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第9話 遺跡まで


 ぼったくり宿屋での一泊を過ごし、遮断するものもない窓から差し込む光に自然と起こされる。せめてカーテンくらい用意したらどうなんだ。こっちは銀貨三枚も払ってんだぞ、護衛の依頼料と同じなんて割に合わん。

 少し不機嫌になりながら外へ出て宿の横にある井戸の水で顔を洗い、部屋に戻って着替える。必要になるかもしれないとこっそりとアイテムボックスから懐かしい物を取り出し腰の見えない位置に付ける。


(使わなきゃそれで良いんだが)


 宿屋を出て村の側にある森の入り口へ向かう。依頼人の男の性格からして待たせると文句を言われそうだ。見た目も性格もとてもじゃないが学者には見えないが、本当に遺跡の調査なんてできるんだか。

 森の入り口に着いてみればまだ依頼人は着いていないようだった。どちらにせよ何かしら文句を言ってきそうなものだが、ならば依頼は取消しでと言ってしまえば済む話。遺跡近くにいても怪しまれないというだけで、こちらは別に依頼なんて受けなくても良いのだから。

 遅れるなと言っておきながら随分遅い。もう一時間は経っている。こちらの方が文句満載だが仕方がない。依頼を受けた以上ここで待っていた方が良い。来なければ来ないでギルドに報告すれば違約金の支払いをしないといけなくなるだろう。しばらく待っていればようやく依頼主の男が歩いてきた。


「なんだ来ていたのか」

「遅れるなって言ったのはそっちだ」


 相変わらずの上から目線に流石に少しイラッとくる。こいつ今ここで刺し殺してやろうか。スッと視線を男の背後に逸せば、昨日の少女も着いてきていた。昨日よりも動きやすそうな服ではあるが、サイズが合っていない。男の雑な扱いが目に浮かぶ。

 悪びれる事なくそのまま森へ入って行った男の後を私と少女が着いていく。男は少女の服に何の違和感もないようで、バカなのかそもそも見ていないのかもしれないと思った。遺跡に向かう男の足取りはしっかりしたもので、迷いなく自分のペースでどんどん進んでいく。

 少し小走りな少女を横目に後ろも気にせず進む男を追いかける。自分本位な奴だ。呆れながらも着いていけば、ガサガザと草の音が聞こえてくる。男は突然私を盾にするように背後に隠れる。

 偉そうな態度の割にビビリなのかと思いつつ、音がした方を見てみれば、ピョンと草から一匹の小さなウサギが現れる。何かと思えば、ただのベリーラビットだ。小さく群れで行動する事もなく、足が速い事以外特別何かある訳ではない。つまり害のないただの可愛い動物だ。可愛いからと子供が拾ってきて成り行きで飼うことになったなんて話も聞いた事がある。軽く風魔法で追い払った。


「ただのベリーラビットだ。そんなビビる事ないだろ、ペットとして飼われることだってあるんだ」

「う、うるさい! 私がこんな小さなウサギ一匹を怖がるはずないだろう!」

「はいはい」


 見栄を張るようにこちらに怒鳴り、再び男は進み出した。偉そうなくせに小心者のただの小物だ。早く着かないかな。ムキになってまた歩みを早める男に私は合わせてついていく。少女は慌てる事なく男を見つめたまま着いてくる。よくある事なのか、慣れているようにも見えた。

 しばらく歩いていくと開けた場所に出た。森を抜けたようだった。意外と小さい森だったようだ。男はキョロキョロと少し周りを見渡した後、こっちだとひと言言って進んでいく。男の進む先には、地面に穴が空いているようにも見えた。

 案の定そこには地下に続くような階段があった。こんなに露骨に出ていればすぐにでも見つかりそうなものだが、森の中を突っ切ってきたから、あまり見つからなかったのかもしれない。私はそのまま進もうとする男に一度待ったをかける。


「なんだ!」

「依頼はここで終わりだ。今回の依頼は遺跡までの護衛だからな、遺跡に着いた時点で終わりだ」

「な、なんだと!? なにを勝手な事を言っている!」


 勝手とは随分な言い草である。だって確かに依頼の内容は遺跡までの護衛であって、遺跡調査の護衛ではないのだから。この先まで着いていく義務も義理もない。ましてや終始上から目線でこちらを下に見るような奴には。


「そもそも、銀貨三枚でCランク以上の冒険者を雇えると思うな。Cランクってのは中堅冒険者だ、長期間拘束されるような依頼をこんな少ない報酬で受ける訳ないだろ。冒険者を舐めすぎだ」

「なっ……! こっちは雇ってやってるんだぞ!?」

「お前なんかに雇われなくても他の依頼を受けた方が効率的に決まってんだろ。銀貨三枚なんてCランクなら一回の依頼ですぐ稼げる。これ以上の護衛は追加報酬をもらわなきゃできない」


 ぐうの音も出ないようで、男は悔しそうな顔をしてこちらを睨んでいた。どうせ冒険者を下に見て一番少ない報酬にでもしたのだろう。ただのアホである。


「グッ……分かった、追加報酬も出してやるから早く着いてこい!」

「はいはい、一応依頼は達成だからな」


 男に依頼達成のサインをさせ、追加報酬は後でギルドに申し出るように言っておいた。払わない気もするが、それならそれで良い。依頼達成の報酬はもらえるから良しとしよう。ようやく私たちは遺跡の中へ入る事になった。

 

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