。ドワーフの婦人たちは黒石糖を一包み寄越してくれて、一粒含めば極寒の中でも体温を維持できるという。そしてブルックが最後にあたしに渡したのは、あの精鋼の研磨セットだった――


「お前さんが爪で薬草をゴリゴリやってるのを見たが、半分こぼれとるだろう。持ってけ。もったいないことすんな」


 口調は説教そのものだった。だが、受け取った瞬間、この老ドワーフはちらりとあたしの耳を見て、フンと鼻を鳴らし、顔を背けた。


 あたしの尻尾が勝手に一振りした。


 ……なんだろう、この感じ。ちょっとだけ、部落のお爺ちゃんたちに見送られているような気分だった。たった五日しかいなかったのに。


 翌朝、城門の外に三人のドワーフ護衛が待っていた。グリムではない――三人とも若めのドワーフで、腰に戦斧を佩き、背中には雪地歩行用の板靴を担いでいる。


「街から急遽抽出された連中だ」グリムが傍らで説明した。彼自身はすでに短足獣に馬具を装着し終え、配送に出る準備をしていた。


「こいつらが麓まで送る。最近、山の上は雪崩の兆候がある。南側の旧道を迂回するから、日数は余計にかかるが安全だ」


「お手数をおかけします」亜倫が三人のドワーフに頭を下げた。


 先頭のドワーフ――四角く整えた赤髭のがっしりした男――はフンと鼻を鳴らしただけで、杖を掴み上げ、真っ先に山道の吹雪の中へ踏み入っていった。


            ◇


 南へ向かう山道は、北から来た時とはまるで違った。


 入城時に通ったのはドワーフの補給路で、路面は平坦で排水溝が整備されていた。南へ出るこの旧道は、それに比べてはるかに原始的だ――基本的に岩壁に一歩一歩鑿で刻み出した桟道で、最も狭い箇所は二人が並んで歩けるのがやっとの幅しかない。片側は切り立った崖壁、もう片側は数百メートルの落差だ。


 強風が吹き込んでくる。雪粒が顔に当たると細かい砂のようだ。


 ドワーフの護衛たちは平然と歩いている。氷の上に足を置いても、まるで石に釘で打ち込まれたように安定していた。あたしは後ろから彼らを見ながら、全神経をどの足をどこに置くかだけに集中し、横にあるあの目眩がするほど深い崖は見ないことに決めた。


 *一歩間違えたら数百メートルの自由落下。考えるな。足元だけを見ろ。*


 何日も眠っては歩きを繰り返し、ようやく雪線が下がり始めた。


 矮い植物が目に入った日、あたしの気分はずいぶん良くなった。たいした植物ではない。石壁に張り付くように生えた灰緑色の地衣と、膝にも届かない矮い灌木が幾つか。枝は深い褐色で、皺んだ赤い小さな実がぶら下がっている。


「苦根草」亜倫が足を止め、矮い草の傍にしゃがんだ。


「ここの品種は山の上のより純度が高い」


 あたしもしゃがんで見てみた。確かに――葉脈の紫が以前見たものよりずっと深く、匂いも強い。


「採れ」亜倫は多くを語らなかった。すでに黙々と草を根ごと掘り出し、小さな布袋に入れ始めている。


「この先で使う」


 あたしは精鋼の研磨セットを取り出し、岩鑿の背で根についた土を叩き落とし、手際よく袋に収めた。その動作の滑らかさは、もしブルックが見ていたら満足げにフンと唸ったかもしれない。


 *――うん、我ながら悪くない。五日間の荷運び奴隷に意味はあったってことにしておこう。*


 矮い植生の付近には、あたしが見覚えのある植物も幾つかあった。葉の縁に銀色を帯びた矮い薄荷の変種、それに名前はわからないが、微かに焦げたような匂いを放つ松笠状の球果。幾種類か少しずつ採った。多くは要らない。使う分だけあればいい。


 護衛のドワーフたちは少し離れた岩の傍で待っていた。急かすことも近寄って訊くこともない。ただ黙って待っている。


 さらに何日か歩くと、雪線は完全に頭上の山頂の縁まで後退し、足元の石地が薄い腐葉土の層に覆われ始めた。矮い護衛たちは、簡素な刻印が付けられた分岐点で足を止めた。


「ここが境界だ」赤髭のドワーフが岩に刻まれた一つのルーン文字を指差した。


「これより南は、おれたちの管轄の外だ」


 亜倫が三人と一人ずつ握手を交わした。あたしも続いた――あの握力は、今ではもう事前にしっかり握り返す必要があると知っている。


「温度を持ち帰ってくれ」赤髭のドワーフが亜倫に言った。その口調はブルックが言ったのとほぼ同じだった。


「任せろ」


 彼らは振り返ることなく山道を引き返していった。ドワーフは別れの挨拶をしない――この点は、獣人と少し似ているなと思った。


 そして、二人だけになった。


            ◇


 護衛のいない道は、かえって静かだった。


 標高が下がるにつれて気温が上がり、あたしの足取りはずいぶん軽くなった。


 植生がほんの一、二日のうちに急激に豊かになった。緩やかな移り変わりではない。まるで目に見えない境界線を越えたかのように――矮い灌木がいきなり背丈を伸ばし、地衣や苔が姿を消し、代わりに現れたのは本物の土壌だった。踏みしめると弾力がある、あの感触。


 そして巨木が現れた。


 あたしは頭を低くして木陰に入り、顔を上げた。頭上の樹冠はせり上がった深緑色の天蓋のようで、空の大半を覆い隠していた。これらの木の幹は暗い赤銅色で、その直径は途方もなく太い。表面には深い縦の亀裂が走り、亀裂の中に地衣や小型の羊歯が隠れていた。一番近くの木の周りを一周してみると、大人が六、七人手を繋いでようやく囲めるほどの太さだった。


 **巨影紅杉(きょえいこうさん)**。


 あるいはそれに近い種だ。部落の昔話で聞いたことはあるが、生きているのを見たのは初めてだった。


 空気がここでは一変していた。湿り気を含み、冷涼で、腐葉土と木質の重厚な息吹に満ちている。陽光は樹冠を透して散らばる光斑だけが、枯れ葉の敷き詰められた地面に踊っている。


「ずいぶんましになったわ」あたしは深く息を吸い込み、耳をゆったりと広げた。


 *この湿った空気。土の匂い。木の匂い。あたしの体が全部覚えている。山の乾いた風にどれだけやられていたか、今になってわかった。*


 亜倫はあたしの前を歩きながら、指先で気根の先端を軽く撫でて物思いに耽っていた。


「山の上よりはいい」彼は言った。


「だが、ここにはここの危険がある」


 言い終わらないうちに――


 前方の林の奥から急迫する足音が聞こえてきた。重く、律動的で、急速にこちらに向かっている足音だ。


 一人ではない。複数の生き物が走る音だ。そして続けて、聞き取れないが明らかに怒りと警告を帯びた嗄れた咆哮が響いた。


 亜倫の足が止まった。


 その咆哮はますます近づいてくる。そして、一つの高い影が巨大な羊歯の背後から飛び出してきた――


 あたしが見たことのあるどんな獣人よりも背が高い。豹柄の毛皮、黒曜石の長槍、全身の血痕――彼自身のものか別の生き物のものかは判別がつかない。片手で槍を握り、もう片方の手は背後の巨大な駄獣の首を必死に押さえつけている。指の関節が分厚い毛皮に食い込み、まるで仔を守る母獣のようだった。


「そこから先に行きたくなけりゃ、止まっとけ! あいつらの肥やしになるぞ!」


 その声は大太鼓のように響き、喉の奥から生来の威圧的な唸りが漏れ出していた。頂点の捕食者が窮地に追い込まれた時にだけ発するような音――だが彼が守っているのは自分自身ではなく、背後の怯えた駄獣だった。大きな図体のその獣は、巨大な頭を彼の腰に埋めて全身震えている。


 あたしは本能的に身を低くした。

お読みいただきありがとうございます。


あの……今回はちょっと謝らなければなりません。 普段に比べて、この第三節はかなり短めというか、内容があっさりしていましたよね。申し訳ないです。


というのも、次の展開に向けての「繋ぎ」のパートだったものですから。 その分、次はまた一気に空気が変わって、新しい登場人物も出てきますので!


どうか次回の更新を気長にお待ちいただければ幸いです。


——次回、第四節「林影と豹」 巨大な森の中で出会う、新たな脅威と影。


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