2-5 石腹
黑稻相癸です。第五話。
洞窟探検って、皆さんは行ったことがありますか?
私は動画の中でしか見たことがないんですが、あの狭くて暗い空間……ちょっとワクワクする反面、やっぱり怖いですよね。
コラたちも、そんな地下深くへと足を踏み入れます。
彼女がいったいどんな体験をするのか、ぜひ一緒に覗いてみてください。
それでは、どうぞお楽しみください。
あの洞穴は、あたしの想像より遥かに深かった。
翌朝――あるいは朝だと思い込んでいただけかもしれない。太陽のない場所では時の見分けもつかない――あたしたちは地下の水流に沿ってさらに奥へと進んだ。地下水は山脈の中では概ね南から北へ流れ、最終的に北側の山腹から湧き出すと亜倫は言った。この水についていけば山体そのものを通り抜けたことになり、外のあの死に直結するような雪山の主稜線を越えずに済むと。
理論上は、そうだった。
だが実際には、あたしは地下を三週間近くも歩き通す羽目になった。
洞穴のシステムは、あの蛍光苔のあった小広間より比較にならないほど複雑だった。それは逆さに生えた木のようで、深く進むほど枝分かれも増えていく。ある横穴は、人が一人横向きにならなければ通れないほど狭く、かと思えば突然極めて巨大な空洞に繋がり、松明の光は天井に届かず、ただ木霊が頭上のずっと遠い、遠いところでぶつかり合う音だけが響いてくる。
食料の問題は、外よりむしろ洞穴の中のほうが解決しやすかった。
三日目、あたしたちは最初の石穴蝙蝠の群れに出くわした。高く聳える鍾乳洞に棲みついていて、逆さまにぶら下がった毛皮の絨毯のように無数に群れていた。一匹一匹があたしの手のひらほどの大きさで、翼を広げるとあたしの腕の長さに近い。
奴らは火の光に敏感で、松明を近づけるだけで四方八方に散り乱れて飛んだ。亜倫はその隙を突いて、石を投げて数匹を叩き落とした。
蝙蝠の肉を焼いた味は、予想していたより悪くなかった――泥臭い鶏肉のような味だ。肉より骨のほうが多いが、あの虫けらに比べればずっと上等だった。
さらに良い発見は、ある地下の水溜まりだった。水溜まりは大きくないが、岩の隙間から水が滲み出し、底まで澄み切っている。その中に目のない白い小魚がいて、体が半透明で中の骨格が透けて見える。あたしは何匹か捕まえ、火で炙って食べた。水そのものを噛んでいるような淡白な味だったが、少なくともまともなタンパク源だ。
だが、あたしだって何でもかんでも口に放り込むような馬鹿ではない。
「水は沸かしてから飲む」あたしは熾熱粉で石板の上に小さな火をつくり、水袋の水を亜倫のブリキのコップに注いで加熱した。
「洞穴の水はきれいに見えるけど、岩の隙間に何が混ざっているかわかったもんじゃない。見えない毒のほうが見える毒よりも狠いって、おじいちゃんが言ってた」
亜倫は石壁にもたれてあたしを眺め、口角に微かな笑みを浮かべた。
「成長したな」
あたしは白眼を剥いてみせたが、耳が無意識のうちにぴくっと動いた。
◇
十回目くらいの眠りから覚めた頃――あたしは食事の回数を頼りに数えていた――洞穴の性質に変化が現れ始めた。
最初に違和感を覚えたのは石壁だった。
天然の石壁は不規則で丸みを帯び、苔や水染みで覆われている。だが、ある曲がり角から、石壁に平坦な切断面が現れ始め、その縁にははっきりとした鑿の跡があった。
次いで地面。もともと凹凸の激しかった岩場が、踏み均されて滑らかになった砕石の道に変わり、両側には人工的に敷設された排水溝まである――すっかり干からびて溝の底には土埃が積もっていたが。
「誰かがここで鉱石を掘っていたんだ」あたしはしゃがみ込み、石壁の鑿の跡を撫でた。その傷の縁は時間とともに丸く鈍っていた。
「ずっと昔にな」亜倫が松明を掲げて前方を照らした。光が、斜めになった木の支柱を照らし出した。表面には白い塩の結晶がびっしりとこびりついている。
「あそこの柱の風化具合から見て、すくなくとも数十年は前だ」
奥へ進むほど、坑道の痕跡はますます顕著になった。錆びたレールも見つけた――ドワーフの精緻な技術によるものではなく、人間や半獣人の粗野な手仕事のようだった。ひっくり返った木箱がいくつも転がり、中から黒ずんだ鉱石の砕片が散らばっていた。石壁にはいくつか文字が刻まれている箇所もあったが、あたしには読めない言語だった。筆致は荒々しく、急いで書かれたかのようだ。
「何を掘ってたの?」
「硬鉄鉱だ」亜倫が鉱石の欠片を拾い上げて見た。
「品質は悪くない。市場に出せばいい値がつくはずだ。だが奴らは掘り尽くす前にここから立ち去った」
彼は前方のトンネルを指差した。そこのレールは突如として途切れ、その末端はぐにゃりと変形していた。側方から何か巨大な力で撥ね飛ばされたかのように。地面には錆びた鶴嘴が数本散乱し、ひしゃげたブリキの水筒も転がっている。
「立ち去ったんじゃない」あたしは地面に打ち捨てられた道具を見下ろし、尾の付け根から脊髄を這い上がるような悪寒を覚えた。
「逃げたんだ」
◇
一本目の蜘蛛の糸が現れたのは、ある崩落区間を迂回したすぐ後のことだった。
最初は細い鉄線かと思った――それは火の光を反射して両側の石壁の間に張り詰められ、銀灰色の光沢をどんよりと放っていた。
そしてあたしはそれに触れた。
粘り気。弾力。そして――太い。あたしの小指より太い。
全身の毛が一瞬にして逆立った。
「亜倫」あたしの声は歯の隙間から絞り出され、極限まで押し殺されていた。
「これ、蜘蛛の糸だ」
亜倫が近づき、指でそっとその糸を弾いた。糸は数秒間たわみ、極めて低い唸りを上げた。琴の弦を弾いたかのように。
彼の反応は静かだった。静かすぎた。彼はただ荷袋からもう一本の予備の松明を取り出し、火を点けてあたしに渡した。
「一人一本だ。消すなよ」
松明を受け取るあたしの手は震えていた。寒さのせいではない。
奥へ進むほど、蜘蛛の糸は増えていった。単線の糸が網状になり、両壁の間から天井や床へと広がり、まるで誰かが銀灰色の太いロープでトンネル全体を巨大な立体網に編み上げたようだった。糸のあちこちに、完全に干からびたものが引っかかっている――蝙蝠の羽、正体不明の大型甲虫の抜け殻、そして繭のようにぐるぐる巻きにされた何かの動物の骨格。
あたしの一本一本の毛が悲鳴を上げていた。
「亜倫、戻ろう」あたしは彼の袖口を弱く引き、自分にしか聞こえないほどの声で囁いた。
「これだけ太い糸を張る蜘蛛……本体はいったいどれだけデカいの?」
「おまえがけして見たくないと思うほどにな」亜倫の語調には全く揺らぎがなかった。
「だが南へ引き返せば雪山だ。この季節にあの主稜線を越えれば死ぬ。北へ行くなら、この道しかない」
「蜘蛛は糸で振動を感知する」彼はほとんど呼吸音に近い声に落とした。
「足音を殺せ。糸には触れるな。喋るな。俺にぴったりついてこい」
あたしは自分の舌を強かに噛みしめ、言いたかったことのすべてを腹の中へ呑み込んだ。
それからの道のりは、文字通り鉄線の上を歩くようなものだった。
亜倫が前を歩き、松明の火で進路を遮る糸を慎重に焼き切り、あるいは押し退けた。糸が断ち切れるたびに、あの心臓を掴まれるような嫌な唸りが響く。あたしは彼の背後にぴたりと張り付き、マングローブで泥沼鰐から逃れる時よりもさらに厳重に足音を押し殺した。
あたしの猫耳は絶えず動き、暗闇の奥深くのあらゆる微細な音を追跡していた。水滴の音。石が僅かに砕ける音。隙間を風が通り抜ける音。そして――
極めて微かな、断続的な「カチカチ」という音。何かが堅い甲殻をこすり合わせているような音。
それは遠のいたり近づいたりした。ある時は頭上で、ある時は側方で。
それが何か、あたしは想像することすら恐ろしかった。
突然――頭上の暗闇の中で、凄まじい大音響が爆発した。
天井に群れていた石穴蝙蝠の群れが一斉に目を覚まし、金切り声を上げる黒い濁流となってあたしたちの頭上を掠め飛んだのだ。奴らが次々と蜘蛛の網に衝突し、糸が狂ったように振動し、あの唸り音が重なり合って耳をつんざくような大合奏へと変わった。
火光だ。あたしたちの松明の光が奴らを呼び覚ましてしまったのだ。
「走れ」
亜倫が発した言葉はたったの一言。だがその言葉に一通の躊躇もなかった。
糸が震えている。すべての糸が震えている。そしてその振動は、巨大な警報を鳴らすかのように暗闇の深部へと伝わっていく。
あたしは走り出した。もう足音など構っていられない。蜘蛛の糸も構わない。ただひたすらに走った。
背後の暗闇から、あの「カチカチ」という音が突如としてはっきりと響いた――もはや微かな摩擦音ではない。それは重苦しく、一定のリズムを刻む打撃音だった。何本もの鉄柱が順番に石の床へ叩きつけられているような。
そして、あたしの松明がそれを照らし出した。
見えたのは、一本の脚だけだ。
側方の横穴の暗闇から突き出された、灰黒色の剛毛に覆われた一本の脚。
その脚は関節のところでくの字に曲がり、末端の爪先がトンネルの地面に触れると、石の上に一条の白い引っ掻き傷を残した。
脚一本だけで、あたしの身長の二倍はあった。
あたしは口をあんぐりと開けたが、声は出なかった。勇敢だからではない――恐怖が声帯を凍らせてしまったのだ。
「止まるな!」前方から亜倫の声が飛んできた。
彼も走っていた。手にした松明が、坑道の暗闇に揺らめくオレンジ色の軌跡を描く。
振り返る勇気はなかった。だが、聞こえた。
何本もの脚が――一本ではない、八本だ――その巨大な巨躯を支え、あの巨体には到底似つかわしくない速度で、壁と天井を交互に行き来しながら移動している。あれはただの追跡ではない――蜘蛛が網を張る時のように迂回し、前方の退路を断とうとしているのだ。
「左だ!」亜倫が猛然と、さらに細い支道へと飛び込んだ。
あたしも後を追って潜り込んだ。その支道は、あの巨大なものが直接入り込むには狭すぎた――だが直後、奴が背後で前肢を使って狂ったように土を掘り返し始めた音が聞こえ、崩落する岩の音が小さな雷鳴のように轟いた。
この深さまで来ると、鉱坑の構造は一層複雑になっていた。蟻の巣のように無数の分岐が入り乱れ、左へ右へと曲がりくねるたび、松明の光が石壁に凶悪な影を映し出す。あたしはすでに完全に方向感覚を失っていた――北へ向かっているのか、ただ同じ場所を回っているだけなのかすらわからない。
だが打撃音は一向に消えなかった。
奴は迂回している。
「亜倫……まだ、ついてきてる!」あたしの肺は破裂しそうで、息を吸うたびに砕けたガラスの破片を吸い込むように痛んだ。
亜倫は答えなかった。彼の視線は両側の石壁を忙しなく走査し、何かを探し求めている。
やがて、彼は立ち止まった。
ある曲がり角に、半分以上朽ち果てた木箱がいくつか石壁に寄りかかって積まれていた。蓋は斜めにずれ、中身が覗いている――油紙に包まれた円柱状の物体が並び、色褪せた導火線がそこに繋がっていた。
爆薬だ。かつての坑夫たちが残していった爆薬。
亜倫はその箱を一瞥し、次いで背後のトンネルから刻一刻と迫る打撃音を振り仰いだ。
そして彼は動いた。
一番大きな木箱を蹴り倒すと、円柱状の爆薬が床にばらばらと転がり出た。彼は手にしていた松明を――躊躇いなくそこへ放り投げた。
「走れ!」
何も考えなかった。回れ右をして全力で走った。
亜倫が背後に続き、暗闇――いや、あたしの手にはまだもう一本の松明があった。あたしは火を掲げて必死に突進し、半ば本能の赴くままに横穴の中に飛び込んだ。
三秒。五秒。
ドゴォォォォン——————!
それは単なる爆発音ではなかった。世界そのものが砕け散るような音だ。
衝撃波が背後から襲いかかり、灼熱の熱風と無数の玉砂利があたしを空中に吹き飛ばした。地面を何度か転がり、弾き飛ばされそうになった松明を死に物狂いで握りしめる。
耳の中を甲高い耳鳴りが支配した。石の破片が雨のように背中を打ち据える。
崩落の音は長く続いた。天井から巨大な岩塊が剥がれ落ち、トンネルの床を叩き割り、息の詰まるような濛々たる土埃を巻き上げた。
やがて――静寂が訪れた。
背後の通路は完全に塞がれていた。
あたしは床に這いつくばってしばらく咳き込みながら、肺に吸い込んだ粉塵を吐き出した。やがて、肩に誰かの手が置かれるのを感じた。
「まだ歩けるか?」火の光に照らされた亜倫の顔は灰まみれで、灰色の仮面のように汚れた顔に、二つの眼だけが射るように輝いていた。
「……歩ける」あたしはよろよろと立ち上がった。両膝も肘も血が滲んでいたが、幸い骨は折れていないようだ。
「あれ、死んだと思う?」
「わからない」亜倫は歩みを止めなかった。
「このサイズの洞穴蜘蛛なら、爆薬数樽で死ぬとは限らない。単に衝撃で気絶しているだけかもしれないし、あるいは別の迂回路を探しているかもな。奴が別の通路を見つける前に、急いであいつの縄張りから抜け出さなきゃならない」
「あんた、まだどっちへ行くべきかわかってるの?」あたしは彼にぴったりと追随しながら、あからさまな疑念を込めた声を上げた。
「こっちだ」
彼は振り向きもせず、その語調は妙に確信に満ちていた。
あたしは彼の埃まみれの背中が、揺らめく火の光に照らされながら、一歩一歩前方の暗闇の奥へ進んでいくのを見つめた。
本当に方角がわかっているのか、それともただ知っている振りをしているだけなのか。
だがこの地底の闇の中では、彼についていく以外にどんな選択肢もなかった。
お読みいただきありがとうございます。
あの巨大蜘蛛、本当に恐ろしかったですよね……!
子供の頃、巨大な蜘蛛がワラワラと出てくる映画を見たことがあるんですが、あの時は本当に頭の先まで痺れるくらい怖かったのを覚えています。
皆さんも、そんな背筋がゾッとするような映画を見たことはありますか?
あの名状しがたい嫌な感覚……もし似たような映画を知っていたら、ぜひ皆さんの感想や「あの時の恐怖」を教えてください!
それにしても、コラはこの恐ろしい巨大なバケモノから無事に逃げ切ることができるのでしょうか?
——次回、第六節「石の頭の街」
長い旅の果て。二人が辿り着く場所とは。
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