主役級の人達を、第三者がちょろっと語る話
此処は王都。日々、多くの人々が行き来する一都市だ。
王城からぐるりと広がる、堅牢な壁。そして、魔物除けの結界。王都民が安心して穏やかに暮らせるのは、強力なこれらがあるからだ。
それだけではない。外界へと繋がる、屈強な門。東西に設置されている、そこを守る門番達も、立派な守りの要だ。
怪しい者かそうでないか、不審、危険物を持ち込んではいないか。門番の仕事は、王都の玄関口でいち早く危険を止める事である。おい、門番は立ってるだけとか言ったの誰だ。はったおすぞ。お前やってみ?やる事いくらでもあるからな?
時には暴れ狂う迷惑極まりない輩共と対峙するからな?
何言ってんのか全然分かんない奴と延々とやり取りせなならん日もあるからな?
ちょっと前まで穏やかだった奴がいきなり切れて理不尽決めてくるからな?
どんな仕事でも色々あんだよ。なめんな?マジで。
……少し取り乱してしまったが、そう。私は此処、王都でしがない門番をやっている。名前は……いや、私の事はいいだろう。私はただの門番。華々しい主役級の者達の話の方が、聞いて楽しい見て楽しいに決まっている。
そんな知り合い居るのかって?知り合いというか、常連だな。裏道にある小さな食堂なんだが、そこのランチセットがまた美味くてな。店主一人で切り盛りしているから、メニューは一つなんだが、日替わりで色々作ってくれるから全然飽きない。今日も今から行く。
あぁスマン、そこに来るんだよ。勇者ツムギ一行が。そうそう、あの世界最強と謂われる、勇者ツムギ一行。運が良ければ今日居るかもしれんぞ。行く?なら行こう。今日の日替わりセット何かなー!
「出ていけ二度と来んなクソどもがぁぁぁ!!!」
怒号と共に、店から数人の男達が吹き飛び、地面に叩きつけられる。
その衝撃で、カランカランと来店を知らせるベルが揺れた。ドアも破壊されていそうだが、流石と言おうか、店自体には大きな損壊はないようである。
「くっ……そ!!何すんだ俺ら客だぞ!!」
「客だから何をしてもいいっての?しょぼいだつまんねぇだ、挙句不味いだと……好き勝手暴言吐きやがって。しかも金払う必要無いって何?」
「不味いから不味いって言ったんだろうが!!あんなゴミ食わせて金取ろうなん、びぎゃあぁぁぁぁっっ???!!」
罵倒が悲鳴に変わった。彼等はもう二度と、この周辺……いや、王都に存在できなくなるだろう。うまいなこの豆の煮付け。
気にするな、よくある事なんだ。先日は食い逃げをした奴が、秒で捕まり秒で絞められ財布まるごと没収されていた。何この魚、めちゃうまい。揚げてるだけなのにふわふわじゃないか。こっちのきのこもサクサクだ。
「すみません、騒がしくして。よかったらこれ、海老天もどうぞー」
恐縮しきりの店主から、エビテンなるおまけを頂いた。他の常連客にも配っている。こういう心配りから、店主の為人が窺える。めちゃいい人。店を畳むなんて日が来たら、私は泣く。
エビテンに塩めっちゃうまいぞ!!
……え?あぁ、そうそう。奥のカウンターに並んでるのが勇者一行だ。因みにあそこはほぼ、勇者一行専用カウンターになってる。
「おにーちゃーん!あいつら二度と来ないようにしたから安心して!」
勇者ツムギ。小柄でそうは見えないが、その腕の程はさっき見たよな。
「ツムギめ……俺にやらせろって言ったのによ。二度とメシ食えねーように舌抜いとけ」
戦士アギト。竜人族で戦闘力だけで見たら、ツムギ嬢より上らしい。
「まぁまぁ。兄者に任せたら、行方不明者だらけになってしまいますし…」
賢者タロン。アギトの弟さんで、無尽蔵の魔力持ちなんだって。
「タロンだって殺気隠せてなかったよ?僕も串刺しにしたかったなー」
盗賊モニカ。犬……いや狼の獣人。うん、美少女だな。うん、男だけどな。
「……おかわり」
剣士ガンテツ。巨人族の血を引いてるんだっけか。このパーティの最後の良心らしい。
「ありがとうなツムギ、怪我してないか?」
「相手にもなんないよ。私強いし!」
「強いのは知ってる。でもツムギに何かあったらと思うと、女の子だし…心配だ」
「お兄ちゃん……!大丈夫、私はお兄ちゃんが願ってくれるなら、災害級の魔物も一撃で倒し無傷で帰るよ!」
「強いなー、ウチの妹」
で、美味いメシ提供してくれる此処の店主、ムスビさんだ。もう分かっただろうが、ツムギ嬢のお兄さんだ。仲良いよね。見ての通り、全員家族みたいに仲が良いんだ。時間が合えば、こうして来てるみたいだな。
…そうだな、この店で暴れたり貶したり強盗したりすると、ツムギ嬢筆頭に勇者パーティ全員に絶対会える。会った後は知らんけど。食べないの?冷めるぞ。
「なぁ、ムスビ。今日は仕方ねぇけど、次は肉料理作ってくれよ。お前の食わないと、なんか力出ねぇんだ」
「明日、チキンステーキにしようと思ってるけど、それでもいい?」
「それ、テリヤキってやつだよな!」
「うん、いつもお世話になってるからなぁ。アギトには特別にでかいの作るな」
「特別……。へへ、楽しみだ」
アギトの鋭い目が本当に嬉しそうに、柔らかなものになる。いやそれより明日はチキンステーキ、これは食さねばなるまい。私も楽しみだ。テンプラ定食を味わいながら、次の定食に思いを馳せる……なんという贅沢か。
「おにーちゃん!アギトが特別なら私もっと特別だよね!?おっきいよね?!」
「ムスビの特別となれるなら私も食べましょう!塊で!!」
「僕なんか骨付き生でいけるよムスビ!!」
「……俺はテリヤキ多めがいい…」
「てめーら後から出てくんな!!ムスビは俺だけに特別って言ったんだよ!」
「そんな在庫ないから、アギト以外は普通な?他のお客さんの分もあるからな?生肉は危ないからやめような?テリヤキはできるからそれしよう。そうしよう、テリヤキマシマシとかやってみよう」
ガンテツ以外落ち込む面々に、アギトは勝ち誇った顔を向ける。いやそれよりテリヤキマシマシって何?もうおいしそうじゃないか。私の勘がゴハンススムと言っている…!何が何でも行こう。
……え?みんなムスビさんに過保護過ぎないかって?
それは多分、過去に大怪我したからだろうな。ツムギ嬢達を庇っての事だったそうだ。本人から聞いたからこれは間違いない。
彼等の御蔭で終わり、今は落ち着いたものの……十年前はまだ酷いものだったからな。魔族との戦争が。
それに巻き込まれてご両親が亡くなり、孤児院に引き取られ、けれどその院まで襲撃され、ツムギ嬢含む子供らをムスビさんは守ったそうだ。あぁ、無謀だよ。十年前といったら、ムスビさんとてまだ子供だしな。
でもな、
『危ないって思った時には、体が勝手に動いてた。みんな無事で良かったから、それでいいんだ』
…って、そう言うんだよ、ムスビさん。
……私はゾッとしたよ。この人は、放っておいたらまた同じ事をする。助かったから今があるけれど、次もあるとは限らない。ツムギ嬢も、そう感じたんじゃないだろうか。だから、あの過保護状態になるのも、私は分かるような気がするんだ。
ムスビさんが居なければ、私は何処でメシを食えばいい?テリヤキマシマシの未来を守る為なら、私も戦う。あ、君はメンツユ派か。それもいいよね。
そうか、気に入ってくれたのか。いやぁ嬉しい。
よければ、また一緒に。……うんうん、こうしてゆっくりメシ食えるって、幸せな事だよ…。偶然此処を見付けなければ、今頃私はストレスマッハで行く人来る人に吐血しまくってたかもしれない。
……ん?まぁ、色々あると言ったろ。門番限らず。
それぞれ、抱えているものがあるのさ。それでも人は、働かなければならないのさ。
二度と朝が来なければいいのにと願う夜。昇る朝日に怨嗟の念を投げながら、それでも人は、日々生きる糧を稼ぐ為、働くのさ。
え?悩んでなどいないが?そんな心配そうな顔されても、何もないぞ。本当に。
うん、本当にないって。え?明日奢ってくれんの?どうした??
「あの人、すっかり常連さんだねー」
「ありがたいよ。毎回うまいって言ってくれて、友達も連れてきてくれるんだ。最初来た時は、顔色悪くてちょっと心配だったけど…」
「お兄ちゃんの料理で元気になったんだよ。流石お兄ちゃん!」
そうかなぁ、とはにかむムスビ。
その顔は、とても優しい。ツムギは自慢の兄を眺め、今日も満足気に笑う。
昔から作るのが好きだった兄。両親から料理を教わってる時が、とっても楽しそうだったのを覚えている。そんな兄だから、食堂をやりたいと言った時もそこまで驚きはなかった。
『生き物は生き物やめない限り、食べないと生きていけないからね』
というのがムスビの持論だ。
お金が足りないから、屋台引いての移動販売を考えていた兄を止める為、ツムギ達は全力で稼ぎまくった。だって絶対何かに巻き込まれそうだもの。自分の店を持って、そこに居てくれた方が守りやすいし安全だ。
アギトもタロンも、モニカもガンテツも。ムスビを失う事を、一番恐れている。勿論、ツムギ自身も。
……魔族との戦争で、一度全てを壊された。
家族を亡くし、故郷も亡くし。それでも寄り添って、必死に生きてきた。でもまた、奪われかけて。
恐くて泣いて、ずっと兄の背に隠れていたけれど。力をつけなければ、自分で立ち上がらなければ、奪われるだけだと痛感した。
『……誰も終わらせないのなら、俺が終わらせてやる!!』
アギトの決意に、五人は手を取り合った。理不尽な戦争なんて、大嫌いだ。
世界を救うとか、多くの命を救いたいだとか、そんな大きな事は考えてない。
ツムギ達はただ、目の前の大事な人を失いたくなかっただけ。
もう失うのは、たくさんだ。全部全部終わらせてやる。その一心で戦い続けていたら、気付けば勇者と持て囃されるようになっていた。
「…あいつ、黒か?」
「ん-、グレーよりの白」
「ごはんと真っ直ぐ向き合ってたよ。白じゃないかなぁ」
「……いつも、完食。いい客」
じゃあ白で。
そう頷き合うアギト達を、ムスビは不思議そうに見ている。ツムギは苦笑いだ。
ツムギとて、ムスビに何かあれば正気ではいられない。元凶は一欠片も残さず滅する所存。けれど同じだけ、いい人と出会って幸せになって欲しいと願っているのだ。
なのにアギト達は、その出会いそのものからぶっ壊す。何が何でもぶっ壊す。ムスビが、自分はモテないと思い込んでるのは大体彼等のせいだ。ガンテツは除く。
彼等は、亜人だ人モドキだと差別せず、最初から対等に向き合ってきたムスビが大好きなのだ。それこそ、一生離さないと言わんばかりに包囲する。これは、種族違い故の想いの差だろうかと、ツムギはいつも首を傾げていた。
「お兄ちゃん、今日もモテモテだね」
「何の話?」
心底不思議そうにしながら、明日の仕込みを続ける兄に微笑むと、ツムギは手伝う為厨房に入った。
……王都の片隅にある、小さな食堂。そこは勇者一行の帰る場所。彼等の家だ。
今日も、店主は家族の帰りを待ちながら、両親との思い出ごはんを作り続ける。
裏道にいい匂いが漂い、それに引かれた一人のお客が小さなドアを開けた。カランと澄んだ音が鳴る。
「いらっしゃいませー」
出迎える店主の笑顔が優しいと、中々の評判である。




